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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第39話「旧史」

 星歴911年5月11日。傷心旅行としてヨルドバド=ユードバド共和国に訪れたヴィクトリア。


 この国では魔法道具が主要生産品とやらで自身の持つ杖や道具も新調しようと思いやってきた。


 なるべく大手の店よりこじんまりした店を選びたい青年ヴィクトリアはレゴメという老舗の店に立ち寄った。


 そこで魔法道具の新調をお願いするのだが、ひとりの老人に絡まれてしまう。


 さらに1枚の写真を突き付けられ、同じアークファミリアのウェーンライトのことを聞き出そうとしているのだが……。


 老人は写真を突き付けて詰問する。写真は(まご)うことなきウェーンライト本人のものである。


 ヴィクトリアとは対になる左目にアークファミリア、8番目を表す紋章が刻まれている。その他にもヴィクトリアに良く似ている。


 ウェーンライト・ギャラクシーとはかつて、魔法省の事件で一度登場している。


 しかしヴィクトリアとは対面せずに出番を終えているが、ここで彼について詳しくに語っておこう。


 アークファミリア8番目、雷を司る神であるが実はヴィクトリアとは双子の関係がある。


 8番目のウェーンライト、10番目のヴィクトリアと明らかに順番も年齢も違う。ウェーンライトは27歳、ヴィクトリアは17歳だ。


 これについてはアークファミリアの起源にまで遡る。


 アークファミリアが誕生した経緯は新たなる宇宙の創造と拡大だが、実は悠久の歴史を繰り返している。


 宇宙は拡がり続けやがて死に、また新たに拡がっている。


 アークファミリアが誕生した経緯も同じである。


 彼らが誕生する遥か昔に旧史時代の宇宙が存在した。


 そこではメイスリースィミクと呼ばれる女神とリバークス・オイリクロプと言う悪魔が存在した。


 ふたりは互いに衝突しあいつつ宇宙を拡げ、均衡をも保っていた。


 ところが悪魔オイリクロプはかつてない凶悪な力を手に入れる。


 それは全生命体を操ることのできる寄生虫“ベンジリア”の存在だ。


 ベンジリアは灰色の硬い甲殻に覆われた節足動物の一種で、体長の2倍はある触覚とハチのような羽根を持つ。


 大きさは最大で1メートルにはなる個体もいる。


 俊敏で硬く、生命力も高いベンジリアは対象の生命体に寄生すると、その生命体の知力や体力を向上しつつ意のままに操ることができる。


 寄生方法は比較的弱いところ、人間では腹部を食い破り触覚を中枢神経に巻き付け操る。


 食い破った穴は硬い甲殻で守る他、知能が向上しているためにそれを覆い隠すように服を着込んだり、防護するための装甲をつけたりする。


 寄生された生命体は“ベンジリアン”としてオイリクロプの配下に付くといったものだ。


 彼は全宇宙に拡散させ、メイスリースィミクをこの世から抹消しようと考えた。


 しかし彼女もまた、彼の思惑を打ち破る秘策を考えていた。それは全ての力を後世のために託すことである。


 ビック・ブラスト計画。これがメイスリースィミクが考えた秘策であり、最善策だった。


 この計画は宇宙を一瞬にして滅ぼし、その膨大なエネルギー全てを後世の神に与えるという想像をはるかに越えたものとなっていた。


 ただ身勝手に任せるというものではなく、計画実行日までにメイスリースィミクが力の限り演算した術式を用いて必ず悪無き神への委譲が完了する。


 そして旧暦999億999万999年9月9日9時丁度に計画は実行された。


 ビック・ブラストにより一瞬にして全宇宙が無の世界、無宙(むちゅう)となった。


 この時、メイスリースィミクの意識は術式の中だけに存在し、次段階へ移行すると同時に完全に消え去ることとなっている。


 ビック・ブラストから幾何かの年が流れて遂にその時が迫る。


 ビッグ・バン計画。これがメイスリースィミクの考え出した新たなる宇宙の創造と拡大の計画だ。


