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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第32話「再会」

 星歴893年5月5日、一行は灼熱の砂漠ニージンヨーをカゲキ共和国へ向かう道中に孤児の少年タケルと出逢う。

 彼はグングニル盗賊団によって連れ去られるも隙を見て逃走。家族を心配する。

 いてもたってもいられぬカーサスは次の町、シャバタウン署長キャプテン・バグの協力の下で活動を始める。

 一行は盗賊団のアジトに乗り込み、人質を救い出すことに成功。彼らも苦しい思いし、見事盗賊団を壊滅する。

 ヴィクトリアとワトソン、リンは公になることを辞退するも見栄っ張りのカーサスだけが了承。

 斯くして、グングニル盗賊団を壊滅に追い込んだ男バーン・カーサスはカゲキ共和国の時の人となったのであった……。


「なぁ……」

「ねぇ……」

「はぁ……」


 ワトソン、リン、ヴィクトリアのそれぞれが呟く。


 彼らがいるのはシャバタウンから離れたコレミヨガシティ。ここはカゲキ共和国とサティ協商国を結ぶ貿易都市だ。


 キャプテン・バグから協力金として5000ADS(アークドル)が支払われた。もちろんひとりに付きだ。


 しかしシャバタウンからケシカケタウン、ヤリマシタウン、そしてこのコレミヨガシティへ来る間に、協力金の他に物品がこれでもかという程に増えていた。


 内訳として花束が凡そ15キロ、クッキーやビスケットなどの菓子が入った箱95箱、水35キロ、ワイン7キロ、その他にも色々ある。


 これらは全てカーサス宛に戴いたモノだ。


 一躍時の人となった彼にそれぞれの町の住人や観光客から贈られたプレゼントである。


「こんなに貰ってどうするんだ」


 キセル貨物商事からはリヤカーを譲り受け、荷台に大量の贈り物が載せられた姿を見たワトソンがふたりに訊く。


 彼らは今、喫茶店で小休止をしていた。3人は屋外のパラソル付きの座席でお茶をしているが、カーサスは店内で多くの市民と戯れている。


「どうしようも無いんじゃないかな」


 キンキンに冷えていた紅茶を飲むヴィクトリアが答える。そのあとに続いてリンも、

「あのドバカに聞きな」

 果汁7パーセントのオレンジジュースをストローで啜る。


「こんなに貰っても町を離れて砂漠を渡るとき、どうするんだろ」

「考えてないと思うわ」

「ボクもそう思う」


 最悪の場合、ヴィクトリアの持つ魔法道具で何とかするしかない。それは有限ではあるが、対象物に専用の印を刻むと10分の1程の大きさになるチョークだ。


 ホントノマテリアル文具堂から発売されたばかりの新商品。15回分使用できるチョークが2本入った魔法道具セットが街角で売っておりすかさず購入したものになる。


「小さくなればカバンにも入るし」

「持ち運び楽だね」

「戻すときは印を消すだけなのか」


 因みに描いている途中にチョークが無くなると術式は成立せずに何も起こらない。さらに生物以外の物を小さくする道具のため、他の術式に用いることは出来ない。


「早く出たいなあ」

「ヴィクトリアにさんせー」


 飲み干したリンが机に顔を置いて唸る。


「あと少しで出られるのにね」


 関所までは目と鼻の先。少し辛抱すればここから抜けられるのだ。


「はぁ、それにしてもなんか人が増えてくるな」

「類は友を呼ぶってやつかなあ」

「用法あってるの?」


 すると人通りの人混みの中を見ていたヴィクトリアが驚いた表情を浮かべる。


 目を見開き口を開けて何かを言わんとしていた。


「どしたの?」


 リンが気が付き訊ねるも反応がない。ワトソンが顔の前で手をヒラヒラさせると、

「ごめん、ちょっと待ってて」

 席を立ち上がり、ふたりを置いて人混みに消える。


「待ってよ、ヴィクトリア!」

「あぁ、くそ……カーサス、荷物見てろ!」

「あいあい~」


 分かったのか分からないのか不明だが荷物を彼に託しあとを追った。


「もうヴィクトリアったら」

「何を見たんだ?」



 ふたりが追い掛けていることを知らずにヴィクトリアは人混みの中を進む。


「そんなはずは……ない。けど間違いない」


 そう呟いている。彼女の心臓は高鳴っていた。


 走っているからではない。感情が高ぶっているからだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 人混みを掻き分けた先にそれは立っていた。彼女よりも長身で190センチ程か。髪は金色、頭の少し後ろの方で髪を結っている。瞳は碧眼で穏やかな表情をしていて中々の好青年だ。


