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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第45話「門出」

 星歴911年5月14日、兄ウェーンライトに悩みを相談し解決したヴィクトリアは毎日を充実した休養として過ごしていった。


 気が付けば期限であった9月も通り越し、11月に突入していた。


 ヴィクトリアもウェーンライトもすっかり近所に溶け込んでいた。


 このまま時を過ごしてしまうかのように……。


「――って、これじゃあ前に進めなくなっちゃう」

「俺は良いと思うけどな。のんびりしてて気楽で良いし」


 半年もダニーの亡くなった妻ハンナの部屋を借りて申し訳ないものかと問う。


「爺さんの厚意を無駄にしろと?」

「ボクたちだから言えないとか」

「あの爺さんが、まさか」


 神に楯突く老人。しかしながらダニーならやりかねないことは彼でも分かっていた。


「でもよ、何も言ってこないし良いんじゃね」

「それもそうだけど、ボクたちの杖とかはどうなったんだろ」

「さぁな。マミに関しちゃ、一生懸命毎日試行錯誤してるように見えたぜ」


 ベッドに寝転がり背伸びをしてそう言った。お馴染み、ロッキングチェアを揺らしながら、

「暖かい住まいや家族、食事に有意義な時間。確かに至れり尽くせりだけど、このままここでじっとしてるのも……」

 あの時、あの酒場でシルヴィアと出逢いお願いされた言葉を思い出す。


 決意はした。それを実行せねばならない。だが上手く行くか、分からない。


「また考えことか。言ったろ、お前ならやれるって。それに……」

「――当たって砕けろ、でしょ」

「うむ。そのとーり!」


 上体を起こして指を差す。そして再び寝転び、今度は欠伸をする。


「28時か……眠い時間帯だな」

「俺寝る」


 暫くするとグースカピースカ鼾をかいて眠る。


 ヴィクトリアはそっと部屋から出るとマミの部屋の前にやって来ていた。


「マミ、いる?」


 ノックを3回し呼び掛けるが応答が無く、もう一度やってみる。


「いないのかな」


 ノブを掴みドアを開ける。勝手に部屋へ入ろうとしているのだ。


「マミー、いるかい?」


 少し開いて隙間から顔を覗かせる。室内には誰もおらず、太陽が射し込むだけだ。


 その日差しに照らされて、テーブルの上にふたつの箱が置いてある。


 完全にドアを開き、部屋の中へ入ってしまう。


 そのままテーブル上に置いてある箱を持ってみる。


「これは……」

「ヴィクトリアさん」


 マミの声が入口から聞こえる。ナイスタイミングだ。


「見ちゃった?」

「うん、見ちゃった」


 ホラーやサスペンス系の物語ならば、ここでマミがナイフを持って殺しに掛かるがそうではない。


「これ、ボクたちの杖だよね?」


 箱はふたり分あり、それぞれの箱の上面に名前と整理番号が書かれていた。


「完成していたんだね。いつかな?」


 質問するが返答は無く、ただただ下を俯いているばかり。


「その様子じゃ、大分前からなようだね」

「ごめんなさい。悪気は無くって」


 しかし現に出来上がっている。では一体どんな理由があるのだろうか。


「ボクとウェーンライトの分。貰っていっても良いよね」


 するとマミは彼女の背中に抱き付いた。驚くヴィクトリア。


「どうしたの急に」

「いやだ。それ、渡したら行っちゃう……」


 そうか。だから渡したくなかったのか。


 杖や魔法道具が完成し、商品を手渡してしまえばふたりはこの場を去ってしまう。


