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花の歌、剣の帰還  作者: 天谷あきの
第六章 エスメラルダ

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エスメラルダ(13)

     *




 デクターがいなくなると、沈黙が落ちた。


 ビアンカはアルガスにスープの器の蓋を取って渡し、空になった粥の器を片付けて、椅子にすわって、アルガスがスープを飲むのを見守った。意識はしっかりしてるとは言え、顔色はまだ土気色だった。痛むのだろう、いつもよりわずかに顔をしかめているようだ。シルヴィアも黙ってアルガスを見守っていて、ビアンカは身じろぎをした。沈黙がいたたまれない。


 シルヴィアがしゃべらない、ということにはもちろん気づいていた。

 デクターも言った。大丈夫かと。

 ビアンカも聞きたかった。大丈夫、なのかと。

 デクターの道具をちゃんと首にかけているのに。頷いたり首を振ったりして意志疎通はできるのに。どうして何も言わないんだろう。何だか哀しくなる。


「……シルヴィア姫」


 スープを飲み終えたアルガスが、ため息のような声で言った。


「申し訳ありません。今はあなたの依頼を果たすことが難しい」


 シルヴィアはそっと首を振った。いいのよ、と言ったのが分かった。

 ビアンカは黙っていた。口を挟んではいけないことのようだった。ややしてアルガスは、ビアンカを見た。


「姫は?」

「ああ、うん、昨日は帰って来なかったって、ニーナが言ってた」

「そうか……。ではシルヴィア姫、まだ伝えていないですね」


 シルヴィアが頷く。アルガスは、ホッとしたようだった。


「それでは、ずっと、言わないでおいて欲しいんですが」


 シルヴィアは驚いたようだった。羽を広げたからだ。アルガスは、苦笑に似たものを浮かべた。


「初めから言う気はなかったので。ニーナ姫には伝えましたか。……そうですか。ではニーナ姫にも頼まなければ」


 アルガスは疲れたように体の力を抜いた。シルヴィアはしばらく考えていた。そして、ややして答えを見つけたようだった。寝台の上を歩いて、アルガスの手のある場所へ行った。翼を広げて、手の上に重ねた。

 そして頷く。アルガスが微笑んで、言った。


「ありがとう、シルヴィア姫」



    *



 ミネアは元気だった。乳母に給仕されて、朝食をもりもり食べていた。

 ところが、ニーナを見るや、朝食も匙もみんな文字どおりほうり出し、一目散にかけてくると、


「かあさま……っ!」


 抱き着いた。ミネアのほうり出した食器と匙が派手な音を立てて床に落ち、器の中身がぶちまけられた。乳母があらあら、と呟いた。ニーナは乳母に謝罪の視線を投げた。乳母は微笑んで、手を振った。


 ミネアは大声で泣いていた。

 朝食で盛大に汚れている手はニーナの背に、口は肩に、前掛けはニーナの胸にべっとりと押し付けられていたが、ニーナは身じろぎもしなかった。怖かったの、怖かったの、怖かったの、と泣きながら繰り返すミネアに、ニーナは相槌を繰り返した。うん、そう、怖かったのね、怖かったのね、と言いながら抱き締めて背を撫で、ミネアが少しずつ落ち着くのを待った。


 ミネアを抱きしめているときだけは、心底、自分がこの子を愛しているのだと感じる。

 けれどそれは、ミネアが一緒にいるときだけだ。普段は、いや今も、ニーナにとっては舞の方が大事だ。ミネアが巡幸できるようになれば、ニーナはいつでも、【最初の娘】の重責をこの小さな娘に押しつける気でいる。あたしは母親なのに、とつくづく思う。この子の幸せを一番に望み、考えるべき存在なのに、それでも、ニーナはミネアよりも舞と自分の方が大事なのだ。我ながら、忌まわしいことに。


 だからミネアと一緒に居るときだけは、ニーナは真剣に、理想の母親を演じる。それは最低限の礼儀というものだ。せめてミネアが小さいうちは、ニーナが一番愛しているのはミネアであって、ミネアのことを一番に考えていて、ミネアのためなら何でもする、それがあなたの母親なのだと、ミネアに思いこませてあげるのは、ニーナにできる唯一のことだった。


