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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第35話「暴飲暴食」

 星歴893年5月10日、一行は極悪非道たるグングニル盗賊団を壊滅せし。一路、カゲキ共和国を離れんとしていた。

 しかし一躍有名人となったカーサスは、国民から様々なお礼を貰って中々進めずにいた。

 そんな中、ヴィクトリアが人混みの中で昔に出逢った旧友ハーディーン・ローレンスを見付け再会。

 楽しい会話で盛り上っていたがカーサスが気に入らずワトソンを連れて飛び出してしまう。

 ふたりに悪い気もしたがハーディーンはヴィクトリアとリンをお食事会に誘う。

 斯くして3人は高級料理店“ゴロサス”で夢のようなひとときを過ごしていた。

 ところ変わってカーサスたちはと言うとワトソンを抱き込みやけ酒とやけ食いを“トラバコ”という飲み屋でしていたのだった……。


「ヴィクトリアめー、あんな男とズッコンバッコンしやがって」

「彼とはしてないと思うけど……」

「俺は一度もしたことねーってのに!」


 丸テーブルに800ミリリットルは入るであろう大ジョッキ5杯、空の1升瓶が3本、そしてテーブルの下には4斗入っていたであろう酒樽1個が転がっていた。


 これらをたったふたりで一晩中飲んでいた。


「ヴィクトリアめ、あんな色男とつくつくぼうししやがって」

「その話は65回目だよ。それに彼とはやってないと思うよ」

「おんめぇも65回目だぞ、そーやって言ったの」


 夜も更けて客の入りが止まったところで店員が、

「申し訳ありませんが、そろそろ看板なんですが」

 さっさとこんなうざったらしい客を追い出したいところだったろうが、拒むカーサス。


「すいませんね。今連れ出しますから」

「えーじゃないか、こいつら残業すれば。おーい、酒くれ。飲みまくってすっべて忘れるぞー」

「カーサス!」


 言うことも聞かず酒を要求する。もちろん前払いすると、強調し金貨の入った袋を見せ付ける。


「ちょ、これはこれからの資金じゃないか」

「また貯めりゃ良いんだよ!」


 制止するワトソンをグーで殴る。そして金貨の入った袋を店員に投げ付け酒を要求した。


「クソっ、お前って奴は!」


 仕返しに奴を持ち上げると酒樽にぶちこんでぷりぷり起こりながら店を去る。それと同時に茶色のコートとシルクハットを着た男ふたりが来店する。


「今日はやけに遅いじゃねえか」

「この観光客が飲んだくれで」


 酒樽に突っ込んで気を失っている少年を指す。


「丁度良い。樽に入ってんだ、鉛入れて沈めてやろう」


 物騒な会話が窓の隙間から漏れる。それをワトソンが耳にしていた。


 実はヴィクトリアに任された以上、心配で店の外で待っていた。しかし男たちの会話を聞いて訝しがる。


「あいつら何者だ?」


 気付かれないように気配を消して静聴する。


「――にしても今日は儲かったんか?」

「何がだ?」

「その金貨袋」


 カーサスのものだ。大量に詰まった金貨袋を店員が持ち上げ説明する。男たちは薄気味悪い笑顔を見せるとカーサスを叩き起こす。


 その間に店員は戸締まりと部屋の明かりを消す。男たちは部屋の奥へと消えていった。


「マズイな。カーサスが何かの餌になっちまうな」


 金貨袋を持っているということは金蔓になると言っているようなもの。男たちのみならず店員もその良からぬ悪さに加わっていることから、店全体が表は酒を提供する居酒屋で裏の顔は悪の組織かもしれない。


「川の底に沈む前になんとか手を打たないと」


 しかし肝心の話が聞けない。どうにかして聞かなくてはならない。


 一方で店の奥に連れられたカーサスは拷問に遭っていた。


「他に金は?」

「ねーよ。有り金全部渡したじゃねーかよー」

「んだと、この口の聞き方は!」


 殴る、蹴る、煙草で焼きを入れられるのは当然のこと。他にも首絞めや針で体中を刺す拷問に少年の心は荒んでいく。


 それが朝まで続くとカーサスは死んだ魚のような目をして横たわっていた。


「どうやら死んじまったようですぜ」

「今日は何の日だ?」

「5月11日か……確か誰かの結婚記念日だったような」

「馬鹿、生ゴミの日だろうが」


 店員が肉包丁を持ってくるとカーサスの四肢を切断して行く。そして臼を使って体をぺしゃんこに。さらにスライサーやミキサーでバラバラに細かく砕き、動物の生ゴミと一緒にゴミ出しをする。


