7歳、魔王に三行半を叩き付ける訳で その10
快適な空の旅路・・・は十数分で終わりを告げる。トムの、
「敵襲!!」
と、言う声によって。
ヴォルフ隊全員に緊張が走る。主要な人物が一斉に操舵室へと駆け込んだ。
「どの位だ!?」
ヴォルフが操舵室の中央に有る机に両手を叩き付けつつモニターを見る。
「わかんねー!まだ増えてっからなぁ!」
飛空挺の後方から倍以上の速度で接近するアンノウ。程なくして、
『敵影確認!!これは・・・飛竜ライダーと思われる中隊!!数28!!!』
「28だと!?一体何処からそれだけの個体を調達して来たんだ!?」
ウィーゴが声を荒げ驚く、この世界における飛竜の個体数は多いとは言えならしい。
過去の乱獲により数が減り、現在では全大陸合せて数種類の個体が4~600体存在するかしないかだ。
「飛竜と思われるって何スか!?」
ニコが返す。
『判りません!ワイバーンにしては体が大きいんです!』
「体が大きい・・・一体何の種類だ?魔族領にそんな種類が居たか?」
右手を口元へ当て、ブツブツとウィーゴ。
「んなこたぁー今どーでも良いだろが!如何すんだ!?」
その様子を横目で見てトムが怒鳴る。
「如何思います?お嬢」
俺の横に居たガルムが意見を求めて来た。
「・・・・多分、此方に攻撃はして来無いでしょうね。今の所は」
「今の所・・・ですか」
俺の言葉通り、中隊の距離は付かず離れずを維持。
あからさまに此方の移動を制限させ、誘導をしている動きだった。
「だろうな。如何やら相手さん、此方を誘導したいようだ」
ヴォルフが苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。そこへトムが疑問を投げ掛けた。
「って言ったって、このコースなら山越えられるぞ?」
「・・・成る程、そう言う事か」
「何だよ?」
「どうやら此方をとことん追い詰めたいらしい。悪趣味なネズミ狩りだ・・・」
珍しく嫌悪感を顕わにするウィーゴ。
「だから如何言う事だって!」
イラつくトムの方を見据え冷静にウィーゴが続ける。
「[メガバリスタ]だ。このコースだと射線が一番通る場所へ向かう事になる」
「何機分通ってるんスか!?」
ニコの問いに、ヴォルフは俺が用意した地図を机の上に広げ、モニターと照らし合わせる。
「・・・9機か・・・中々ヘヴィーだな」
「チッ!そう言う事かよ糞ラグルード!!」
ドン!!
トムが操縦桿に拳を叩き付ける。ガルムの当って欲しくは無い経験上の勘が、最悪な形で的中していた。
そして、此方がその話をしているのを見計らったかの様なタイミングで通信が入る。
『我の趣向は気に入ってくれたかな?ヴォルフ隊の諸君』
モニターにデカデカとラグルードが映った。其の顔は弱者を弄ぶ喜びに満ちている。
全く以って最悪な顔を見せられ、一同がイラつくのが見て取れた。
「ツマラン趣向だなラグルード」
ヴォルフが噛み付く。その目には怒りが宿っている。
『その様子なら楽しんで貰えておるようだな。クックック!貴様らの為に我が軍の隠し玉、複製飛竜まで投入しておるのだから当り前か。クックックックック!』
「複製飛竜だと!?オリジナルよりも強化されているではないか!!」
ウィーゴが喰い付くが、ラグルードは構わず続ける。
『驚いておるか?まぁ無理も無かろう。この技術は門外不出だからな』
「・・・門外不出・・・ね、何を言うと思えば。人体実験の副産物でしょうに・・・」
俺が呟き、
「っ!!!益々持ってクソ野郎がっ!!!」
其れを聞いたトムが憤る。
