第47話「狂気」
星歴999年9月9日、一行はカボス平原とスダチ広野の狭間に位置するバスタルド大深林にいた。
大体カーサスのせいで迷子になっていると遺跡を見付け一夜を明かすことに。
ところがかつて戦ったゲスチオンヌの女性シルヴィアンヌがベンジリアという寄生生物軍団を率いてやってきた。
本来ならば不死身の不老不死の一行に寄生は不可能だがシルヴィアンヌは改良に改良を重ね、新たなベンジリアを生み出したのだった……。
「クソッ、起きたてほやほやになにしやがる!」
目が覚めきっていないカーサスはカンカンだ。そんなことは構わずベンジリアは襲い掛かる。
ところ構わず銃を乱射するカーサス。その内の1発が頭部に命中する。
「やったぞ!」
だが敵は額から流血しながら怯むことなく突撃してくる。
ヴィクトリアは膝を曲げてしゃがむと敵の足を払う。
「こうやるんだ!」
腹部目掛けて剣を突き刺す。
断末魔と共にベンジリアは生き絶えた。
「弱点は腹だ。腹にいる寄生虫本体を殺すんだ!」
「分かった!」
3人は手分けして敵を殲滅し始める。
ワトソンは小型の粘着爆弾を腹部に張り付け敵を爆散させる。
リンは敵を封じ込める魔法を展開し、無数の針を浴びせ蜂の巣にする。
カーサスは散弾銃を駆使し、逃亡を図る親玉のシルヴィアンヌを追うヴィクトリアの後に続く。
「逃がさない、絶対に」
しかし追えば追うほど敵の数が多くなり、気付けば囲まれてしまった。
「クソッ」
「どーすんだよぉ……」
八方塞がり、狼狽えるカーサス。せめて出口まで辿り着けば勝機はあったかもしれない。
「ヴィクトリア!」
背後からリンとワトソンが敵を押し退け駆け付けた。
お互いベンジリアの体液や寄生された側の生物の、言わば血や肉、臓物がこびりついていた。
「これじゃキリが無いよ」
疲労を見せるリン。顔や腕に擦り傷や切り傷が付いていた。
「ギュエーシィッ」
総攻撃を仕掛けるベンジリア、だったのだが眩い光が4人を包み込むと跡形もなく消え去る。
ヴィクトリアが転移魔法を唱えたのだ。これにより4人は遺跡の屋上部分へ脱出することに成功する。
しかしまだ終わったわけではない。ベンジリアを1匹残らず殲滅しなければならない。
もし1匹でも残せばアークは、いや宇宙全体がベンジリアの手に落ちてゲスチオンヌが世界を征服してしまうのだ。
「空を見て!」
リンの言葉に皆は夜空を見上げる。そこには星はなく黒い物体が浮かんでいた。
「なんだ……」
「あれは……」
男ふたり、口を揃えて言う。ヴィクトリアはそれが何か知っていた。
「あれはシルヴィアンヌの乗艦だろう」
ゲスチオンヌに現在数隻しかない空中浮遊型のバトルクルーザーだ。
下部の連装主砲を用いて非協力的な町を幾つも焦土化した実績のある艦でもあった。
「マザー・ヴィクトリーヌ。私の母の名を冠した艦で貴様らを葬ってやろう」
眼下にシルヴィアンヌが夜風に吹かれ語っていた。その眼差しは一見すると淋しく思えたが、直ぐに怒りと憎しみに変わる。
「さらばだ」
群れるベンジリアに消えるシルヴィアンヌ。ヴィクトリアは追い掛けようとするも砲口が唸る。
敵艦の攻撃が始まったのだ。
命中精度は悪かったが周囲の遺跡に被害が出る。味方か囮か、ベンジリアにも損害が出ていた。
「あたしが防ぐ」
翼を生やし颯爽と飛び出すリン。華奢な身体ひとつで敵の砲撃を魔法障壁があるとはいえ、それを防ぐ。
「助かる。今の内にベンジリアを」
障壁を展開したところで敵艦の砲撃は苛烈。物理で押し返しを図ろうとしていた。
「長くは持たない……」
魔法力にも限界がある。いくら4人の中でヴィクトリアに次ぐ魔法力の持ち主とはいえ圧倒的な火力を前にも限度があった。
「早く終わらそう」
そうは言うものの、ベンジリアはうじゃうじゃと集まる。そこでワトソンが何かを思い付いた。
