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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第42話「邂逅」

 星歴911年5月11日。傷心旅行としてヨルドバド=ユードバド共和国に訪れたヴィクトリア。


 創業996年の老舗魔法道具店のレゴメにて杖や箒などを新調しようとしていた。


 元店主ダニー・ジャクソンの厚意により完成までの間、死別した妻ハンナの部屋で宿泊する形となった。


 現店主カイル・ジャクソン、その妻アサミと娘マミ、そして娘婿のポール・キエフとともに生活が始まった。


 至れり尽くせりの生活。何か恩返しをと思い、過去の話を聞ける機会を設けるべくある人物を訪れる。


 アークファミリアの能力でもある夢の中で他の神と交信できる力を使い、双子の兄ウェーンライトにコンタクトを取るが失敗。


 喧嘩別れした形で気分の悪いヴィクトリアは町に繰り出し、酒に入り浸ろうと考えていた。


 ア・ラ=ヨット・バーという小さな店でかつて愛した銘酒真水を再び呑む機会に巡り会う。


 バーモンであり店主の水野清正(みずの きよまさ)故渡辺哲三(わたなべ てつぞう)から銘酒真水を受け継いだ。


 懐かしさにも入り浸ることができ、大満足のヴィクトリアに影が迫るのであった……。


 懐かしい気持ちでいっぱいの彼女はとても気分が良く隙も多くできていた。


「他のお客さんにも振る舞おう」


 店内にいた客にも水野と渡辺の作った銘酒真水を配り利き酒をする。


 どの客もやはり渡辺のものを押していた。


「精進します。また来てください」

「分かりました。また来ます」


 約束するヴィクトリア。楽しみが増えたことで大満足だ。


 受かれている彼女を余所に黒い影が背後に近付く。


「私にも一杯、頂けないでしょうか」


 その言葉にヴィクトリアは快く受けるとグラスに一杯ずつ入れる。そして渡そうと振り向いた。


「はい、どう……ぞっ!?」


 背後に立っていた人物。それは長年のライバルでもあり、抹殺対象でもあるシルヴィアだった。


「っ!」


 グラスを持ったまま身構える。シュールな光景だが本人は至って真面目だ。


 隙を作らず戦闘体勢を作る。しかし今まで戦ってきたシルヴィアとはどこかが違う。


 長年の付き合いでそれが分かるようになってしまった。


「今日は話し合いに来たんです」

「話し……合い?」


 ゆっくり頷くシルヴィア。いつも上から目線で大きな態度はどこへやら。


 今日に限っては丸くなっていた。どうしたことか。まさか何か裏があるのかと勘繰ってしまう。


「お客さん、良ければお席に」


 水野がヴィクトリアの隣の席へ誘導する。そしてふたつの銘酒真水を注いで提供した。


「お召し上がり下さい」

「ありがとう。頂きます」


 本来敵であるヴィクトリアの前を会釈して椅子に座り、そのまま酒を呑む光景にヴィクトリアは夢であると確信。ところが頬をつねっても痛いだけでこれが現実であることが窺える。


