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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第43話「双子」

 星歴911年5月11日。ヨルドバド=ユードバド共和国に訪れたヴィクトリアは、創業996年の老舗魔法道具店“レゴメ”にて杖や箒などを新調しようとしていた。


 元店主ダニー・ジャクソンの厚意により完成までの間、死別した妻ハンナの部屋で宿泊する形となった。


 現店主カイル・ジャクソン、その妻アサミと娘マミ、そして娘婿のポール・キエフとともに生活が始まったのだった。


 ア・ラ=ヨットというバーで、永遠の宿敵“シルヴィア”と再会。


 ところがかつての面影はどこへやら。敵としてではなく亡命者として助けを求めてきた。


 事情を聞いても信じられないヴィクトリアは帰路に着いたあと、レゴメへ帰るとそこには双子の兄“ウェーンライト”の姿があったのだった……。


 星歴996年5月13日、早朝である16時過ぎにレゴメの前でそれは起きた。


 ヴィクトリアがア・ラ=ヨット・バーからの帰り道、店頭で小さな人だかりが出来ているのを見付ける。


 マミやダニーらだったので声を掛けようと背後から近付くと、彼らの奥に久方ぶりに出逢う兄ウェーンライトの姿があった。


 驚きながら彼の名前を口にし、皆が振り向いた。そして彼らは各々ウェーンライトの名を呟き、事の重大さを知ったのか口を揃えて叫ぶ。


「ウェーンライト!?」


 名前を呼ばれた青年は地面から起き上がると手や体に付いた土や砂をはたく。モロに衝撃を受けた脇腹を擦りながらダニーへ文句を言った。


「クソジジイ! 俺になんか恨みでもあんのか!」


 目の前で孫娘に何か良からぬことを仕出かそうとしていたら誰でも守ろうとするだろう。


「おまいさんがマミを誘拐しようとしていたからのぅ」

「道を聞こうとしてただけじゃねーか!」


 二度も魔法を同じ脇腹に受けて一瞬息が出来なくなるほどの強い衝撃だったようだ。何度も患部を擦って痛みを強調させていた。


「お前が紛らわしい真似をしてるからだろ」


 ダニーらを掻き分けて彼の前に立つヴィクトリアが呆れた様子で言い放つ。


「んだとゴラァ! 勘違いする方も勘違いする方だろぉ、こちとら被害者なんでぃ!」

「迷惑掛けるなって言ってんの!」


 熱い喧嘩が勃発している。神同士の喧嘩で国ひとつが滅ぼし兼ねない、そう思ったカイルとアサミが慌てて仲裁に入る。


「誠にこの度は失礼いたしました」

「何分、マミに魔の手が近付いているように見えてしまいお父様が手を出してしまい……」


 子を思う親の気持ちは分からんでもないウェーンライトはこの一件にこれ以上言うことは無かったが、ヴィクトリアの言葉に怒り心頭だ。


「人様に迷惑掛けるなよな、疫病神さん」

「こんにゃろー!!!」


 ダニーやマミ、ポールらも加わってふたりを宥める。落ち着きを取り戻したのは暫くしてからだ。


 さらに疑問に思っていたカイルが質問する。


「ウェーンライト様、何故この国に?」

「ヴィクトリアが来いって言ったからだ」


 その言葉に彼女は苛立ちを見せる。


「あの時、嫌だって断った癖に」

「なんだと、だったら帰るぞ! 折角来てやったのに!」


 帰ろうとする彼を必死にカイルやマミが引き留める。かつて星歴誕生の祭典時にこのレゴメを利用した神である彼を見す見す帰してはならぬ気持ちでいっぱいだ。


「ようこそいらっしゃいました。アサミ、おもてなしを」

「はい、ただいま」


 急いで店の中に入り歓迎の支度を始める。マミもウェーンライトの腕を掴み、

「レゴメの昔話とか私のご先祖様の話とか神様のお仕事とか、とにかくいっぱい聞きたいです!」

 店内に誘導する。彼の腕にマミのやや小さめの乳房が当たりにやけてしまう。


「ウェーンライト?」


 じとっとした視線を送りマミの谷間から腕を引っこ抜いた彼は冷静さを保つ。


「帰るのはやめだ。歓待を受けることにする」


