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花の歌、剣の帰還  作者: 天谷あきの
第四章(前半) アンヌ王妃

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アンヌ王妃(2)

     *


 アナカルディアへ着くまでの間に、ヴェガスタの軽口はどんどん増え、どんどん遠慮がなくなっていき、緊張感が育まれる暇などまるでなかった。


 ヴェガスタの軽口はあっけらかんとしていて、オーレリアの面罵ともアスタの毒舌とも違う乾いた色を持ち、次から次へと矛先を変えた。舞をからかうのが専らだったが、ときには周囲の寂れ具合や彩りの少なさにも向かい、おまけに言うことがくるくる変わる。つまり黙っていられない性分、思ったことを口に出さずにはいられないたちなのだろう。それが本当に悪い事態を引き起こしかねない時には舞が心配するまでもなくフィガスタが鉄拳を飛ばしたし、フィガスタが放っている時にはヴェガスタの悪意のないおしゃべりはむしろ雰囲気を救った。アナカルディアに着いてからはますます軽口が冴え渡り、緊張感はおろか重苦しい気分にさえならなかった。ここが敵の本拠地であり、正体がばれずとも黒髪をさらしただけで捕らえられかねないという事実も、舞の気分を落ち込ませるには至らなかった。マーティンが用意してくれた明るい茶色のかつらを被った舞を、全っ然似合わねえー! と豪快に笑い飛ばしてくれたお陰で。


「いや姉ちゃん、あっぱれだ。あっぱれな似合わなさっぷりだ。宴会の余興になるぜ。ここまで被らないでくれて助かったよ、じゃなきゃ笑い過ぎてのたれ死んでるところだ」

「その手があったか。もっと早く言えばいいのに」

「言うねえ」


 ヴェガスタはニヤリとした。


「眉が黒いからいけねえのかな。目も黒いしな。帽子被った方がいいんじゃねえかな」

「うるさいなあもう、暗いし抜け道使うんだから顔なんか見られない。見られないようにするのがあなた方の役目でしょう」

「そりゃそうなんだが俺ぁ若い娘がそんな無残な格好するのがどうにも耐えられない性分で」

「あたしは気にしない」

「してくれよ頼むからよお。あんた自覚がねえのか、もしかして。結構可愛い顔してるんだからもっと気を使ってくれりゃいいのによ。俺のためだと思ってよ」

「あたしは気にしない」

「つれないねえ、老い先短い年寄りのためを思う気もないってか」

「あなたは絶対あたしより長生きする。絶対そんな気がする」

「俺もそう思う」


 と、廃屋の扉から顔を覗かせたフィガスタが言った。


「てこずって悪かった。まだ発狂してないようだな」


 この旅路の間にこちらにもすっかり馴染んでしまった。舞は頷いた。


「時間の問題だったけど。アンヌ王妃の無事はわかった?」

「ああ。俺達が生きてるってことも、どうやら知られてないらしい」


 ずっと三人の心を占めていた問題を吹き飛ばす情報を、やけにあっさり言いながら、フィガスタは廃屋の扉を押し開けて入って来た。既に夕暮れが近く、窓辺にいる舞から見ると、フィガスタの顔は闇に沈んでいる。舞は瞬きをした。