「毒を以て毒を制す」
砲撃を利用してベンジリアを倒そうとした。
今砲撃はリン集中して狙っている。ならばリンの近くにベンジリアを誘い込み一挙に殲滅しようと考えた。
彼女だけでなくヴィクトリア、ワトソンも障壁を展開してひとり当たりの工数を減らそうとした。
「よし、それで行ってみよう」
だがひとつ問題があり、一切の魔法を使えないカーサスがお荷物状態であった。
「俺、どーすりゃ良いんじゃ」
「お前はあそこにでも行って、籠城するなりしてひとりで耐えてろ」
指差す先は一番高い遺跡。ご自慢の狙撃力を試す絶好の場所だ。砲撃から狙われてしまえばお仕舞いであるが。
「敵艦の良い的やん!」
「つべこべ言わずにさっさと行けぇ!」
ぶちギレるヴィクトリア。危なくなったら護るとはいえ心配だ。
ぶつくさ文句を呟きつつ遺跡から離れようとした時だ。
乾いた音が周囲を貫いた。それはピストルの音のようだ。
「くはっ……」
カーサスの愛銃からではない。何処からともなく現れた銃弾に遭う少女リン。
脇腹を撃たれ患部はみるみる内に血に染まる。だが障壁は展開し続けた。
「くっ……」
辺りを見回すヴィクトリア。すると数体のベンジリア重火器を持っていた。
そうだ。ベンジリアは何も手ぶらで襲ってくるものではない。魔法こそ使えないが人間の兵器を自在に操り、襲ってくるのだ。
「リン! 一旦――」
「ダメ、ここで動いたら……やられる」
地上から対空射撃のような弾幕が少女を襲う。居いても立っても居られずに純白の翼と尾を出現させるとヴィクトリアは空に向かって羽ばたいた。
「リンを護る!」
少女のために今度は背後に魔法障壁を展開した。だがこれでは作戦が実行できなくなる他、ワトソンとカーサスが危険に晒される。
「僕たちは構わない。だろ、カーサス」
「ズルいけどしゃあねえよ」
障壁に護られている間、敵の砲撃には遭わない。その間にベンジリアの殲滅を急いだ。
腹部を狙い撃ち、一匹一匹確実に始末する。
「はぁ……はぁ……」
ふらふらする少女。出血の勢いは止まらない。ヴィクトリアが片手で障壁を、もう片手で治癒魔法を試みる。
「無理しなくて良いよ……」
気に掛けるリン。だが誰も失いたくはない青年は力の限り実行する。
その時だ。林の奥から巨大な大男が現れた。体長はゆうに25メートルは越えている。
「ジャイアント族までも寄生したか」
大男はふたり目掛けて走り跳躍により掴み取ろうとした。
「ワトソン、ごめん」
魔法障壁の展開を中止しリンを掴んでその場から撤退する。
「砲撃が来るぞー」
カーサスの言葉通りに火の雨が降り注ぐ。辺り一帯壊滅的な被害が出る。
瓦礫の中、彼らは砲撃から耐え大小様々なベンジリアと対峙することとなる。
「はぁはぁ……くっそ……」
疲れが出るヴィクトリア。倒しても倒しても雲霞の如く現れる敵に勝ち目など無かった。アークを吹き飛ばす以外は。
「大丈夫か!」
ふたりの着地地点にワトソンらが駆け付ける。だがそれは敵にとって千載一遇のチャンスだ。
ベンジリアと敵艦の砲撃が集中するだろう。
「もしかしたら――」
「ヴィクトリア?」
「――ここがボクたちの墓場になるかもね」
彼女らしからぬ発言。しかし誰の反論も無かった。ただ最後の最後まで足掻こうと皆思ったのは間違いない。
「行くよ」
それを最後に皆は敵を迎え撃つ。
天より降りし敵弾にはカーサスのマシンガンで。無数のベンジリアにはワトソンの全体攻撃魔法で。
ヴィクトリアはジャイアントベンジリアを相手に戦う。
リンは皆の支援に周り、特にカーサスのマシンガンの銃弾に魔法を掛け攻撃力を増大させる。
一行はたった4人で大群と立ち向かうが負傷したリンにベンジリアは一番先に狙いを定めた。
「リン!」
よそ見をしたヴィクトリアの腹部にジャイアントの殴打が決まる。