 肩からはバッグを提げており、どこにでもいる観光客にしか見えない。


「追い付いた」

「急にどうしたんよ」


 ふたりの目の前にヴィクトリアと好青年が立っており状況が掴めない。


「あれ……もしかして、ヴィクトリア……なのかい?」

「もしかしなくてもヴィクトリアだよっ!」


 笑顔で、そして少し赤く頬を染めながら声を掛ける。


「いやぁ、懐かしいなぁ!」

「ボクもだよ!」


 手を取りあっているふたりにワトソンが一言。


「もしかして彼氏……」


 リンはショックを受けた。しかし神である彼女も一端(いっぱし)の女性だ。恋をしていてもおかしくはない。


「……でも、ヴィクトリアがあんなにも嬉しそうにしているなら」


 胸の前で拳を握る少女。唇をきゅっと締め、理解を決める。


「そうだな。年頃の女性だもんな」

「うん。何年経っても、身も心も17歳だもの」


 彼らは神であるヴィクトリアと同じ年齢をしている。これは契約の段階で決められ、肉体年齢も17歳で止まっており成長することはない。


 但し神も同様に、痩せたり肥えたり、髪や爪が伸びたり、病気にかかったり。つまり人間と同様な現象が起こる。


 つまりはワトソンもリンもドバカなカーサスも肉体年齢は永遠の17歳なのである。


「――みんな、紹介するよ」

「ヴィクトリア、おめでとう!」

「式場の手配はあたしが予約するね!」

「へっ?」


 このあと、ふたりは驚かされるのであった。



「婚約者じゃない!?」

「だってすごくラブラブだったじゃん」


 近くの宿屋に入った4人。ワトソンとリンが騒ぎ立ててヴィクトリアが落ち着かせる。


「婚約者って……ボクがみんなと普通に会話してる時と同じ感じで話してただけだと思うけど」

「いやいやいや、顔が少し赤かったぞ」

「ドキドキしてたんじゃないの?」


 的確な指摘だ。確かに火照っていたし、心臓はドキドキしていた。しかしそれは、恋でも何でもない。


「この人は……」

「初めまして皆さん。ぼくはハーディーン・ローレンス。ヴィクトリアの古い友人です」


 彼とはカーサスと出逢う前から知っている旧友だ。つまり彼も不老不死である。


 と言っても、不死身ではない。歳を永遠に取らないだけだ。


 肉体年齢は28歳。本当の年齢は星歴0年の時点で320歳になることから、本日の893年5月10日で1213歳となる。


 つまりはカーサスのみならず、ふたりの先輩でもある。


「こ、これは失礼しました!」

「先走ってごめんなさい」

「いやぁ、良いんだよ。何せ千年ぶりな気がするし」


 久々の再会だったようでふたりして気持ちが高ぶっていたようだ。


 リンがワトソンに寄って囁く。耳を傾けそれを聴く。


「あたしたちも長く逢っていないと、こんな感じになるのかな」


 その言葉に静かに頷いた。


「まさかハーディーンに逢えるなんて長生きはするもんだ」

「それはお互い様じゃないか。ぼくの方もいきなりきみに似ている人が現れたからびっくりしたよ」


 ふたりの雰囲気は良かった。まるで恋人同士だ。


「――それで見てくれ」


 バッグの中からは複数のスケッチブックを取り出した。


「ヴィクトリアに出逢った時に描いたものもあるよ」

「懐かしい……」


 似顔絵だ。在りし日の彼女がそこに描かれていた。


 今と違ってどこかクールに見えた。


「そしてこっちが、じゃじゃーん」

「あれっ? もしかしてアリス?」


 描かれていた人物、それはヴィクトリアの妹アリスだった。次のページには同じく妹のキャルロットがいた。


「逢えたんだ!」

「そうなんだよ。ヘルヴェチカの祭典でね」

「良かったじゃない」


 ハーディーンは画家で世界中にいるアークファミリアを描くのが夢なのだそう。そのひとり目がヴィクトリアなのだ。


