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1話 出会い

 厳かな雰囲気がただよう大聖堂に、我らが魔法使い科の生徒は緊張した面持ちで佇んでいた。

今日は魔法使いにとっての一大イベント、自らの格を決めるとまで言われる召喚獣の召喚儀式だ。

何を呼び出せるかによって今後の将来にも大きな影響がでる、ある意味人生の転換ともいえる行事。

俺も皆と同じように額に汗を浮かべながら、期待と不安が入り混じった感情を抑えつつ自分の順が来るのを待っていた。


「次、ユウ・リーグベルト。前に出なさい」

「は、はい!」


 ついに名前を呼ばれ、緊張からか上ずった声で先生の声に返事をする。


「魔法陣の真ん中にワンドを起おいて」


 言われた通り俺の魔法端末、通称ワンドを床に刻まれた魔法陣の上に置く。

手のひらに収まるサイズの、板のような形をしたワンドには、画面と呼ばれる透明な部位がはめ込まれている。

魔法陣に光が走ると、画面にも床に刻まれているものと同じ陣が浮かび上がってきた。


「よし、準備は整った。さぁ用意はいいか、リーグベルト君」


 先生の言葉に頷いて、俺はもう一歩前に出る。

 そして端末に手をかざし、万感を込めて叫んだ。


「サモン!」


 叫ぶと同時に魔法陣は一層強く光り輝き、視界を真っ白に染め上げる。

そして、光が収まった後、そこにはついに待望の召喚獣が……!


「……え?」


 どんな召喚獣が喚ばれたのかと期待を込めて見た視線の先、魔法陣の上にはぷるぷると震えているだけのゼリー状の塊が鎮座していた。

目の前の存在を理解できない俺は、助けを求めるように立ち会いの先生の顔を見る。

しかし先生はきまずそうな顔をして視線をそらしてしまう。

今度は後ろを振り返り、一部始終を見守っていた魔法使い科の仲間たちの方を見るが、同じように視線をそらされた。


「……次の召喚があるから、君の召喚獣を連れてはやく陣からでるように」

「やっぱりこれ俺の召喚獣なんですか!?」


 バカな、この生き物かどうかも怪しい物体が俺の召喚獣……?

竜とか不死鳥とか、そういうのを求めていたわけではない。

いや、そりゃちょっとは期待していたけど、そんなものを喚べるとは端から思っていなかった。

 

 それにしても、それにしてもだ。

 

 生き物かどうかも怪しいものを喚び出すなんて誰が想像できただろうか。

放心している俺は召喚獣ごと先生に陣からひきずりだされ、邪魔にならない位置に捨て置かれる。

その一連の流れを見た魔法使い科のみんなの憐れみに満ちた視線が心苦しい。


「……いや、もしかしたらすごい力を秘めたやつなのかもしれない! 見た目で判断するのはよくないよな!」


 現実逃避気味に自分にそう言い聞かせ、俺はワンドに記された召喚獣のデータをみた。

ワンドは便利な道具で、魔法の補助はもちろん、喚びだした召喚獣の育成や管理も行ってくれる。


ーーーーーーーーーーーーーーー

  種族名 グルトニースライム

  名前 なし 

  Lv:1

  HP : 10

MP : 1

  STR:1

  INT : 1

DEX : 1

VIT : 1

AGL : 1

MND : 1


  所持スキル : なし

  特性 : 暴食         

ーーーーーーーーーーーーーーー



「なにこれよわ……」


 ステータスを見て思わずそんなつぶやきが漏れてしまった。

考えるまでもない、弱すぎて話にならない。

なんなんだろうこの物体は。

どうやらというかやっぱりというかスライムらしいが、ダンジョン周辺に生息してる雑魚スライムでさえもう少しまともなステータスをしているんじゃないだろうか。

体力以外のステータス全部1ってなんなんだ。


「……これはひどいね」


 呆然とワンドを眺めていると、急に後ろから声をかけられる。

壊れた機械のようにぎこちなく振り返ると、これでもかというくらい同情を込めた眼差しでこっちを見てくる一人の少女と目があった。

 彼女は魔法使い科随一の優等生にして俺の悪友、フランことフランチェスカだ。

俺より先に召喚を終えていたフランの肩には、彼女の髪と同じ燃えるような赤い体の立派な鳥がとまっている。


「フランノショウカンジュウハツヨソウダネ」

「君は精神が大丈夫じゃなさそうだね」


 少し休むといいよと優しい言葉をかけてくれるフランの言葉に涙が流れそうだ。

 

「それにしてもグルトニースライムなんて聞いたことないなぁ、随分珍しいのを喚んだね」


 博識な彼女ですら知らないということは、希少な召喚獣という事は間違いないだろう。

というか、なんでこんなステータスでまだ絶滅してないのかが不思議でならない。


「希少なのは嬉しいけどさ、置物くらいにしかならないぜこれ……」


 目も口もないため、意思疎通すらできないゼリーの塊を眺めつつ、つんつんと体をつつきながらつぶやく。

触るたびにちょっと強く震えるのが少しかわいい。


「も、もしかしたら大器晩成型なのかも? 極端に低いステータスはすごい潜在能力を秘めてる証だよきっと!」

「ソウダトイイネ」


 精一杯フォローしてくれるフランに感情の篭らない言葉をなげかける。

さすがに俺もこの状況を前にそんな期待を持てる程楽観的じゃなかった。


「それにほら、特性もってるじゃないか。ちょっと見せてよ。えぇと、暴……しょ……く?」

「どうした!? まさか本当にすごい特性だったりするのか?」


 特性を見て固まったフランをみて、俺は縋るように問いただす。

だがそんな俺とは反対的に、フランは真剣な目で俺に向き合い、ポンと手を肩に置いた。


「いいかい、暴食は確かに希少な特性だ。私も正確にこの特性を知っているわけじゃない。だから、私が知っていることだけを話すよ」


 珍しいフランの真剣な眼差しに、ごくりと唾を飲み込んで頷く。


「暴食を特性にもつ召喚獣は、その名の通りとにかく食い意地が張っている。なんでも食べるし、すぐにお腹が空く。そしてこの特性を持つ召喚獣の特徴は、とんでもなく食費がかかることだ」


 無慈悲なフランの宣告に、この召喚獣の特性を理解した俺は今度こそやりきれなくなって冷たい床にむかって自分の体を投げ出した。


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