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7歳、魔王に三行半を叩き付ける訳で その5

魔王こと『ラグルード・ヴァルヴォリオル』は官邸内の玉座に座り、

一連の出来事を静観していた。『「アレ」は必ず現れる。』と絶対の自信が有ったからだ。

そして「アレ」は現れる。自身の失敗作、名前すら付けていないソレは餌に喰い付き、抜け抜けと現れる。

(クックック、高いヴォルフを使った甲斐が在ると言うモノよ)

正直、最早「アレ」への興味はステータスを見る事のみと成っており、存在自体は如何でも良くなって居た。

自身でも何故其処まで固執するのかは分からなかったが、きっと『未知の物への興味なのだろう』と自身を納得させる。

(だがもし、此方に有益ならば駒として使ってやろう)

などと思いつつ映像を観ていると、「アレ」は囮の兵士2人を瞬く間に倒した。

「ほう、中々使えそうだ。この猿は」

「そうで御座いますな」

隣で年老いた腰巾着の参謀が相槌を打つ。

「どれ、皆にも見える様にしてやろう」

そう言ってラグルードは周辺に居た家臣にも映像が観える様に、画像を大きく空間に投影させた。

・・・それが後に自身のプライドをズタズタに切り裂く事になるとも思わずに。




「お声を聞いたのは何時振りでしょうね?」

そう言って猿はこちら側(監視水晶)に目線を合わす。

「知らんな。元々貴様なんぞ、ステータスを確認する為だけに存在を許しておっただけの話よ」

「あら、悲しいですわ」

(フン、何をいけしゃあしゃあと、この猿は)

ラグルードは明人が裏で動いている事に早い段階で気が付いていたが、敢えて泳がせていた・・・と思って居る。

だが実際気が付いたのは6歳の時、約1年前である。最早その時点でラグルードは致命的に見誤っていたが、

逆に言えば明人は6年もの間全く尻尾を出さなかったのである。ラグルードを責めるのは酷なのかもしれない。

「ですが・・・このやり方は如何なものかと思います。お父様」

そう言いながら猿は倒れた2人を見ている。

「フン!多少の犠牲など微々足るものよ。逆に貴様如きに使ってやったのだ。感謝して貰いたいものだな」

(他人の命すら自分の所有物ってか?傲慢此処に極まりだな)

明人はほとほとあきれ果てた。

「であれば、ヴォルフは如何なのですか!」

「あぁ、其処に居るか。惜しい人材では在る。ヴォルフよ」

「・・・はっ!」

「今其処でその猿を打ち倒し此方へ連れて来い。そうであればお主の罪を減刑しよう」

「・・・何処まで・・・免罪じゃなく、減刑とはな・・・・・・屑が!」

余りの傲慢さに明人は小声ながらも怒りの声が漏れてしまった。

「・・・一つ、宜しいでしょうか?」

ヴォルフが続ける。

「・・・何だ?」

「何故、あの武器は大破したのでしょうか?」

「貴様の腕が悪かった。それだけだろう?」

「では、ラグルード様は腕の悪い者にもあのような『素晴らしい』武器をお与えになるのですか?」

キッっとヴォルフが監視水晶を睨む。

「・・・フン、そんな事は如何でも良い。それよりもその猿を早く此方へ連れて参れ!!」

(都合の悪い事になったら逆ギレ・・・何でこれで統治出来るかね)

最早愛想が尽きてしまう明人。肩を落としつつヴォルフの方を見る。

「如何されます?ヴォルフ」

「・・・・ハァ~・・・参ったな」

此処でお嬢を倒し、ラグルードの元へ行った所で如何なると言うのだろうか?

元々一連の出来事を仕組んだのはラグルードで間違いは無いだろう。態度から滲み出ていた。

そんな状態で今まで通り忠義を誓い戦えるだろうか?

