表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 納豆週三回

僕は会社のこの席が気に入っている。

何故ならここからだと低い仕切りの向こうに

社歴では1年上で年齢では2歳下の

海外営業支援担当の犬養カレンさんの姿を

たまに視界に入れることが出来るからだ。

名前の通り、見れば見るほど可憐な女性で

どれだけ僕は癒されてきたことか。


でもそんな魅力的なカレンさんなのに

これまでオトコと付き合っている、

というような噂を聞いたことがない。


もしかすると僕にもチャンスがある?


思い切って食事に誘ってみた。


「お台場に新しいラトビア料理のお店が

出来たらしいから今度行ってみようよ」

「え...タナカさん...

なんで私がバルト三国の内、

エストニアとリトアニアが嫌いで

ラトビアが好きでたまらないことを知ってたの?」

「だって、僕はカレンさんのこと...

いや、じゃあ、今度の木曜日、

午後7時にゆりかもめの新橋駅ね」


今度の木曜日

「ラトビア料理、美味しかったね」

「うん、白ロシアとドイツの影響が色濃かったわ」

「じゃあ、今日はもう遅いから送っていくよ」

「...タナカさん...今夜は帰りたくない...」


「え...」

こ、これは...予想だにしない急展開...!

あの、憧れの、カレンさんを、この腕の中に...?

...僕の頭の中で妄想モーターが高速回転し始めた。


「一緒に、こっちに来て...ピーィ!」

「...ん?ピーィ?...笛?」

ワオーン!ワオーン!ワンワンワンワン!!


「こ、これは...?!」

「野犬よ」

「ええ?確か1981年にこのお台場の埋め立て地で

東京最後の野犬『有明フェリータ』が駆除されて

絶滅している筈では...?」

「そう、公式には毒団子を食べて息絶えたことに

なっているわ。

でも実は『有明フェリータ』は双子だったの。

もう一匹は私の家で匿っていて...この子はその末裔で

家にあと100匹います。合わせて101匹野犬大集合です」


「えーと、この予想外且つ衝撃的な

展開はなんでしょうか?!」

「タナカさん、私の事、どう思ってます?」

「はいい?!え、ええ?...もう、はい、す、好きです!」

「タナカさん、実は私もタナカさんのことが

気になってました。

だから、こうして今日、野犬、連れて来ました」


僕は事態が把握出来ないままで立ちすくんでいた。


「私の家では代々、野犬を保護飼育しています。

だから、私とお付き合いする男の方は

野犬を自由に操れるような人 じゃないと...ダメなの」

「...なんで、野犬を保護飼育しているの...?」

「だって、犬だって自然のまま、

がいいに決まっているじゃない。

私の家は徳川綱吉の時代から代々動物保護が家訓なの」

「じゃあ、もしかしてあの会社のデスクに飾っている

白髪のガイジン写真は」

「勿論、シーシェパードのポールワトソンよ。

...それはともかく、そういったことから私はこれまで

好きになってくれた、好きになった男性には

『犬も歩けば棒に当たる』が如く、

これまで例外なくこの「適正テスト」を受けて

もらっているの。さあ、GO!」


ワンワンワンワンワン!!!


「...悪く思わないでね...これが私の『婚活』なの...!」

「うわわわわ!!」ガウガウ!!

「いたたたた!!噛ま、噛まれてる!!」

「安心して。狂犬病の予防注射は済んでるわ」

「いやいやいやいや......痛い痛い!

止めさせて止めさせて!!」

「止めさせない!私は貴方に本気なの...本気だから、

例え貴方と今後『犬猿の仲』になったとしても...

わかってる、『犬一代に狸一匹』って...

でも私にとってこの恋は遊びじゃないの。

だからオカシイと思うかも知れないけど私にとって、

これが『犬が西向きゃ尾は東』なの...」


ガウガウガウガウ...


「わわわ!えーと、えーと...

ほ、ほらね、怖くない。お、怯えていたんだよね...」


ガルルル...ルル...


「あ、収まった...

さすが...ナウシカ、ありがとう...」


ランランララランランランランランラララン


「その者、青き衣をまといて金色の野に降り立つべし

...タナカさん!!貴方、貴方、選ばれし者!!」

「...カレンさん、

ちょっと今噛まれながら気付いたんですけどね。

この野犬ってカレンさん家で保護飼育しているん

ですよね?」

「はい...」

「えーと。

じゃあ、もう、生まれ落ちてから一度も

人の手に触れていない純粋に野生育ちの犬である

『野犬』ではなく、...え~と...『ペット』

...ですよね??」

「...は!!」

「でもいいんです。

どうもみんな、なんでもかんでも

自然のままがなんでもいい、って

『パブロフの犬』のように思ってしまいがちなんですが、

全てがコントロールされたこの大都会東京において、

野犬である、ということは果たして幸せであるのか、

というと間違いなくそれはNOだと思うから...」

「タナカさん...!」

「カレンさん、僕は『フランダースの犬』のように

キミと人生を添い遂げたい...!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