吹き飛ばされ大木に背中を打ち付け暫し息が出来なかった。
「けほっかはっ……」
薄れる意識の中で仲間が次々に倒れるところを目撃して彼女は呟いた。
「ボクのせいで、みんなが死ぬ」
ジャイアントが立ち尽くす。だが倒れ込む青年の前に少女が立っていた。
「リン!?」
「ヴィクトリアはあたしが護る! それが下僕の務めだから」
右腕が無かった。腕をもぎ取られ最早彼女を護るという固い意思で動いていた。
脇腹を押さえて立ち上がるヴィクトリア。しかし鉞を担いだベンジリアに首を跳ねられ絶命するリン。
頭部は草地を転がりジャイアントの足元に。ゆっくり前進するとぺしゃんこに踏み潰されてしまった。
リンの身体は夥しい血液を吹き出しながら暴れていた。激しく鼓動した心臓が全身に血を巡らせるためなのだろうか。
「失った者のためにもボクはここで」
○
○
○
雲海を航行する1隻の艦。艦首にはゲスチオンを象徴する旗がはたはたとはためく。
艦首付近には横文字でマザー・ヴィクトリーヌと書かれていた。
その艦のブリッジには椅子に座る女性がいた。シルヴィアンヌのようだ。
表情は愉快さを表している。さぞや嬉しいことがあったのだろう。
そこに白髪混じりで長身の初老と思しき男性が現れる。
「あのような作戦で宜しかったので?」
「良い」
男性の名はエイドリアン・ハイトラ。シルヴィアンヌの側近中の側近だ。
「しかし、少々甘くはありませんでしたかね」
「我輩もそう思うのだわ」
彼らの元に今度は太った黒人の男、ティーラント・ベムンガが現れる。彼はゲスチオンの軍隊を率いる将軍だ。
「我輩の軍隊なら、骨の髄までしゃぶってやるだわっはっはっ」
「ところで今後のご予定は?」
「ベンジリアの研究だ。1日も早く、不死身の不老不死を寄生できるベンジリアを完成せねばな」
○
霧が濃い。バスタルド大森林の霧は低地でも有視界が短いことで知られている。
「うっ……」
朝露が掛かる草地に横たわった青年ヴィクトリアが目覚めた。
「ここは……」
周囲を見渡す。近くにリンとみられる身体が横たわっていた。
「リン、しっかりして!」
踏み潰された筈の頭はある。再生したのか腕もある。それどころか服は血の一滴も付いていない。
「ヴィクトリア? はっ、ベンジリアは!?」
霧が晴れてきた。ふたりの近くにもうふたりの男たちが寝転がる。ワトソンとカーサスだ。
それよりも広がる大地に目を疑った。周囲は草地が広がり、瓦礫の山と化した遺跡もベンジリアの死骸もない。
「やめろ、食うな!」
魘されて目覚めるワトソン。やはりベンジリアと戦っていた夜の記憶はある。
「カーサス、起きて」
リンが起こしてあげる。欠伸をして目を覚ますと彼の前にはヴィクトリアが剣でワトソンの腹を貫く姿が目に飛び込んできた。
「ちょ、お前何を!?」
次にリンの心臓を貫くと下方へ叩き斬る。剣を引き抜くと今度はカーサスのところへ向かう。
「や、やめろーっ!!!」
腹部を貫かれショック死する。その後、ヴィクトリアは皆に向かって謝罪すると自らの腹を裂き、意識が持つ限り体内に手を入れて何かを探る。
「や、はり。あれは……」
最後に激しく拍動する自らの心臓を潰して絶命。
次に気が付いたのは暫く経ってからだ。カーサスを起こすと恐怖で戦き踞る。
「ごめん。ベンジリアがいないか確認したんだ。そんなものはいなかったよ」
つまり昨晩の出来事は夢ということになる。集団で催眠にかかったこととなるのだろうか。
「シルヴィアンヌめ、最高の置き土産を」
だが万が一ベンジリアが暴れでもしたら。
そう思うと腸を抉られるような気持ちでいっぱいだった。
「先を急ごう」
彼らは前に進む。永遠に。
次回は来週の3月28日月曜日の午前8時に更新致します。
最終話まで残り1話!最後までよろしくお願いします!