 その言葉にマミもカイルもひと安心。ダニーも謝罪と歓迎の挨拶をして店内へ誘導する。


 店先に彼とヴィクトリアが残り、彼女が口を開く。


「で、なんで気が変わったわけ?」


 腕を組み一番知りたい理由を訊く。


 店内に入ろうとしていた足を止め、理由を語る。


「お前が気付いているか知らないけどな、俺……妹のお前の頼みだけは一度も破ったことは無いんだぜ」


 ヴィクトリアの顔を向いて打ち明ける。


 動揺する彼女は掛ける言葉が見つからないようだ。


「お前の無理難題な頼み事は聞いてきたつもりだ。今日も予定を全て済ませて、あとのことはサンダーに任せてきた」


 サンダーとはヴィクトリアが契約している聖霊ウィンディと同じような存在だ。


 ウィンディは風を司る聖霊だが、サンダーの場合は雷を司っている。つまりは雷を司る神ウェーンライトということだ。


「っ……」


 言葉が出ないヴィクトリア。それなのに悪態を吐いていた自分が情けなく思う。


「まぁ知らなくても良いことだったかもな」

「そんなこと……ない」


 ふたりがまだ店先にいたため店の奥からマミが呼んでいる。ウェーンライトが直ぐに向かうよう言うとヴィクトリアにも声を掛ける。


 店内に入る彼の後に付いていく。ドアを閉めて遠ざかる兄の背中を見て彼女は彼の服の端っこを掴んだ。


「なんだよ」

「あ、ありがとう……お兄ちゃん」


 今言える精一杯の気持ちだった。頬を染め、上目遣いでお礼の言葉を伝える。


「ぐぅ……礼なんか必要ない。兄として当たり前のことをやっているだけだ」


 強がる兄。頬を真っ赤にし、ふたりは先を急いだ。


 お互い素直な気持ちになれないのであった。



 20時、まだ朝であることを忘れるくらいの豪華絢爛な食卓を囲み歓迎会が催される。


「この度は、アークファミリア8番目、雷を司る神ウェーンライト様を迎えて盛大……とは言えませんが我々に出来る最大限のおもてなしで歓迎致します」


 カイルの堅苦しい挨拶に彼は失笑する。がちがち声も震えていたためマミも笑っていた。


「俺のことはウェーンライトだけで構わん。それより腹へった。早く食いたい」

「みっともない。我慢しろよ」


 ヴィクトリアの言葉に食って掛かる。


 昨夜から何も食べていないことを理由に早く飯にありつけたかった。


「じゃあ食前の祈りの言葉を捧げて食べようかのぅ」


 皆が手を合わせて祈りを捧げている。だがウェーンライトは何をしているのかさっぱりでヴィクトリアに訊ねていた。


「こいつら、何かの宗教団体にでも入ってんのか?」

「神様に祈りを捧げてるんだよ。今日も最高の食事をありがとうって」

「頂きますだけじゃダメなのか……」


 腹の虫が叫んでいる。このままでは腹と背が引っ付いてしまう。


「それでは頂こう」


 カイルの言葉に待ってましたと言わんばかりの勢いで食い付く男。行儀のなっていない食べ方にヴィクトリアも頭を悩ます。


 しかし凄まじい食いっぷりに皆は笑っている。団欒に食事をする風景にそれでも良いのかなと笑みを見せるヴィクトリアであった。


「ワインもありますよ」

「朝からワインはありがてー」


 どこのワインか訊ねるとアーク連邦のワインレッド州で採れた最高級のブドウで製造されたものだという。


「ワインレッド州か、あそこのは上手いな」

「どこそれ」


 ヴィクトリアが疑問に思う。アーク連邦には久しく帰っていない。


「あれだ……えぇっと、お前が昔に統治だかなんだかしたワイン公国だ。今はアーク連邦が管轄してる」

「あそこか……懐かしい」


 隣国のヘルヴェチカ皇国から得た水をふんだんに利用して育ったブドウで作っているため美味なワインが出来上がる。


「こないだアリスにあったよ。公務でな」

「そう、元気にしてた?」

「ああ。キャルロットはいなかったけどな」


 彼はアーク連邦の首都兼星都コールスマンウィンドウにある星廳(せいちょう)と呼ばれるところで星の(みかど)星帝(せいてい)という役職に就いている。


