~Next stage~ シオン、何気ない日常の終わりの始まりな訳で
・・・その時、私達は良くあるパターンの如く崖上へと追い詰められていた。
ジリジリと距離を詰めて来る『エルフ』って奴等の衛兵達・・・
「ちぃ!どうする!?」
私の隣で鎧を着込み、デカイ剣を構えた短髪な男の同級生が言う。
「・・・私が聞きたいんだけど?ソレ」
私は私で拳銃?見たいな物を握り、相手を牽制をする・・が、やはり分が悪いのは明白だ。
私の脇には、多分10歳にも満たない猫の様な、耳と尻尾が生えた子供が私の服を力一杯握っていた。
「お姉ちゃん・・・」
声が震えている・・
「大丈夫、多分大丈夫」
そんな言葉しか出て来ない自分のボキャブラリーに腹が立つ。
けれど、こんな時でも気の利いた事が言える奴が居るとすれば、それは『勇者』って奴なんだろう。
そして私は間違い無く『勇者』なんかでは無い。
そうこうしている間にも、衛兵達は距離を詰める・・・最悪この子だけでも逃がさなきゃ駄目だ。
「・・お姉ちゃん・・・あっち、きっとだいじょうぶ」
そう言って崖の方を指差すその子。私はその目をジッと見る、そしてその声を思い出す。
(色が澄んでる、嘘とかそんなんじゃ無い)
「・・・信じて、良いんだよね?」
私の問いに小さく、でも力強く頷いた。よし!腹を決めた!
「豪!3つ数えたら・・・飛ぶ!」
「はぁ!?何言ってんだお前!?」
豪と言われた男が素っ頓狂な声を上げるが私は無視。
「行くよ!1!2!・・」
「ちょちょちょ!チョットま・・・」
「3!!!」
私は未だ状況を理解出来ていない豪の腰辺りを掴み、3人で崖の先、何も無い空間へと跳んだ。
直にやって来たのは嫌な浮遊感。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!」
隣では豪が変な声を上げてる。ぷぷぷっ。
私はあの子を思いっきり抱き抱え、最悪この子だけでも助かる可能性を上げる。
・・・すると、眼前の空間に陽炎みたいな『揺れ』が発生し始め・・・やがて強い光りが発生したかのように、視界が真っ白になって行く・・・
次第に意識が覚醒しているのかも曖昧になって行き、私はふと色々な事を考え始めた。
(・・・何でこんな事になったんだろ?)
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
「・・・んぁ・・・」
眠い目を擦りながら、目覚まし時計を見る。何時のも如く7時丁度。
習慣は怖い。最早私の体内時計は寝坊を許さないレベルに達してしまった様だ!
・・・なんぞ馬鹿な事を考えつつ、のそのそと起き上がった。本来なら急いで身支度をするのだが・・・
最早学校なんぞには興味が無い。無くなった。
私から大事な幼馴染を奪った奴等が居た所であり、そいつらすら消えた場所・・・
やり場の無い怒りや憎しみ、悲しみなんぞ2ヶ月経っても宙ぶらりん。
ハンガーに掛かった制服は、既に改造が施され所謂『ギャル』風だ。
申し訳なさ下に胸元に刺さるネームプレートには【2年D組 響 シオン】の文字。
必要最低限な物しか置いていない、殺風景な部屋にある姿見で自分を見る。身長は高いとは言えないなぁ。
この前の測定では155cmだった。プロポーションなんかは結構良い方だと思うが・・・如何せん顔が少し幼い。
胸は・・・・胸の大きさを競う奴等の気が知れないね。・・・・・気にしてる訳じゃないよ?本当だし!?
両親はどちらも生粋の日本人だ。だからこそ私は自分自身を不思議に思う。
鏡の中に居る私は・・・・私の髪の色は赤く染まっているのだから。
パジャマを脱ぎ下着姿になると、寝癖を直すスプレーを吹きかけつつ、髪を手櫛で整えて行く。
アンシンメトリー気味な前髪にセミロングな私の髪の赤色は、遺伝子異常の一つらしい。
病院での検査の結果、髪の色素異常以外は見つからなかったのは幸いだった。
それに一昔前なら、格好のイジメ対象だったろうが、今は『サブカル』が普通に有る所為か、
「すげ~」
とか、
「本当にアニメみた~い!」
とか言われる程度で済んだのも、私が変な方向へ行かなかった要因の一つだろう。
けれど、グレなかった要因の大部分を占めていたのは・・・
私の幼馴染『聖 礼菜』のお蔭だ。
物静かだけれど、聞き上手で・・・三つ編みお下げの髪型、地味だけど包容力が有った。歌が好きだった、歌う事が好きだった・・・私は彼女に癒されていたんだと思う。
そんな彼女は2ヶ月前に失踪した。
原因は高校の生徒会・・・それしか失踪する理由が無いんだよ!
