御持て成しを楽しんで頂けた訳で sideヴォルフ
ヴォルフ回
(・・・もし、お嬢と出会わなかったらどうなっていただろうな?)
手持ち無沙汰になった俺はふとそんな事を考える。
仕込みは粗方ニコが済ましていた。今出来る事と言えば相手の動きを水晶で監視する事位だな。
俺の名前はヴォルフ、ヴォルフ・ガルヴァード。元魔王軍・遊撃部隊の隊長だった。
今?今はおじょ・・・イシス・ヒメカミの側近?になるのか?まぁそんな感じだ。
魔王軍に居た時は余り感じなかったが、今思えば俺達の扱いが相当酷い物だったと思える。
各大陸を転戦し、防衛作戦から潜入工作、破壊工作何でもアリで、無茶な任務ばかり回って来ていたのを思い出す。
だがあの時の俺達はそれを異常とは思わなかった。寄せ集めの部隊に回る任務なんざこんなモンだと思って居た。
基本的に部隊には同族を揃える・・・ってのが魔王軍内での暗黙の了解だった訳だからな。
その方が任務の割り振りが楽なんだとさ。それから外れていた俺の部隊は見事に爪弾き。
ソレを知った幼いお嬢は「そんな理由なの?馬鹿だね」と、呆れていたのを覚えている。
実際、馬鹿にされ他の部隊とやり合いそうになった部下達は相当居たのだが、お嬢が現れてからはその回数が劇的に減った。
諌めるのに俺やガルムは相当苦労していたんだがな・・・お嬢の癒しパワー恐るべし。
それからお嬢の通いが始まると、何故か部隊の生存率が跳ね上がった。訳が判らないだろ?当時の俺もそうさ。
それまでにも犠牲が出なかった訳は無く、何人もの出入りは有った・・・皆一様に俺に感謝しながら逝った。
「拾って貰わなければもっと酷かった。感謝してる」
と言いながら・・・止めてくれ。死なせる様な事をさせた俺が悪いんだ。
部下の死は何度だって俺の心を打ちのめす。逃げられるものなら逃がしてやりたい。コレが本音だ。
だが軍属であり、軍人でしか生きられない俺達に何が出来る?せめて華々しく弔ってやる位しか無い、出来ない。
そんな時にお嬢が現れ、生存率が跳ね上がった。
・・・今考えたら理由なんざ直に判る。全員何処かで諦めてたんだろう、『生還』する事と『生きる』意味を。
消耗品で在る事を何と無く感じ、訓練にも身が入っていなかった・・・そんなでは生存率なんざ減るに決まってる。
情けない事に、俺ですら何処かで「仕方が無い」と思って居た。幼少の頃、あれ程「生きてやる!」と誓った筈だったのに・・・だ。
そこにお嬢が来た。お嬢の存在は俺達に生還する理由を与えた。モチベーションも上がった。結果、生存率が飛躍的に上がる事に繋がった訳だ。
何時かお嬢が「私の所為でヴォルフ(俺)が処刑されてしまう事になった。御免なさい」みたいな事を言っていたが、俺にしてみれば些細な事だったよ。
それ以上に支えられ、精神的に助けられて居たんだからな。しかも俺を含む隊員全員を魔族領外に逃がしたんだから文句の付け様も無いだろう。
「・・・全く、助けられてばかりだな。俺等は」
『・・・どうかしたの?ヴォルフ?』
噂をすれば何とやらだ。
「いや、少し昔を思い出していた所さ」
『そう。でも気を抜き過ぎたら駄目よ?』
「ん?俺は気なんざ抜いてないぞ?」
『・・・レーダー、見てみなさい?』
お嬢に言われ、レーダーを見る。・・・・・・既に近くまで目標が来ていた。
「・・・参ったよお嬢。確かに気が抜けていた」
『珍しいわね。一体何をしていたの?』
お嬢の事を考えていたとは・・・言えないわな。
「それは・・・まぁ色々だ」
俺は壁に凭れ掛かっていた体を起こすと、行動を起こすべく動き始めた。
