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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第41話「真水」

 星歴911年5月11日。傷心旅行としてヨルドバド=ユードバド共和国に訪れたヴィクトリア。


 創業996年の老舗魔法道具店のレゴメにて杖や箒などを新調しようとしていた。


 ところが元店主ダニー・ジャクソンによってアークファミリアであることが暴かれた他、彼の厚意により完成までの間、死別した妻ハンナの部屋で宿泊することとなった。


 現店主カイル・ジャクソン、その妻アサミと娘マミ、そして娘婿のポール・キエフとともに生活が始まった。


 至れり尽くせりの生活。何か恩返しをと思い、過去の話を聞ける機会を設けるべくある人物を訪れる。


 アークファミリアの能力でもある夢の中で他の神と交信できる力を使い、双子の兄ウェーンライトにコンタクトを取るが……。


「で、何だよお願いとやらは」

「ボクが今泊まっているところに今すぐ来てほしいんだ」

「やだ」


 即答の彼に怒りつつ食って掛かる。


「なんでダメなんだよ!」

「ダメなもんはダメ」

「なんでなんだよ!」

「うるせーんだよ!」


 大声で叫ぶウェーンライト。怒りマークが3つ4つはできていることだろう。


「お前はいつもそうだ!」


 ウェーンライトの説教が始まった。


「久々に逢ったかと思ったら直ぐに来いだとか、こっちの都合も考えないで何様のつもりだ」

「ぐぬぬ……」


 言い返せない。確かにこれはヴィクトリアに非がある。


「普通なら、よぉ久し振り。最近どうだ? ぼちぼちでんがなー。ほやーって会話してからの、申し訳ないけど今すぐ来れないかなー、なんて話を始めるのが筋だろうが」

「めんどい」


 とんでもない返しで彼の怒りに拍車をかける。


「昔からお前は、てか俺に向かっては態度がデカイよな!」

「お前だからだよ。言うこと聞いてくれないじゃん。お願いしてるのに!」

「かーっ! これだよ、お前は何ひとつ分かってないな!」


 喧嘩をするために交信しにやって来たのだろうか。こうなることはヴィクトリアも予想はしていた。


 ダメ元で頼んでみたが言い方が悪かったようで交渉は決裂した。もともと交渉の“こ”の字も見られなかったと思うが。


「もういい」

「何がだ」

「もう頼まないよ」


 振り向いて帰ろうとする。ウェーンライトもせいせいしたようで早く消えるように促す。


「頼んだボクがバカだったよ!」


 捨て台詞を吐いて交信終了。


 ベッドの上で目覚めるヴィクトリアはプンプン怒っていた。


「ウェーンライトめ。聞いてくれたって良いじゃないか」


 時刻は30時過ぎ。時間帯的にはおやつ時だ。


 レゴメの皆は仕事に明け暮れている。彼女は昼寝をしていたわけだが、彼の一件で怒りが鎮まらない。


「ダニーさん、ちょっと出掛けてきます。夜遅くなると思うのでご飯は結構です」

「あいよー!」


 身支度を済ませ外出する。


 行き先は都市中央部にある歓楽街だ。ぶらぶら歩いていると幾人かの客引きに出逢う。だが求める場所ではなかったので断った。


 中には悪質な客引きとして断るともれなく裏路地でリンチ紛いの行為に及ぶ者も現れたが、拳銃をちらつかせることで丁寧にお引き取りしてくれた。


 だが中には立ち向かう者も現れるが、苛立っていたせいか腕1本落とすことで去ってくれた。


「なんかこう、マシな店はないかなー」


 夜の帳が降り、賑わいが一層増す一方で中々良い店を見つけられないヴィクトリア。


「取り敢えず入ってみるか」


 パブレストランのマザファック。如何にもふざけた店名だが、客足は上々のようだ。


「おいガキは入るとこじゃねーぞぉー」


 入口に突っ立っていたサングラスを掛けて長身の怖そうなお兄さんが声を掛けてきた。


 無視しようとすると肩を掴まれ阻む。


「今日は飲みたい気分なんだ」

「ガキは失せろ」


 この国では16歳から成人のはずだが店側は客を選ぶ権利があるようで、この店ではヴィクトリアを客とは認めたくないようだ。