 ふたりは不老不死でアークファミリアだ。もう二度と逢えなくなるかもしれない。


 きっとそれが嫌だったのだろう。


「行かないで」

「でもそれだとあなたが辛くなるし、ためにもならないよ」

「何のため?」


 背中に抱き付き胴に回っていた手を引き離す。


 振り向くとマミと顔を合わせ両肩に手を置いた。


「あなたはこれからたくさんの人々と家族に出逢う。ダニーさんやカイルさんたちの手助けをするんでしょ?」


 小さく頷くマミ。表情は悲しいままだ。


「これからあなたがみんなの必要になる。ボクは邪魔なだけだよ」

「邪魔じゃないよ」

「ボクは姿形が変わらない。あなたがどう思っていても周りがどう思うか」


 不気味がるかもしれない。彼女が気にしなくてもポールや、これから生まれるであろう新しい家族に迷惑が掛かる。


 それに職人になれば、今よりも多くの人々と接しなければならない。毎回親しくなった人に去らないで欲しいと懇願するわけには行かないだろう。


「でもそれはそれで、今の私はヴィクトリアさんがどこか遠くに行かないでほしくって……」

「マミ、あなたならボクがいなくても大丈夫だよ」

「でも……」


 するとヴィクトリアは自らが苦手であるハグを彼女にする。赤くなりながら。


「いつかまた、どこで逢える。信じれば、きっと叶うよ」

「ホントに?」

「うん。きっと」

「じゃあ、さよならは言わないからね。またきっとどこかで逢えると信じて言わないからね」


 泣きながらぎゅっと抱き締める。頭を撫でてやるヴィクトリア。


 こうした経験は今までにいくつもある。その度にわかってもらえるよう説得しているのだった。


 部屋に戻り半年間、世話になったこの部屋を綺麗に掃除する。隅から隅まで掃除する。


 やや音がしていたのでウェーンライトが起きてしまった。


「なんだよ、なんだよ。うるさいぞ」

「やっと起きた。はい」


 マミから預かった箱を渡す。早速中身を確めると杖が入っていた。


「やっときたか!」

「実は……」


 事情を全て話した。序でに渡すのが遅れてしまったことに対して彼女を怒らないこと。ダニーやカイルには黙っていることを話す。


「なるほどな。だがよ、お前も悪い女だな」

「なんで?」

「だってよ、逢う気なんてさらさら無いんだろ?」


 口から出任せを言ったつもりはない。だが彼の言う通りでもあった。


 一度別れてから再び逢った試しは複数人しかない。多くの人は“いつかまた”、出逢えることを信じて人生を全うする。


「廻り合わせ……」

「まっ女の子言い聞かすにはそれくらいあまっちょろいこと言わにゃダメか」


 笑いながらウェーンライトはベッドから起き上がる。そのままドアまで一直線だ。


「どこ行くの?」

「ダニーじいさんに言うんだよ」

「何を!?」


 少し焦った言い方で訊く。つい先ほどお願いしたことをもう忘れてしまったのだろうか。


「なんか勘違いしてねぇか? 俺はただ明日には帰るって言いに行くだけだぞ。お前も帰るだろ?」


 その言葉を聞いて彼女は俯いた。自らも帰るためにマミ相手にあの言葉を送ったのだから。



 最後の晩餐会が開かれた。テーブルにはご馳走が並べられ、ア・ラ=ヨット・バーから水野清正も招待された上、幻の名酒真水も提供された。


 マミが杖を隠していた期間、ダニーやカイルらは好意でヴィクトリアたちが居座っていると信じていた。


 そのことを突き通さなければならないが、マミは急にテーブルを叩き一同は注目する。行儀の悪い行動としてダニーが注意すると彼女は拳を握り締めて理由を話した。全て、包み隠さず打ち明けたのだ。


