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勇者は彼をどかしたい

作者: ムラビト

思いつきでかくとこうなる(あきれ)

俺がこの世界に転移して勇者になったのは今から6ヶ月ほど前の話だ。

いじめられっこ、オタク、親なしとどこぞの小説投稿サイトのテンプレのような人生を過ごしていた俺は唐突にこの世界に呼び出されて勇者なるものになった。

そしていままでいじめてきたやつらのいない世界で俺は本当の素の自分をさらけ出し自由気ままに生きていた・・・はずだった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


目の前にいるガタイのいい坊主頭の彼は無言でこちらを見つめてくる。

彼と俺がいるのは中世ヨーロッパのような家並みが並ぶ住居街の路地、大人が2人通ろうとするならば横歩きしなければならないような幅しかない路地である。

そんな路地の半ばほどの位置で170ほどの身長しかない俺は180をゆうに越すであろう彼に見下されるようにして向かい合っている。

お互いに何も口に出さずに向かい合って数分が経過しそうである。


なぜこうなったのか。

魔王討伐パーティーの仲間である魔法使いとのデートへ行く途中だった。

もう迷うこともなくなった俺は少しでも早く着こうと思い近道をしようとして路地に入った。

今思えばあのときには彼の存在が眼にはいっていた。

ほぼ同時に路地へと入った彼と眼が合ったのでよく覚えていた。

しかし俺の思考はそこまでだった。

勇者として名の売れ始めていると自負していた俺の頭には彼が自然と避けてくれるものだと思っていた。

路地を歩いていたころの俺の中にはデートのことでいっぱいだったのだ。

結果として俺は彼との衝突の衝撃で我に帰ることとなった。

唐突なことだったので何かをしゃべろうとしても口から漏れるのは呼吸音だけだった。

そこでよけるそぶりでも見せればよかったのだろうがそんなことですら頭に浮ばなかった。

いじめられっこ時代であればこんな事態に陥る前に逃げ出していたであろう。

しかし勇者として名の売れてしまった俺のちっぽけなプライドがここで激しく主張を始めた。

そしてちっぽけなプライドが足にこびりつき動けなくなった俺は彼と対峙したのだ。


結果として数分のときを向かい合っているのだが、徐々に俺の中にいじめられっこ時代の思考がよみがえりつつあった。

普通の人ならば「すいません」の一言でも言ったよけるのだろう、しかし言おうとすると急に呼吸が苦しくなる、心臓が激しく鼓動し始める手の中がいやな汗でいっぱいになる。

どうしてこんなことに

なんで

むこうからなにかいってくれ

こわい

いたいのはいやだ

いろんな思考がこんがらがって

目の前が真っ暗になった気がした。

それからどれぐらいのときが経ったのだろうか、いつしか俺の思考は僕の思考へと代わっていた。

肩は内側に小さくなり、目線は下に下がっていった。

もう先のことは考えれなくなって過去のことばかりを考えていた。

今思えば俺は前の世界では周りに眼を使うばかりだった。

自身が周りに合わせることばかり考えていた。

この世界に着てからは自身のことにしか眼が言っていなかった。

周りに合わせてもらうことを当たり前のように思っていた。

換わろうとしすぎた結果がコレなのかもしれない、そう思ったらとたんに呼吸が楽になった。

どちらかに偏りすぎるようではいけないのだ、これからは周りに眼を向けることも自身を主張することも両立しよう。

そう思い、まずは目の前の彼に謝ろう。

そう思って顔を上げると彼の姿はなかった。

上を見上げると満天の星空があった。


「なんじゃぁぁぁっぁぁこれはぁぁぁぁぁ!!」


デートに遅刻した俺は結果として顔面が3倍に膨らむことになりました。





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