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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第31話「次はお前だ」

 星歴893年5月5日、一行は灼熱の砂漠ニージンヨーをカゲキ共和国へ向かう道中に孤児の少年タケルと出逢う。

 彼はグングニル盗賊団によって連れ去られるも隙を見て逃走。

 これを訊いたカーサスはいてもたってもいられず彼を助けることに。そしてシャバ警察署の署長、キャプテン・バグの協力の元、グングニルのアジトのある渓谷へやってきた。

 しかしカーサスとワトソンが捕まってしまい、ヴィクトリアとリンはたったふたりで作戦を実行する。

 だがリンも囚われの身になり、生きたまま眼や歯、爪、髪を抉りとられた。

 さらに不死身だと気付かれ、カーサスとワトソンとともに祭の出し物になってしまう。

 無間地獄を形容するか如く、生きたまま臓物や引き裂かれた男ふたり。少女リンも殺されると思いきや、ヴィクトリアが駆け付けた。

 そして魔法省で禁止された呪殺魔法を用いて盗賊団を壊滅にまで持っていくのであった……。


「化け物め……」


 グングニル盗賊団、ステン・ガッバイが吐く。腹心、オカ・シャストビッチも頷いた。


「動くなよ、化け物。動けばこの女の首に銀のナイフが……」


 背後から突然襲われ、雁字搦(がんじから)めに遭う。


「大丈夫か」

「ワトソン!?」


 いつの間にか蘇生した彼とカーサスが少女を救出した。ワトキンスは首を絞められ、強制的に失神させた上で縛り上げた。


「すげえ痛かったぞ!」

「同じく」


 地獄のような苦しみを耐え抜いたふたりの感想にヴィクトリアが謝る。


 どうやら準備をするのに時間が掛かってしまったようで間に合わなかったのだ。


「代わりにこうしてボクも傷付くことで皆、苦しみを共にしたっていう」

「んなもんいらんわ!」


 的確なカーサスのツッコミにリンとワトソンは互いに頷く。


「さて、冗談は置いておいて」

「冗談じゃなかったろ……」


 苛立ちを見せるガッバイに言葉を掛ける。


「さっき、最期のチャンスを与えたからもう君たちには死か地獄しか無いから」


 どちらも似たようなものだろと言わんばかりのギャラリーだが彼は違っていた。


「強いのは認めよう。だが忘れていやしないか。ガキらは我々の手中にあるってことを」

「あーはいはい」


 軽く受け流す。無論その態度に立腹した彼はシャストビッチに皆殺しにするよう命じる。


 監禁部屋へ急ぐ彼を横目に一同はその場で待っていた。


「驚くと思うよ」

「何かしたのか?」

「リンと同じことをやってみた」

「それって、まさか!?」


 暫くしてシャストビッチが戻ってきた。顔色は芳しくない。


 ボスの耳に囁くと幾つもの血管がこめかみに浮き出た。そして、

「貴様、何をしやがった!!!」

 指を差して問い詰める。彼女の作戦に掛かったようだ。


「簡単なこと。子供たちはそっくりそのまま安全なところに返したよ」

「舐めやがって。ぶっ殺してやる、くそ共がっ!」


 怒り狂っているご様子なのでヴィクトリアは皆に指示する。


「リン、行ける?」

「任せてよ。この恨み、晴らさでおくべきか」


 少女にはガッバイの捕縛を命じた。


「じゃあ好敵手っぽい奴をカーサス、頼むね」


 彼には腹心のシャストビッチを任せる。


「ワトソンはみんなの援護で」

「ヴィクトリアは?」


 残る青年は残党狩りを引き受けた。これに対してカーサスが反発する。


「一番楽チンじゃねーか」

「何言ってるのさ。これはこれで地味に大変なんだぞ」

「ごちゃごちゃ戯言(ざれごと)をほざいてンじゃねぇ!」


 襲い掛かるガッバイと剣で斬りつけるシャストビッチ。


「とにかく行動開始!」


 その合図でリンは背中に力を込める。刹那、純白の翼と尾を生やすと大空に飛び立ち呪文を唱える。


『水の(やいば)よ、()の者を切り裂かん。アクア・ブランデッリ』


