1日遅れのバレンタイン
バレンタインの朝。
学校に行く前にコンビニによってチ○ルチョコを買う。
これは幼馴染のアイツに渡すためのものだ。
いつからだっただろうか?
アイツにこうやって義理にもならないような小さなチョコを渡すようになったのは。
アイツは多分チョコが大好きなのだろう。
こんなチョコでもアイツは大喜びする。
えっ、もしかしてこれが貰えた唯一のチョコですか!?ってくらいの喜び方だ。
毎年その姿を見るたびに、涙が出そうになる。
同情かって?まさか。笑いすぎてに決まってる。
でもまぁ、それくらい大げさに喜ぶのだ。
だから、止めるのもなんだか申し訳なくてずっと渡し続けている。
可哀想なアイツに、今年も慈悲を与えようではないか。
──自分の気持ちには気づかないふりをして。
✽
昼休み、購買に行こうとするアイツにばったりと出会った。
ちょうどいい、今チョコを渡そう。
「ねえ!」
「ん?どうした?」
「今日バレンタインでしょ。ほら、これあげるわよ」
「うわっ、サンキュー!マジ嬉しい!うわー、どしよ。食べるのもったいないわ」
そう言いながらもアイツは私が渡したチョコをその場で食べだした。満面の笑みで。
渡せばその場ですぐに食べだすのも昔からのお決まりだ。
私はニッコニコしがらなチョコを食べてるアイツをちょっと呆れつつ眺めた。そんなにチョコが貴重なのか。
でもなぁ、と私は思う。
だってアイツは本当は。
チョコ、貰えないわけではないのに。
なんでそんなに嬉しそうに食べるの。
──期待させるようなことしないでよ。
✽
そんな私達のやり取りを見ていたアイツの友達が、アイツがチョコを食べ始めた時点でギョッとして近寄ってきた。
「おい!おまっ、何食ってんだよ!」
「何って、チョコ」
「お前、チョコ、吐くほど嫌いだろ!?匂いでも死にそうになってたじゃねーか!」
……はい?
え、ちょっとちょっと、どういうこと?
慌ててアイツの友達に詰め寄る。
「どういうこと?」
「え?あ、ああ、こいつな、昔チョコ貰いすぎてそれを食い過ぎて気持ち悪くなって吐いたことあるらしいんだ。それでその時からチョコが大嫌いになって、チョコが全く食えなくなったんだ。匂いを嗅ぐのもダメらしい」
私は呆然としてアイツを見上げる。
アイツは気まずそうに顔をそらしている。
昔からアイツは、私があげたチョコを嬉しそうに食べる。
チョコが嫌いとか、そんな素振りをしたことは一切ない。
でももし本当にチョコが嫌いなら。
──なんで私があげたチョコは食べるの?
──なんで嫌いなのにあんなに嬉しそうにするの?
──なんで嫌だって言わないの?
疑問が次々と浮かんでくる。
だがアイツの友達は混乱する私に構うことなく、ペラペラとアイツのチョコ嫌いについて話す。
「まあそんなわけで、こいつはチョコはひと口も食えないから、毎年こいつが貰うチョコは俺達が有りがたく頂いてたりする。目の前で食うだけでもこいつ涙目になるからこれは相当だぜ。でも君から貰ったのは──」
「お前もういいからどっか行け!」
友達の最後の疑問の言葉はアイツによって遮られてしまった。
でもアイツの顔が真っ赤になっているのを見て、その友達は何かわかったのか、ニヤニヤしながら「ごめんごめん」と言って去っていった。
彼が最後に言いかけた言葉はおそらく、「君から貰ったチョコは食べたのはなぜだ?」だろう。
私の頭に自意識過剰な考えが浮かぶ。
と同時に、むず痒くて思わず叫んで走りだしてしまいたくなるような衝動に駆られる。
いや、ダメだ。早とちりしてはいけない。
勘違いだったら私は大ダメージをくらってしまう。
私は未だ真っ赤な顔でそっぽを向き続けてるアイツをもう一度見上げた。
「ね、ねえ」
「……なんだよ」
「チョコ、嫌いだったの?」
「……うん」
アイツが私にチラリと視線を向けた。
「どうして今まで言わなかったのよ」
「だって……」
「ん?」
「……言ったらお前、もうチョコくれなくなるだろ」
私は自分の顔に熱が集まるのをはっきりと感じた。
「……欲しかったの?」
「……悪いかよ」
お互い真っ赤な顔で見つめ合う。
私はちょっと考えてから口を開いた。
「ねえ、クッキーなら食べれる?」
「え?まあ、それは大丈夫だけど?」
「なら明日クッキー作ってもってくる。……こんなのじゃなくて、もっとちゃんとしたのを……」
「っ!」
幼い頃からずっと一緒だったアイツなら、全てを言うまでもなく私の言いたいことを理解してくれるだろう。
私はアイツを見つめて微笑んだ。
「……受け取ってくれる?」
──私のこの気持ちごと。
「……おう」
アイツはそう言って照れくさそうに笑った。
好きな子からのチョコ欲しさに、嫌いなのに頑張って食べる男の子が書きたかったのです。
読んでいただきありがとうございました。