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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第46話「異物」

 星歴999年9月9日、一行はカボス平原とスダチ広野の狭間に位置するバスタルド大深林にいた。


 本当ならば迂回ルート、つまり大深林を避けて次の町ユーズへ向かうべきなのだが。いつものように最短ルートで早く着きたいと駄々を捏ねたカーサスのお陰で迷子になってしまっていたのだった……。


「どーすんだよ!」


 毎度お騒がせ致します。バーン・カーサスくんがバスタルド大深林は昼夜共に大変危険なエリアであることをヴィクトリアから聞かされていたにも関わらず、早くホテルのベッドで休みたいと駄々を捏ねた結果、迷子になってしまいましたとさ。


「お前らが俺を止めないからだろ!」

「ふざけるな!」


 ヴィクトリア、リン、そしてワトソンによる同時攻撃でカーサスの頭部にタンコブが3段も出来てしまった。


「いってーな」

「仕方がないだろう。お前が自己中なんだから」


 ワトソンが彼を分析して話すと残りのふたりは頷いている。


「仕方ねぇだろ! こういう性分なんだからよ!」


 自己中心的と認めているようだ。とはいえ周りも彼に従ってこのような結果を招いてしまったことに関して猛省しなければならない。


 何故ならば、こんな結果を何十何百年と繰り返しているのだから。


「俺も反省する。お前らも反省し……」


 アッパー、目潰し、ギロチン刑を食らったのは言うまでもない。


「殺さなくても……良いじゃねぇかよ」

「つい殺意が沸いて」


 笑顔で返すリン。かわいい顔して悪魔のようだ。


「さてと、野宿できる場所を探さないと」

「そうだね」


 ヴィクトリアとワトソンは暗くなりつつある深林を眺めている。夜はすぐそこまで迫ってきていた。


 開けた場所、または水辺の近くを探し歩み続けて3時間。


 漸く開けた場所に出られた。なだらかな平原が続くその場所は大深林の名に相応しくなかった。


「こんな場所もあるんか」

「そんなはずは無いと思うんだけどなあ」


 ヴィクトリアは首を傾げているが、現にそこはなだらかな平原が広がる。


「あれ見て!」


 何かを見付けたようだ。リンが指差す先には何か建造物のようなものが並んでいた。


「なんだありゃ」


 双眼鏡片手にワトソンが確認する。暗くて分かりづらいものの人工物であることは間違いないようだ。


「行ってみよう」


 一行は平原を下り建造物へと近付いた。ブロック状の石を積み上げて出来た遺跡だ。


「こんなとこにあったかなあ」


 頭を悩ますヴィクトリアにカーサスは現に存在しているのだから今日はここで休もうと我先に遺跡内部に足を踏み入れる。


「罠とかあったらどうすんだよ!」

「なんの罠だよ。動物か? 大丈夫だよ。誰もいなさそうだし」


 声が響いて聞こえる。3人は彼の後に続いて奥へと向かう。


 遺跡内部は横に広く奥行きはそれほどなかった。


 入口から反対側の出口に当たる部分から一行が表に出ると信じられない光景が広がっていた。


 大きな通りが遠くまで続き、両側には似たような建造物が犇めきあっている。


「なんかの文明があったのかな」

「そんなの聞いたことない……」


 ヴィクトリアはアークファミリアという神である。彼女にも分からぬ文明が存在していたというのは驚きである。


「バスタルド文明ってやつか」

「神秘的な大深林の中で広がっていたであろう文明はかつての繁栄と栄光をやや残しつつ、冒険者たちを待っていた――的な?」