「大丈夫よ。大丈夫よ。大丈夫よ、ミネア。怖いことは終わったわ。母様がついてる。もう大丈夫。あなたは母様の宝物。世界で一番愛してる」


 低く囁くうちに、ミネアが落ち着いた。気づけば半刻は泣いていたようで、体がすっかりこわばっていた。急がなければならないのにとかすかに焦燥を抱いたが、ミネアが泣きたいだけ泣かせてあげるのはニーナの義務だ。エルヴェントラはニーナに、あなたはミネアを甘やかしすぎると文句を言う(それはこちらの台詞だとニーナはいつも思う)。けれど普段一緒にいてやらないのに、たまに一緒に居るときくらい、でろでろに甘やかして何が悪い。ミネアは聞き分けのよい子だ。いつもいろいろと我慢している。ニーナに会ったときくらい、解放したって、いいじゃないか。


「かあさま……」


 ニーナは、ミネアが自分で離れるのを待った。ミネアがようやく顔を上げた。乳母がさりげなく近づいて、しぼった布を渡してくれた。ニーナはミネアの顔を拭き、朝食がこびりついた小さな手のひらをよく拭い、前掛けをはずして衣服を整えてやった。ミネアはまだしゃくり上げながらニーナを見ていたが、ややして、笑った。


「……かあさま」

「なあに、ミネア」

「へへへ」


 ミネアは再びぎゅっとニーナに抱きついた。あったかい、とニーナは思う。そして背中をさすってやりながら、切り出した。


「あのね、ミネア」

「……かあさま。がすにあいたいの」

「がす?」


 聞き返しながら、思い至った。がす。アルガスだ。シルヴィアが言っていた、温泉行きで、アルガスに本当になついていたと。

 まさかミネアから言い出すとは。ニーナはかすかに後ろめたい思いを抱いた。


「うまにのせてくれたの、つなもたせてくれたの。えるぎんががすのうまからひっぱったの。それっきりいなくなったの。がすはどうしたの」

「今は寝ているわ。ミネア、母様もね、アルガスに会いたいの」


 ミネアの茶色の巻き毛をそっと撫でながら、ニーナは言った。


「それでね。アルガスはね、怪我をしたの。大丈夫、たいしたことはないんだけど、少しの間寝ていなければならないの。こないだまでの母様のように」

「……そうなの」

「母様はね、寝ていなければならないときに、ミネアがお見舞いに来てくれて嬉しかったわ。ミネアがお見舞いに行けば、アルガスもきっと喜ぶわ。でもね、今、アルガスは、エルギンのお家にいるの。ミネアはひとりでお邪魔しちゃいけないって言われているわね。寝ている間、何度もお見舞いに行くには不便だし、母様も行きづらいし、マーシャがお世話をしたいって張り切っているのに、マーシャもいけないでしょう。だからね、母様のお家の近くにある家に、アルガスに来てもらおうと思うの。どう思う?」

「いいね~」


 ミネアはにっこりした。ニーナもにっこりした。こういう口調で言えば、ミネアがニーナに反対しないことはよくわかっている。


「だからね、父様にお願いしに行きたいの。ミネアが手伝ってくれたら本当に助かるの。お医者様がいいって言えば、ミネアはいつでもお見舞いに行けるわ。だから手伝って? 父様に一緒にお願いしてくれる?」

「いいよ。おひざにのぼってにっこりすればいいんだよね」


 おっと。ニーナは思わず顔をほころばせた。どこで覚えたんだ、そんな必殺技を。

 病が治って動けるようになったら、近々教えようと思っていた手管じゃないか。


「そうよ。すごいわ、ミネア。じゃあ、行きましょうか。朝ご飯、母様、ミネアの分ももらってきたの。もしおなかがすいたら、父様のお家で食べましょう。父様と母様と一緒に」

