4話 ルトの食欲
「『暴食』の特性なのか、グルトニースライムって種族の特徴なのかはわからないけど、本当にすごい食欲だな」
俺が知っているスライムはこんなに食欲旺盛じゃないし、消化能力も高くない。
やはり、見た目はスライムでも明らかにルトは別種だ。
「そしてステータスの吸収。これも間違いない、か」
ワンドに表示されたルトのステータスは、昼にご飯をあげたときよりもさらに上昇している。
上昇の幅は少ないが、食べることでステータスが上昇する生物なんて聞いたことがない。
「もしかしたら、俺相当やばい召喚獣を引き当てたんじゃないか……?」
なんにせよもう少しモンスターを食わせて色々調べてみよう。
ついでにルトのレベルも上げてあげたい。
「フラン、俺この辺でゴブリン狩ってるから」
「わかった、気をつけてね!」
少し離れたところで一方的にゴブリンを蹂躙しているフランに声をかけ、一人で別の獲物を探す。
と、急に少し先の壁が音を立てて蠢き始めた。
「湧き始めか、ついてるな」
ワンドを構えて魔法を用意し、いつでも魔法を打ち出せるように準備をする。
壁はボコボコと不規則に盛り上がり、そしてゴブリンの体を形取っていく。
数秒後、そこには壁から体を抜き出し、新たにダンジョンに生を受けたゴブリンが佇んでいた。
「えい」
だがゴブリンは活動を始めるより速く、俺が用意していた魔法の雷に貫かれる。
ぷすぷすと音を立てて、焦げたゴブリンからは煙が立ち込めていた。
倒れたゴブリンをみて、俺が何か言うよりも速くルトが這い寄っていく。
「いったいどれだけお腹が空いているんだお前は……」
暴食の個性持ちは食費が半端じゃないというフランの言葉も、目の前の光景を見れば納得できる。
当分、ルトの餌やりはダンジョン内でモンスターを食わせることになりそうだ。
「っと、ルト! 危ないからこっちにきなさい!」
ルトがゴブリンを食べていると、ダンジョンの暗がりから別のゴブリンが姿を現した。
自分の同族がスライムに蹂躙されているところを見て、ゴブリンは怒りを露わにしながら近づいていくる。
だがルトは食事に夢中で逃げ出すのに遅れてしまった。
「くそっ、間に合うか!?」
急いで魔法を用意するが、あまりゴブリンに近づかれてしまっては魔法を撃つとルトを巻き込んでしまう。
かといって直接俺が近づいたら自分自身の命すら危なくなる。
なかなかたまらないゲージに憤りを感じながらも、ゴブリンが近づいてくるのをみていることしかできない。
と、そんな俺の目の前で信じられないことが起こった。
ゴブリンがある程度までルトに近づいた瞬間、ルトはその体を触手のように伸ばしてゴブリンへと飛び掛ったのだ。
咄嗟の出来事にゴブリンは対応できず、顔にまとわりつかれてしまう。
引きはがそうともがくが、手で引きはがそうにもするすると指の隙間からルトの体が逃げていき掴むことすらできない。
やがて息が続かなくなったゴブリンはがくりと膝を地面につき、体を痙攣させ始めた。
そうなったらもうゴブリンに抗うすべはない。
ルトに仕留められたゴブリンは今までの二体と同じように消化されていく。
「え、えげつねえ……」
ルトの狩りを見届けた俺の口からは、ついついそんな言葉が出てしまう。
あれを自分がやられたらと思うとぞっとする。
用意していた魔法を解除して、仕留めたばかりの獲物を食べているルトの所まで近づく。
さっきのを見る限りゴブリンくらいは自分でどうにかできそうだが、食事中はなるべく近くにいてあげた方がいいのは間違いない。
「にしてもあのレベル、あのステータスでゴブリンを仕留められるのか。……まぁたしかに今の戦法だとステータスもクソもないけど」
飛びかかって窒息させるというシンプルな戦い方だ。
スライムという種族の特性を生かしているから力もいらない。
俺の中のスライムはゴムボールみたいなのが体当たりしてくるイメージしかなかったが、好戦的なスライムってのは案外恐ろしい敵なのかもしれない。
「っていうか、なんでいきなりそんな俊敏になったんだ?」
学園にいる間はぷるぷると震えている事しかしていなかったのに、今のルトは結構活発に這い回るし、ゴブリン相手に攻撃だってかますほどだ。
「まさかあれか、さっきまではお腹が空いてて動けなかったとかそういうことか」
3体目のゴブリンを骨まで食べつくしたルトは、俺のつぶやきを肯定するように足元でぽよんぽよんと跳ねる。
どうやらそういうことらしい。
「ルトは実はすっごい大物なのかもしれないな……」
次の獲物を探しに行こうとでも言ってるように、無邪気に俺の周りを跳ね回るルトを見て、知らず知らずとそんなつぶやきが漏れていた。