 鎌の形をした水の刃が大男を目掛けて飛来する。軽々しく避けるが、刃は地面に刺さると深く貫通して行った。


「顔に似合わず危ない技使いやがるぜっへへ」


 大男は腰に着けた拳銃を取り出して少女を狙い打つ。


「踊りやがれ!」


 2丁拳銃で応戦。しかし縦横無尽に交わされて怒りが込み上げる。


「これでもか喰らいやがれ!」


 やや高台に備え付けられていた回転式の機関銃を無差別に放つ。


「残念!」


 再び水の刃により機関銃は真っ二つ。衝撃で暴発して吹き飛ばされる大男は高所から転落。地面に叩き付けられ、人型にかたどられた。


「くそ……」

「もうお仕舞いよ」

「そうかな?」


 大男は腰のポケットに手を入れると何かを取り出した。そしてリン目掛けて投げ付ける。


「っ……」


 三度(みたび)、刃で投げ付けられた物体を両断した。すると紫色のした煙が立ち込める。


「ガハハハ、切ることしか能が無いから毒気にやられるんだ」


 煙の正体は毒物だった。神経性で目や鼻、皮膚から吸引すると体が麻痺して動きを封じ込める。さらに致死量を吸い込むと心臓が停止し、多臓器不全で死に至る猛毒だった。


「不死身だろうが動けなきゃ怖いもんはねーよ」

「ごほっ……けほっ……」


 動きが鈍くなる少女。次第に翼の羽ばたきが弱くなり、垂直に落下し始める。


「リン!」


 地面へ直撃、は免れた。ワトソンが浮遊魔法を用いて救う。


 直ぐに駆け付けたかったが、隙を突いたシャストビッチの攻撃で進めずにいた。


「おい、クソ野郎! お前の相手は俺だろ!」


 挑発するカーサスだが相手にされず、敵は余裕を見せている。子供だからだろうか。


「ワトソン、何とかしてリンのトコに行け。ここは何とかする」

「言われなくても分かってるって」


 しかしシャストビッチの目から逃れられない。ふたりを相手してもまだ余裕のフリを見せていた。


「あたしは大丈夫よ……」

「リン!?」


 なんとか立ち上がる。しかし体が言うことを聞かず、ふらふらしていた。


「元気なガキだぜ」


 腹部を力強く殴打。吐瀉物を撒き散らして地面へ転げ落ちる。


「はぁ……かっはっ」

「今ので肋骨は逝ったかな」


 少女の赤髪を掴み、太股で顔面を強打。次に背面を回し蹴り。地面へ叩き付けられ、藻掻く。


「はっ……あっ……っ」


 息が出来ないか、しづらい様子だ。だが間髪入れずに背中の上に片足を置く。


「だらしのない奴だ。さんざっぱら粋がって、すぐこれだ。英雄気取りで楽しかったか?」

「まだ……終わらないよ」


 がしかし、ナイフを取り出すと少女の首に当てる。


「あぁぁぁぁぁっっっがぁぁ!」


 耳を(つんざ)く悲鳴にカーサスとワトソンが振り向いた。


「おい!」

「貴様っ!」


 リンの首をナイフで斬りつけ、力を入れながら切断していく。


 暴れる少女だが次第に弱まっていく。血飛沫は噴水の如く、周囲に飛び散る。


 降り掛かる返り血にガッバイは満面の笑みを浮かべていた。狂気に満ちている。キチガイだ。


「リン……」


 頭部だけになった少女。胴体と頭があった切断面から夥しい出血が見られる。恐らく心臓が早鐘に打ち付け、欠損と同時に凄まじい勢いで噴出したのだろう。


「鬼畜の所業」

「閻魔大王もびっくり」


 生気を失い断末魔を発した少女の頭部を彼らの元へ投げ付けた。


「さて、こいつはあと何回死ぬのかな?」

「てんめぇ……」

「危ない、カーサス!」


 シャストビッチとの戦闘中だったふたり。リンを助けられず、また自身らも死の危険と隣り合わせだった。


「ヴィクトリアは何やってんだ! 楽しやがって」

「楽ではないかもしれないけど……流石に応援して欲しいね」


 弱音を吐くふたり。彼らの声は届くのか。


 ふたりの戦いぶりを見つめる大男。首を横に振り、シャストビッチの相手ではないことを確認すると転がる少女の死体に目をやった。


 既に蘇生が始まり、首元から頭部が再生。再び可愛らしい女の子の顔が出来上がる。


 しかし束の間、ナイフを胸に突き刺した。目を見開いて足掻く少女。