「ほんとっ!?」


 ミネアの顔がぱっと輝く。ニーナは乳母に目で断ってから、ミネアに手を差し出した。


「いこ、ミネア。お手々つないで頂戴」

「はーい」


 ふたりは仲良く歩き出した。マーシャの籠を持って、ミネアの手を引いていると、まるで昼食付きの散歩にでも行くかのようだ。全部落ち着いたら、とニーナは考えた。舞とミネアとシルヴィアと、ビアンカと、デクターと、それにそう、もちろんアルガスもだ。みんなでお弁当もってでかければ、ミネアはきっと喜ぶだろう。それくらいしてあげたい、と思う。


 ミネアの家から、エルヴェントラの執務をとる家まではわずかな距離だ。

 エルヴェントラの執務室の窓は、この時間だというのにまだ閉まっている。


 その閉まっている窓の前に、ひそひそと囁き交わす住民たちが数人集まっている。その数は少しずつ増えているようだ。ニーナは内心、首をかしげた。珍しい。住民たちは、閉まった窓に寄り集まって、聞き耳を立てているようだ。


 と、舞の声が聞こえた。かすかだが、怒鳴っている。怒鳴っている? ニーナは目を見開き、合点した。なるほど、舞が怒っているから窓が閉まっていて、漏れ聞こえる声に気づいた住民が物見高く集まってきているわけだ。怒鳴り声の内容はよく聞こえないが、舞が怒鳴るなんて本当に珍しい。


 と、ばん! と窓が開いた。開けたのは舞だった。舞は一睡もしていないようで、憔悴した様子で、でも目がキラキラ光っていた。集まっている住民たちが、聞き耳を咎められるかと後ずさったが、舞は気にせず背後を振り返った。


「あなたの言うことは本当にさっぱりわけがわからない!」


 エルヴェントラが窓を閉めようとしたが、舞は遮った。ニーナは安心した。舞はまだ冷静だ。住民を味方につける気らしい。


「なぜいけない? わけがわからない。ガスが食い止めなかったら賊はここになだれ込んできてた、兵を集める時間もなかっただろうし、みんな無事に済んだかわからないじゃないか! 礼を言いに行くだけだ! 【最後の娘】の職務だとかあなたはいつも言うけど、それこそ仕事じゃないの!?」


「アンヌ王妃を説得する材料がまだ――」


「それは分かってる! ずっと考えてる! でもイーシャットにも頼んであるし、情報が足りなさ過ぎるってあなたが言ったんじゃないか! ちょっと容態を見に行くだけだ! それがどうしていけないんだ!」


 おおお、戦ってるわ。ニーナはぞくぞくした。

 ミネアが不安そうに見上げてくるのには、片目をつぶって見せた。


「大丈夫よ、ミネア。舞は怒ってるんじゃなくて、頑張ってるの」


 いや実際怒ってもいるようだが。エルヴェントラの低い声が聞こえた。


「容態は落ち着いた。目も覚ましたと言うぞ。わざわざ見に行かなくても」

「だったらなおさらだ! 目が覚めてるなら礼も言えるだろう! そもそもあなたがなぜ行かないんだ!」

「行ったさ。あなたが風呂に入りにいった際に」

「だから――」

「ミネア、行きましょう。大丈夫。怖くないわ。母様がついてるからね」


 ニーナは微笑んで、ミネアの手を引いた。エルヴェントラはどうやらもう知っているようだ。だから舞をアルガスに会わせたくないのだろう。けれど窓も開いていて、住民も集まっているし、舞も頑張っているし、ミネアもいる。エルヴェントラに勝ち目はない。ニーナは唇をつり上げて笑った。


