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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第36話「スンバラシー」

 星歴893年5月10日、一行は極悪非道たるグングニル盗賊団を壊滅せし。一路、カゲキ共和国を離れんとしていた。

 しかし一躍有名人となったカーサスは、国民から様々なお礼を貰って中々進めずにいた。

 そんな中、ヴィクトリアが人混みの中で昔に出逢った旧友ハーディーン・ローレンスと再会。

 楽しい会話で盛り上っていたがカーサスは気に入らずワトソンを連れて飛び出してしまう。

 カーサスは居酒屋“トラバコ”でワトソンを抱き込み暴飲暴食をしていた。遂に閉店時間を過ぎてしまうもカーサスは離れようとしない。

 見兼ねたワトソンは店を去るも怪しい男らが何やら不穏な会話を耳にする。

 さらにカーサスが囚われの身になった他、ハーディーンも人質となっていた。 応援を要請しようとホテルへ戻ってきた矢先のことだったのだ。

 ヴィクトリアとリンは救出に、ワトソンはひとりホテルへ残された。

 斯くして彼らの運命やいかに……。


 合成麻薬“スンバラシー”。多量に服用してしまえば忽ち幻覚が見えるようになってしまう。


 この麻薬の生成方法は魔法石と幻覚剤を1対9で作ることができる。特殊な生成魔法陣を用いることで誰にでも作れるが技術力は高い。


 天然魔法石、人造魔法石、そして化学魔法石でそれぞれ生成魔法陣が違う上、天然のものは難解になる傾向がある。しかし天然のスンバラシーは希少価値が高く、なにより気分や体調をすっきり爽やかにしてくれる効果がある。


