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御持て成しを楽しんで頂けた訳で sideニコ

ニコ回

それから十数分後、施設の数百メートル先で蠢く影をヴォルフは施設内から監視していた。

「ニコ、持て成す準備は如何だ?」

『大体完了ッス。何時でもご来客承うけたまわるッスよ』

「判った。来客は8人。到着は10分後って所だ」

『コピー・・・・・・でも隊長、お客が来るって良く判ったッスね』

「まぁな。なんと言うか・・・掌の上に居る感じがしてな」

『踊らされてるって事ッスか?』

「それに近い。何かの思惑に組み込まれた感が有る」

『・・・確かに、このタイミングで第3勢力と邂逅ってのは出来過ぎッスね』

「・・・最悪のケースも視野に入れないと駄目かもな。お嬢」

『聴いていたわ。確かにそのケースは有る・・・と言うか、多分そのケースが農高ね』

「・・・やはりそうか、残念な事だ」

『え?如何言う事ッスか?』

『・・・第3勢力にも、ロギス達の部隊内にも『感染者』が居ると言う事よ』

『うげ、マジッスか』

「そうでもなきゃこんなタイミングでのブッキングは有り得ん・・・有り得んのだが・・・」

『何か引っ掛かる事でも?』

「ああ、相手は何故この施設を放棄したのだろうか?」

『単に時間が無かったからじゃないッスか?』

「それは無いな。時間が無ければ尚更だ」

『え?それってどう言う事ッスか?』

「簡単な話だ。時間が有ろうが無かろうが単純に施設ごと破壊してしまえば問題は無い筈なんだ」

『・・・それは・・・そうッスね。確かにそうッス!態々(わざわざ)内部資料を全て壊して回るより遥かにお手軽で効果的な筈ッス!