 これは文字通り、惑星アークの中で一番の存在であることを示している。だが一般的に国民へは公に姿を現してはいない。


 またアークファミリアであることは公になってはいるが、姿を見る者が少く神話的存在になっているという。


 姿を見せない理由は単に本人が面倒臭いだけだという。


「偶には逢いに言ったらどうなんだ」

「切っ掛けが無いんだよね」


 アークファミリア12番目、水を司る神アリスと11番目、電気を司る神キャルロットに逢いたいとは思っているが中々そうは行かないようだ。


「逢いに来た。それだけで良いと思うぞ」

「そんなんだけどね」

「そーいや、レリ姉が寂しがってたぞ」

「お姉様が?」


 レリ姉とはアークファミリア5番目、氷を司る神レリアンスのことである。


 ファミリアの中でも一番温厚で優しく妹思いな彼女。7番目、毒を司る神エスペランサと共にレリース大森林の中にある湖畔でひっそりと暮らしているという。


「偶にはさ顔を出すのも良いと思うぞ。逢いたくない奴らなんていないと思うしよ」


 ワインをらっぱ飲みする彼にマミが拍手をしている。こんな光景は初めてだという。


「今ボクはウェーンライトに逢えただけでも嬉しいと思ってるよ」


 心のなかでそう思うヴィクトリアであった。


 楽しい食事を終えた皆は昼前だというのに深夜のようなテンションになっていた。


「今日はもう仕事はせんぞー!」


 ダニーが宣言する。だがしかしカイルは違った。


 小休止を挟んで仕事に取り掛かっていた。彼は酒を一滴も飲まず、自分の役目を全うしていた。


「俺も新しくしてもらおうかな」


 懐から杖を出した。年季の入った古びた杖だ。


「これはな、テンプルトン・ジャクソンが作った杖なんだ」


 マミが口を開けて驚いた。先祖も先祖、星歴の祭典時にウェーンライトと一緒に写真に写っていた人であった。


「テンプルトンは中々の職人だったぞ。何より口達者で女誑(たら)しだった」


 笑い話だが先祖の恥ずかしい話を聞いてしまい困惑するマミやアサミ。


「良く呑みに行ったもんだ。あん時が懐かしいぜ」


 だがヴィクトリアもさることながら良く記憶に残っているものだと家族は思っていた。


「実はな、その一時(いっとき)一時に自分の分身を置いておいて記憶を繋いでるんだ。なーんてな」


 嘘か真か曖昧な言葉で濁らせられた。ヴィクトリアにも訊かれたが記憶力が良いだけとしか答えなかった。


 だが確かに数億を超える年月を送っている中で記憶を保持し続けることは凄まじいにもほどがある。


 これに関しては記憶を保存できるように魔法、または人体が進化したことによるものだ。不老不死の人々も上手く記憶の保存や出し入れをして生きているのだ。


 だが不老不死に成り立ての人々は記憶の重さに耐えきれず自殺や廃人になって彷徨い続けるのだという。


 カーサスやワトソン、リンなどの神に仕える下僕や神に従属するアークレイトは一般的な不老不死とは違ってより進化している。個々の能力の差はあるが。


「私たちのこと、忘れないでいて下さいね」

「もちろんだよ。忘れない。ずうっとね」


 ヴィクトリアの優しい言葉にマミは大喜びだ。


「さて、どうすっかな」

「頼むの?」


 しかしアサミが代わりに答える。彼女曰く、既にヴィクトリアが杖の新調を依頼しているためダニーとカイルはそれに付きっきりで作業が出来ないという。


「だったら、彼女に頼もうか。職人なんだろ?」


 杖をマミに翳す。神からの正式な依頼だ。


「いかん。まだ半人前の身」

「その通りだ。マミ、いけないよ」


 祖父も父親も大反対だ。だがウェーンライトは決めるのは彼女自身。彼女に聞いているのだと、答えを待つ。


 胸の前に拳を置き、必死に悩むマミ。ヴィクトリアが軽く後押しをする。


「やりたいならやれば良い。失敗はチャンスだよ」


 その言葉に依頼を受ける。


「精一杯、やらさせて頂きます!!!」

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