 ふたりが初めて出逢ったのは星歴が少し始まった6年後、場所はここよりもずうっと西のユピタフ原生林という300メートル級の木々が生い茂る場所だ。


 そこに流れる小川でヴィクトリアが水浴びをしているとハーディーンが通り掛かった。


 当時の彼女は今のポニーテール姿ではなくロングストレートで眼帯もしていなかった。常に自分が神であると主張してるか如く。


 初めて出逢った神に胸踊らせサインをねだる。無論彼女は裸を晒したままで。だが当時も今もヴィクトリアは裸を気にしない。人は皆、裸で産まれてくるからだ。


 しかしながらサインは書かなかった。というより彼を相手にしなかった。


 理由は人間と接することは避けていたからだ。冷たく接し遠ざける。でも、彼は挫けず頼み込む。


 それはユピタフ原生林から近くの小さな町、セイラーまで続く。その間にも彼はサインをねだるだけでなく、たくさんの質問と会話をした。


 町へ着いた頃にはふたりとも知人のようになっていた。そしてサインを承諾した。


 心を許した理由は神を恐れず、また人間と同じ感覚で話してくれたことだそうだ。


 サインだけでなくハーディーンがもうひとつお願いをしたこと。それが似顔絵だ。


 この日の記念で描いたそれが、今後の人生を決めるものとなった。


 原生林へ入ったのは自然の風景を描くことで、そこに偶々彼女がいた。気分が高ぶり、我を忘れて気が付けば神の似顔絵を描いていたという。


 そうして彼は全てのアークファミリアを描くというライフワークを見付けたのだ。


 余談であるが、彼女がポニーテールで眼帯を付けるようになったのはこのすぐあとらしい。


 話を戻し、ヴィクトリアが懐かしき神たちを眺めて感傷に浸っている。


「――2番目にアリス、3番目にキャルロットか。あと8人だね」

「実は……こっちに」


 2冊目のスケッチブックの一番最初のページにそれはあった。


「リブラお兄様!」

「アリスさんが紹介してくれたんだ。ぼく的には偶然に出逢って描きたかったんだけど、好意は受け取らないと」

「アリスらしいし君らしい」


 それにしてもいつぶりか、ヴィクトリアも兄の姿を似顔絵越しに見るのは久しかった。最後に逢ったのはどれくらい前になるか。


「あと7人」

「そうなんだ。リブラさんを最後にまだ出逢ってないんだ」

「紹介するよ?」

「いや、自分で探して描きたいよ」

「そうだよね」


 すると新しいスケッチブックを取り出し、

「久し振りにきみを描きたい。もちろんリンさんやワトソンさんもぜひ」

 皆にお願いする。もちろん断る理由はない。


 ひとりずつ描いてもらい、最後は3人で並んだ姿をスケッチした。


「写真も好きなんだけど、あとでスケッチを見た時に色々思い出すんだ。逢った時のこと、話したこと」

「ボクが初めて君と出逢った時も、色々あったけど最終的に似顔絵を描いてたね」


 ピンと来たリン。だから先程の絵はクールな姿だったのだ。


 まだ誰とも親しくなっていなかった彼女は人間を一種の生き物としてか見ていなかった。感情や愛情を持っていなかった。


 だがハーディーンと話す内、次第に色が染まっていく。そんな感じだと推理する。


「まぁ(あなが)ち間違ってないかも」

「うん。初めてヴィクトリアと逢った時は神々しい感じだったけど、今じゃフレンドリーな感じだもん」

「そんなに変わった?」


 それは恐らく、カーサスやワトソン、リンと出逢ったことにもよるだろう。それだけではない。


 多くの人間や生き物と深くかかわり合い、その中で得た感情や愛情で心も豊かになった。そう彼は思っている。


「だから結婚しよう。今ならぼくと君は愛し合える」

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