・・・もしかしたら第3勢力と私達をぶつける為に残したんじゃないッスか?』

「かもしれんが・・・」

『それではこの施設を破壊せずに放置する理由としては弱いわ。リスクとリターンの割合が不釣合い過ぎる』

「確かにな。俺達を見る為だと言うなら、他にもっと効率的なやり方は幾らでも有る」

『じゃぁ・・・一体何故なんスかね?』

『・・・・・・・・・仮に、意図的に放置をしたと想定すると・・・・・・う~ん、もしそうだとすれば・・・』

『珍しくお嬢が悩んでるッス』

『あらニコ、私、結構頻繁に悩んでいるのよ?』

『そうなんスか!?』

『そうよ。例えば明日の献立は何にしようとか、ニコは良くショーツ破るから如何すれば・・・』

『ちょちょちょチョーーーット!!!行き成りなんなんスか!?今それ関係無いッス!!!』

「クックック、お嬢には敵わんよなぁ?ニコ」

『・・・マッタクッス』

『フフ。・・・そうね、意図して放置をした理由・・・『勿体無いから』じゃないかしら』

『何だそりゃ!?』

『トム!?割って入って来る余裕が有るんスか?』

『いや無ぇ。が、気に成んだろ!?』

『なら最低限一緒に手も動かせ、トム』

『うっせぇウィーゴ!やってんだろが!』

「ククク・・・全く、結局何時もの調子になってしまうな」

『良い事じゃないヴォルフ。余裕が無いよりマシよ』

「かもな。しかし『勿体無い』か、施設を放棄した時点で『勿体無い』もクソも無いんじゃないのか?」

『そのまま放置すれば・・・ね』

「・・・奪還する方法が有る・・・って事か?」

『可能性の話なのだけれど』

「しかし・・・そんな方法が有るのか?」

『・・・まぁそれは追々にして置きましょう。そろそろ来る頃よ?』

「む、そうだな。ニコ、始めるぞ」

『コピー』

そしてヴォルフは施設内へと戻って行く。






黒尽くめの集団がその「施設」へ到着したのは、ヴォルフ達が想定した時間から遅れる事5分後の事だった。

外観だけを見れば人族のそれなのだが、確定は出来ない。

8名は一組となり施設の入り口へ警戒しながら進む。

斥候と思われる1人がゆっくりと施設のドアを開け、後方で待機していた残りの人物達に合図を送った。

施設内は当り前の様に「シン」と静まり物音一つしていない。

隊長と思われる人物が更に合図を送ると 2人1組 (ツーマンセル)となり施設内へ散る。

それを見ている人物が居るとは思わずに・・・

ヴォルフは施設の中間層に在るラウンジで、ニコから送られてくる画像を見て居た。

「ニコ、一番最初に合図を送った奴を隊長と仮定。マーキングをしてくれ」

『コピー。・・・・マーキング完了ッス』

「動きは如何だ?」

『教科書通りッスね。2隊でセキュリティー室へ向かってるッス。その途中で分かれる心算ッスね』

「そっちは任せるぞ?」

『オーライオーライ。血がたぎるッス』

「残りは・・・研究室か」

『方向からしてそうッスね』

「くれぐれもやり過ぎるなよ?」

『うぇ~い。コピー』

「・・・全く、久々とは言え少し興奮し過ぎだろう」

通信が切れ、ヴォルフは苦笑いをしつつ誰にとも無くぼやく。

ニコの予想通り2隊は途中で別れ、その内の1隊がセキュリティー室の前に居た。

片方の黒尽くめが慎重にドアを調べ・・・トラップが無いと判断をし、静かにドアを開ける。

中を確認しつつ1人がゆっくりと室内へ入り、もう一人がその背中を背にし、通路を警戒しつつ後ろ歩きで室内へ・・・進もうとしたその刹那。

先に侵入した黒尽くめの足元で小さく「ピンッ!」と音がした。

「「!!」」

バァン!!!

その瞬間ドアが勢い良く閉まり、直に硬度強化の魔方陣が発動。見事に2人を分断した。

「チッ!」

ドアの勢いを受け室外に弾かれた黒尽くめが体勢を立て直しつつ舌打ちする。

まさか訓練を受けている自分達にすら気が付けないトラップが有るとは思って居なかったからだ。

そして直にドアへ視線を移す。それはいたって普通の行動なのだが・・・それが命取りとなる。

視線をドアへ向けるか否かの瞬間、潜んでいたニコは一瞬で間合いを詰め黒尽くめの右足へ自身の右スライディングキックを叩き込む。

ドガッ!

「!?」

「ぉろ?」

そのキックはクリーンヒットをした・・・が、今一相手の足の跳ね上がりが悪い。

(っちゃ~やっぱ威力が足りなかったッスか)

などどニコが後悔をしつつ左足で跳ねた足への追撃を叩き込む。

「ッ!」

流石に虚を付かれた上、片足に連撃を喰らえばバランスは崩れる。跳ね上げられた足に振られ、上体は左後ろへ反れ・・・

ゴッシャ!!!

「ゴ・・・ッ!」

瞬時に床を右手で掴み、体を半捻りしつつ勢い良く上へ振り上げる。ニコの見事なシャペウ ジ コウロ(片足振り上げ逆立ち)からの左蹴りが左側頭部へ叩き込まれた。

黒尽くめはフラフラと体を揺らし、まともに立っていられない様子である。

左蹴りを叩き込んだ後、すぐに体勢を立てなおし終えたニコは相手の腕を掴む。と、飛びつき正三角締めを完璧に極めた。

黒尽くめも何とか反撃をする為に、隠していた暗器を取り出そうともがくのだが・・・ニコの三角締めは完全に頚動脈を捉え、

「んんん・・・ん・・・・」

数秒もしない内に全身の筋肉を弛緩させゆっくりとニコに体重を預けた。

ニコはその後2秒程様子を見た後三角締めを解くと、完全に意識を失って居るソレをうつ伏せに転がす。

そして後ろ手に両親指を合わせ、自身のタクティカルベストから『結束バンド』を取り出すと素早く結束した。

「本当、お嬢の造る物って便利ッスね。『結束コレバンド』のお蔭ですっごく手間が省けるッス」

ニコがゴチりつつ黒尽くめを廊下の脇に転がすと、今度はセキュリティー室のドアに手を沿え、

『マジックパルス・ソナー』

『トリガーワード』を唱える。

ヴゥン・・・

小さな音と共に魔力の波がセキュリティー室内へと広がって行き、その内部がイシス特製魔導通信機によって視覚化される。

内部では先に入っていた黒尽くめと思われる人物が、倒れて投影されていた。

「上々みたいッスね」

ドアは魔力感知式ロックで、特定の魔力を流す事で開閉する地球で言う所の「カードキー」式な仕組みだったのだが、ニコが弄った所為で、開く事が困難になっていた。

「トラップを仕掛ける為とは言え、壊す必要は無かったッスね・・・まだまだ修練が足りないッス」

自身の未熟さを噛み締めつつニコはタクティカルベストから薬品の入った容器を取り出す。

硬度強化魔方陣は一旦発動すると解除は出来ない、なので扉と壁の隙間に見える『デッドボルト』へ取り出した薬品を掛ける。

ジュゥゥゥゥゥ・・・

白い煙を立て見る見る溶ける『デッドボルト』。硬度強化の魔法はあくまでその素材の『硬度』を『強化』するだけである。

例えば木のドア等に『硬度強化魔方陣』を使用したとしても、火や薬品を使われれば燃えるし、腐食する。

しかもその『強化』の度合いにより、劣化の速度が速まるのだから使い勝手は悪い。木材に最高レベルの『強化』をすれば1週間と持たずに腐り落ちるだろう。

なので余程取替えが頻繁に出来るような状況でも無い限り、『硬度強化魔方陣』を矢鱈やたらに発動させるのは色々な意味で無駄なのだ。

『デッドボルト』が溶け落ちロックする物が無くなるとニコはゆっくりドアを開けた。

(おっと、直入るのは厳禁ッスね)