その後直に第一目標を鏡越しの視界に捕らえた。隊長と思われる奴らは 最後の楽しみ(メインディッシュ) だ。
奴らの進む先に素早く、慎重に・・・先回りをし、丁字路の角で身を低くしつつ息を殺す。
そしてベストから『雷管』を取り出すと軽く指先で弄ぶ。
コイツもお嬢が作り出した・・・いや、既に俺達の使う道具で、お嬢の手が入ってない物の方が少ないか。
バリスティックベスト、ブリーチング・チャージ、雷管・・・
魔法を使えばそれらの代用も可能だが、如何せん魔法を使える奴と使えない奴が居る上に、信頼性に乏しい。
魔法の対策も立てられ尽くしている以上、お嬢の装備はとてつもなく画期的だった。
『雷管』を分解し、火薬と起爆薬を細かく解す。紙の上にに混ぜた物を盛り、雷管の外枠の欠片を一つ。
コイツを丸めてバラけないようにすりゃ即席の 癇癪玉(音玉)の完成って訳だ。
暫くすると奴らが警戒しつつ此方側へ来た。耳を澄まし、微かな足音を聞く。
今回のミッション、実は楽勝だと思っている。「気を抜いても勝てる」と言う事ではなく、戦術的に有利と言う事で、だ。
何故なら、
1・先に到着し、施設を完全に掌握している事。
2・相手側が『対魔族戦』を想定していない事。
この2点だけで、相当のイニシアチブが有る。
現に今から来る黒尽くめ達も此方側が『魔族』と言う事を想定せず、微かな足音を立てているからな。
足音が近付いて来る。後6歩、5、4、3・・・俺は先程作った癇癪玉(音玉)を指に乗せ、指弾を放つ準備をする。
2、1・・・ビシッ!!丁度 丁字路から対角線になる天井の位置へと弾く。
パァン!!
鳴り響く破裂音。黒尽くめ達の視線は一斉にそちらへ集中した。
直後、一気に飛び出し前衛の黒尽くめに肉迫。左後ろ斜めを振り返っている前衛の右肩を左手で鷲掴みにし、自身の方へ引っ張る。
と、同時に右のバックエルボーを後頭部へ叩き付けた。
ゴシュッ!!
一瞬で体の力が抜けて行く前衛。俺はそのまま前衛を後衛の方に突き飛ばすと同時に斜め左へ深く踏み込む。
異変に気が付いた後衛が視線を戻す・・・が時既に遅しだ。目の前には糸の切れた 操り人形のような動きの前衛が突っ込んで来ている。
思わずソイツを受け止める後衛。終わりだ。
ドゴッ!!
受け止めた瞬間に、俺の右後ろ回し蹴りが後衛の後頭部に叩き込まれた。
回し蹴りを受けた後衛は前衛と抱き合う様にぶつかり合い、そのまま床へと崩れ落ちる。
「クリア」
残心をしつつ何時ものセリフが口から漏れていた。
・・・黒尽くめを指揮する小隊長は、現状に危機を覚えていた。
定時報告が自身の隊以外から返って来ないのだ。
(クソ、一体何が起こっているんだ!?)
あらゆる事態は想定をしていた・・・筈だ。ただ、今回は急を要した。
情報が入ったのだ。『施設に怪しい動きが有る』と。
至急向かってみれば、この有様だ。施設内は閑散としており、既に蛻の殻。
捜索を開始すれば・・・この通り。唯一判るのは現状が異常事態な事のみである。
(進むか・・・引くか)
ギリギリの判断を迫られていたその時、自身の持つ通信機に連絡が入る。
「・・・如何した!?何が有った!?」
余りにもの状況な為「相手」も確認せず反応してしまう。
「・・・3階ラウンジで待つ」
「!?」
そこから聴こえて来た声は窺い知らない、何者かの声。
「・・・何者だ?」
「来れば判る」
その言葉と共に通信が切れた。
「・・・隊長」
「・・・行くしか無い・・・だろうね」
部下に進退を問われ、進む方を、いや、此処に来て引く事は出来なかった。
(此方は最新鋭の魔導通信機を使っている。そう易々と使えない筈・・・どう言う事だ?)