『さてヴォルフよ。一つ提案が有るのだ』
「・・・一応聞いてやる」
『なぁに、簡単な事よ。其処に居る雌猿を此方へ差し出せば命だけは・・・』
「断る!!!!っザケんじゃねーーーぞdung beetle(糞転がし)野郎がっっっ!!!!」
話を遮り怒号を上げたヴォルフ。やべぇこりゃ惚れるわ。
『きっっさっまーーー犬畜生の分際がぁあああァァァ!!!』
糞転がし扱いが余程頭に来たらしく、ラグルードが激怒する。良い気味だ。
「ククッ・・・ハハッ・・・ギャハハハハハハ!!!お似合いだぜ!!!糞転がしヤロウ!!!」
「ふ、流石に我慢出来ん・・・。クッ・・・ハハハハハ!!!」
「クククッ!良いあだ名貰って良かったッスね~糞転がし野郎さん!!」
「ふっ・・・っくっくっく」
「アッハッハッハ!!!」「良い例えだヴォルフ隊長!ハハハハハッ!!」「ワハハハハハッ流石隊長!」
トム、ウィーゴ、ニコに続き、ガルムまでも我慢出来ずに笑い、続いて飛空挺内に居た全隊員が爆笑した。
(ったく、ヴォルフ隊が強い訳だよ。こんだけの胆力が有るんだからな)
なんて俺は思いつつ、甲板へ向かい歩き出す。
「お嬢、何処へ行くんだ?」
それに気付き、ヴォルフが声を掛け来る。
「・・・元はと言えば私の問題。皆を巻き込んでしまって申し訳無いと思って居るわ」
「・・・オイオイ、んな事言うなよ!今更だろ!?」
「そうッスよ!お嬢が気に病む事何て・・・」
トムとニコが続き、ウィーゴがドアの前に立ちはだかった。
「こうなってしまったからには、覚悟は決まって居る。今更 降る事はさせんぞ?」
と言うウィーゴの胸辺りを俺は「トン」と軽く拳で叩く。
「別に卑屈になって居る訳では無いわよ?これから・・・そうね、私流に言うならば・・・」
俺を注視して居た全員に向けて
「フラグをへし折って来るわ」
髪を翻し力強く言い放った。
甲板の上、人払いをし今は俺しか居ない。
(・・・俺が巻き込んだヴォルフ達を死なす訳には行かね~わな)
風は殆ど無く、髪もスカートも揺れない。相変わらず飛空挺の後方には飛竜ライダー28体。
『お嬢!4分後に[メガバリスタ]の射程内に入るぞ!』
魔導通信機からトムの声が聞えて来る。
「トム、[メガバリスタ]の位置を教えて、大体の場所で良いわ」
『OK、今そっちの魔導通信機に送る』
ピピッ!と言う音と共にデータが通信機を通して俺の視界に直接投影された。
「成る程、周りはトーチカの様に石を組み、さらに硬度強化もして有るのね」
まるでFPSのHUDを見ている様でなんだか懐かしくも新しい体験である。
『判っているとは思うが、[メガバリスタ]は既に発射体勢が整っていると見て良い。とは言え、下手な動きをすれば後ろ(ワイバーンライダー)が一斉に仕掛けて来るだろう』
『んなこたぁ~判ってんだよウィーゴ!』
『お前・・・一々突っかからんと気が済まないのか?』
『ハイハイ、後で幾らでもやり合って下さいッス。お嬢、進路はこのままで・・・良いんスね?』
「えぇ、このままで良いわ」
『・・・お嬢、俺はもう驚き疲れた。『高みの見物』を決め込ませて貰うが?良いんだろ?』
「無論ね」
ヴォルフが言う『高みの見物』のその意味、つまり俺に任せる・・・信じるって事だ。此処で決めなきゃ男・・・今は女だが、廃るってモンだろ?
「さぁ、今回は大盤振る舞いよ!!私の取って置き、存分に見れば良いわ!!!」
そう言って魔力を全身へ行渡らせる。
『召喚!!』
両手を広げ『トリガーワード』を唱える。と
バシュ!バシュ!バシュバシュバシュバシュ!