・・・そして私だ・・・
学校へ通う為に、どうしても私は手間を一つ掛けなきゃいけない。
この遺伝子異常の『赤髪』を証明する為の診断書を提示するのだ。
そうでなきゃ校則違反も甚だしい訳。それに、入ってから違反だ何だといわれるよか、最初に弾いて貰った方が楽だしね。
で、小中までは順調だった訳よ?礼菜とも一緒だったし。
問題は高校2年の1学期。
現生徒会長が就任してから、私を取り巻く環境が一片した。
「シオン!アンタ!まだその髪色なの!!」
「・・・ねぇ?このやり取り飽きないの?」
「五月蝿いなぁ!生徒会の意向なんだよ!シオン!」
「だったらアンタは校則に従いなよ?木刀なんて持つの、校則所か銃刀法でもグレーじゃん?」
「・・アンタさぁ・・・」
完全に語気を荒げ始めた彼女は、『風紀委員長』の『戸野江 仁美』短髪で凛々しいのに、砕けた口調なので彼女には女生徒ファンが多い。
「私はちゃんと校長センセから許可貰ってんの!文句あるなら校長センセに言ってくんない?」
「・・・あ~そう。あくまで私達生徒会に楯突くんだ。いいよ!何時までそうしてられるのか見物だね!」
そう言って踵を返す。私はその後姿を見ながら溜め息を一つ。どうしてああなったんだろ?
剣道を幼少から嗜む仁美は、不良などに容赦無く木刀を振るうのでも有名だった。正義感から来るんだろうけどさ・・・
けどそれが過剰に現れ始めたのが、現生徒会に入ってからだった。
今じゃあの通り、どうしたもんかね。
そんな事が有った日の昼休み、私は職員室に呼ばれた。
「シオン・・・言い難いんだが・・・」
なんだか担任のセンセが言いよどむ。あ、これ絶対午前中のヤツだ。
「その髪色、何とかならんか?」
「え~っと・・・つまり黒く染めれば良いって事なの?」
「いいえ!違います」
私とセンセの会話に入って来たソイツこそ、現生徒会長『真夜野 夜美』その人。いかにもなドリル巻きが目立つ髪型は、流石良い所のお嬢様って所か。
「シオンさん?髪を染める事は『校則』で禁止されているのよ?」
「・・・・・だったら私はどうすりゃ良いのさ?」
「学園を去る・・・それしか在りませんね」
言い切っちゃったよ!?ってか私、特に何も悪い事してないんですけど?
「夜美・・流石にそれは・・・」
「先生!口を出さないで貰いたい!」
「・・・・・」
先生にピシャリと言うのは副生徒会長の『杉浦 正義』ロン毛な優男で・・なんかモロ『参謀』って感じ。腹黒そう。
「ねぇ?私なんかしたっけ?そんなに目、付けられる事してないよね?」
「貴方の様な『異端』を混ぜて置くのは統治上、問題に成り易いのよ?」
「統治って・・」
「夜美様はこの学園を完璧にしようとしているのだ」
「何ソレ?漫画の見過ぎじゃね?」
「貴様ぁ!」
何なのコイツ等?マジでメンドクサイんだけど!?
「兎も角!私は悪い事してないし、髪の色だって許可されてんだから!あんた等にとやかく言われる筋合いは無いっつ~の!」
「・・・・そう、なら良いわ。精々後悔しない事ね・・・」
そう言いながら剣呑な雰囲気を出す夜美・・・
(うわぁ・・・嫌な声色してるなぁ・・・)
まるでどす黒いヘドロの様な色・・・私は音や声を『色』として認識出来るみたいで、時々無意識に発動してしまう。
その所為で、嘘を無自覚に見抜いて嫌な思いも結構した。
まぁ何を企んでるのか判らないけど、何とかなるよね・・・なんて甘い考えをしていた当時の私をぶん殴ってやりたい。本当に・・・
「シオンちゃん、聞いて!私、生徒会の第二書記に任命されたよ!」
嬉しそうにそういう礼菜。
「・・・何で又」
「何でも欠員が出たらしくてね、第一書記の『大森 豪』君のサポートして欲しいんだって」
嫌な予感がした。けれど、嬉しそうにする礼菜に当時の私は何も言えなかった・・・言えなかったんだよ・・・
日に日に疲弊していくのが見て取れた。礼菜はああ見えて責任感が強い。頼まれたら・・・嫌って言えない。
「・・・礼菜・・・大丈夫なの?」
「・・あ、うん・・・大丈夫だよ。今は少し忙しいだけだよ・・・」
(嘘ばっか!私等何年一緒に居ると思ってんの!?)
礼菜の強がりだ・・・でも、それでも・・・本当に駄目な時は私に言って来てくれる。そう思ってた。
「・・・シオン、お前の危惧、当たってるぜ・・・あいつ等!礼菜を扱き使ってんだ!」
その日の放課後、人目が無い場所に豪を呼び出すと、礼菜の事を問い質した。
「私への当て付けってか?ふざけんじゃ無いわよ!?んな事で礼菜を・・・!」
「・・・スマン。だが忙しいのは本当なんだ・・・しかし・・・」
「しかし?しかし何?」
「・・・今の生徒会、やり方が酷すぎる。忙しいのはな、校則の改変をする為の準備をしてるからだ」
「・・・何ソレ?」
「夜美の奴、校則をガッチガチに固める心算なんだ」
訳が判らない。それが何で私に関係してくるのかが。困惑する私をさて置き、豪が続ける。
「レイナも知ってるだろ?夜美の家、相当な実業家だって、そんでこの学園にも出資してるんだよ」
「・・・・・・・・」
「それでな、親に言われたらしい。「実家を継ぐ心算なら実績を残せ」ってな」
傍迷惑な話だと思った。それで学園を統治!?異物を排除!?下らない!