 同時にひとりの神を生み出した。それがアークという男神(おがみ)だ。


 彼を生み出した直後にメイスリースィミクは無に消え、アークは新時代を作るために計画を実行に移したとされる。


 そして彼はひとりよりも複数人の神で管理する方式を編み出し、それがアークファミリアの生まれた所以(ゆえん)である。


 そのアークファミリアを作る過程で膨大な力を持つアークが11人の神を作り出す上でそれぞれに力を分け与えた。


 均衡になるよう力を分配するがミスを仕出(しで)かしてしまう。


 思った以上に力が残ってしまい11人では収まりきれないことが発覚した。


 当初は8人目を双子にして解決しようとした。しかし既に9人目を作り出し、あろうことか双子のひとりを10人目としてしまった。


 これはアークファミリア最大の誤算のひとつであった。しかも双子にはメイスリースィミクの核ともなる力を保有していることが分かり、アークは苦悩する。


 だが、まさか双子に分配したとは思うまいと邪な考えに走り、これ反故にした。


 これがウェーンライトとヴィクトリア誕生の秘密である。


 のちにヴィクトリアはアークよりも勝らん力を身に付けることはまた次回に語らせていただこう。


 以上のようにして、アークファミリアが誕生した経緯が分かれば幸いである。


 アークのお茶目な結果がハチャメチャな結果になることはメイスリースィミク当人も予想しなかったであろう。


 神も万能ではない、ミスをするということが一番の味噌であるだろう。


 さて話を元に戻し、何故老人がウェーンライトについて聞き出そうとしているか、であるがそれはアルバムの中に答えがあった。


 アルバムの真ん中辺りに祭典の日誌があった。


 惑星アーク最大の祭典であったようで、アークファミリアが人類に対して全権を委譲する儀式が執り行われたという。


 これによると初めて星歴が使用されたとある。つまりこの祭典は星歴0年1月1日に行われ、人類が神の手を離れ独り立ちをした日なのである。


 その歴史ある1日にレゴメが関わっていた。


 当時、星を統治する星帝(せいてい)に就いていたウェーンライトがレゴメを訪れ、魔法道具を購入する写真と記事がアルバムに残っていた。


 ウェーンライトは魔法省の事件でも星帝であり、今でもその役職に就いている。しかしながら表向きは複数の偽名を繰り返し使用して不信感を抱かせないようにしているようだ。


 人類が独り立ちをしても未だに神が裏舞台で鎮座しているイメージを拭いたいのか、それとも他に意味があるのかは分からない。


 だがひとつ言えることはメイスリースィミクがアークファミリアに託し、ビック・ブラストやビッグ・バンの拠点となり、最初に出来た星がこの“アーク”だ。


 この星はアークファミリアにとって最重要であることが伺える。さらに宇宙の創造主であると全宇宙に知らしめる重要なことでもあろう。


 老人はヴィクトリアにもう一度詰問する。秘密を守り通すことは出来たのだが、彼女自身もアルバムの詳細を知りたかった。


「ウェーンライトはボクの兄です。一応」

「つまり、おまいさんは……」

「ボクはヴィクトリアと言います」


 老人は涙ぐみながらに語る。


「ワシは幸せ者じゃい。生まれてこの方、大病を患わず、孫にも恵まれ、人生の終活中神様に巡り会えたのだから」


 大袈裟な気もするが彼にとってはそうなのだろう。確かに神と出逢う確率は人生の中で少ないかもしれない。


「ところでなぜウェーンライトが写真に?」


 彼女の中では一番の疑問点がそこである。そもそも写真がこの時代にあるのも不自然であった。


 今でこそアーク連邦の技術を持ってこそカラー写真が当たり前のように使用されているが当時はまだ彼らに技術は無い。


 考えられるのはウェーンライトだ。彼自身、もしくはアークファミリアの最先端技術で撮影されたものとなる。


 先述した通り文明は繰り返されている。当然アークファミリアは旧史時代までの技術は持っているため扱いが出来るのだ。