 この時点で外の集積所に店員がゴミとして投げ捨てているところをワトソンは目撃しているが、酒樽で沈められるのだろうと思い込み以後少年の行方は掴めなくなってしまった。


「ひとりでカーサスの救出は危険だ。それに彼らの情報がもう少し欲しい」


 暫く裏路地で待っているとリヤカーを牽いた大柄な商人と思しき男ふたりが酒樽を店内に入れていた。


「仕入れか。やけに時間が掛かっているな」


 昨夜飲み過ぎたせいで搬入に時間を要しているのだろうと思うことにした。


「あっ、出てきた」


 商人はリヤカーを牽いて去っていった。この後も何台かの商人らしき人物が来たりしたが情報という情報は得られなかった。


 だがしかし、カーサスの命が掛かっている。そう思い粘ると別の情報を耳にする。


 それは裏路地に面した厨房の辺りで聴くことが出来た。換気扇の隙間に意識を集中させる。


「今朝捕まえた男、どうするよ」


 煙草を吹かしているせいか換気口は煙たく、うっかり咳き込みそうになった。


「今の時間からじゃ人目に付く。夕方にでも川に沈めとけ」

「それまで監禁部屋だな。オーケー」


 どうやら新たに殺しが起きるようだ。カーサスも監禁部屋に閉じ込められていると予想した上で、彼はともに新たな人質を救う算段を付けるべく一度身を引いた。


 そして直ちにヴィクトリアへ知らせるべくホテルへ急行すると人だかりが出来ていた。


「なんだ? ちょっとすいません」


 人混みを掻き分けて突き進むとホテルの入口に警官がいた。それもひとり、ふたりではない。ざっと見渡した限りで10人ほどいる。


 ただ事ではないと感じた彼は近くにいた警官に何が起きたのか訊ねる。


 すると、ホテルの前で早朝にふたり組の男が人浚いを行ったようである。


 まさか先ほどの人質はこのホテルの宿泊客、若しくは通りすがりの人を狙ったものかと勘繰った。


「でも金蔓じゃなきゃ浚ってもしょうがないよな」


 ぶつぶつ呟きながら悩む姿に怪訝な表情を浮かべる警官。彼らの態度が変わり、そそくさとワトソンの周囲に警官が集まり出す。


 なんだか嫌な予感がしたため逃げる準備をすると背後から声を掛けられた。


「ヴィクトリア! それと、リン」

「あたしはおまけかよ」


 ふたりの姿がそこにあった。警官隊に囲まれ、今にも袋叩きに遭いそうだった彼を心配して呼び掛けたそうだ。


 因みにリンはヴィクトリアと人混みの影に隠れて見えなかったかわいそうな少女である。


「何かあったのかい?」

「着いて来て」


 ヴィクトリアとワトソンはホテルの中へ入っていく。少女は警官に彼が怪しい人物ではないことを告げて後を追う。


 ハーディーンの泊まる部屋へ入るとそこに彼の姿は無かった。


「彼はどこに?」

「それが……」


 事情を説明されて驚愕した。


 朝方、日の出の絵を描きにホテルを出たハーディーンだったが朝食の時間になっても帰ってこず。心配したヴィクトリアが探しに出ようとするとホテルの前に警官隊がいたという。


 複数人によってハーディーンが連れ去られた目撃者がおり、ホテル前の通りにも彼の画材道具が散乱していることから誘拐事件に発展した。


 奇妙なことに画材道具は散乱し破損したりしていたが絵は見付からなかった。犯人が持ち去ったものと見ていることから、何か絵に見られてはならないモノを描いてしまったのではないかと推測される。


