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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第38話「歴史」

 一行はとある国にてアークファミリアの敵、堕落民族と交戦。しかし彼らの抵抗はなく、最早殺戮に等しいものであった。


 リンとワトソンは自分たちの行いが正しいのか自問自答し、一行は行き詰まる。


 休息のために皆はそれぞれ思い思いの場所へ出掛けるのだった。


 リン・アサカゼは、ノースライン共和国の首都サンタクルズにある港町クルスへ。


 ハンマー・ワトソンはアーク連邦の首都コールスマンウィンドウにある国立図書館へ。


 そしてバーン・カーサスは生まれ育ったかつての村、彼自身の原点ともいえるとある村へ帰郷していた。


 彼らが傷心の中、元凶ともなったヴィクトリアというと初めて入国する、ヨルドバド=ユードバド共和国にいた……。



 星歴911年5月11日、ヨルドバド=ユードバド共和国。時刻は昼過ぎの28時。


 ヴィクトリア青年は初入国のヨルドバド=ユードバドに少し興奮していた。


 入国する時も入国管理官に魔法が使えるか訊ねられた他、魔法道具などの手荷物検査をした。


 ヨルドバド=ユードバド共和国は国の周囲を大きな城壁によって護られ、出入国のゲートも1ヵ所しかない。


 パスポートか身分証明書などが必須で所持していないと入ることができない。


 入国して初めて目の当たりにするのが科学的な乗り物が無く、ホウキに跨がり空を自由に飛んだり、絨毯を使ったりと魔法の世界さながらだ。


 とはいえ、惑星アーク自体が最早ファンタジーな世界観故に驚くことはないのかもしれない。


 青年が興奮しているのは魔法に関するありとあらゆる店が立ち並んでいるということ。


 魔法の国ヨルドバドとは良く言ったものだ。


 この国で新しく魔法道具一式を新調しようとしていた。


 実に911年振りに新調するものもある。例えば魔法の杖などが該当する。


 術式用のチョークや魔法薬、魔法石なども買い換える他に最新の魔法道具を揃える絶好の機会だ。


 入国管理局へ立ち寄った際に貰ったガイドブックによるとマジカルナバナという店が老舗で取り扱いが豊富なのだそうだ。


 しかし青年は別の店にした。ガイドブックに載っているということはそれなりに人も多く、予約でいっぱいかもしれない。


 いくら時間のある不老の青年だろうと限度がある。


「ここ……にしよう」


 長年の研ぎ澄まされた経験と勘、とはいえ後者が大半を占めるがヴィクトリアの選ぶ店の名は“レゴメ”。


 3階建ての立派なレンガ造りのその店は、周囲の建物に溶け込んである種の風景画となっていた。故に意識していなければ通り過ぎてしまうところだ。


「創立は……」


 立て看板には歴史的祭事やこの国の成り立ちと共に辿ったことが書かれている。


「おぉ、すごい。B.A.85年に出来たのか」


 今年は星歴911年、A.A.911年である。“A.A.”とはアニバーサリー・アークの略である。


 そして“B.A.”とは星歴の前、つまり紀元前のことである。


 このレゴメという店は996年の歴史を持っているのだ。


「待てよ」


 ガイドブックによると老舗魔法道具店のマジカルナバナは創立881年。明らかに讃えられるべきなのはレゴメではないか。


「なーんて考えるのはやめよ。赤の他人の歴史なんて興味ないし」


 木で出来たドアを開けチリンと鈴が鳴る。静かに閉めると中へ進んでいく。


 店内は天井まで高く聳える棚があり、ところ狭しと魔法に関係のある本や道具が並べられてあった。


 しかし通路は狭く大人1.5人分くらいの幅だ。大勢で訪れる場所ではないようだ。


「ごめんください」