 その反面、一度使用すると中毒症状が起きる。そして何れは天然の魔法石となる。


 人造と化学魔法石を使った場合は死に至るだけである。


 そんなスンバラシーは殆どの国で使用及び製造、服用を禁じている。何れかに該当する者ならば、鎖に繋がれ禁固8万年はかたいだろう。


 店内に積まれた大量の木箱。その中身をふたりの男たちが確認している。


 中にはジャガイモがぎっしりと詰まっていた。確認し終えるとバケツ一杯に移し変え、そばの木で出来た椅子に座る。


 そしてひとつずつナイフを使って丁寧に皮を剥いてから半分に切る。


 切ると中心部に黒い種のような物体が詰まっている。これこそスンバラシーが入ったカプセルだ。


 転換魔法を用いてジャガイモの中身をカプセルに変えたのだ。外見上ジャガイモにしか見えないが、中身を割ると種があることからジャボカドと業界では呼ばれている。


 半分に切られたジャガイモは食材として使用される。カプセルが割れてスンバラシーがイモに付着しない限り、それ自体に幻覚作用を引き起こすことはない。


「今日は50キロ分か。少なくなったな」


 ナイフを巧みに操り皮を剥いでいく男が残念がる。


「しゃあない。グングニルが潰されちまったんだ。大手の取引先が無くなっちまった以上、仕入れも少なくなるぜ」


 暫く無駄話をしていると別の男ふたりが店の戸を開け酒樽を担いでやってきた。


「注文はもうねぇよ」

「新たなクチが入った」


 樽の中には頭に麻袋を被せられ眠らされた青年が入っていた。


「どこで手に入れた」

「ホテルの前だ」


 この青年、ホテルの前で拉致に遭ったハーディーンだった。


 なんでもホテルに程近い公園で偶々、風景画を描いている最中に取引現場を目撃されたらしい。


 とはいえ絵画に彼らの取引が描かれているかは定かでない。さらに言えばハーディーン自身も麻薬の取引現場を見ていたかさえ分からない。


 彼がホテルへ戻る途中に浚ったわけだがあろうことか、拉致する場面を目撃されたことから現在事件化されている。


 その事態を知った人物が店の奥からやって来た。


 煙管を吹かし、豹柄でチーパオのような服を着た女性が立っている。


「ユナ親分」

「あんたたち、ちゃんと確認してから浚いな」

「すんません!」


 ユナこと、ユナフィールド・ポクセルは、このトラバコの裏の経営者である。


 “裏”というのはこのトラバコ、実は表では酒類を提供する至って普通の居酒屋。しかし本当の正体は麻薬の販売や殺しを生業とする“ガマシガスリ”という闇の組織だった。


 ユナはこのガマシガスリの親分なのだ。そして店の表の顔には妹であるユラこと、ユラフィールドが担当している。


「ユナ、使えない子分は殺してしまうのが弱肉強食でなくって?」


 ユラに良く似た女性がワイングラス片手にやって来た。双子の妹だ。


「ユラ、どこでそんな言葉を」

「アタイはあんたの妹よ」

「アタシはそんな物騒な言葉は使いません」


 しかし少し考えると煙管の灰を落としがてら、しくじった子分に制裁を食らわせる。


「次は無いわよ」

「すひやへん、ほやふん!」


 頬を煙管で殴られ、何本かの歯が抜け落ちる子分。


 これでも先代のユカフィールドの制裁に比べればまだマシなものだ。しぐじれば電気椅子が待っているのだから。


「うぅっ……」


 頭を押さえて唸るハーディーン。浚われたことに気が付くまで暫く時間が掛かった。


「おや、お目覚めかい」

「意外とイケメンじゃんか」


 ユラが彼の頬を掴む。


「君たちは一体……」

「ようこそ、ガマシガスリへ」

「そしてさようなら、イケメンさん」


 状況が掴めないでいるが分かったことは殺されてしまうことだ。


 ヴィクトリアたちとは違い、彼は不死身ではない。不老不死であるが、致命傷を負えば死んでしまう。


「享年18、といったところかな?」

「28歳ですよ」

「あら童顔ね」


 ユナが部下の男に向かって頷いた。拳銃を懐から取り出すや否や、彼に向かって大きく振りかざす。


 グリップ部分を後頭部に当てて気絶させる魂胆のようだ。しかし邪魔が入る。


 店の戸が叩かれたのだ。その音に一同は黙り返る。


「どちら?」


 ユラの問いに都の奥からは老いた男性の言葉が聞こえる。


 部下に戸を開けさせるとそこには警察官の制服を着たふたり組の男が立っている。


 片方の男は少し痩せていて頼り甲斐のない警官で、もう片方はチョビ髭を生やして如何にも貫禄のある警官だった。


「あらコレミヨガシティ警察署の署長さん」


 それもそのはず彼はこの町の愛と安全を守る正義の警察官の総大将、コレミヨガシティ警察署長なのだ。


「開店はまだですわ」

「分かっておる」


 店内でジャガイモの皮向きをする男たちと樽の中にハーディーンが詰められている光景を見て全てを察した。


「君はここへいたまえ」

「畏まりました」


 警官をひとり戸の前に起き、署長は店内へと入っていった。


 警察官の親玉ともあろう男が土足でガマシガスリに踏み込み、ただでさえ秘密裏にしなければならないスンバラシーの摘出を目撃して逮捕しないいワケがない。