「うるさいな。邪魔だよ」


 掴んでいた腕を握ると力を込めて放り投げる。店の立て掛けていた看板もろとも吹き飛んでしまう。


「金は払うんだ。邪魔するな」


 今日のヴィクトリアはかなり不機嫌のようだ。自分のせいなのに。


真水(まみず)ない?」

「は?」


 バーマンは耳を疑った。もう一度注文内容を聞いて、またしても返ってきた言葉は、真水。


「おほ、お客さん。真水って……ただの水はありませんよ、ほほっ」


 まともに取り合おうとしないバーマンに諦めておすすめの品を選ぶ。


「はいどうぞ」


 グラスに注がれた透明度の高い酒のようなもの。


 ヴィクトリアは匂いを嗅ぐ。無臭だ。


 一口味わう。無味である。つまり、ただの水だ。


「どういうつもり?」

「ですから、ぷふっ」


 笑いを堪えるので必死なバーマン。常連客が後ろから補足する。


「ガキにはただの水、真水がお似合いってことさ」

「そうでやんす。そうでやんす」


 ヴィクトリアの容姿年齢は確かに17歳であるが、酒好きの彼女にとってガキ扱いされるのは好ましくない。


 だが自分が既に成人を越えており、況してや不老不死でアークファミリアだと言っても認知されないのは分かっているため、その場は我慢する。が、苛立ちは募るばかり。


「真面目に普通のお酒が欲しいのですが。アーク連邦のIDですが成人の認証カードを持ってますし」


 提示するも態度は変わらず何かを企む様子でビールを提供。


「これ……」


 ビールではなくお茶であった。大和茶といわれる大和帝国で取れる茶葉を使用したものだ。


「もういいや」


 面倒くさくなり退店する。だがしかし、会計時にはべらぼうな額を請求されぶちギレそうになるが大人しく支払うことに。


「ただの水とお茶に350アークドル。ぼったくりも良いところだ」


 今すぐにでもこの店を灰にすることのできる力を持っているが、レゴメの皆に迷惑が掛かるし神の品位を落としかねない。ここはぐっと堪えて次の店に向かう。


 彼女が探しているのは幻の銘酒“真水-MAMIZU-”というものである。


 大和帝国出身の渡辺哲三(わたなべ てつぞう)が造り出した酒である。


 星歴801年10月31日、ヴィクトリアがひとりで訪れた酒場で彼に出逢う。


 アルビオニヒスの隣国シラユサユという場所でだ。


 彼はその店の亭主で、酒造の免許は剥奪され、今は数本残る銘酒真水を気に入った客にしか提供しなかった。


 ヴィクトリアは偶然亭主に気に入れられて飲むことができた。


 アルコール度数は51。だがストレートで飲むことをおすすめする酒であった。


 滑らかな舌触りと清々しい気分に入り浸れる銘酒真水。当時でさえ、残すところ7本のみだった。


 以降様々な場所で名酒真水を探すが、今回のようにあしらわれたり、そもそも未成年として取り合ってもらえなかったりと見付けることはできなかった。


「はぁ、やっぱりダメか」


 わいわい盛り上がる酒場より落ち着いたバーの方が今は良い。今度はなるべくそうした場所を探す。


 気が付けば町の外れ、レゴメからは真逆に位置するエリアまで来てしまっていた。


「もうこんな時間か」


 時刻は40時過ぎ。昼から何も食べていないため、腹も空いてきてしまった。


「帰ろうかな」


 とはいえ、レゴメまでは凡そ35キロの道のり。再び10時間ほどかけて帰らねばならない。


「こんな時間だし、レストランはもうすぐ閉まるだろうし。バーも無いよな?」


 周囲を見回すがあるのはレンガ造りの家々だけだ。


 仕方なく来た道を戻ろうと2、3歩あるくと細い裏路地にぼんやり灯るランプが見える。そのランプが照らす看板には“ア・ラ=ヨット・バー”の文字が。


「幻覚?」


 足を止めて目を細くし凝視する。だが幻覚でもなく、ひっそりと佇んでいた。


「ボクの勘が言っている。ここにしよっと!」


 店の入口までやってきた。“オープン”と書かれた札がある。


「閉まってないな」


 丸いドアノブを握り開く。ドアを開けると落ち着いた雰囲気の店内が広がる。