 だがそれらを歴史を踏む前に人類へ与えてしまうと危険である。早期の段階で文明が滅ぶ恐れがある。


 その為にアークファミリアの技術は人類に供与しないことが暗黙のルールとなっていたのだが、ウェーンライトは破っていたのだ。


「あいつはホントにバカなんだから」

「どうかされましたか?」

「あぁ、いや、こっちのこと」


 ヴィクトリアとウェーンライトの関係はそこまで良いという訳ではない。とにかく何かと衝突が多く、まるでカーサスとの関係に似ている。


 その反面互いを信頼しているため団結時は最強と言えよう。


「この写真はアークファミリアの技術厰から撮られたものらしく、ウェーンライト様の計らいにより与えられたと代々受け継がれて参りました」


 店主が説明する。なんでも魔法道具を新調すべく訪れたようで、その様子を克明に写し出していた。


 何ページにも渡り、当時のことが描かれておりウェーンライトだけでなくレゴメの従業員や祭典のことも記され、このアルバムだけでも歴史的価値は十二分にあると断言できる。


「私ども、アークファミリアは神話でなく実在するものと教わって参りました。こうして再び相見(あいまみ)えんこと恐悦至極であります」


 こちらも大袈裟な表現で語る店主に苦笑を浮かべる。


「カイル、ヴィクトリア様は何を注文なされた」

「杖や箒などの魔法道具一式です」

「ワシがやろう。人生最期の大仕事じゃわい。どゅわっはっはっはっ」


 店主カイルの師でもある老人はダニー・ジャクソン。元店主であり父親だ。


 数年前に引退し終活中である。ここ最近は散歩をしながら残りの人生を楽しんでいるという。


「ヴィクトリア様、お宿はどこですかい?」

「まだ決めてない。この辺りをぶらぶらしてから決めようと思ってるんです」


 するとある提案を上げる。それは老人ダニーの妻が使っていた部屋で寝泊まりをすることだった。


「宿泊代はタダじゃぞ。好きなだけいてくれて結構じゃ」

「でも奥さんが迷惑するでしょうに」

「妻のハンナは(とう)の昔におっちんだわい」


 聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして謝罪する。


「別に気にせんで良いわい。それより使ってくれるじゃろ?」

「はぁ、それではお言葉に甘えて」


 折角の厚意に甘えることにする。ヴィクトリア自身、魔法道具の製作風景やアルバムのこと、レゴメのことを知りたかった。


「そいじゃ、マミや!」

「マミ?」

「私の娘であります」


 店主カイルが補足する。先程言っていた孫であろう。


 ダニーに呼ばれてから直ぐに姿を見せる。


 茶髪で頭の後ろをひとつ結びで髪を結い、華奢な体付きだが明朗快活で元気な少女だ。


「何、お爺ちゃん」

「お客様じゃ。妻の部屋を使うから掃除を頼む」

「うん分かった。お客様、今暫くお待ちを」


 素直で気立ての良い少女。実は彼女、父親のカイルの下で技術を学び、行く行くはレゴメを次ぐという。


 現在彼女は19歳。既に婚約者がおり、近々結婚式を挙げるという。


「ただいま戻りました」

「おぉポール。お客様に茶を持てい」

「あ、はい」


 ポール・キエフ。マミの婚約者で22歳の好青年。ブロンドの短髪、瞳は碧眼。


 結婚後の姓はキエフではなくレゴメの跡取りとなるべくジャクソンを使うことに決めている。


 ダニー最後の弟子であり、今はカイルが面倒を見ている。


「粗茶でありますが」

「ありがとう」


 とはいえ、魔法省にも献上されている大和帝国産の高級緑茶“超能緑茶”であった。


「美味しい。何だか貴賓みたいな扱いで悪い気がする」

「そうじゃよ。ワシらにとって、あいや……全人類にとって偉大なるお方じゃぞ!」


 またまた大袈裟に語るも笑い話になって良好な関係を築き上げることに成功する。


「お待ちどおさまです。ご案内致します」


 ヴィクトリアは少女マミの後に付いてダニーの妻が暮らしていたハンナの部屋を訪れた。

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