 そう言いながらカウンターの前まで進む。店内にいる客は青年ただひとりのようだ。おまけに店主はおらず途方に暮れる。


「店開けて出ていっちゃうほど自由なトコなのかなー」


 今度は少しボリュームとハリを上げてから、

「ごめんください、どなたかいらっしゃいますか?」

 店内や店の奥にも聞こえるように声を上げる。


「あいあいよ」


 男の声が遠くから聞こえた。少し慌てた様子でやって来るなり何度も頭を下げている。


「申し訳ない。飯、食べてたもので」


 どうやら食事中だったようだ。ヴィクトリアは自前の懐中時計を懐から取り出し時刻を確認する。


「うん、確かに28時30分過ぎだな」


 この世界では1日が48時間である。つまり2で割った時間が正午であることから24時がそれである。


「すみません、昼時に」

「いやいや、構いません。それで何をご所望で?」


 現在所持している杖を再利用して新たな杖にすることや魔法陣用チョークなどの道具を新調したい旨を伝える。


「どのくらい掛かりますか?」

「杖のお代は大体350万ドバドルになります。オーダーメイドになりますので約2ヶ月掛かります」


 全世界共通通貨であるアークドルで換算すると3500アークドルになる。因みにチョークなどの魔法道具もオーダーメイドとなると最低でも3ヶ月。費用も5000アークドルに上ると見られる。


「如何なさいますか?」

「構わないよ。時間とお金はたくさんある。丁寧に仕事をしてくれればそれで良い。お願いします」

「畏まりました」


 代金支払いは3割が前払い、残りの7割は商品お渡しの時にと言われ1500アークドルを支払うことに。


「杖を拝借」

 手渡すと使い込まれていることや職人が作ったことを指摘される。


「良い仕事しておる。」


 次に体の一部、例えば髪や爪、血などを要求。


 これは使用者専用の杖に必要なもので、使用者自身の体の一部を使うことで魔法力の使用量や消費量が格段に向上する。


「チョーク用にも使ってください」


 そう手渡すと驚かれた。血肉がややこびりついた骨を渡されたからだ。


「これはどこのもので?」


 ヴィクトリアは自分の胸に手を置いた。それは心臓に一番近い肋骨なのである。


「ひゃぇ、珍しい。その場所を提供するお客様は中々おりませんぞう」


 事前に手術で胸を開くか、専用の魔術で引き抜くかの2択だ。


「チョーク以外の道具は他に?」

「これとこれ、それからこれも」


 箒、絨毯、そして魔法力を増幅する魔法石。こちらは天然の物を。


「畏まりました。ではこちらに氏名と年齢を正確に、そして身分の分かるものをご提示下さい」


 氏名は本名を書く。これはのちに魔法道具内部に組み込まれ使用者専用のものとなるため直筆のサインが必要なのだ。


「ヴィクトリア・ギャラクシー様でございますね」


 年齢は容姿年齢というこで17歳と書く。実年齢は最早本人ですら覚えているか危うい。


「お若い。まだまだピチピチの青春時代真っ盛りですな」


 身分証明としてアーク連邦のIDカードを提示する。これはひとりひとりの命に等しい重要なカードである。


 しかしながら不老不死である彼女は生年月日の記載が不明と書かれている。


 その代わりに特記事項として記載のない部分があっても“二等国民”に類別すると記載されている。


 二等国民はその国の国民であるが期限付きである。それ故に税金は一等国民の2倍納税し、投票権もない。期限は発行から10年。


 これらの制限を一切逸脱することのない人物のみ生年月日や偽名でも有効なIDカードなのである。


 因みにひとりにつき1枚までが所持でき、発行時に二等国民だった場合に限り、一等国民へ昇格する際に規定の審査が必要である。一番でも一等国民への履歴がある場合はこれ限りではない。