と、音を立て何も無かった空間に物体が出現する。その数37個。敵の数と同数だ。
『何だ?ありゃ?』
見慣れない物に戸惑うトム。
『あれは・・・ポンチ・・・か?』
『ポンチ・・・って何だウィーゴ』
『工具だ。穴を開ける時のガイドマーキングを付けるのに使うのだが・・・』
見慣れなければそう見えるだろう。だが少し違う。コイツは・・・弾頭だ。
M2重機関銃に使われる物よりもそれは2回り程大きく造って有る上、その素材に・・・錬金術で造った劣化ウランを使用した。
(余りこの世界の今の技術には無い物は使いたく無いが・・・この状況ではな)
などと少し思ったが所詮他人事。俺は俺が守るべき者達の為に躊躇はしない。
『エクスプロージョン・エンチャント!』
各弾頭に魔方陣が浮き上がる。この世界に来て判ったのだが、銃機構を全て魔法に置き換えるとその使い勝手が一気に良くなる。
何せ弾頭に加工する事無く炸裂弾もこの通りだ。
『エ、エンチャントでエクスプロージョンッスか・・・メッチャ難易度高い事をサラッと・・しかも一気に複数とか・・・』
ニコの呆れる様な声に「クスリ」と笑みが漏れた。
そして、こんな時の為に熟練度を上げていた念動力が今、此処で開花する。
『ベクトルコントロール・スピン!』
ジャイロ効果を与える為の回転を加え、
『ベクトルブースト++ (ダブルプラス)』
発射速度をマッハ3と同等に設定。
『アンチ・インパクトフィールド!』
発射時の衝撃波を相殺する領域を自分の周りに形成した。
『魔力感知!敵オールロック!!』
魔力を込めた劣化ウラン炸裂弾が全てのターゲットへ向く、準備は完了だ。
・・・自分でやっといて思うが【これはヒドイ!!】・・・まぁ良いか。
で、だ。このままでも良いのだが、勿論あのdung beetle(糞転がし)に挨拶はしたいよね。
「トム」
『如何した?お嬢!後2分だぞ!?』
「いえ、お父様に『挨拶』をしようと思いましてね、繋げて下さる?」
『・・・ハッ!良いねぇ。そりゃ良い!!直にやるわ!!』
ヴン!と俺の前の空中にラグルードが投影された。
『・・・何だ雌猿?今更命乞いか!?』
「いえ、お父様。一応ご挨拶を・・・と思いまして」
『フン!死に行く覚悟が出来たと言う事か。下らん、もっと足掻いて我を楽しませてみよ』
余裕だなぁ・・・まぁ数秒後にもそのままで居られたら賞賛してやろう。
「・・・そうですか。では、そこで見ていて下さい。貴方の自慢のモノ達が如何なるかを!」
俺は目線を投影された画面から戻すと最後の『トリガーワード』を発する。
右手を前方に差し伸べ、
『アンチ・マテリアル・ショット!!ジェノサイドシュート!!!』
その刹那!
スパァァァーーーーーーーーーーーンッッッッ!!!!!!!
凄まじく乾いた破裂音が響き渡り0.2秒にも満たないタイムラグの後、
ドガァァァァァーーーーーーン!!!!!
飛空挺の後方と斜め前方の山岳で爆発が一気に起こる。
「「「「「なっ!?」」」」」
それを見て居た全員が、ヴォルフが、ニコが、ウィーゴが、トムが、そして・・・ラグルードが。皆一様に同じ言葉を発し、硬直した。
爆煙が薄くなり始めると、後方に居たであろう飛竜ライダー28体は消え去り、
山岳地帯で此方に狙いを定めて居たであろう[メガバリスタ]が在った場所にクレーターが9個程出来ていた。
「・・・如何でした?お父様?貴方の自慢のモノ達が蹂躙される気分は?」
・・・嗚呼、ダメだ、俺の中に在る何かか溢れ出て来る。これは・・・悦び?。蹂躙した事への?