「普通は写真だよね」

「彼は旅情の風景、特に見たままのありのままを描くのも好きだからもしかしたら……」


 肩を落とす彼女。心配で堪らないのだ。


 前にも述べたが彼は不老不死であっても不死身ではない。普通に致命傷を負えば死に至る。


「手掛かりがない……」

「目撃証言もホテル前で止まってるし」


 ふたりとも深刻な表情をしている。それが普通だからだ。だがワトソンは違った。


「実は犯人、分かるかも」


 その言葉に食い付く。特にヴィクトリアは顔面を近付け今すぐにでも吐くように言う。


「話すから、近付かんでくれ……」


 近付きすぎでふたりの距離は密着状態。あと数センチでキスをするところでもあった。チャンスだったのかもしれない。


 それからワトソンは時間を遡ってカーサスと今朝の一件を説明する。


「つまりカーサスは何者かに捕まり、今朝方にもある人質が連れられてくるなり両者酒樽に詰めて川に沈めるって言うことだな?」

「大方そんな感じだと思う」


 カーサスはともかくとしてハーディーンまでも川に沈めるなど言語道断。ヴィクトリアは怒りを露にし、リンを連れて押し込みを図る。


「待って。あそこは何かヤバい気がするんだ」

「何が?」

「グングニルと同じ匂いがする」


 まさかカニバリズムや臓器売買を行っているわけでも無かろうと思うが、ゴロサスで人肉を食す文化や伝統があるなら裏側でやっていてもおかしくはない。


「でも早くしないとハーディーンが」

「落ち着け。警察に事情を話してゆっくり確実に奴らを捕まえよう」


 しかしまどろっこしい真似はしたくないのかリンは拒否する。


 純白の翼と尾を出し、

「あたしが飛び込んで人質だけを救出する。で、ヴィクトリアが飛び込んで皆殺しにする。完璧のペキちゃんじゃん」

 今にも窓から飛び立たんとするところで彼は少女を部屋に引き戻す。


「他にも人質がいるかもしれない。グングニルがのさばってた国だ。何がいるか分からんぞ」

「そりゃどこもおんなじだと思うが」

「とにかく、あいつらは何かヤバい。警察に事情を話そう。せめてキャプテン・バグだけにでも」


 警察を介入させていたら時間が足りない可能性がある。事情を説明したり、手配したり、色々と段取りを回さないといけなくなる。


「時間が無いからボクたちで行こう」

「時間ならある。あいつら、夕方に沈めるって言ってた」


 室内の時計を確認する。今は15時を過ぎたところ。


 夕暮れとされる時間は32時。まだ17時間も猶予が残っている。


「酒樽ってことは移動中も他の酒樽と一緒。つまりワトソンが見ていないこの時間に移動されたら、わかんなくなっちまうじゃない」

「そうよ。大体あなた、酒樽に詰められてるとこ見てないでしょ!」

「そ、それは……」


 討論してる暇はない。ヴィクトリアはリンを連れてその居酒屋“トラバコ”へ向かう。


「そんなに危ないと思うならあなたが外の警察にでも署長さんにでも伝えておきなさい」


 ワトソンへそう言葉を残すと出発する。残された彼はふたりの後ろ姿を見つめるだけだった。


 悔やむワトソン。だが最善の行動を取らねばならない。



 時は少し遡り、トラバコにて酒の搬入に乗じて店内に樽や木箱が並べられていく。ひとりの男がひとつずつ木箱を開けては確認していく。


 中身はジャガイモやニンジンなどの野菜だ。酒樽はワインや果実酒が入っているようだった。


「さっさと始めよう」

「午後イチまでに終わらせるんだ」


 ジャガイモの皮剥きを始める。それだけではない。


 剥いたイモを半分に切る。すると中に真っ黒な種のような物体が入っていた。


「気を付けろよ。イモに付いたらバレちまう」

「シャブイモ、考えただけで旨そうだ」


 この種のような物体を丁寧に先の方を切る。そして銀製のトレイに切った先端を逆さまにすると真っ白な粉が雪のように降り積もる。


「いつみても綺麗だぜ、この合成麻薬は」


 合成麻薬“スンバラシー”は魔法と化学を融合させて作られた幻覚剤。大量に接種すると死に至る危険薬物だ。


 彼らは危険薬物を売り捌く闇の組織だったのだ。

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