 ――援護するわね、舞。




 中に入ると舞が言葉を切り、エルヴェントラが呻いた。ウフフフフ、とニーナは内心だけで笑った。エルヴェントラの困窮した様子を見るのは大好きだ。


「おはよう、ゲルト。おはよう、舞。何もめてるの?」

「……まー」


 ミネアがおずおずと顔を出し、舞は一瞬で顔から怒りを消した。ミネアに駆け寄って、


「久しぶり、ミネア!」


 抱き上げ、ようとして、できずに顔をしかめた。ニーナはあれ、と思った。どうしたんだろう。肩でも痛めたのだろうか。ミネアが覗き込んだ。


「どうしたの、まー? どこかいたいの? それでおこってたの?」

「や、違うよ。大丈夫。何でか肩が痛いだけ。大丈夫、抱っこできなくてもこうはできる。ぎゅー」


 舞が抱き締めるとミネアは嬉しそうに笑って、ぎゅっと抱きついた。


「まー、おこっちゃいや」

「ごめんね、ミネア」


 舞はミネアの頭を撫でた。


「会いたかったよ。覚えててくれて嬉しいな。おみやげも渡してないんだもんね。ちゃんといいもの見つけて来たよ。マーティンからも預かってる物があるんだ。それに、ただいまも言ってなかったね。ごめんね」

「まーはわるくないの。とーさまがいけないの。まーをひとりじめして」

「……ミネア」


 エルヴェントラが呻き、ニーナは微笑んだ。


「舞、悪いけど、私の用を先にさせてね。デクターがもうすぐ治療に来るはずだから」


 ミネアが長く泣いたから、今頃は捜し回っているかもしれない。急がなければ。


「ねえエルヴェントラ、アルガス=グウェリンのことだけど。エルギンの家に居るって言ってたわよね」

「……ああ」


 低くエルヴェントラが呻く。舞はそれも知らなかったのだろう、ミネアを抱きしめたまま、黙って聞いている。


「エルギン王子としても、できる限りの看護をしたいということでな」

「そうでしょうね。何しろ英雄だものね。本当に、彼のおかげで助かったんだもの。彼がいなかったら今頃どうなっていたことか、考えるだけでぞっとするわ。舞、あなたもそう思うでしょう?」

「……うん」


 舞を見下ろして、ニーナは微笑んだ。目配せなどせずとも、舞への合図はまなざしだけで送れる。


「だからね。あたしたちも、いろいろして差し上げたいなって思うの。エルギンの家には女手が少ないわ。王子の真心はよくわかるけど、でも、救われたのはエスメラルダよ? ルファルファの民よ? あたしたちが何もしないで居るわけにはいかないと思うの。できる限り、ルファルファの娘の誠意を見せなきゃ。だってミネアが」


 ニーナは手を胸の前で握りあわせて身を震わせた。


「……ミネアが危なかったってビアンカに聞いたわ。彼がああしなければ追いつかれるところだったって。ああ、本当に……」

「ニーナ、大丈夫? 座って。駄目だよ、まだ本調子じゃないんだから」


 舞は調子を合わせてきた。ニーナは椅子を持ってこようとするのを身振りで止めた。


「いいのよ。大丈夫。……だからね、エルヴェントラ。マーシャの腕は知ってるでしょう。看護にはああいう腕が本当に必要だと思うの。マーシャがエルギンの家に通ってもいいんだけれど、時間がかかるしね。デクターも彼の治療に加わっているわ。でもデクターにはあたしの治療もあるでしょう、一日三回も往復することを考えれば、やっぱりねえ、あたしたちの家の近くに、ほら、デクターに住んでもらってる家にね、来てもらうのがいいんじゃないかなって思うの。本来ならうちにお招きするべきなんでしょうけど、それはさすがに寛げないかなとも思って。でもデクターの家なら問題ないわね? だってもともとアルガスがここに来たときにはあの家に入ってもらったんだから。そうすればマーシャもデクターも行き来しやすいし、ミネアも……」


 ミネアは自分の役をちゃんとわきまえて、とことことエルヴェントラの方へ歩いて行っていた。エルヴェントラは後ずさろうとしたが、ミネアには抗えなかった。ミネアはエルヴェントラの足にぎゅっと抱きついて、見上げて、にっこりした。


