壊せ。
「。」シリーズの第三作目。
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響くエンジンの奏がフルフェイスの隙間から聞こえる。
肌に焦げついた乾燥しきった砂煙の味は、汗と混じってしょっぱくなる。
ハイウェイは未だ遠い。
荒みきった枯れ木が凭れる看板はいとも簡単に壊れそうだ。
黒々しい自分の馬を停め、椅子に蒸れたフルフェイスを置く。
長い黒髪が揺れ、少しの芳香が鼻にそよがせる。
「まだちょっと掛かりそうだな」
レザーのポケットに手を突っ込み、銀のジッポとパサパサの葉巻を取り出す。
夜更けの国道に灯る街灯の下でジッポが照り返す。
かしゅっ。
枯れた音で葉巻に灯がつく。
ジパングに揺れるこの街は、枯れている。
この街におさらばしたら、何処へ向かおう。
考え無しにここまで走ってきた。
大衆は皆、王の帰還で腐っている。
王の御膳が狂わせた、共生奇怪のこの世界。
揺れる太陽。
夜更けに散った小さな星屑が瞬く。
真っ黒な空と真っ白な太陽。
ぜんぶ。
狂ってやがる。
胸元のチャックを少し開け、蒸れた中に風を入れる。
乾ききった口元に少しの水。
馬のストッパーを外し、エンジンを蒸かす。
私はこの音が大好きだ。
この煙るガソリンの臭いも。
私は、夜を壊しに行くんだ。
黒いフルフェイスを再び被り、少しの力で地を蹴る。
煙草を投げ捨て粒状荒む残骸を走る。
「拝啓、クソッタレた世界様へ」