「・・・そんな事して・・・実績になるとでも思ってんの!?」
「・・・焦ってんだよ、アイツ。弟に後継権取られるんじゃないかって・・・」
「だからって・・・私排除したって何にもならないじゃん!」
「ああ、だから俺も裏で動いてるよ。出来るだけ多く生徒を反対に周る様に口説いてる」
「・・・だから礼菜は」
「そう言う事だ。もう暫く・・・我慢してくれねーか?」
「・・・・・・・・判った」
その私の判断は・・・間違っていたんだ。
それから2日後・・・・礼菜は消えた。失踪した。
その日の朝、とても疲れた顔をしていたのだけは覚えてる。
「礼菜・・・」
「・・・・・・ゴメン、けど私、大丈夫だから・・・」
私が聞いた最後の言葉・・・・
その日の夜、何時までも帰って来ない礼菜を心配した両親が私に知らせ、私は町中を朝方まで探し回った。
警察にも連絡した。
「町を出た様子は無い」
と言われた。方々を探した。学校を休んで何日も何日も・・・けど結局見付からなかった。
「礼菜・・・」
その内、礼菜の両親から「後は私達で探すから・・・シオンちゃんは学校に行って。本当に有難う」と言われ、私は久々に学園へ行った。
その学園は・・・変わっていた。異物は隅へ追いやられるかの如く、学園の端の教室へ追い立てられて居た・・・
豪の企みは既にばれていた様で、アッサリ改変が通ったらしい。
「残念ねぇ礼菜も居なくなってしまって」
「あっはっは、だから言ったじゃん。後悔するって!」
「『異端』は『異端』らしくしてろ」
廊下で私の前に3人が見下す様に立つ。
「・・・・お前等!礼菜が失踪したのに・・・お前等にも要因が有るかも知れないのに!」
「それは、彼女が弱かっただけでしょ?情けないわねぇ・・・あれしきの事で失踪だなんて」
パァーン!
「「なっ!」」
気が付いたら・・・私は夜美の頬を張っていた。
「アンタに何が判る!!ふざけんな!!」
「貴様!!!」
ドゴッ!
仁美が木刀を振り私の肩に当たる。激痛が走った、けれどソレが何だと言うのか・・・
「下らない・・・」
3人が呆然とする中、私は玄関へ向かい、靴を履き替えるとそのまま外へ出た。
それからも。私は礼菜を探した。学校なんてもう如何でも良かった。
そんなある日、ふとテレビを付けるとウチの学園のニュースが流れた。
「東上苑学園で集団失踪が発生しました!失踪したのは戸野江 仁美さん17歳、杉浦 正義さん17歳、真夜野 夜美さん16歳、大森 豪さん17歳の4人で、当時生徒会の仕事をしていたと思われ・・・」
「・・・・は・・・・ははは・・・」
何故か・・・笑えた。
そして2ヶ月後の今、私はセンセに呼び出され、学園へ向かう為に久々に制服を着て街中を歩いている。
何でも海外に出張中の両親が、私の休学届けを出したらしい。
(・・・この際、両親と一緒に世界を飛び周るのも良いかも)
そんな事を考えていると、私の目の前に少年が一人、何時の間にか立って居た。シンプルな白い服を着た8~9歳位の少年が。
何故か凄く違和感を感じる。
「・・・響 シオンさんですね」
「・・・そうだけど?君は・・・何?」
聞こえた声の色が・・・無色だった!こんな事は初めてで、戸惑う私。けどそれを尻目にその子は話を続ける。
「あぁ・・時間が無い。シオンさん、貴方はこれから別の世界へと引っ張られます」
「別の世界?」
「ハイ、それは貴方の都合など無視した、一方的な強制です」
「何それ!?」
「そして、その世界には貴方の学友も居ます」
「学友?」
「真夜野 夜美さんや・・・」
「止めてくんない?あいつ等の仲間に入れんの」
「・・・ゴメンナサイ・・・けど、本当の友達も、そこに居ます」
本当の・・・友達?・・・まさか!?
「礼菜も!?礼菜もそこに!?」
「・・・もう時間だ。僕には少しの妨害しか出来ないけど、これだけは覚えていて下さい!」
真剣な眼差しで私を見据え、私もそれに答える。
「この先、きっと大変な困難が待っています。だから『彼女』と『彼女の仲間達』を頼って下さい!」
少年の姿が歪み始める・・・いや、それどころか『世界』が揺らいでる!?
「彼女って!?誰!!」
どんどんその歪みと揺らぎが大きくなる!
「彼女の名前は!イシス!イシス・ヒメカミ!です!!」
(イシス・ヒメカミ・・・)
頭の中でその名前を反芻したその瞬間、私の視界は真っ白になった。