「……確か?」

「まあ確かだ。魔物が沈黙してるって可能性がないわけじゃねえが。少なくとも王宮の近衛も従僕も、俺達の生存を知らなかった。王妃もカーディス王子も無事」

「そ……か」


 舞は微笑んだ。それでは、あの魔物――の、一部? は、やはり、別の個体と情報を共有することはできない、ということだ。今のところは。


「で、魔物に詳しい人、というのは?」


 今まで聞きたくてうずうずしていたことをようやく切り出すと、ヴェガスタが口を出す前にフィガスタがじろりと兄を睨んだ。


「それはまだ先だ。王妃との話し合いが済んでからだ」

「ええー……アナカルディアに着いたら教えてくれるって言ってたのにー」

「さっさと聞かねえからだ。フィグが戻ってくる前に聞いてりゃ教えてやったのによ」


 ヴェガスタが言う。舞は苦笑した。


「あなたの情報は要領を得ないんだもの」

「失敬な姉ちゃんだな。もう頼まれたって教えてやんねえぞ」

「じゃそろそろ行くか。あんまり遅くなると黒髪だろうが何だろうが娘の出歩く時間じゃなくなるしな」


 ヴェガスタの抗議は無視して、舞はうなずいた。腹ごしらえも済んだし、夕暮れにもなったし、仮眠も取ったし、変装も済んだ。いよいよだ、と思ったが、気持ちが高ぶる前に、やはりヴェガスタが邪魔をした。


「いや待て待て、この姉ちゃんの変装がどうにもこうにも俺は」

「あなたよりマシだと思います」

「全くだ。それでも変装したつもりなのかよヴェグ、これから王宮に向かうんだぞ、正体ばれる前にうさん臭くて投獄されそうだ。ましょうがねえな、あんたは普段でも盗賊に見える。へたくそな変装じゃその悪党面は隠せないよなせめて髭を剃れ髭を。行くぞエルティナ」

「く、流れるような罵倒だな弟よ!」

「うん、考えようによっちゃ好都合か。ヴェグが役人に追われてる間に俺達が安全に移動できるしな。頑張れよヴェグ、アナカルディアの夜は暗い。夜陰に紛れてその格好に恥じぬ見事な逃げっぷりを見せてくれ。王都を荒らしたとなりゃ、例え死んでも草原の民の誉れとして永劫に語り継がれるだろうよ」


 全く容赦のない悪態を、しかも速足で移動しながら言い続けるので、ヴェガスタはまず追いつくのに精一杯で反論する暇がない。舞も後を追いながら、敵の本拠地に乗り込むというのにこんなに笑いたくなっていいのだろうかと、必死で衝動を押さえ込んだ。

 お陰で、王宮を見たらきっと生じるだろうと覚悟していたあの憎悪の渦も、緊張も、気後れも恐怖も、感じずに巨大な王宮を見上げることができた。

 そしてそれがこの兄弟の狙いなのだろうと、そろそろわかり始めてもいた。




 夕暮れの時間を過ぎると、すぐに辺りは闇に沈んだ。恐らく以前は出ていたのだろう屋台もなく、夕方を過ぎて営業する店もなく、立ち並ぶ家々からこぼれる明かりもわずかだった。道を歩くのは足早に家路を急ぐ人ばかりで、その数も急速に減っていく。心配していた兵士の姿もほとんどなかった。ぽつりぽつりと要所要所に手持ち無沙汰に立つだけで、皆一様に覇気がなく、ぼんやり夜空を見上げている。物陰に隠れつつ進む三人に気づきもしなかった。舞の顔はおろか髪にすら目を留めようとする者は、街の者を含めて、ひとりもいなかった。これなら黒髪をむき出しで歩いても無事だったかも知れない。ちょっと拍子抜けだ。


 王都という名が哀しいほどの、重く沈んだ廃墟のような街がそこにあった。

 街の中央にある巨大な王宮だけが明るい光を放っている。


「ちょいと前までは飲み屋だの食堂だのもたくさんあったんだがなあ」


 ヴェガスタも普段と変わらずのんびりとした口調だった。


「昨今じゃ夕暮れ過ぎて営業する店は地下に潜らねえとみつからねえ。それも紹介者がいねえと入れねえ極秘営業の店ときた。エルギンたちをあん時連れてった店に、あんたも連れて行きてえが、とっくにつぶれちまったよ。いい店だったんだがな、食事が旨くてさ」