個別に渡された魔導通信機は個人の魔力を記憶し、他人には使えない筈なのだ。
(ソレを確かめる為にも行くしかない)
一層警戒を深めつつラウンジへと進んで行く。
・・・それから5分後、黒尽くめ達は4階部分を吹き抜けにした広いラウンジに居た。そこで彼らが見た者は・・・狼の姿をした魔族だった。
(・・・そう言う事か。此方の根底が間違っていた)
黒尽くめの隊長は後悔をしていた。相手が魔族の可能性を全く考慮していなかった事を。
そしてお互いの間に流れる沈黙・・・それを最初に破ったのはヴォルフだった。
「・・・この施設は俺達が来た時点ですでにカラだった」
「・・・そうかい。で、君達は此処で何をしているんだ?」
「調べ物だな。ある案件での・・・な」
「お互の情報を交換したい・・・と、言う事では無さそうだね」
「信頼に足らんからな。お互いに」
「もっともだね・・・この状況が君達の仕業で無いとは・・・言えないからね」
自身の隊員達が無力化されている状況では、警戒をするのは当然だろう。
「此方の用事が済んだ後好きにすれば良い。お前等の仲間も殺しちゃいない」
「ソレを信用しろと?」
「そうだな」
「無理だろ。そもそも魔族が此処に居る。戦争中に。その時点で・・・」
そう言いながら戦闘装備を展開し始める黒尽くめ達。
「・・・まぁそうなるよな」
肩を竦めヴォルフが溜め息を吐いた・・・瞬間、もう1人の黒尽くめが飛び掛った。
「そう急ぐなよ」
ショートソードらしい武器の横薙ぎをバックステップで躱し、体制を整える。
「・・・随分大げさに避けるのだね。君は。素人でもそんなに避けないと思うよ」
それを見て居た隊長がそんな事を言う。
「そうかい。だがこれが俺達のやり方なんでな」
そう言いつつヴォルフは両手にバンテージのロールを取り出す。と、それは自律したかの様にヴォルフの腕に巻き付いて行った。
「さて、メインディッシュと行こうか!」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるヴォルフ。その口元からは鋭い牙が見えた。
戦闘は一方的な流れで進んだ。黒尽くめ2人が一方的に攻撃をし、ヴォルフが回避をし続けていた。
「・・・クッ!」
2人は苛立つ。自身の知っている魔族・・・処か戦闘に置いて此処まで大げさに回避し、距離を取る者は今まで居なかった。
目の前のヴォルフ(ソレ)は「受け」すらしない。徹底的に「回避」に徹するのだ。
「防戦一方とは・・・其方から誘ってコレではね」
それを聞いたヴォルフが安全な間合いに移動し、動きを止め、口を開いた。
「・・・成る程な、其処が底辺か。中々の技量が有るのは判った・・・が、如何せん『お行儀が良過ぎる』」
「『お行儀』だって?」
「・・・戦闘馴れしてないだろ?お前等。何持ってるか、どんな戦闘術かも判らん相手に対して、奇襲でも無い 近接戦(CQB)を行き成り仕掛けたりはしない」
「へぇ。そう言う物なのかい」
「あぁ、不用意に近接戦をして暗器で毒殺・・・なんざご免だからな」
それを聞きピクリと動く黒尽くめ。事実、彼等は毒を仕込んだ針などを持っており、使用する準備もしていた。
「・・・成る程、やはり只者じゃない・・・のは当り前か」
「そいつはドウモ。で、大体判った」
「何がかな?」
「お前さん等の事がだよ。・・・此処からは俺の番だ」
その言葉を聞き、黒尽くめ達は集中を強める。
「そうかい。だが、この間合い・・・どうする心算なんだい?」
ヴォルフと黒尽くめの間はかなり離れており、流石のヴォルフでも一気に間を詰める事は難しい。・・・のだが、
「さぁな!ソイツは自身で確かめりゃ良い!!」
と、言うや否や
ドカン!ドンドォンドン!!ドガン!!