いや違う。これは多分『ラグルード個人への攻撃』に対する悦びだ。俺は今、とても淫らに、妖艶に、笑っているのだろう・・・
「・・・やべぇ・・・スゲェ~モン見ちまった・・・」
「・・・あぁ、全く・・・同感だ」
トム&ウィーゴが
「ふぇ~~~なんなんスか?洒落に成らないッス・・・」
「・・・ハァ・・・ったく、許容量オーバーするって言ってるだろ・・・お嬢」
「此処までとは・・・」
ニコ、ヴォルフ、そしてガルムまでもが感嘆とも、畏怖とも取れない言葉を発する。
『・・・ば・・・か、な・・・』
流石のラグルードもそれ以上の言葉が出て来ず、体を硬直させ押し黙る事しか出来ないで居る様だ。
「ではお父様、御機嫌よう」
俺はその顔を堪能しつつ、淡白に通信を切った。俺の中の『何か』も満足した様で、鳴りを潜める。
その後呆気に取られている操舵室へと戻ると、拍手を一つ。
「「「ハッ!」」」
それで全員が我に帰り、俺の方を見ると、
「スゲーーーじゃね~~~か!お嬢!」
「全く・・・本当に何とかしてしまうとはな・・・恐れ入ったよ」
「お嬢!私を弟子にして下さいッス!!!」
「本当に・・・本当に達成させましたな・・・グスッ」
トム、ウィーゴ、ニコ、ガルムが賞賛して来た。その後残りの隊員達が操舵室へ集まり、
「スゲーーー!」「何だあれ!?」「やったなお嬢!」
各々が賞賛の言葉を投げ掛けて来てくれた。
俺は何だかむず痒くなりヴォルフの方を見る。
そのヴォルフが立ち上がり、静かに右腕を水平に振ると。俺以外の全員がピタリと静かになった。
「・・・お嬢、いや!お嬢様、我々の命を救って頂き、感謝の言葉も無い!・・・俺は、その、そんなに頭が良い方では無いのでな、こんな時なんと言ったら・・・」
「いえ、これは当然の事なの。私の方こそ、皆をこんな事に巻き込んでしまって・・・本当に御免なさい」
そう言って俺は頭を下げた。
「・・・だが、救われたのは事実だ。全員敬礼!!」
「「「「「有難う御座いました!」」」」」
「・・・そんな資格が・・・私には・・・」
言葉が詰まった。
「コレで良かったのさ。今更悔やんでももう帰れん!」
ヴォルフが陽気に言い放った。多分俺を元気付ける為に。
(・・・そうだな・・・責任を感じるなら、この後の事で償っていくしかな無いわな)
「・・・有難う。皆」
「んで?何処へ行くんだ?」
トムが何時もの調子で聞いて来る。
「そうね・・・取り合えず飛べるだけ飛んで・・・魔族領から出ましょ」
「だな。じゃぁ人間領にでも行ってみっか」
「そうッスね。あそこなら広いッスから隠れるなら持って来いッス」
如何やら目的地は人間領に決定らしい。
「よし!ではこれよりヴォルフ隊及びお嬢は魔族領を脱出し、人間領へ向かう!良いな皆!」
「「「「「「おう!」」」」」」
こうして俺達の激動の1日と魔族領での活動は終わりを向かえる。
だが、皆は気付いていない。この出来事が全ての序章に過ぎないと言う事に・・・
そうとは露知らず、飛空挺はゆっくりと進路を人間領へ向け、移動を開始した。
「・・・あっ!!!」
「な、何だ!?如何したお嬢!?」
俺の叫びに全員が驚き注目する。
「・・・私、まだ名前無かった」
飛空挺に笑い声が響いた。
三行半やっとオワタ
少し加筆