「観光じゃないんだぜ、ヴェグ」

「わかってるよ。これはまあ感傷ってやつだ。俺もなかなか繊細だろう? んん?」

「繊細な人は、自分でそんな風に言わないと思うな」

「あれから十年か。人も街もずいぶん変わったもんだ。あの頃この町には食いもんの店や飲み屋だけじゃなくて、服屋もひしめいてたもんだ。あー……あの店が今もあったらなあ、あんたのその無惨な変装ももっとどうにかしてくれたんだろうになあ」


 まだ言うか。舞は顔をしかめたが、反論はしなかった。しても無駄だろう。

 代わりに違う質問をひねり出す。


「そのお店も、潰れちゃったの?」

「いーや、あの店は移転したわ。見ただけで似合う大きさと形、色まで当てるおっそろしいばあさんと、目端の利く店長が揃ってたからな。ウルクディアに移転した。あの街もずいぶん寂れちまったが――俺の一族にな、可愛いものに目がない男がいてな。その店の売り出したふりふり付きの服が可愛いのなんのって蕩々と話してやがったから、あの店は大丈夫だ」


 舞は思わず微笑んだ。ウルクディアには先日行ったばかりだ。ウルクディアも寂れていたけれど、服飾店――それも贅沢品を売る店が営業を続けられているような状況なら、そこまで酷くはないのだろう。イェルディアで会った、ウルクディア街長、ギーナ=レスタナの禿げ頭を思い出す。あの人は実際結構やり手らしい。


「こっちだ」


 ずっと黙っていたフィガスタが囁き、周囲を窺った。こちらを気にする者の気配がないことを充分探ってから、何の変哲もない石塀を押した。ごろりと音を立てて塀が回る。すぐにぽかりと開いた暗い穴に滑り込むと舞を招いた。


「早く」


 舞は左手にそびえる王宮のてっぺんを見てから、フィガスタの後に続いた。方向が全然違う気がするが、方向音痴は重々承知なので黙っておく。ヴェガスタが入って塀を閉めると、フィガスタが松明に火をつけた。松ヤニの焦げる匂いと共に、柔らかな光が闇を押しやった。


「かなり歩く。カツラはまだ取るなよ」


 先に立つフィガスタ越しに前方を窺うが、松明の明かりが届かない場所は全くの闇で何も見えない。舞はフィガスタの影が不気味に伸びるのを見ながら、後に続く。道は下りだ。すぐに空気が湿り気を増し、寒気が押し寄せてくる。下りが終わると道は唐突に左に折れて、なるほど王宮の方角へ続いている。


「十年前もこの道を通った。……あんた、あのふたりから、どの程度話を聞いてるんだ?」


 歩きながらフィガスタが言った。振り返りはしなかったが、ゆらりと松明が舞を振り返るように動いた。舞は少々首を傾げる。謎の“医師”と“技術者”のことをニーナが舞に話さなかった意図がわからず、返答は自然と自信のないものになった。


「えっと……この道の話は聞いた気がする。王宮の下には地下水が流れているから、湿っていて、夏だったけどとても寒かった、とか。王宮を崩すことができる杭の話をエルギンがしてくれたとか、そのお陰で、初めは喧嘩腰だったあなた方の親族の子が、エルギンに好意的になったんだとか」


「ああ、鼻たれ小僧な。そいやあいつもあんとき一緒に来たっけか」ヴェガスタが楽しそうに言った。「つーかあの王子も結構大したタマだよな。お付きの者に手引きさせて、謁見の間に夜中にこっそり忍び込むなんざ……王子っつってもその辺の悪ガキと大差ねえんだな」

「杭って本当にあるの?」


 訊ねるとフィガスタが喉を鳴らした。


「ああ、ある。あった。俺も見た。それも間近でな」


 アナカルシス王宮には、伝説があるのだと、以前エルギンから聞いたことがあった。

 それは王宮の土台を貫く一本の杭の伝説だ。その先端は、謁見の間の王座の真下に突き出ている。それを引き抜くと、王宮は、がらがらと音を立てて崩壊するというのだ。

 アナカルシスの王がどれほど強大になっても、どれほどの権力を手に入れても、それは誰かが杭を一本抜けば崩れる程度の、儚いものでしかない。それを心に刻むようにと、初代の王が作ったのだとエルギンは言った。新年には王宮の図面を王が改める儀式をするのだそうだ。アナカルシスで一番権威を持つ建築家が招かれ、図面を確認し、中心の杭を抜けば確かに王宮が崩れることを王の前で確認するのだという。