「あのね、とうさま。ミネア、がすがすき。おみまいにいきたいな」

「……デクターの家なら、ミネアもよくお見舞いに行けるわね。ね、舞、ちょうどいいと思わない?」

「いい考えだね、ニーナ」


 立ち上がって、舞もにっこりした。


「それならあたしも安心だもの。救われたのはルファルファの民なのに、職務があるからってお礼にも行かせてもらえなくって、ほんとに後ろめたかったんだけど、マーシャに世話してもらえるなら安心だな」

「でしょう。いい考えよね、そう思わない、エルヴェントラ?」

「…………あなた方は…………」


 低い声でエルヴェントラは呻いた。足にはミネアが抱きつき、窓の外ではルファルファの民たちが興味津々でこの会話を聞いており、ルファルファの愛娘はふたり揃って手を取り合うようにして彼を見つめている。絶体絶命だ、と思っているに違いない。ニーナはここでも思った。ざまあみろ、と。


「異存はないでしょう、エルヴェントラ? じゃあ早速エルギンに断りに行ってくるわ。あ……でもあたし、治療を受けないとな」

「私が行く。わかった。ではデクター=カーンに使ってもらっている家にグウェリンも移そう。それはいい考えだ」


 エルヴェントラは自棄になったような口調で言った。


「王子のご厚意をお断りするにはやはり私が自分で行かねば。うん。そうだ」


 ニーナは逆らわず、頷いた。


「そうね。それがいいわ。じゃ舞、悪いけど、エルヴェントラについて行ってあげて? あたしは治療を受けなきゃいけないし。あなたはあたしの代理人だから、あなたが行けば、アルガスの方でも、【最初の娘】が自分をないがしろにしたとは思わないでしょう」

「……その必要は」

 エルヴェントラは最後の抵抗を試みた。無駄な抵抗だ、とニーナは思う。あのランダールだって、ニーナと舞の共同戦線に立ち向かえたことは一度もないのだ。


「あたしは必要だと思うわ。だって舞ったら、昨日からお見舞いに行ってないんでしょう? 本当なら昨日のうちに行っておくべきだったわ、意識が戻っていなくても、心証が違ったでしょうに。舞ったら、もう。どうして行かなかったの?」


 舞は上手にうなだれた。


「ごめんなさい、ニーナ。あたしも行きたかったんだけど……」

「忙しかったのね。寝る暇もなかったのね、はれぼったい目をしてる。しょうがないわ。だから今からでも行くべきだわ。ちゃんと、今まで来られなかった非礼をお詫びするのよ? ああ、でも、本当ならあたしが行くべきなのよね。ごめんね、舞。あたしったら取り乱して、徹夜で職務を果たしていたあなたを責めたりして。……ごめんなさい」

「そんな。ニーナはまだ病がちゃんと治ってないんだから、あたしがやっぱり行くべきだったんだ」

「猿芝居はやめんか……」


 エルヴェントラが低く低く低く呟き、ミネアがまだ抱きついたまま訊ねた。


「さるしばいってなーに?」

「このふたりがやってるのがいい見本だ。ミネア、絶対真似するな。しないでくれ。……するんだろうなあ、いつか」


 エルヴェントラは呻いて、ミネアの手をそっとはずした。ニーナは追い打ちをかけることにした。


「ミネア、あなたも一緒に行ったら? アルガスはもう起きてるそうだし。きっと喜ぶわよ。それでお顔を見たら、母様のところへ戻ってきてね。ご飯を一緒に食べる約束をしたんだから」

「わーい!」


 ミネアが歓声を上げ、エルヴェントラを離れて舞に抱きついた。


「いっしょにいこ、まー!」

「うん、行こうね、ミネア。じゃ、ニーナ、後でね」

「行ってらっしゃい。エルヴェントラ、ふたりを頼むわね」


 通り過ぎるエルヴェントラに最上の微笑みを投げてやると、とても恨めしそうな目で見られた。ウフフフフ、とニーナはまた心の中だけで笑った。ああ、すっきりした。


 病が軽くなって本当に良かった。

 これでようやく、エルヴェントラに反乱の狼煙を上げられる。

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