「次はここにしよう」


 胸を開くと赤く毒々しく脈打つものが現れる。少女の心臓だ。


 死んでも再生されるが、およそ100年もの間動き続けるリンの心臓を体外へと引きずり出す。


「や、やめ……て」

「良いだろ。どうせ蘇るんだからな」

「痛い、やめて……イヤ」

「ガハハ、やめねーよ。お前はあと100回くらい殺しても殺し()んねーよ」


 心臓へ繋がる大動脈と大静脈を斬りつける。完全に切り離された心臓だが、どっくんどっくんと脈打っていた。


「新鮮だ。美味そうだ」


 唾を呑み込み、頬張ろうと口を開けた時だ。彼の腹部に膝蹴りを入れる人影が現れた。


 大男は吹き飛び岩に激突。リンの心臓は人影の手のひらに落ちる。


「許さない。お前は」


 人影の姿は、ヴィクトリアだった。残党を片付け駆け付けたのだ。


「ヴィ……く……」


 意識朦朧の彼女の元へ寄ると胸に心臓を入れた。そして両手を翳して治癒魔法を掛ける。


 一瞬の内に傷口が治り、失われた血液も元に戻り、少女の心臓は再び元気よく弾み鼓動する。


「心臓、取られるってこういうもんなんだね」


 胸に手を置いて、ドキドキする心臓を確かめている。


「ボクは何回も取られそうになってるけど、いい気分じゃないよ。さっきのも意識を維持するのがやっとさ」


 しかし本当はどんなにぐちゃぐちゃとなっても無事なのではないのだろうかと、リンは思うのであった。


「くぅそっ……何が」

「もうお前とシャストビッチ、囚われのワトキンスしかいないよ。グングニルの首領さん」


 辺りを見回すと真っ二つになった部下が散らばっていた。


「ただ殺すだけなら直ぐに終わったんだけど、どうしても殺戮がしたくて時間が掛かっちゃった」

「なぁにぃ!?」


 神とは思えぬ発言にリンは苦笑いを浮かべる。大男も背筋が凍るくらいだ。


 ヴィクトリアのオーラはただならぬ気配を感じる。それは先程殺された部下のものではなく、何かこう、今まで殺された怨念が訴え掛けているようだ。


「うぐぐっ……」

「お前に選択肢があるとすればふたつ」


 ひとつ目は地獄の苦しみを味わうか。ふたつ目、無間地獄を楽しむか。


「まぁどっちも地獄なんだけどね。次はお前だよ、ステン・ガッバイ」

「生きて地獄を見て、死んで地獄を見なさいよ」


 生きるも地獄、死ぬも地獄。彼らはこれから死ぬことも許されない地獄を味わうことになる。


 ヴィクトリアの加勢により、ガッバイは拘束されシャストビッチも4人共同で捕らえることができた。


 ガッバイよりもシャストビッチに苦戦した点については、ふたりが死に対する恐怖を拭えなかったことが挙げられる。


 リンは終盤に屈してしまうも死ぬ覚悟は出来ていた。とはいえ、ヴィクトリアも死ぬことは――。



 斯くして、大悪党のグングニル盗賊団の首領ステン・ガッバイと腹心オカ・シャストビッチ、ドクター・ワトキンスを捕らえた一同はシャバ警察署長のキャプテン・バグに大いに讃えられた。首相に直談判し、表彰を約束された。


 しかしそこまでしなくても良かったため、3人は辞退した。見栄を張りたかったカーサスだけがカゲキ共和国の国民の前で表彰され、一躍時の人となった。


「カーサス!」

「タケシ!」


 再会を果たすふたり。少年の友達も数人は無事だった。しかし全てではない。


 亡くなった友達や多くの犠牲者が出たこの事件。シャバ警察署や国は、これからも同様の事件事故を起こさぬように日々努力するのであった。


「ねぇヴィクトリア」

「なに、リン」

「あたしが死んだら悲しい?」

「みんなが死んだら悲しい。だからボクが代わりに死ぬよ」

「ダメ」

「みんなが守れるならボクは喜んで命を捧げるよ。例え、神を捨てでもね」


 言葉の重さに少女は返すことが出来なかった。しかし彼女に身を寄せると静かに耳を澄ませる。


 とくん、とくん。ヴィクトリアの命を聴くために。

 次回の更新は、8月23日月曜日の午前7時の予定です。よろしくお願いいたします。

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