7歳、魔王に三行半を叩き付ける訳で その3
「っ・・・・」
ズキリと傷が痛み。壁に持たれかかりつつ座り込む。
格子状の窓からは月が2つ覗いていた。
月と月の間がほぼ無く浮かんで見える。
何でも大地の位置と月2つの位置関係で並んで居る様に見えるらしい。
昔生きた人々はそれが眼鏡に見えた為、『眼鏡月』と今でも呼ばれていた。
(・・・そういやこんな夜だったわな。俺の始まりは)
牢獄と言う場所がそうさせているのか、ガラにも無く昔に思いを馳せる。
物心付いた時には既に両親の姿は無かった。死んだのか捨てられたのか・・・今でも全く判っていない。
ストリートチルドレンだった時期は酷かった。何時の間にか同じ身の上の者同士で集まり暮らし、生きる為に色々した。
人数が減っては増え、増えては減る。そんな日々の中で感情は麻痺し、死と言う概念が歪んだ。
(・・・何でだろな・・・恐ろしく酷く苦しかったのに、今じゃ殆ど思い出す事が無い)
暫くすると徴兵が始まった。
「クソみたいな人生だ。どうせ死ぬなら食えるモン食って死んでやる」
何て思って自分から志願した気がする。
我ながら酷い理由だったと、苦笑いしてしまう。
その後酷い事も悲しい事も、色々経験して来た。何だかんだで最早軍は俺の居場所に成って居た。
・・・その軍が俺に『死ね』と言う。頭の中は未だに整理が付かない。
だが何故か心は落ち着いている。多分現実感が無いからだろう。
(こんなもんなのかもな実際)
あの勇者と言った人族は強かった。恐ろしく強かった。正直、今生きているのが不思議な位だ。
(もう少し鍛えて、アソコはああして・・・そこで焦らずに避けりゃ・・・・・)
なんて何時の間にか考え始め、ハッっとする。
「な~に考えてんだか。クックック」
約2日後にはこの世界に居ないってのに・・・・思わず笑ってしまう。
(ウチの隊の奴ら、大丈夫だろうか・・・変な気を起こさなきゃ良いんだが・・・
・・・まぁガルムが居りゃ大丈夫だろう)
そして有る人物の姿が思い出される。
(お嬢・・・不思議な奴だったよなぁ・・・)
フラリと俺達の目の前に現れ、何時の間にか其処に居るのが当たり前になって居た。
言葉では言い表せない不思議な物を持っている・・・其処に引かれるのだろうか。
「もう少し、話をしてみたかったモノだ・・・」
「あらそう、ならもっとしましょうか?」
ハァ?何だこりゃ?何でお嬢の声が聞えるんだ?此処は牢獄の筈だ。
「・・・・幻聴か、俺も焼きが回ったな・・・」
「何てテンプレな反応するのかしら・・・幻聴じゃないわよ?」
!?慌てて周囲を見渡す。スキルで気配を探してみるが反応が無い。
「・・・何なんだ一体」
「フフッ、その様子ならまだ大丈夫のようね」
何時もの声を聞き、少しずつ冷静さが戻ってくる。
「先に謝って置くわ、今回の件・・・私の所為で在る事が濃厚なの」
「・・・何言ってるんだ?武器を壊したのは・・・」
「それも仕組まれていた事よ」
「なっ!?」
仕組まれていた・・・だと?一体誰が、いや、それよりも一体どうやって・・・
と、一人の人物が浮かぶ。
(イヤイヤ、まさか・・・しかし、いやまさか・・・)
「その様子だと、行き着いた様ね、其処に」
「・・・訳が判らんよ。何故そんな事を」
「それは追々説明するわ、其れよりも、ヴォルフ」
「ん?」
「この国に未練は有る?」
「唐突だな」
「そうね、あまり時間が無いもの」
「・・・・・・正直判らん・・・が、訳も判らず死ぬのは御免だ」
「その答えだけで十分」
「・・・なぁお嬢?」
「ん?如何かしましたか?」
「何、考えてんだ?」
「ヒ・ミ・ツ。では後程」
「お、おい・・・!!」
・・・・・そのまま声は聞えなくなった。
(全く・・・何だったんだ・・・)