 そんなことを話しているとカーサスがある建物の前で手招きしている。


「なんだよ」

「ここで寝泊まりしよーぜ」


 他の建物とは少し雰囲気が違った。荘厳で教会か集会所か何かの建物だった。


「腹へった」

「うるさいな、お前は」


 地べたに座り込み次なるアクションを踏むカーサスにワトソンが難色を示す。しかしながら腹の虫が連鎖し顔を赤らめる。


「寝床があるから安心しちゃったんだね」

「携帯糧食なら持ってるよ」


 カバンから取り出すリンにカーサスはまるで犬が尻尾を振って、息も絶え絶えに催促を心待ちしているかのようであった。


「焼きリオーネの缶詰めー」


 高らかにそれを持って誇らしげにしている。肉だ肉だと吠える彼であったが、

「ヤバッ……缶切り忘れた」

 状況が変わると掌を返して少女に罵声を浴びせる酷い男に成り下がる。


「愚にも付かない言葉を言ったら余計に腹が減るぞ」


 缶切りを取り出すワトソンを見て今度は彼になつく。


「馬鹿な奴」


 リン、そしてヴィクトリアまでもが呟き、ため息をも吐く。


 円形の小さな魔法陣に描かれた場所に火が点り焚き火のように明るく照らされる。


 薪を燃やす焚き火と違い有毒な煙を発生させないが予め設定した期限内でしか燃えない。その期限は術者の魔法力によって左右される。


 今回はヴィクトリアが術を使ったため食事をして休む位の時間は使える。精々3時間分というところか。


「飯だ飯だ」


 早く食事にありつこうと目の色変えて缶を開けていく。


「野獣だな」


 呆れる皆を他所にカーサスは我が道を行く。



 食事を終え、床に就く一行。室内は真っ暗だが窓より差し込む月の光は明るい。


 夜空には星々が輝き、そのひとつひとつがヴィクトリアや他のアークファミリアが創ったものであるとは考えられないほどだ。


 だがこの惑星アークをはじめ、衛星のプリズムや周囲をまわる環、宇宙全体に拡がる星は全てアークファミリアが創造した世界なのである。


「もう食べられん……ぐふぐふ」


 ありがちな寝言を言うカーサスには到底考えられない世界を創ったヴィクトリアたち。今も彼らは宇宙を拡げるために日夜活動している。


 それもアークファミリアの責務だ。だがヴィクトリアはアークファミリアに対抗して神の座を乗っ取ろうとする堕落した民族ゲスチオンヌを滅ぼすために旅をしている。


 そうして出来たのがカーサスやワトソン、リンの大切な仲間だ。しかしかつては女子供や老人を含めた武器を持たぬ堕落民族を平気な顔で殺戮していたヴィクトリアだが今まで一緒に付いてきた仲間によって心が揺れてしまった。


 殺戮が本当に正しい道なのか。共存共栄の道は無いのかと。


 同時に敵対して、ヴィクトリアらとも何度も戦ったゲスチオンヌのひとりシルヴィアが亡命紛いの申し出を受ける。


 彼らの中にもアークファミリアとの戦いで心が揺れる者も現れたということだろうか。


 ヴィクトリアはシルヴィアの言葉を信じてみることにしたものの結局、それ以降音沙汰もなく今に至る。


 ゲスチオンヌはセルビアという男が支配している。その子供のひとりがシルヴィアだ。他にも幾人もの子供がいる。


 彼らはアークファミリアと幾度となく対峙して来たが星歴0年よりも前に起こった第2次フレンジ戦争を最後にゲスチオンヌの組織的交戦は無くなった。


 以来シルヴィアや小さな堕落民族の集団が抵抗を続けるに止まり、世界はアークファミリアやゲスチオンヌを神話にとどめ信仰が薄れてしまっている。


 アークファミリアの統治から人類に全権限を移譲した星歴から999年経った今日(こんにち)でヴィクトリアやシルヴィアが神とゲスチオンヌであるということを知る、若しくは信じるものは少数である。