「お前は一体何者だ?」

「私ですか? 貴方も知っているゲスチオンヌのシルヴィアですよ。貴方が憎むべき存在、そして私は貴方に殺される存在」


 その言葉でヴィクトリアは先日の殺戮の様子がフラッシュバックする。


 ゆっくり目蓋を閉じて一度深呼吸をする。


 カーサスやワトソン、リンとは違いゲスチオンヌと堕落民族の殲滅への耐性は疾の昔からついている。


 だがワトソンの言葉に動揺し今に至る。彼の『僕たちがやっていることは正しいのかな』という言葉が忘れられないでいた。


 彼女自身、久々の大量殺戮に出くわしたわけであるが無心でやっていたわけではなかった。とはいえ躊躇えば逆に殺されてしまう状況下でもあった。


「ボクはアークファミリアとして正しいことをしてきたつもり。今までのことを悔やんでもいない。けれど……」


 言葉が詰まる。シルヴィアも静かに語りだした。


「私も殺し殺されて今に至る。堕落民族は愛しているし、ゲスチオンヌの皆も家族。でも……」


 ふたりは気付けば同じ気持ちになっていた。


「ボクがやっていることは正しいのかなって」

「私がやっていることは間違いなんじゃないかなと」


 二人揃って顔合わせては気まずい雰囲気になる。


 考えが同じに偶然なったわけだが敵であることに間違いはない。ヴィクトリアもシルヴィアもお互いに殺し殺されて数億年。それだけ付き合いの長い関係である。


「でもやっぱりボクたちは敵同士……ボクは君を殺さねばならない」


 まだ持っていたグラスをカウンターに置き、腰に手を掛けるが愛刀“神風”を忘れてしまったことに気付き、代わりに懐から拳銃を取ろうとする。


「待ってください」


 シルヴィアの顔つきがさらに曇る。そして申し訳なさそうに話し始めた。


「お願いがあるのです。どうか、私を……助けて下さい」

「……どういう意味だ」


 理解不能。言葉の意味が分からなかった。


 助ける、それはどういった意味を成すのか問う。


「言葉の通り、私を助けて欲しいのです。アークファミリア側の一員として」


 それは寝返るということになる。裏切りだ。


「お前は何を言っているのか分かっているんだろうな」

「重々承知しているつもりです」


 寝返るとは聞いたことがない。今まで堕落民族でも命乞いはあったが裏切る者などいなかった。


 しかもゲスチオンヌでは最大戦力を担うシルヴィアが何故、ここまでして助けを請うか疑問に思う。


「何が狙いなんだ。何を望むんだ」

「もう、殺し殺されるのは嫌なんです。お互いのためにも」


 ならば今すぐ逃げ出して寝返れば良い。そう思った。


「今はダメなんです。もう少しゲスチオンヌですることがあるのです」


 それは何かと訊ねる。


「少しでも多く、同胞を助けたい。分かってもらえないかもしれないけれど、戦場で亡命が出来るように手助けして欲しいのです」


 つまり堕落民族やゲスチオンヌとの戦闘中、秘密裏に亡命者の手引きをヴィクトリアが行うことであった。少しでも多くの命を、同胞を助けたいがためのお願いだった。


「――して、お前はどうするんだ。バレればただじゃ済まされないよ」

「なので助けて欲しいのです」


 つまり外部からは敵同士に装い。内通者としてシルヴィアがヴィクトリアらアークファミリアを手助けしつつ、代わりに同胞を亡命させるということになる。


「そんなの信じられるかい。お前はボクやアリスを手に掛けてきた。お前は敵なんだ!」

「分かっています。でもお願いできるのは貴方しか他にいません」


 ヴィクトリアの前にひれ伏し懇願する。


 だが今までのこともあり、信じることが出来ない。とはいえ心の揺らぎは治まらない。


「なんで中から変えないの?」

「と、言いますと?」

「内部から変えていけば良いじゃん」


 首を横に振るシルヴィア。


 それもそのはず、それ即ち父であるセルヴィアや姉や妹と対峙しなければならない。ひとりの力ではどうにもできないのだ。


「寝返ったとしてもどうしようも出来ないと思うぞ」


 もし反ゲスチオンヌ思想だと分かれば例え身内でも粛清が待っている。つまり幾ら唱えても言論は統制され、不穏分子は処刑されてしまうのだ。


「でもアークファミリア側について戦場で出逢えば諭すことが出来るかもしれないんです。そして少しずつゲスチオンヌからそちら側に、味方側に付けていきたいのです」


 真剣な表情と眼差しに嘘を言っているようには見えなかった。だがかつての行為が彼女の判断を妨げる。


「直ぐには決められない。お前が嘘を言ってるかもしれないし。まだ心の判断が出来ない」

「はい。構いません。いつまでも待っています」