 やや薄暗いが雰囲気的には丁度良かった。また他に客は2、3人いるようだ。


「いらっいませ。お席はご自由に」


 カウンター席の裏からバーモンがお辞儀をして案内する。


 彼女はバーモンと話ができるカウンター席に着いた。


「当店のご利用は初めてで御座いますね」

「はい。何がおすすめです?」


 ア・ラ=ヨット・バーでは世界の地酒や銘酒を堪能できるところが売りなようだが、価格はそれなりに張るようだ。しかし希少品でも飲むことができるらしく常連客は一定数いる様子。


「じゃあ銘酒真水を」

「畏まりました」


 ダメ元で言ってみるがすんなり要求が通る。


 本当に銘酒真水があるのだろうか。偽物が出てくるのではないのだろうか。


 ドキドキしながら待っているとバーモンが酒瓶を大事そうに抱えてやってきた。


「こちら、去年の物ですが如何でしょうか」

「去年!?」


 そんな筈はない。銘酒真水は既に過去のもの。渡辺哲三が死に、作られる筈の無い酒だ。


 それともまた別の酒なのか。ラベルを確認すると紛うことなき銘酒真水であることが分かった。


「そんなはずは……」

「こちらは去年、私が作った物になります。師を越えるものは未だ作れませんので本物よりも価格は押さえ目にしております」

「紛い物?」


 つい口を滑らせる。バーモンの心を傷付けてしまった。


「す、すみません。でも師とは?」

「私、水野清正(みずの きよまさ)と申します」


 彼の苗字に見覚えがあった。故渡辺哲三が最期に弟子として育てた水野純治(みずの じゅんじ)を思わせる名前だ。


「水野純治さんの子孫の方?」

「師をご存知なのですか!?」


 これも何かの縁。ヴィクトリアは包み隠さずに全てを話した。


「感無量であります。生きていて良かった」

「渡辺哲三の血がまだ流れていてボクも良かったです」


 早速彼の作った銘酒真水を頂くことにした。


 大自然の中、清々しさを思わせる香り。口当たりも良くまろやかな舌触り。


「紛れもない、銘酒真水です。これは……」

「本当でありますか」


 彼にとって一番の賛辞であろう。作り続けて良かった。そう思っているに違いない。


「実は店を開店して以来、というより預かってから一度も開けていないものがありまして」


 そう言って店の奥から大事に抱えて持ってきたもの。


 それは渡辺哲三が作った銘酒真水だ。本物でしかも開封されていない酒瓶だ。


 師渡辺哲三のサインと時間遅延術が施されているようだ。


 時間遅延術は現実世界における1時間をボトルの中身では1秒としてカウントする術である。即ち48時間で48秒、1年は13ヵ月とひと月に31日にあるため403日で19344秒。掛けることの168年で3249792秒。分に直すことで、54163分。時間では903時間。48時間換算すると約19日しか経っていないことになる。


 だが一般的な時間遅延術の効力は持って100年ほど。使用者の魔法力が低ければ効力が切れるのは早くなるだろう。


「飲めるかは分かりません」

「飲めるよ。時間遅延術を施したのはボクだから」


 その言葉を聞いた水野の表情は明るくなる。そして長い間、眠り続けていた(トキ)が流れる。


「渡辺哲三師匠が手掛けた銘酒、真水で御座います」


 グラスに注がれた銘酒真水は澄み切った色をしており、まるで清流から汲んだ一杯のようだ。


「腐っ……てはないね」


 匂いは昔と同じで仄かに甘い香りがした。一口含むと滑らかな舌触りと懐かしさで昔を思い出す。


「くぅっ……」


 度数が高いため水野は唸っていた。しかしヴィクトリアはまるで水を飲むかの如く、普通に飲んでいた。


「美味しい」


 その言葉を故渡辺哲三にも聞かせてやりたい水野清正であった。

 今年の投稿は以上になります。本当は今年で第3章を終わらせる予定でありましたがまだ少しかかりそうです。どうかお付き合いください。

 

 次回の更新は、来年2021年1月3日午前8時を予定しております。


 それでは良い年末をお迎えください。

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