黒尽くめ達の上方で響く爆発音。
「何!?」
その音源の方を向く・・・と、自分達の方へ落下する最中の、天井に有った照明器具や瓦礫が視界に入る。
(しまった!!誘導されていた!!)
ヴォルフの一方的な防戦は相手を観察するのと同時に、注意力を散漫にさせ2人を落下地点へと誘導させる為の物だった。
ガシャーーーーーン!!!ドゴン!!ドゴドゴォ!!!
瓦礫等は2人の丁度中心へと落ち、それを咄嗟に回避をする。だがその方向までは統一出来ない。
互いの逆方向へと飛びのく黒尽くめ達。その片割れ、隊長で無い方へと全力で接近するヴォルフ。
「クソッ!」
隊長が思わず漏らす。落下物により援護をする事すら出来なくなっていたからだ。
ヴォルフは接近しつつ、自身のベストからダガーを1本素早く抜き投擲する。
ソレは黒尽くめの足元を目掛け飛翔し、黒尽くめは更にバックステップで回避。巧く着地をした・・・筈だった。
ガクン!
何かに右足を取られ、一気に体勢を崩す。
「な!?」
ダガーに気を取られ、黒尽くめがヴォルフから目を切った瞬間、ヴォルフは一気に飛び掛った。
そして、黒尽くめが視線を戻すのと同時に今度は足元、軸足である右足の甲をヴォルフが左足で思い切り踏んだのである。
ステップを防がれ、体勢を崩され・・・・・・足をホールドまでされてしまえば万策は尽きたも同然だろう。
ゴッ!
そのままヴォルフの掌底が顎を捉える。脳を揺らされた黒尽くめがフラリと体を揺らすと、瞬時にフロントチョークを極め、その意識を数秒で刈り取った。
逆の方向で体勢を立て直していた黒尽くめの隊長は、その反撃の隙すら与えない一瞬の動きに戦慄を覚え、
「・・・化け物め!」
思わず口から出た。
(如何する?この状況!?)
2対1の状況ですら如何にも成らなかったのだ。1人では・・・無理だろう。
(・・・そうだな。覚悟を決めるべき・・・だな)
そんな事を思い、隊長はゆっくりと立ち上がる。
(今出来る事・・・それは相手へ余計な情報を与えない事だ)
そして自身の懐から毒薬を取り出そうとしたその時、不意に視界が揺らいだ。
「な・・・に?」
それと同時に全身から力が抜けて行くのが判る。
(・・・これは・・・薬品か!一体何処に!?)
力が抜け、片膝を付く。ぼやける目で周囲を見渡すと、自身の近くに割れた試験管が見えた。
「何時・・・の・・・間・・・・・・に?」
「天井を落とした時だよ」
そう言いながら近付いて来るヴォルフ。
「すべ・・・て・・・計・・算・・・通・・り・・・か?」
「言っただろ?お前さん等は『お行儀が良過ぎる』と。教科書に片足突っ込んだままの相手なら容易だ」
「・・・ふ・・・じ・・・さつ・・す・・・・ら・・・ふせ・・が・・・れる・・・とは・・・完・・・敗・・・だ・・・よ・・・」
其処まで言葉を搾り出すと、黒尽くめの隊長は意識を手放し床へ横たわる。
全相手の無力化を確認し、ヴォルフがイヤリング型の通信機に指を添えた。
「ニコ、クリアだ」
『何事も無く終わったッスか?』
「あぁ。ニコの『仕込み』が完璧だったからな」
『そりゃ良かったッス。仕込んだ甲斐が有ったってもんッス』
「そっちは如何だ?」
『修復が終わって、今はトムがデータを可能な限り復元してる最中ッス』
「判った。ニコ、『お客さん』を1箇所に集める。手伝ってくれ」
『コピー。今から其方に向かうッスよ』
「了解した。オーバー・・・ふぅ」
ヴォルフが通信を終え一息付く。ベストから水筒を取り出し一口。今回も上手く終えられた事に安堵するのだった。
少し加筆&修正




