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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第37話「人生の転換点」

 星歴911年4月27日、一行はとある国へ来ていた。

 そして大勢の人々を殺し合っていた。子供から大人まで、女や老人、赤ん坊までも。

 彼らは(アークファミリア)を裏切ったゲスチオンヌの末裔、堕落民族。

 (アークファミリア)が唯一残してしまった汚点をこの世から抹殺すためにヴィクトリアらは旅をし、そして彼らを殺戮する。

 それがヴィクトリアの使命であるからだ……。


 星歴911年5月2日、とある国の国境付近に流れる川で彼らは水浴びをしていた。


 川上からは血の混じった水が流れてくる。彼らもまた返り血を浴び、それらを流している。


 ヴィクトリアはいつも通りに見えるがカーサスやワトソン、リンはどこか暗く口数も全く無い。


 川から上がり、最初の一言目を発したのはワトソンだ。


「僕たちがやっていることは正しいのかな」


 その言葉にカーサスが食って掛かる。


「俺たちはそのために下僕になったんだ。何を今更に!」

「分かっているよ。分かっているけど……」


 生まれて間もない乳飲み子や何の抵抗もしない子供や母親、老人を無差別に殺戮する自分を省みての発言だった。


「正しいんだよ」


 リンが呟いた。しかしいつものように元気がない。覇気を感じられない。


「あたしくらいの子供があたしを掴んで命乞いをしてきた。けれどこの子たちは過ちを犯した先祖の子。心を鬼にして、そう……」

「それが間違いなんじゃないのかな」


 殺して解決するとは思えない。寧ろ逆効果だとワトソンは語る。


 しかしヴィクトリアの肩を持つカーサスは真っ向から否定。彼女が正しいと持論を展開。


「君は心の奥底からそう思っているのかい」

「っ……」


 気付けばカーサスもリンと同じように迷いながら殺戮をしているようになっていた。


「ヴィクトリア、僕たちがやってることは本当に……正しいのかな?」


 ワトソンが訊ねる。聞いてはならないタブーな存在であることは承知の上だ。


 しかしどうしても聞きたかった。本当に正しいのか、間違っていないのか、正すべく。


「正しいよ。ゲスチオンヌは生きてはいけない存在。彼らがこの世から消えるまで、例え戦うのがボクだけになっても殺し続けるだけさ」


 その言葉で皆はさらに暗く会話も儘ならない。それを受け止めたヴィクトリアが皆に1年間の休みを与えることにした。


 1年間、心身ともにリフレッシュ。そして待ち合わせ場所はここから程近いポラリス公国。


「それまで自由行動。元気でやるんだよ」


 その言葉にヴィクトリアらは初めてひとり行動を始めた。これが良い方向へ行くことを願い……。



 5月5日、ノースライン共和国は首都サンタクルズ。


 ここはライン協和国の中でも一番貧しい首都。しかし心が穏やかにもなれる町。


 皆が助け合って生きている場所。


 そこに赤髪の少女リン・アサカゼの姿があった。


 港町であるクルス地区から湾岸線を歩いている。