 立ち上がり深々とお辞儀する。これだけを見れば今までのシルヴィアとは180度違って見えてくる。


 しかし未だ、信頼関係を築き上げてからの裏切り行為があるという点が拭い切れないでいる。


「戦場で逢っても私はもう貴方を殺したりしません。もちろんお仲間です」


 その言葉、忘れないでいよう。もしも約束を違えれば裏切り行為と見なして今までの話しはご破算となる。


「この場の会計は私が持ちます。お好きなものをお飲みください」

「なんか接待されているみたいで嫌だな」


 とはいえ額を聞けば驚くこと間違いなし。会計は7万6千アークドルだった。


「うぐっ……そんなに持ってない」

「良いよ、ボクが払う」


 懐から小切手を出すと800万アークドルと書いて水野に渡す。


「40万多いですよ」

「口止め料と諸々ね。今日見聞きしたことは一切他言無用で」

「分かっております。バーモンという職業柄、お客様の秘密は誰にもお話致しませんので」


 彼なら安心が出来る。だがシルヴィア、どうだろうか。


「ヴィクトリア様、何卒宜しくお願い申し上げます」


 懇切丁寧にお願いされ身震いする。


「ヴィクトリア様ってのはやめろよ。様ってのは……」

「でしたら、ヴィクトリアさん!」

「うー……」


 違和感がありすぎる。かつての敵からさん付けで呼ばれるなど気持ちが落ち着かない。


「分かってると思うけど、ボクはまだお前を信じたわけじゃない」

「はい」

「もしボクの考えでお前を殺すことになっても」

「その時はその時です」


 寂しげな表情で答える。ヴィクトリアはそれ以上、何も言わなかった。言えなかった。



 時刻は4時を回っていた。日の出まで8時間を切っている。


「そろそろおいとましないと10時間掛けて歩いて帰らないといけないしね」

「またお越し下さい」

「うん。来るよ」


 ヴィクトリアは再び来店することを違い、シルヴィアとも別れを告ぎ店を去る。


 そして暗い夜道をひたすら歩き、朝日が顔を出して照り付けようとも歩み止めず、13時30分。遂にレゴメのある町に到達したのだった。


 レゴメまではあと2、3時間で到着出来ると予想する。


 手ぶらでは悪いと思い早朝、賑わいを見せる市場で何か手土産にしようと物色する。


「食べ物にしようかな……それとも」


 そんなことを考えている一方で、レゴメでは開店の準備と朝食の支度をしていた。


「ふあ……」


 大きな欠伸をするマミ。開店準備中という札を店先に掲げるとドアに手を掛ける。


 すると背後からやや長身の男が声を掛けてきた。


「はい、なんでしょう?!」


 黒いサングラスに黒いマスク、黒い帽子に黒のコートに身を包んだ男に出会すマミ。


「きゃあ!」


 襲われると思い男を突き飛ばしてドアを掴む。だが腕を掴まれてしまい身動きが取りにくい。


「マミ!」


 店内から大声を聞いて駆け付けたカイルとアサミ。ポールは2階の窓から飛び降りて、我が身も省みずに飛び掛かる。


 彼女を助けだし、腕を広げて庇う。男はなおも腕を伸ばして彼女を捕まえんとする。


『吹き飛べ、吹き飛べ、さよーなら!』


 刹那、男はくの字に曲がりながら真横へ吹き飛んでいった。


 吹き飛ぶ反対側へ皆が目をやると散歩に出ていたダニーが杖を翳してしたり顔。


「お爺様!」

「マミ、無事か」


 ダニーの強力な吹き飛ばし魔法により男は覚束無い足取りで立ち上がる。


「孫を浚おうとは不埒な奴め。ぶっ殺してやるわい」


 随分と過激な発言にカイルが抑えるも敵に情けを掛けたり甘く見たりすれば敗北に繋がると諭し、臨戦体制に移る。


「喰らえ!」


 再び突風が男を襲い、近くの岩に叩きつけられると帽子やらサングラスやらが取れて顔が見える。


「正体を表しおったな!」

「シャッターチャンス!」


 アサミがカメラで写真を撮る。この国ではモノクロであるもののカメラが存在している。


「さぁ不埒者め、覚悟は出来ておるな!」


 追い詰めるダニーだが彼らの背後から声がする。ヴィクトリアの声だ。


「ウェーンライト?」


 一同は顔を合わせる。そして男をみつめる。


「この人はウェーンライトなのかのぅ?」

「ウェーンライト……」


 そうして一同朝だとも忘れ、

「ウェーンライト!?」

 大声で叫ぶのであった……。

 遅ればせながら皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


 本年は第3章の完結と第4章の投稿を目指して邁進していく次第であります故、何卒よろしくお願い申し上げます。

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