嵐の様に駆け抜けたお嬢の声。だがその声を聞いた俺の中で何かが変わっていた。
「全く・・・フッ・・・・・・クッ・・・・・・ククッ・・・・・・・ハハハハハハッ」
こんな状況なのに笑える。そして、
「この状況・・・何とか成るってんだろ?お嬢。期待して待ってるぜ」
先程までの鬱々した気持ちが吹き飛んでいた。
『ガチャリ』と言う音がし、その音で目が覚めた。
傷はまだ痛むが耐えられない程ではない。多分気の持ち様が変わったからだろう。
「食事だ」
憲兵が2人組みで食事を運んで来た。トレーの上には何時もの『練り物とスープ』
乱雑に引き出しに置かれ、こちら側に送られて来る。
「しっかし、天下のヴォルフ『殿』もこうなってしまえばザマぁ無いですなぁ」
「おいおいやめとけ。死人に鞭打つなよ。おっとまだ死んでなかったけか」
と言ってハハハハハと笑う。
(下らんなぁ。安全な場所でしか罵れんとは)
不味い食い物を頬張りつつそんな事を考えていると、
『ガチャッ』
不意に牢獄の扉が開き、有る人物がさも其れが当たり前の様に入って来た。
(・・・本当に来たか・・・さて、如何するんだい?お嬢)
ヴォルフは食べる手を休ませずに注視を始めた。
ヴォルフ処刑実行の前日。
時間は7時も半ばを過ぎた頃、ソレは静かに始まった。
まず動いたのは全ヴォルフ隊36名である。
何時もの様に武器庫から武器を持ち出すと一旦訓練場へと向かう。
変わった様子は見当たらない。むしろヴォルフの事であれだけ憤っていたのが嘘の様だった。
『傍から見れば』である。
隊列を組み移動している、外側2列はブラインド役だ。
ガルムが後ろ手でハンドサインを始める。
【準備は良いか】
【各小隊準備完了】
【了解、作戦開始】
建物の角を曲がり、監視水晶の死角に入る。
と同時に3×3小隊が烈風の如く各持ち場へと移動して行った。
(お嬢、ヴォルフを頼みます)
ガルムが空を仰ぎ、昨日の出来事に思いを馳せる。
時を戻す事11時間前。
ガルムは窓の外を覗く。ヴォルフ隊宿舎の前には憲兵が複数居た。
暴動を危惧しての事だろう。
だが隊員達は意外と冷静であった。何故なら・・・
「皆、集まってくれたみたいね」
その中心にはお嬢が居た。一体どうやって此処まで来たのか・・・は聞くまい。
「お嬢、一体・・・」
「知っての通り、ヴォルフは今窮地に立たされているわ」
皆が黙って頷く。何故だろうか、何時ものお嬢と違いとても頼もしく感じられた。
「・・・先ずは一つ確認なのだけれど・・・皆は『何処に仕えているのかしら』?」
「勿論ヴォルフにだ」
間髪入れずに答えが帰り、皆がそれに頷く。
其れを見たお嬢はこの場には似つかわない笑顔を見せこう続ける。
「ならやる事は一つでしょう?」
そこから作戦の練り込みが始まる。お嬢が用意していた施設の地図はかなり詳細で、
ガルムを始め部隊の皆を驚かせた。
「お嬢・・・一体何処から」
若い隊員が問うと
「企業秘密よ」
とあっさり返す。そのやり取りを見つつガルムは驚嘆をしていた。
(まったく・・・不思議な子だとは思って居たが・・・此処までとは)
それから1時間。
「各自、マップと作戦内容を徹底的に頭に叩き込め!」
「「「「おぅ!!」」」」
控えめながらもガルムの言葉に返す隊員達。その後1人部屋の片隅へ移動する。
ガルムは作戦を聞くとまず成否のイメージを想像する。豊富な経験によるシミュレートを行うのだ。
暫く瞑想・・・そして軽い溜め息を付くと、思わず吹き出してしまう。
「クックック・・・まったく、失敗するビジョンが浮かんで来んとはなぁ」
長い兵役でもこんな事はほぼ無かった。
「こんな老兵の心まで躍らせるとはな、本当に只者ではなかったと言う事か」
ガルムは明日の作戦の成功を確信し、又輪の中へ戻って行くのであった。