 そうハーディーンは思っていた。しかし逮捕どころかタバコを吹かしてユナに声を掛ける。


「あんたらがこの青年を拉致ったのかい」

「そうですわ」

「オーケー。あまり観光客を浚うんじゃないぞ」


 そうして一服を終えるとこの件は揉み消すことで双方は同意する。


「ユナちゃん、お宅の犬の躾はしっかりとした方が良い」

「分かりました。気を付けますわ」


 署長は戸の近くまで行くとユナに詫びを入れる。


「すまんが明日の取引の件なんだが、明後日にしてくれないか」


 明日、シャバタウンよりキャプテン・バクの来日が決まっているそうでその対応をしなければならない。取引とやらに構っている余裕が無いのだ。


「代わりに明後日の取引でもう100万出すよ」

「承知しましたわ。それでは明後日にお待ち致します」


 手を上げ挨拶を交わすと署長は店から去る。外で待つ警官からは次のスンバラシーの入荷を訊かれて明後日と答える。


 入荷日を聞いた警官は大いに喜び去っていった。


 この町の警察はガマシガスリのお得意様だったのだ。


 このことにハーディーンは酷く落胆する。正義の名の元に市民への愛と安全を守る警察官が実は汚職に染まり腐敗しているとは思ってもみなかった。


「さぁ続きだ。早くお前たちはスンバラシーを取り出せ」

「ねえねえユナ、早く殺ろうよ」


 ユラが待ちきれず姉の代わりに自らが拳銃を握りグリップで殴打する筈が銃口を彼の頭に向ける。


「止しなさい。殺すことはないわ」

「ユナはいつも甘いわ」


 撃鉄を引いて今にも撃ちそうだ。ところが突然窓がぶち破れ小柄の赤い髪の少女が複数の羽根が舞う中で現れた。


「やっぱりいた」

「何者だ貴様!」


 ジャガイモの皮向きをしていた男たちはサブマシンガンを取り出して少女に向ける。


「リンさん」


 少女はリン・アサカゼであった。ハーディーンの救出にやってきたのだ。


「小娘に何が出来るの。やっておしまい」

「どりやー!」


 男たちがサブマシンガンの引き金に手を掛ける。しかし店の入口の戸が爆発で吹き飛んだ。


「こんにちは」


 外から中へ入ってきたのは冷酷な表情を送るヴィクトリアだった。


 怒っている。ハーディーンはすかさず観察した。


「良くもハーディーンを」


 帯刀していた彼女の愛刀“神風”に手を掛けばったばったと敵を凪ぎ払う。


 そうしてユナとユラだけになった。


「ヴィクトリア、殺すな」


 リンによって助けられた彼が懇願する。殺すことより罪を償って生きてほしいからだ。


「ハーディーンをこんな目にした輩、許さないよ」


 そのまま切りつけ姉妹は床に倒れ込む。肩を落とした彼はよれよれしながらも姉妹に近付いた。


 しかし息はあった。部下たちも痛みで唸り声がしていたが命は助かっていた。


「峰打ち……」

「そうだよ。だって殺しちゃうと君が悲しむと思って」


 本当は彼を浚った罪、死を以て償うべきだと考えるヴィクトリア。しかしハーディーンの優しい心で彼らは命だけは助かった。


 その後、合同訓練にやってきたキャプテン・バクらに彼らは引き渡された。


 コレミヨガシティ警察の腐敗が明るみになり、自体を重く受け止めた政府は各都市に調査を行った。


 バグらから感謝と心ばかりのお礼を貰い、ヴィクトリアらはホテルへ戻った。


 ハーディーンのガマシガスリから受けた傷は既に完治しており大事には至らなかった。



 翌朝になり荷物を纏める傍らハーディーンとヴィクトリアは言葉を交わしている。


「助けてくれてありがとう」

「大したことはしてないよ。でもこれから気を付けないと」


 男ひとり旅も何かと危険だ。そう肝に命じておくようにアドバイスを受ける。


「じゃあお別れだね」

「そうだね。またどこかで、だね」


 これが永遠の別れになるかもしれない。またそうではないかもしれない。


 ふたりは堅く握手を交わす。その光景にカーサスが割って入る。


「元気にしろよな、ハーディーン!」


 昨夜、ごみ捨て場にバラバラ遺体となって遺棄され蘇生されたカーサス。見つけて助け出してくれた恩人を認めて、快く送り出す。


「カーサス君も」


 ホテルの表に出るとハーディーンは首都のあるボードウにヴィクトリア一行は隣国のサティ協商国へ歩み始める。


 ハーディーンとの再会はヴィクトリアにとって旅の中でも一番の楽しみだ。


 不老不死同士でも再び巡り逢うことは奇跡に近い。またいつか、彼と出逢えると信じ旅を続ける。


「また逢えるさ」


 ヴィクトリアの寂しそうな背中を見たワトソンが声を掛けてくれた。


「そうだよね」

「そうさ、生き続けていればいつかまた、きっと出逢えるさ」

「だから胸を張って前に進もう!」


 元気よくリンが引っ張って行く。そしてカーサスがからかい、ふたりは喧嘩する。


 仲裁に入るワトソン、いつものことだと見守るヴィクトリア。


 彼らの旅はまだまだ続く。


 ハーディーンの旅もまだまだ続く。


 次はどんな旅になるのだろうか……。


 つづく。

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