「ご提示ありがとうございます。こちらが控えになります」


 商品お渡しの見込みは星歴911年9月11日から10月11日までと書いてあった。


 ひとつきしか受け取りの猶予がない理由は万一利用者自身の都合でキャンセルした場合、完成したばかりの魔法道具であれば魔法石への変換が可能であるからだという。


「変換には特別な資格と権利が必要だったはず」

「良くご存知で。当店は魔法省認定の優良販売・変換店としてやっております」


 これは驚きだ。魔法省認定の証書とマークが店内カウンターの片隅に堂々と飾られていた。片隅に。


「魔法省の認定は厳しかったはず。一国にひとつ有るか無いかだったような」

「いやいや、普通に営業しているだけですよ」


 良く見るとカウンター奥の壁には魔法省の大臣の肖像画や有名人の直筆のサインが飾られていた。


「多くの大臣がこちらを贔屓にして頂きまして、長いことやって来れました」


 その中にハーヴィーのサインもあった。かつて共に戦い、永遠の友として認めあった彼のサインが。


「懐かしい」


 つい漏らしてしまう。店主は疑問に思いながらも話を戻す。


「それではお預かり致します」

「うん。よろしく」


 店を去ろうとドアまで歩くとチリンチリン、ベルが鳴る。


 目の前に真っ白な髭を蓄えた老人が藜の杖を付きながらこちらへやって来る。


 だが何分狭い通路故、道を譲ろうとも思い切り身を細める他なかった。


 どかどか近付く老人。容赦せず真横を通過。


「はぁ、やっと行った……」


 と思いきや青年の近くまで駆け寄る。意外と素早い身のこなしに少々驚いた。


「なんでしょうか?」


 まじまじと見られ気が引けてしまう。


「おぉ、おまいさんは……」


 声と体を震わせるや否や、

「おぉい、カイル! カイル!」

 誰かの名前を呼んでいる。その声に釣られてカイルが出てきた。先程の店主である。


「カイル、アルバム集第0巻をはよ持てい!」

「はい直ちに」


 なんのこっちゃ。そう思いつつ青年は抜き足差し足、忍び足で逃げようとするも藜の杖で阻まれた。


「行かせはせんぞ。おまいさんには聞きたいことが山程あるわいな」

「は、はぁ……」

「カイル、まだかいな! カイル!」


 老人とは思えぬ声量で店内中に響き渡る。杖を床に叩いて苛立ちを募らせる。


「カイル!」

「ただいまお持ちを」


 薄汚れたアルバムを手渡した。文字は薄くなっていたが、“レゴメ記念誌”と書かれているようだ。


 どうやらこの店の創立時代からの記録がこれに纏められているらしい。


「どれじゃ、どれじゃ……これこれじゃ!」


 老人はアルバムから何かを抜き取る。杖を青年に翳して詰問する。


「おまいさん、名は?」

「突然、何!?」

「名は、何と言うのじゃ!」


 鋭い眼光を浴びせる。杖はぷるぷる震え息は荒々しく吐いていた。


「ヴィ、ヴィンセント・ギャラント……だけど」


 偽名を使った。しかもラストネームだけでなく、ファーストネームの男性名までもを用いて。


 ヴィクトリアの容姿はワインレッドのポニーテールだけどもスラッとした体格から一見、男性のように見える。さらに話し言葉は男言葉を多様し、一人称は“ボク”と称す。


 彼女自身も、昔から男のように振る舞って見せている。その理由は女だとナメられたり、弱小だと罵られるなどするからだ。


 古来、男が強く女は弱いという風潮がどの国にもある。そんな理由から偽名を使っている他、本名を使うと神であることが気付かれてしまう可能性がある。


 ギャラクシーという姓は唯一無二の存在だ。この姓はアークファミリアだけのモノである。


 咄嗟に付いた嘘も店主のカイルに見破られる。先程のサインで本名を書いてしまったのだから。


「彼の名前は違いますよ、お父さん」

「分かっとるわい、バカモンが。ワシには分かるぞい」


 この老人、店主の父親のようだ。大人しい息子とは正反対の性格の持ち主である。


「そいでヴィンセントさんとやら……」


 ゴクリ。唾を飲む青年に老人は衝撃的な言葉を発する。


「ウェーンライト・ギャラクシーという名に聞き覚えは無いかのう?」


 ウェーンライト・ギャラクシー、アークファミリア8番目、雷を司る神である。何故老人がそんなことを。


「実はおまいさんによーく似とるんよ、この写真の男がのう」


 古びた1枚の写真に紛れもないウェーンライトの姿が写っている。これは一体全体、どういうことなのだろうか。

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