「・・・・・・無理だな」

ポツリと呟き、

「ラグルード様、お断りします」

堂々と言い切った。

(カッコイイじゃんヴォルフ。中身がオッサンじゃなかったら惚れたかも)

なんて思いながらヴォルフに微笑みかけ、それを見たヴォルフは照れ笑いをした。

「と、言う事らしいですわ。お父様」

そして明人は再度監視水晶へ目を向ける。

「・・・まぁ良い、代わりなど幾らでも居るわ。所詮クズ共の集まりの上に立つ物もクズと言う事よ!」

『ブチッ!』そんな音が聞えた気がする。程なく殺気がヴォルフから発せられ始めた。

「・・・俺の事は・・・まぁ良い、だがな!仲間の事を辱めるんじゃね~ゾ?ラグルード?」

「貴様!ラグルード様に何たる無礼を!!」

参謀が顔面蒼白になりつつ怒鳴る。当たり前だ、怒らせれば周りに影響が及ぶ事が容易に想像が出来る。

だが、ラグルードは以外にも冷静を装う。何か有るのだろう。

「よい、其の言葉、我への敵対意思と捉えて良いな?」

「くだらん茶番だラグルード。最初から俺の事など如何でも良かったのだろ?」

それを聞いたラグルードは下品な笑みを溢す。

「・・・クククそうでなければな。蹂躙のし甲斐が無いと言うものよ!」

「何!?」

「お前の部隊を使って、新たに導入した防衛兵器の性能を確かめさせて貰うとしよう」

そう言って立ち上がり右手を掲げると、

「『ラグルード・ヴァルヴォリオル』の名に置いて命ずる!現時点よりヴォルフ並びヴォルフ隊を敵と見なす!守護者ガーディアン並びに、全魔導防衛装置の稼動をせよ!!」

宣言を終え玉座に座り直すと、ヴォルフ隊の現状を映し出した。

片方は飛空挺倉庫前で、もう片方は通信施設のドアの前で待機をしている。

「ハハハハハハハ!貴様らは其処でクズ共が死んで行くのを指を銜えて見守っておれ」

その様子を見ながら勝ち誇った様に言い放つ。

守護者ガーディアン。簡単に言えば重装備のゴーレムだ。通常のゴーレムが汎用性に優れるなら、守護者ガーディアンは戦闘特化と言える。

「クソッ!ガーディアンだと!そんなもの何時の間に!?」

「最近でしょうね。で無ければ今起動させる意味が無いわ。ヴォルフ隊を使って戦闘データを取りたいのでしょう」

「こうしちゃ居られん!お嬢!俺達も・・・」

「ヴォルフ、昨日の答え・・・知りたくない?」

「な、何言ってんだよお嬢!?今はそれどころじゃ・・・」

「昨日此処で貴方とどうやって話したか・・・その答え、知りたくは無い?」

そう言ってお嬢は微笑む。何故今それを・・・と思ったが、先程の動きなどを思い返す。

(何か・・・策有りって事か)

「・・・あぁ、是非知りたいね」

俺がそう言うとお嬢は拍手を打ち、

「でしょう?気に成るわよね!答えは・・・ア・レ」

そう言って監視水晶を指差した。

「・・・いやいや、あれでは無理だろ」

そう、無理だ。監視水晶だけではなく防衛に関する物は全て、官邸の何処かに在る『魔導防衛集中管理室』に設置された大型の魔法石及び魔導石で制御されている。

と、聞いた事が有った。つまり外部から、況してや部外者が使う事など出来ない。

「ふふふ、まぁ見ていて。時間もそろそろ良いでしょ。・・・お父様?」

お嬢が監視水晶を見上げ、

「『出し惜しみ』はしませんよ?覚悟なさってね?」

そう言いつつ妖艶な笑みを浮かべる。初めて見たそれは『ゾクリ』とする程妖しく艶やかだった。

『ヴゥン』と言う重低音と共にお嬢の両手に魔力が集まって行くのが感じられる。

お嬢はその両手を胸の辺りまで上げ、集中する。

そうしている内に体の廻りに魔方陣が多数発生し始める。が、其れを見て居た全員が驚愕した。

「・・・黒い・・・魔方陣?」

脇で見て居たヴォルフが呆気に取られながら呟く。

「な・・・何なのだ・・・あれは」

余りの事に玉座から身を乗り出すラグルード。

驚くのも無理は無かった、この世界に置いて魔方陣はほぼ白か、それに近い原色である。

いずれにせよ「魔方陣は発光色である」と言うのが通説なのだ。しかし、目の前では黒。黒い魔方陣が浮かんでは消えるを繰り返している。

その速度が急激に加速し始め、両手の方へ凝縮して行った。

そして・・・

ボッ!