 初代の王はまともだったのに、と、舞はそれを聞く度にいつも思う。

 なのになぜ、アナカルシスの国王は、王座につくたびに少しずつ道を踏み外し、転落し、圧政を布くようになるのだろう。


「いや、背筋の凍る体験だったぜ……」


 フィガスタがしみじみと呟き、舞は空想した。王宮の土台を貫く一本の杭だなんて、どんなに長くて、重いのだろう。


「抜くって言っても、すごく長くて重いだろうし、そう簡単には抜けそうもないね」

「いやそれが、人ひとりの力で抜けるようにちゃんと工夫されてんだよ。まあ杭っつうには確かにちょっと太いんだ。細い柱くらいはあんのかな。このばかでかい王宮はな、外から見ると岩を積み重ねて作ってあるように見えるんだが、中身は寄せ木細工なんだと。土台を貫く杭には軽い力で簡単に動かせるようにって、あらゆる工夫を凝らしてあるんだと。何で自分の家をそんな風に作る気になったんだかなあ。この王宮作った王と建築家は変態だよ」


 舞は思わず笑った。偉大なるアナカルシスの初代国王も、そんな評価を受けては立つ瀬がない。


「あなたも忍び込んでこっそり杭を見たの?」

「いーや。俺は王宮の中にもぐったことがあるんだよ」


 そう言ってフィガスタはまた身震いをした。


「肝が冷えたぜ。謁見の間の真下には空洞が作られてるんだが、そこを斜めに一本の杭が貫いてるわけだ。ちょっとでも触れたら抜けるんじゃねえかって冷や冷やした」

「……何でそんなところに行ったの?」

「娘っ子のたっての願いだ。しょうがねえさ」


 舞の後ろでヴェガスタが言った。舞はヴェガスタを振り返る。


「娘っ子?」

「ああ、王妃のこった。アンヌ=イェーラ・アナカルシス。あんたが今から会いに行こうとしてる相手」

「王妃がな、王宮に潜む魔物を退治しようとしたことがあるんだ。……あの時確かに、叩き出したはずだったんだが……」


 フィガスタはそう言って、しばらく舞に、10年前にアンヌ王妃が決行した、魔物狩りについての話をした。



 アナカルシスの王宮には魔物が棲んでいる。その魔物が王を操り、圧政を布かせ、民を虐げさせ、暴君に育てていくのだと、伝説は言う。

 おとぎ話に過ぎない荒唐無稽な話だ。けれどアンヌ王妃はそう思わなかった。王が留守にしている間に彼女は衛兵を掌握し、マーセラ神官兵にも通達を出し、王宮の“大掃除”に乗り出した。果たして、魔物はそこにいた。王座の下に、黒々とした巨大な猫に似た生き物が眠っていたというのだ。

 “猫”を追い出し焼き殺すのには細心の注意を必要とした。暴れて王宮が崩れては大変だし、火事になるのもまずい。傷を与えて弱らせて、外に逃げ出させてから総攻撃をかける必要があった。また魔物は分身を作ることができたといい、その分身の方は草原の民が引き受け、責任を持って完全に滅ぼしたのだ、と、フィガスタは語り、長々とため息をひとつ吐く。


「……滅ぼした。はず、だったんだが、なあ……」


 舞は心に蓋をしようとした。目の隅で、森がめらめら燃えている。赤黒いその揺らめきを、意思の力で閉め出そうとした。呼吸が乱れて、目眩がした。この胸に巣くう憎しみはいつでも暴れ出す機会を窺っている。なすすべなく、思考が憎しみに引きずられようとする。

 王が。

 舞の大好きなローラを殺しセルデスを殺しティファ・ルダの人々全員を殺戮し尽くしシルヴィアにまで手をかけたあの男が、実は普通の人間だっただなんて許せない。魔物だと? 王宮に潜む魔物だと? 虐殺したのは魔物のせいで、王のせいではなかっただと?