「なんじゃと!?」

「なんてことだ」

「あらまぁ」


 ダニー、カイル、そしてアサミは驚くばかり。その後でやはり男ふたりは怒った様子で声を荒らげる。


 すかさずヴィクトリアが間に入った。


「怒らないであげてください。もしボクだったなら、そうしたかもしれません」


 カイルは思い留まるがダニーは違った。


 人様の信頼を得て商売をしている身。それを守らず相手に迷惑を掛ける行為は例え神が許しても彼は許せなかった。


「ヴィクトリアさんよ、これは怒ってはいないのじゃよ。叱っているのじゃ」


 その言葉に青年は口を噤む。怒りでただ声を荒らげているわけではなく、何が悪く何が正しいのか教えを説いているのだ。


「マミよ、儂たちは例え神様でもお客様なのじゃ。そしてお客様は神様でもあるのじゃよ。商売をするためには先ず信用を得よ。そして信用は決して裏切ってはならぬ」


 あれこれ教える。晩餐会が講義の場になっていた。水野も聞き入っている。


「じいさん、その辺にしときなよ。飯が不味くなる」


 叱咤激励中、ウェーンライトはひとり黙々と食べていたが痺れを切らして割って入る。今日はふたりへのお別れ晩餐会でもある。


 最後くらいは楽しく過ごしたかった。


「そうね。お父様、お叱りは明日に致しましょう」


 アサミが助言してダニーは従った。だがマミに明日、再び説教の機会を与えることを伝えてその場は纏まった。


 その夜は楽しい晩餐会となった。半年間という短い期間ではあったが、多くの出逢いや発見が生まれた。


 この先、レゴメの商売繁盛と皆の健康と人生を祈り最後の晩餐は終わりを迎える。



 晩餐会が終わった後、ヴィクトリアが床に就こうとベッドメイキングをしている。そして部屋を見渡し、哀愁を漂わせた。


「このベッドで寝るのも最後か。……そうか、ウェーンライトと一緒に寝るのも最後」


 急に寂しくなった。再びひとりになってしまうからだ。


「お前にはあいつがいるだろ?」

「ぎゅえーあ!?」


 誰もいなかった部屋にウェーンライトがいたことに驚き、心臓を激しく拍動させる。


「何て言ったけ、バサス?」

「カーサスでしょ」

「そうそうそれそれ」


 だが今は他にワトソンとリンもいる。死神界にはマリーもいる。彼らが待っているのだ。


「何も哀しむことなんてないし、俺だって他のアークファミリア(やつら)だっているんだから落ち込むなよ」


 背中を強く叩いてエールを送る。


 ヴィクトリアはひとりではない。皆が差さえあって生きているのだと兄らしく諭す。


「ありがとう、ウェーンライト」


 そうしてふたりはベッドに入って横になる。


 明日の朝20時には出発する。再び長い旅になるわけだからゆっくり休まなければならない。


「ねぇ、起きてる?」

「なんだ?」

「確か“お兄ちゃん”、ボクの頼み事だったら聞いてくれるんだよね?」


 何か良からぬことでも頼むのか恐る恐る聞いてみると驚きを隠せないでいた。


「良いのか、そんなこと勝手に」

「お願い。みんなに言い聞かせて」


 妹に弱い兄は渋々彼女の願い事を承諾してしまうとふたりは眠りについた。


 翌朝、別れの時が来た。最後の別れかもしれない。マミはそう思っていた。


「マミ、頑張って生き続けていれば良いことあるよ。またどこかで逢いましょう」


 ふたりは強く抱き締める。


 ダニーとカイル、アサミ、水野らは固く手を握り互いの健闘を称えあう。


「そいじゃな」

「またどこかで!」


 ウェーンライトはその場で星廳に転移魔法で、ヴィクトリアはレゴメを後にした。


 新調した杖と魔法道具、そしていつかまた出逢えることを祈って。



 星歴997年4月27日、ポラリス公国は首都ビーム。


 木々が風で揺らぎ噴水が見える整備された公園に彼らはいた。


「ヴィクトリア!」

「ヴィクトリア」

「ヴィックトリアー!」


 1年ぶりの仲間との再会だ。彼らは変わらず迎えてくれた。


「ヴィクトリア、すまない」


 逢って早々にワトソンが謝る。どうやらあの件の件についてのようだ。


 アークファミリアはゲスチオンヌや堕落民族を許さない。よってこの世から抹殺しなければならない。


 その行いに彼は異を唱えた。だがヴィクトリアの下僕であり、彼女を想うひとり。


 彼女のために身も心を捧げなければならないと悟ったようである。


「あたしも……」


 リンも同様に陳謝する。これからもヴィクトリアのために行動するようだ。


 しかしヴィクトリアは彼らに言った。


「ボクはこれから自分で考えて行動するよ。ボクが正しいと思ったことをね」


 その意味はまだわからなかった。だが、その意味を知ることはそう長くはなかったのであった……。


「シルヴィア、ボクは君を信じるよ」

 次回は、3月7日(月)午前8時に更新を予定しております。

 間が空いてしまい、誠に申し訳ありませんが何卒宜しくお願い致します。


【追記(2022年3月6日23時30分頃)】

 誠に申し訳ありませんが、諸事情により次話は3月14日(月)午前8時に更新致します。何卒宜しくお願い致します。

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