「・・・黒い・・・炎・・・か?」

お嬢の両手に黒いゆらぎが発生した。

「準備は終わり。さて、お父様」

監視水晶へ言葉を投げ掛ける。

「楽しんで下さい。『スペルハック』!」




『トリガーワード』を放ち、両手の黒炎を監視水晶へ向けて飛ばす。

黒炎はそのまま『ぬるり』と水晶へと吸い込まれた。

と、その刹那、一気に『黒』に侵食されて行く。

それと同時に『魔導防衛集中管理室』で異変が起きた。

「ビー、ビー」とアラートが発せられる。

「何が起きた?」

室長と思われる人物が空中に浮かぶ画面に近付いて行く。

「どうやら魔力帯管制に干渉が在った様です」

魔力帯管制、要するにネットサーバーみたいな物だ。其処から官邸全ての、ガーディアンから防衛装置まで「全て」を「1つ」で制御していた。

「・・・フッ、馬鹿な事を。此処の魔力干渉防衛力は最新、最強だ。返り討ちにしてやれ」

「了解しました。『干渉障壁』展開。並びに『カウンターアタックスペル』展開開始します」

そう言って職員全てが忙しなく手を動かし始めた。が、その直後予想もしない出来事が起こり始める。

「そ・・・そんな、在り得ない!」

職員の1人がそう叫んだのを皮切りに一斉にアラート音が各所で鳴り響いた。

「何が起きている!?」

室長が近くの職員に急いで問う。

「解りません、解らないんです!!」

「何が解らんのだ!」

「見て下さい!」

画面に映り出されたのは防衛を管制しているスペル群。その回りを囲む様に干渉障壁が展開されている。

が、様子がおかしい。

「『カウンターアタックスペル』が展開されて無い?『カウンターアタックスペル』は確かに展開されたハズだぞ!」

と、良く見る。そして余りの事に体に震えが走った。

「スペルを・・・侵食して・・・いるだと!?」

黒いソレは『カウンターアタックスペル』をまるで染みが広がる様に、凄まじい速度で『黒』に染め上げて行く。

「クソッ!干渉障壁を増やせ!!」

「アンノウ更に速度増加中!!」

「他の容量を全て此方に回しても構わん!此処を守るんだ!!」

そうこうしている間にも、『黒』侵食の速度は増し、『干渉障壁』まで到達してしまう。

「アンノウ『干渉障壁』に到達!!・・そんな・・・『干渉障壁』一気に浸食されています!!!」

「バカな!!!!」

画面に齧り付く室長、その先ではまるで『干渉障壁』など無いかの様に進む『黒』が映っていた。

その浸食は更に速度を上げ、設置された魔法石及び魔導石の内部スペルにまで到達するかの勢いだった。

室長の脳裏に『強制切断』つまりは物理的切断と言う考えが過ぎる。

(不味い、マズイぞ!!このままでは官邸全体に被害が!そうなる前に強制切断を・・・)

・・・もしこの時直に決断をし、決行していれば或は事無きを得たかもしれない。

だが、脳裏に浮かんだ『ラグルード・ヴァルヴォリオル』と言う存在がその決断を少し鈍らせ、それが決定打となってしまう。

「ビーーーーーーー・・・・」

あれだけ五月蝿かったアラートが突然止まる。

「・・・・・アンノウ・・・・最下層へ・・・到達しました」

その場に居た全ての職員が呆然と画面を眺める。最早『黒』に浸食されて行く大型の魔法石と魔導石を見守る事しか出来なかった。


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