アスティー、運命の交差が始まる訳で
あの初戦から3ヶ月が経ち、アスティーも徐々に【警備第5隊】に馴染み始めていた。
最初こそ男だらけの所帯に戸惑ったものの、ミルドを始め気さくな人ばかりで打ち解けるのは以外に早かった。
勿論そこにはアスティーの仕事に対する取り組み方や、姿勢が大いに影響していたのだが、等の本人にはその自覚が余り無い。
そんな所も有って、今では隊には欠かせない存在に成っている。
しかし、良い事ばかりでも無い。この3ヶ月の間に色々な物が見えて来ていた。
メインベースやその近くの【コロニー】は比較的インフラは良いのだが、一歩その外側に出ると落差が如実に現れる。
家らしい家が在ればまだマシな方で、中には家処か建屋とすら言えない物に住んでいる人々まで居る始末。
井戸も掘れず、まともな畑も無く、トイレすら無し。疫病や感染症が蔓延するのも時間の問題なコロニーも在った。
ロギスは言う。
「これでもまだマシな方だ。俺達である程度の指南はしたが、カバーはしきれん」
「何でこんな事になってるんですか?本来なら技術指南役が居るべきなんじゃ?」
堪らずアスティーが聞き返す。
「・・・・その通りだ。しかし、ここ5、6年それらしき人物が来た事が無い」
「何故ですか?」
その問いにロギスは腕を組み、難しい顔をする。
「・・・判らん」
「判らないんですか?」
「あぁ、こちらも再三要望は出しているんだが、全く音沙汰が無い」
「・・・そんな。開拓をするのにも住む場所は必要なのに」
「送る気が無いのかもしれないですね」
そんな立ち話をしていると、近くを通ったミルドも参加して来る。
「どう言う事だ?」
「前から不思議に思ってたんですよ。
あれだけの規模で資金を集めてるのにも関わらず、何で送り込まれるのが農民や冒険者ばかりなのかが」
考えてみれば確かにそうだった。開拓事業と言いながら、人を送るだけ送ってほぼ放置状態。
かと言って資金面で支援が有る訳でも無い。となると、その資金は何処へ?となるのは当然だろう。
ピピッ!
各々が考えに耽っていると不意に魔導通信機が鳴る。
「此方ロギス、如何した?」
『エリアS-3で魔物の目撃案件です』
「判った。全隊員に通達してくれ、5分後出発だ」
『了解』
「・・・と言う事だ」
「今月多いですよね・・・もう8件目ですよ」
ウンザリといった感じでミルドが言う。
「ボヤくな。行くぞ」
ロギスが移動を開始し、それに追随する様に2人が続く。先程の疑問は任務の中に掻き消されていった。
そんな事が有った日から3日後、事態は動き始める。
ガサガサガサ!!!
森林の不安定な地面を疾走する人影達。
彼等は【攻撃隊】と言われているエリート達である。
そんな彼等が全力で走っている。いや、逃げていた。
「クソッ!クソッ!!何なんだあれは!!!」
【警備第22隊】からの何時もの応援要請だったのだが、
駆けつけて見れば現場は既に凄惨な状況に陥っていた。
隊員の殆どが噛み切られ、切り裂かれ、踏み潰されており、辛うじて生きている者も一目で助からないと判断出来る。
「がっ・・・ごぁ・・・」
声のする方に視線を向けるとそこには巨体が在った。獅子の体格を数倍にした大きい後姿に頭が3つ見える。
所謂【キメラ】と言う存在なのだが、この世界にはソレを形容する言葉は無いようだった。
バキ!ボキ!ゴリッ!
骨が砕ける音が周囲に響く、その音も段々と静かになって行き・・・「のそり」とソレが此方を向く。
「ヒッ!」
隊員の誰かが息を呑んだ。それも仕方が無い事だろう、正面を向いたソレには獅子、熊、火蜥蜴の頭が着いていた。
それぞれの口からは血を滴らせ、眼光は鋭く此方を値踏みするかのように光る。
【攻撃第3隊】はまるで金縛りに有ったかの様に動かない、動けなかった。
今まで退治した魔物の数は数え切れない筈の彼等ですら、この魔物の異様さに震えていたのである。
「うおぉぁぁぁ!!!」
隊の1人が恐怖の余り先走る。己の斧を振り被り突っ込んで行った。
「まっ・・・」
ゴシャッ!!!
その体格からは想像出来ない程の早さでキメラは動き、前足で男を薙ぐ。
男は吹き飛びながら血を撒き散らし、空中で体が分かれた。
それを見た【攻撃第3隊】達は瞬時に悟る。「絶対に敵わない」と。
「た、退却!退却だ!!」
隊長と思われる人物が大声で指示をする。それと同時に一斉に退却・・・などと言えない様な、全く統率の取れていない逃走が始まる。
その後の事は良く判らなくなっていた。ただ、逃走中後ろから「ゴリッ!」だの「グシャ!」などと言う音だけが聞えて来るのみ。
「畜生!畜生!!あんな奴が居るなんて俺は『聞いてない』ぞ!!!」
誰に当たるでもないその叫びは直に悲鳴へと変わって行った・・・
それから8時間後、その事実は【パイオニア・メインベース】全隊に伝えられる。
「【警備第22隊】並び【攻撃第3隊】が行方不明」
それは【パイオニア・メインベース】に戦慄を走らせた。
【ブラインドエリア】で行方不明になると言う事は、即ち生きては居ないと同義なのを皆解っているのだ。
「・・・【攻撃隊】ってエリートなんですよね?」
アスティーがミルドに尋ねる。
「あぁ・・・エリート中のエリートさ・・・選ばれると特別な訓練施設に招かれて訓練を受けるんだ」
「そうなんですか・・・そんな人達が行方不明って」
「あぁ、余程の事が有ったに違いない」
【警備第5隊】にも動揺が広がっていた。【攻撃隊】ですら敵わない相手が森の中で息を潜ませているのだ。
しかし、トラブルは待ってはくれない。ロギスの魔導通信機に連絡が入った。
『【警備第5隊】管轄【コロニー】で子供の行方不明案件発生です』
「こんな時に・・・!行方不明になってどれ位だ!?」
『2時間弱です』
「2時間か・・・まだ脈は在る・・・が」
流石のロギスも直に返事を返せない。当り前だろう、先程【攻撃隊】までもが行方不明になったと聞いたばかりなのだから。
「隊長、行きましょう。【攻撃隊】が行方不明になった場所からは離れてます」
アスティーが力強く言う。
「・・・そうだな、放っては置けんな」
ロギスは自身の気持ちを奮い立たせる様に両頬を張ると、
「【警備第5隊】行くぞ!!」
全隊員に号令を掛けた。
そしてアスティーの運命の歯車は回り出す。