ドアを全開にすると、内部ではもう1人の黒尽くめが毒ガスを防ぐ魔法陣の刻まれたマスクをして倒れていた。

「へぇ、半分正解ッス。けど毒じゃないんだよね~・・・まぁこれもお嬢に教えて貰ったんスけどね・・・アハハ・・・『エア・チェック』」

魔導通信機に内蔵された大気を測る機能を発動させる。

『内部気温・7℃ 大気・二酸化炭素濃度7.5% レベル「Danger」』

・・・ニコは先に部屋の中にある隙間を完全に塞ぎ、ドアが閉まると同時に換気ダクトに仕込んだ大量の「ドライアイス」を気化させ部屋へ逆流させる様に仕込んでいたのだ。

無論、この世界では「ドライアイス」は存在しない。なのでダクトから流れる白い煙は毒ガスを連想させたのだろう。

黒尽くめは急いで防毒魔法陣マスクを装着したのだが、二酸化炭素を『毒』と定義した術式ではない以上、二酸化炭素を防ぐ事は出来なかった。

『二酸化炭素中毒』ソレをお嬢から教わった時、ニコはお嬢と言う存在に恐怖を覚えた。何故そんな事を知っているのか、そもそもお嬢とはどんな存在なのか・・・

だがその行動理念は常に自分や仲間を守る為だったし、『ニコなら悪用しないでしょ?』その一言で恐怖も何も吹き飛んだのを覚えている。

『内部気温・16℃ 大気・二酸化炭素濃度1% レベル「safety」』

ニコは安全を確認した後、部屋の中へ入り黒尽くめを先程と同じくうつ伏せにし、後ろ手に親指を拘束した。

「さて、もう1組も『接待』しなきゃいけないッスね」

廊下に転がしておいた奴を担ぎ、セキュリティー室の隅へ置く。その後2人を部屋の柱へ更に拘束し部屋を出るとドアを静かに閉めた。





先程分かれたもう片方の1隊は同階層の居住スペースを「クリアリング」していた。

常に2人1組 (ツーマンセル)を崩さず周囲に気を廻らせており、中々の鍛錬を積んで居ると解る。

ニコはその様子を角から鏡を使い望む。

(・・・離れそうも無いッスね。中々良い動きッス)

一旦引っ込むと、腰に備え付けていた道具を展開させる。それは滑車の付いた少し小型の弓、化合弓コンパウンド・ボウだった。

2・3度弦を引き、具合を確かめる。

「ん、良い感じッス」

元々ニコの種族である【マウンテン・フォックス】は狩りを得意としていたが故、弓には思う所が有ったし、自信も有った。

其処へ(イシス)の現代チートである【コンパウンド・ボウ】が合わされば・・・後は解るだろ?

「Hey Guy's!」

ニコの声が通路に響き、その声を聞いた黒尽くめ2人が声のした方を向いた・・・瞬間!

ドボッ!!バチィバチーーーィン!!!

左側に立って居た方へ矢が叩き込まれた。瞬間、やじりの変わりに付けられた2本の針から胴体シャフト内部に蓄積していた電撃が体内へ直接流れ込み、その場に崩れ落ちる。

もう片割れの黒尽くめはそれに一瞬気を取られ・・・それが致命的なミスとなった。

ドボォ!バチィーーーーン!!

ニコはあらかじめ矢を持つ手の薬指と小指に2発目の矢を挟み、1射目が射出される直前、刹那の間にその矢を薬指で器用に弾き反時計回りさせる。

勢いの付いた矢は空中で素早く回転し、吸い込まれるかの如くノッキングポイントとレストへ設置され瞬時に2射目が放たれたのである。

神業的速射。距離350m、連射速度0.4秒のナイスショットだった。

コンパウンド・ボウを畳み腰に装着し直すと、倒れて動かない2人を先程と同じく結束し近くの部屋へと放り込んだ。

「さーて、ノルマは達成したッス。後は隊長の方ッスけど・・・・問題無いッスね」

腕をクロスさせ、ストレッチをしつつニコはトム達の居る部屋へと移動を始めた。


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