「……王、の……」


 言葉が勝手に唇から零れ、舞は唇を引き結んだ。自分の思考が乱れていて論理的でないことは自覚していた。フィガスタはひと言もそんなことを言っていないし、今の話の主旨はそこにはない。落ち着いて。落ち着いて。ニーナの笑顔を思い出して、自制を取り戻そうとする。先ほどの呟きの続きを待つようにフィガスタがこちらを振り返ったが、舞が言葉を出せる状態になる前に、ヴェガスタが言った。


「そろそろ潮時かな、と、思ってたのさ。――【最後の娘】。あんたが来てくれてありがてえよ」


 驚いた。今までずっと軽口ばかりで、舞をからかうばかりだったヴェガスタが、初めて言った感謝の言葉だった。


「確かに王宮には魔物が棲んでいたが、退治して滅ぼした後も王はどんどん狂っていった。再び魔物がどこからともなくやって来て傍に居座っても追い出す様子もなく、それどころか、娘っ子を厭み遠ざけるようになった。娘っ子は謁見の間に立ち入ることを禁止され、その内王宮に入ることも許されなくなり、王妃としての待遇さえ得られなくなってった。ずいぶん前に俺ぁ言ったんだ。そろそろいいだろう。もうイェルディアに帰れ。王を見限って故郷に引っ込めばいいって」

「しかしあの女も頑固でな。……確かにあんたら同盟の手は、いい潮時になるだろう」


 舞はヴェガスタに感謝していた。さっきの驚きのお陰で、舞の胸に巣くう憎しみが収まった。言葉がすっと胸に落ち、理性的に考えられるようになってきた。ゆらゆら揺れる松明の明かりに、【アスタ】で見たアンヌ王妃の横顔を思い出す。


 乞食の真似すら出来る王妃。あのビアンカの憧れだった。ふたりの護衛だけ連れて荒くれたちの中に乗り込み、略奪をやめて自分のために働くよう説得し、そして成功した。【アスタ】を作り、王の迫害を逃れる場所を提供し、戦争を回避するために心を砕いた。


「あの王子が後を継いでくれりゃあ一番穏便だ。同盟も次第に賛同者が増えイェーラ侯爵まで加わった。王妃が乗っかりゃずいぶん進む。つーか遅すぎたくらいだぜ。もうとっくに成人してんのに、なんで今までぐずぐずしてやがったんだ、あの王子様は」


 フィガスタがぶつぶつ言い、舞は重苦しい気持ちになった。エルギンが抱えている事情を、フィガスタは知らない。だから簡単に、もっと早く起てば良かったのにと言えるのだ。


 脳裏にエルギンのひどく哀しい顔が浮かんだ。マイ、とあの時エルギンは言った。


 ――僕は。僕は。

『そろそろ決断しなければならないと思うんだ』


 苦しそうに、呻くように。


『貴女の助けが必要だ。【最後の娘】として起ってくれないか。貴女を巻き込むことになるが、それしか方法が、もう、ない』

『貴女が起ってくれるなら、僕は前に進める。そしてランダールが置いて逝った課題に、いつか答える。約束するよ、マイ』


 ――ランダールの置いていった、課題。


 かの人は、ニーナの最愛の兄は、あまりに重い課題を残して、死んだ。

 誰かに答えられるのだろうか。本当に。


 唇を再び噛んだとき、道が尽きた。闇のままだが空気が変わった。三人は、唐突に、ぽかりと開いた空間の中に立っていた。


「ようこそアナカルシス王宮へ」


 フィガスタが低く、呻くように言った。

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