 この地区は漁業が盛んで浜辺から道路を挟みレンガ作りのカラフルな家々が建ち並ぶ。


 昼食が終わり、浜辺では子供たちが無邪気に遊んでいる。母親たちの談笑や老夫婦の散歩、壮年たちのジョギングや釣りなど様々だ。


 潮風が吹く度に、短い髪が揺れ表情は寂しく哀しんでいるようにも見える。


「おねーちゃん、これぇ」


 ひとりの小さな女の子が美しい虹色に煌めく貝殻を渡してきた。


「おねーちゃん、なんか元気がないからあげる!」


 屈むリンは、優しく微笑み手のひらに乗せた貝殻を取ろうと腕を伸ばす。


 だが突然小さな女の子は鬼のような形相で睨み、口や頭から血を吹き出して唸る。


「殺してやるぅ!」


 糸が切れたようにリンは尻餅を付いて怯え瞬きをする。次に目蓋を開けた時にはそんなものはいなかった。


 一時的なフラッシュバックだったのだ。


「だいじょーぶ?」


 心配そうに駆け寄る女の子にお礼を言って貝殻を受け取る。


「ばいばーい」


 手を振る女の子。心配させないように笑顔で母親と手を繋いで遠ざかる子供に応える。


 見えなくなったところで海を臨む。水平線に目をやりため息を吐く。


「しっかりしなきゃ、リン。覚悟したはずだ。ヴィクトリアと共に生き、苦しみも哀しみも乗り越えるって……」


 言うのは簡単だ。だが行動するのは難しい。


 彼女は自分が怖かった。このまま感情を忘れて幼い子供や乳飲み子、老人を平気な顔をして殺戮していく自分を。


「どうすれば良いの、お母様」


 思わず漏らす少女。弱気になる彼女は珍しい。


 ここまで精神に負担を掛けてしまうことは相当な殺戮だったのだろう。


 目を瞑れば死んだ彼らが襲い掛かる夢を見ることもあるくらい、精神が不安定になっているのだ。


「あたしはどうすれば良いのさ……」



 ところ変わって、こちらはアーク連邦の首都でもあり星都でもある、コールスマンウィンドウ。


 立派な高層ビルが建ち並ぶアーク中央庁にハンマー・ワトソンはいた。


 見物とアーク最大と言われる国立図書館へ向かうところだ。


 約100階建てのビルディングが碁盤の目のように建つ様は国力を見せ付けられている様でもあった。


 その中でも大きく開けた1ブロックにこれまた大きな建造物があった。


 天辺の高さは分からないが雲をも突き抜ける星廳と呼ばれる建物だった。


「これが国家と星を纏めるために設置された中枢部の星廳です。高さや階数は公にされていませんが、およそ501階であると語られています」


 観光客がガイドの説明を受け、それを聞いていたワトソンが頷いている。


 かつて魔法省や星廳を部隊にした戦いを耳にしたことがあり、ここが激戦の地であったことを認識した。


「石碑もある」


 当時の新魔法省の大臣だったハーヴィーが記した記念碑だ。


“平等たる魔法を、平等たる命を、平等たる愛を。多くの命が皆平等であらんことを”


 記念碑の横に銅像が建っており観光客のようにワトソンは眺めては去っていった。


 その記念碑の近くには記念館も建っていた。そのエントランスの大きな絵画にハーヴィーとかつて共に戦った仲間が描かれている。その中にヴィクトリアとカーサスも描かれていることは誰も知らない。


