アスティー、エリアの実情を知る訳で
飛空挺の旅路は実に11時間掛かった。挺員の人は言う。
「風が安定せんからなぁ。シルフの悪戯が無けりゃ6時間程度で着くんだが・・・まぁこればっかは運だわ」
山岳地帯を通る最中に外下を見ると、山頂付近に所々平坦な場所が見て取れる。
何でも余りにも風が酷い時の為の避難所との事らしい。
よく見れば切り出された地面にかなり太い鉄の杭が8~9本程打ち込まれていた。
(うへ~確かにこれじゃ登って越えようなんて思わないなぁ)
そんな事を考えて居ると、飛空挺は徐々に高度を下げ、少しずつ建物が見えてくる。アスティーは甲板に出るとそこから視線を地平線の方へ向ける・・・
「うっっわ!すご!」
遥か彼方まで続く緑一色の絨毯が見えた。高い所から風景を見るのも初めて、町の外には出た事は在るものの、此処までの景色を見れる場所までは行った事が無かった。
そうしている間にもどんどん地面が近付いて来る、ふと、建物の1つに目をやると人混みが見えた。、どうやら待合所の様だ。
「今回は少ねぇ方だな」
何時の間にか挺員が隣に居た。その肩には束のロープが担がれており、どうやら着陸の準備の為に此処に来たらしい。
「少ない?如何言う事です?」
素朴な疑問を投げ掛ける。
「ん、あぁ。此処から大陸に戻る人数さ。普段はもっと多いが・・・今回はまぁ『平穏』だったってこった」
『平穏』・・・その含みの有った言葉の意味を知るのにそう時間は掛からなかった。
飛空挺が大地に降り立ち、降りる為の階段が取り付けられる。
「よっと」
何時もの様に足取りも軽く、大地の感触を確かめる。と、先程待合所に集まって居たであろう人々が乗り込む為に此方に来る。
見れば全員何処かしらに包帯を巻いており、アスティーの事など目にも入って居ない。老若男女、農民に冒険者と思われる人、そして軍人。
それはここに来た全ての人々が訳隔てなく傷を負う事を意味し、ともすれば・・・
(目に生気を感じない・・・)
まずは比較的歩ける団体が乗り込む。その後少し時間を置き、体が欠損した団体がのそのそと飛空挺へ向かう。皆一様に生気が無い。
それから又時間を置いて担架に担がれた人達が乗り込んで行った。
そして最後に何故か豪華な装飾をされた大きい箱が一つ運ばれて来る。
(何だろ?あれ?)
「・・・気に成るか?」
「ほぁ!?」
余りに周りの事に気を取られていたのか、隣に立つ人物に気が付かなかった。その男性はアスティーよりも長身で2mは有るだろう。
スキンヘッドの強面、どれ程の戦いを経験して来たのだろうか?無数の傷跡があった。
「あ、はい。何なんですか?あれ」
「・・・遺品だ」
「遺品・・・」
「此処じゃ遺体が残らない事なんざ多々在るのさ。そいつ等の遺品をアレに入れて送ってやるんだ」
「そうなんですか・・・」
「今回は1箱で済んだ・・・何時もはもっと多いぞ」
そんな話をしている間にどんどんと飛空挺が降り立つ。
「隊長!搬入終わりました」
「隊長!?」
自分の脇に立つ男性が隊長と呼ばれている事にアスティーは驚愕した。その隊長と言われた男性は渡された資料に目を落とす。
「・・・新規が900人か、物資は何時も通りだな」
と、隊長とアスティーの目が合う。
「あぁ、スマン。俺が【パイオニア・メインベース】警備第5隊隊長『ロギス・マクベス』だ。」
事前の書類で見て居た名前が告げられ、慌てて敬礼をし、
「アリアスティリア・ホワイトオウルです!宜しくお願いします!」
「あぁ、しっかし・・・本当に女なんだなぁ」
「はい。女ですね」
「書類の間違いかと思ったんだが・・・女。だよな」
「見紛う事無く女です」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
無言で見つめ合う。
「・・・まぁ良い。取り合えずこっちだ」
「はい!」
隊長とアスティーが移動を開始すると同じタイミングで飛空挺が上昇をし始めた。
それを横目で追い、
(あぁ。本当に此処から始まるんだなぁ)
などと考える。
移動した先には3階立ての建物が4棟連なって建っていた。
「ここが基本の兵舎だ。お前の部屋は「C」棟の3-37だ」
「はい。ありがとうごいます!」
「・・・正直、俺は納得して居ない」
「?」
唐突にロギスが不満を口にする。
「本来なら3~4人の相部屋なんだよ、此処はな。それを『お前如き』の為に1部屋作ったんだ」
「はぁ、それは・・・ありがとうございます」
「・・・何が言いたいか解るよな?」
「え~っと・・・仕事しろって事ですよね」
「・・・まぁそうだ」
余りの気の抜けた返しに脱力するロギス
(あぁ。こりゃ駄目だな。2ヶ月(1ウェーブ)以たないだろう)
などど考えていると兵舎からゴツイ男がゾロゾロと出て来た。
(始まったな。新人歓迎会が)
ロギスはアスティーから「スッ」と離れると、忽ちアスティーの周りに男達が集まる。
アスティーは女性では長身の方で165cm前後有ったが、ここでは流石に小さいと言わざるを得ない。
「・・・何だぁ!?このガキは!?幼稚園じゃね~んだゾ?」
「ヘッ!上が気ぃ効かせて『アッチの処理用』に送って来たんじゃね~か?」
「そいつぁ良い!!!」
一斉に周りの男達が「ガハハハ」と笑う。
しかし等のアスティーは涼しい顔で
「スイマセン。部屋に行きたいんで通りますね」
と、歩み始める。その態度が余程面白くなかった様で、1人の男が正面から態と体を勢い良くぶつけて来た。
ドシンッ!
尻餅を搗いた音がする。搗いた者が相手を見上げた。その目に映るのは・・・自分を見下す女の姿。
アスティーが微動だにせず相手を弾き飛ばしたのだ。『故意』に。
その場に居た全員が、勿論ロギスも一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
それはそうだろう、何せ約165cmの少女が180近い屈強な男の体当たりを跳ね除けたのだ。
「あ!ゴ、ゴメンナサイ!大丈夫ですか?」
アスティーが慌てて手を差し伸べる。
「・・・チッ!」
尻餅を搗いた男はばつが悪そうに差し出された手を跳ね除け、立ち上がった。
それが合図となり男達は無言で散り散りに解散をして行く。
「・・・隊長?私何かしましったっけ?」
跳ね除けられた手をプラプラさせ、それを見つつアスティーが嘯く。
「・・・フッ・・・・成る程、これは俺の了見を改めんと駄目だな。」
久々の大物にロギスはらしくも無く心が躍った。
少し修正&加筆