 それでも信仰はアークファミリアに有利で今尚人類と永続的に関わる神もいる。自らが神と証明するためには語り継ぐことは勿論、証が必要だ。


 神にはひとりひとり証を持っている。それは体の一部分に刻まれている。


 ヴィクトリアは右目に刻まれているため普段は黒色の眼帯で目を隠している。無論視力は存在する。


 もうひとつは魔法陣である。神の証は神ですら複製出来ないもの。


 魔法陣はひとりひとりが固有のものを使うため同じものが例外を除いて存在しない。それが証明する大切な証拠である。


 話は戻り、素敵な夜空の下に何か得体の知れない物体が蠢いていた。


 一行はまだ気付いてない。


 その得体の知れない物体は遺跡を取り囲むように陣を敷く。


 まるで誰かに支配されているかのように。


「っ!?」


 異変を察知したのかヴィクトリアとリンが飛び起きる。


 ふたりの心臓は早鐘の如く鳴り響いていた。


「何か来る……」

「うん。何か……おなかを抉られるような、そんな気持ち」


 少女の言葉にヴィクトリアはあることを思う。


「まさか……ね」


 すると寝泊まりする遺跡の入口から歩く音が聴こえてきた。


「誰か来る」

「ワトソン、バカーサス、起きて」


 ワトソンは真っ先に起きるも馬鹿は寝言をほざいて起きることはなかった。


「近付いてくる」


 視界を得るため室内に明かりを灯す魔法を掛ける。暗闇から昼間のような明るさが広がり、近付いてきた何者かの姿が晒される。


「お前は……」

「知ってるの?」


 長身で腰まで掛かる銀色のストレートヘアに鮮血が瞳に振りかかったような色をした両目を持つ女性がそこにいた。


「シルヴィアンヌ……」


 声をやや震わすヴィクトリア。それに続いてふたりは聞き返す。


「シルヴィアンヌって知り合い?」

「ゲスチオンヌの、セルビアの娘だ」


 つまりは敵である。それを聞いたふたりは武器を瞬時に取り出し臨戦態勢を取った。


「久方ぶりだな、ボクの前に姿を現すのは」

「ふふっ、そうね。かれこれ1万年以上ぶりね」


 長生きなふたり。お互い昔から知っているようだ。


「何してたんだ。何しに来たんだ」

「質問攻めは覚悟の上だけれど、久し振りにご挨拶をしにやって来ただけってことは伝えておくわ」


 それだけで終わらないことはヴィクトリアが一番良く知っている。腰に携える剣をいつでも抜く覚悟は出来ていた。


「それだけじゃないよね。わざわざボクに逢いに来たんだ。殺されに来たのかな?」

「血の気の多いこと」


 シルヴィアンヌはゲスチオンヌでもセルビアに次ぐ残虐非道、冷酷無比な女である。氷のような心臓を持ち、信用する者はごく一部の部下と家族だけだ。


「お土産を持ってきたのよ。喜んでくれるかしら」


 両手を高らかに広げると彼女の背後から幾人もの男たちが現れた。


 一見するとただの雇われ兵士に見えるがシルヴィアンヌは男の腹部を切り裂くと中からスイカ大の節足動物が現れた。


「っ……ベンジリア」


 ベンジリアとは寄生生物である。


 複数の足を持ち長い触角と甲殻を持った節足動物のような見た目の寄生生物だ。


 生物の腹を食い破り触角を神経に当て、その生物の体を乗っ取る他に知能や体力を向上させる。会話もできる他に服を切れば日常に溶け込むことも可能だ。


 食い破った腹も自己再生機能で修復が可能。一見するとただの人間だが実は寄生された生物であることが稀にある。


 因みに寄生された側の生物は寄生された時点で死ぬ。即ちベンジリアは魔法を使うことが出来ない。


 持ち前の知力と体力で物理力を使って敵を圧倒する脳筋思考と思って相違ない。


 ベンジリアはかつてアークファミリアが誕生する前の時代に悪魔リバークス・オイリクロプが作った生物で人類を強制的に支配させ神メイスリースィミクを倒そうとした。


 しかしメイスリースィミクは宇宙を終局させ、次世代の言わばアークファミリアに未来を託した。しかしゲスチオンヌが誕生しベンジリアを復活させ今に至っているのだ。


「大丈夫、ボクたちに害は無い。ボクたちだけには、ね」


 ベンジリアは不死身や不老不死者に対して寄生は出来ない。しかし薄気味悪い笑みを浮かべるシルヴィアンヌに気付くヴィクトリア。


「まさか……」

「そうよ。改良に改良を加えて、遂に完成したアークファミリアをも支配する力。さぁ、終わりよ。お前たちの時代は!」


 攻撃を開始させる。一斉に飛び掛かるベンジリア。リンはカーサスを叩き起こして一行は交戦に入る。


「さようなら。旧時代のアークファミリア様」

「シルヴィアンヌ!!!」

 次回は3月22日(火)午前8時に更新致します。

 最終話まであと2話。残り少ないですが、宜しくお願い致します!

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