 国立図書館へ着いた彼は神話の棚に一直線。普段は医療関係の専門書を読み漁るのだが、今日は違った。


 神話やアークの歴史について読み漁っている。


 もっと詳しくヴィクトリアだけでなく世界やアークファミリア、延いてはゲスチオンヌとの歴史を知りたいのであろう。


 しかし、やはり“人間”が書き手の書物には(アークファミリア)が善、ゲスチオンヌが悪としか書かれていない。


 以前にヴィクトリアから聞いた話によると、ゲスチオンヌとは今の人間を作り出す別の神となるポストの総称であった。


 ゲスチオンヌはアークファミリアと同じ不死身の不老不死である。この他にもアークファミリアとの能力値は2分の1以下ではあるが決して低くはない。


 故に彼らは神を殺し、自分たちが神になると考えたのである。


 ゲスチオンヌの中で最初に誕生したセルヴィアはその機会を伺う中で妻と出逢い、子を授かる。その子供としてヴィクトリアの永遠なるライバル、シルヴィアが名を連ねる。


 彼らはある程度の子孫を作り出し、アークファミリアは悪だと秘密裏に教育と戦闘訓練を施した。


 次にゲスチオンヌがのちの堕落民族となる通常の人間を生み出す工程に置いても、“アークファミリア=悪”だと植え付け自分たちの帝国を築き上げていく。


 そして遂に反乱の時を迎える。


 長き渡り攻防が繰り返され、戦闘の最中でセルヴィアの妻が殺される。


 さらにセルヴィア本人も致命傷を負い、ゲスチオンヌ側は滅びの道を辿ったという。


 しかしシルヴィアや他のゲスチオンヌたちの尽力により(しゅ)、つまりは堕落民族の滅亡は免れた。


 そして今なお、シルヴィアらを筆頭にアークファミリア討伐を目論んでいるのだ。


 とはいえ、ワトソンは納得の行かない点がある。交渉の余地や共存共栄の道は無いものか、ということである。


「やっぱり自分たちが神になりたいのかな」


 数百冊の書物を読み漁り漏らす彼に職員が尋ねてきた。


「間もなく48時、つまり日を跨いで0時になります。当館は48時間営業ですが、お休みになられては如何でしょうか」


 昼の26時過ぎに入館してから、気が付けば22時間も読み(ふけ)っていたことになる。


「地下3階に有料ですが個室のレストルームが御座います。10冊迄でしたら貸し出しも出来ますが」


 お願いすることにした。そうしてワトソンは地下へと降りる。



 時同じくして、アーク連邦から東へ離れたとある村に少年バーン・カーサスはいた。


 荒れ果てた教会の中でテントを張って眠っていた。


 静寂の時が流れて彼が目を覚ましたのは昼過ぎになってからだった。


「寝過ごした!」


 実は丸1日を掛けて、この場所へ辿り着き夕食も取らずに眠ってしまったのだ。


 とにかく腹が減ってはなんたらかんたらというもので軽食として乾パンとミルクを食べた。


「さて、やるか」


 食事が終わると教会の中と外の雑草を抜いたり、埃を叩き掃除をしていた。


 夕暮れになると作業を終えた彼は村の近くの坂を上り、崖の上に聳える大木の前にいた。


 眼前には夕焼け色に染まる空とランカスター連峰、気持ちの良い風に揺らぐ木々と廃墟と化した村の全景が見える。


「エリー……」


 つい呟いてしまう少年。


 この場所は、少年カーサスが育った場所だ。


 ヴィクトリアと出逢うまで、この丘の近くに建つ孤児院で暮らしていた。


 当時、今の暮らしより遥かに貧しく惨めであった。孤児には市民権や人権というものが与えられておらず、ゴミ同然か虫けらのように扱われていた。


 今は少しずつではあるが改善はされているようだ。


 少年はいつかこの世から孤児を無くす。そういう思いで旅をしている。


 旅を始めた切っ掛けは、村に盗賊が入り焼き討ちに遭ったためだ。村全体の生き残りは少なく、孤児院や教会は消失した。


 先ほどの教会には孤児院の院長が亡くなった場所でもあった。


 カーサスにも暗い過去はある。だが今は死んでいった家族のためにも精一杯、夢に向かって突き進んでいるのだ。


「ただいま」


 孤児院が建っていた場所は今、桜の巨木が立っている。


 時期は遠に過ぎている筈だが花を咲かせ、まるで彼を歓迎しているかのようだった。


「久しぶりだよな。これ土産だ」


 酒や旅先で撮った写真などを供える。


 おまけに夕食がてらひとりでどんちゃん騒ぎを始める。


 村には誰もいないため問題ないが傍から見れば異常者に見えること間違いなし。


「ねぇねぇ起きてよ」

「はにゃ?」


 少女に起こされる少年。彼女はエリー。少年の初恋の人物だ。


「旅の話を聞かせてよ」

「おう、良いぜ」

「ワシにも聞かせてくれ」


 院長先生もやってきた。それだけではない。村の子供、デンやダンも聞きに来た。


「――そいでよ、ヴィクトリアがホントにアレなんだよな! むにゃむにゃ――」


 桜の巨木の下で酒瓶を抱えて眠りこけるカーサス。よほど良い夢を見ているのだろうか。


 見たこともない笑顔で喜んでいる。それを微笑ましく見つめるのは桜の木であった。



 皆が思い思いの場所で休息を取る一方、青年ヴィクトリア・ギャラクシーもたったひとりで旅をしていた。


 行き着いた場所は初めて入国するヨルドバド=ユードバド共和国だった。


 魔法道具が主要生産物で青年は一式を新調すべく、老舗の道具屋に入店。魔法道具を購入するのだった。

 一部内容を変更して描いている箇所があると思いますが、最新の内容が正しいのでご理解とご協力のほど宜しくお願い申し上げます。

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