第30話「無間地獄」
星歴893年5月5日、一行は灼熱の砂漠ニージンヨーをカゲキ共和国へ向かう道中に孤児の少年タケルと出逢う。
話によると、グングニル盗賊団によって連れ去られるも隙を見て逃走したという。
これを訊いたカーサスはいてもたってもいられず彼を助けることに。そしてシャバ警察署の署長、キャプテン・バグの協力の元、グングニルのアジトのある渓谷へやってきた。
ところがカーサスとワトソンが捕らわれてしまい、残されたふたりで人質の安全確保を行う。
しかしリンが囚われの身になり、生きたまま眼や歯、爪、髪を抉りとられた。
さらに不死身だと気付かれ、状況は最悪の一途を辿るのであった……。
※今作ではグロテスクな表現やアダルトな表現が御座います。ご高覧になる際はご注意ください。
「大丈夫じゃないよ。正午になったらあたしたち、喰われちゃうんだから」
その言葉に顔を合わせるカーサスとワトソン。意味が分からない。
「奴ら臓器の摘出が専門なんじゃ……」
「なるほど」
ワトソンは察しが付いた様子。リンが血塗れでここへ連れられて来たということはそういうことなのだろう。
「俺たちが不死身だってバレちまったのかよ」
「そういうことになるな」
「どーするんだよ!」
畏れ戦き取り乱すカーサス。だが今は何も思い付かない。
もし仮にここを脱け出す手段があったとしても、人質の子供たちがどんな目に遭わされるか想像もつかない。
「今はただ待つだけだ」
「殺されるのを待つなんて……出来ねぇ」
心の思いが吐露するカーサス。それは誰もが同じ気持ち。
「ヴィクトリアがなんとかしてくれるはずよ」
「強いな、リンは」
地獄のような手術に耐え、再び同じ目に遭うと分かっていても彼女は信じ続けていた。
「僕もそう思うよ。ヴィクトリアがきっとやってくれる」
「何をだよ」
話の腰を折るカーサスに構い疲れたワトソンはリンとあることを話し合う。
それは助け出されるまでの記憶を鮮明に覚え、伝達出来ることを。
宴の会場までの経路、人数、武器などはもちろん、出入りや音、感覚などを覚えて置く。宴が始まっても痛みに耐え、周囲を見渡して出来る限り把握する。
「そうすればのちに役立つかも」
「助けられなかったら?」
「そしたら僕たちがやるしかない。だからそのためにも手を合わせて切り抜けないと」
それしか方法がないと感じたカーサスは武器や動向を探ることにした。
ワトソンは経路や感覚などを。リンは人数や周囲の把握を務める。
「作戦開始だ」
結束してから直ぐに行動する。無論、牢獄からは脱け出せないため、今はじっとその時を待つ。
○
この惑星アーク(ほし)の自転周期は48時間。長い夜を明け、漸く太陽が西の方より顔を出す。
5月上旬のカゲキ共和国の日の出は14時14分。
この時を以て、残虐極まりない地獄の拷問のような解剖という名の処刑祭が始まる。
14時31分には渓谷内でも一番開けた場所に来ていた。そこには川が流れている他、あちらこちらに人骨と思しき白いカルシウム状の塊が見える。
「これが血の川の源泉……」
「ここで血を洗うと下流では真っ赤っか……」
「恐ろしい……」
さらに先程まで生きていたであろう人間の変わり果てた姿を見付ける。
それを男ふたりがかりで川へ運ぶと投げ込んでいた。
「この川には肉食魚のポプテリルスがいるから気を付けるんだな」
創成期より生きている古代魚のポプテリルスは非常に狂暴な肉食魚だ。体長は約15センチ、鋭い牙と高い身体能力、そして数秒間滑空が出来る能力を持つ。
「間違っても逃げようとして川に飛び込んだら最期」
「ガブガブされて御陀仏でっせ」
男どもは笑い声を上げる。本当か否か、それは直ぐに分かった。
川面に魚が跳ねる。そこは遺体を投げ込んだ辺りだ。次第に血で染まり、川下へ流れて行く。
「まじかよ」
「血のにおいの可能性も」
確かに既に血が出ているわけで、それによって反応しているかもしれない。
「なんなら確認してみるか?」
男がワトソンを連れていく。
「や、やめろー!」
暴れるが殴って大人しくさせられる。そして下半身だけを川へ浸けると早速ポプテリルスは脚に噛み付いた。
「ぎゃあー、やめ、やめてくれぇー」
じたばた暴れるがその都度暴力を振るって黙らせる。しかし痛みの方が上で、彼は苦しんだ。
ぞっとするふたり。彼にとっては生き地獄だろう。
「もーいーだろ」
「へい」
引き上げると所々喰い千切られて骨まで見えていた。出血が酷く、歩けない彼は男らに引き摺られてふたりのいる解剖台まで連れられた。
地面が真っ赤な血の道に染まっている。強引に引き摺ったためか皮や肉片が砂に混じって地面にこびりついていた。
それを狙って鳥がやって来るなり食べていた。
「ばーん」
ひとりの男が拳銃を撃つ。鳥が倒れると鷲掴み、笑顔で朝飯のおかずに拵えると喜んでいた。
「なんてこった」
「ワトソン……」
彼は痛み苦しみ藻掻いていた。台の上は血塗れだ。
地面に滴る血は小さな水溜まりになっていた。
「悪魔め」
「悪魔よりタチが悪いよ」
するとガッバイが徐ろに刃渡り15センチほどのナイフを取り出すとカーサスに近付き、首を切り裂いた。
「ひぎゃぁぁぁ!!!」
「カーサス!」
リンの真横で鮮血が迸る。彼女にも血が掛かってびしょ濡れだ。
「血も滴るイイ女だぜ」
「いやっほう、ヤりてー!」
「俺は死姦が良いぜ」
怯える少女。かつてない恐怖だった。
「ヴィクトリア……」
いつも強気でカーサスと張り合う彼女だが、今は貧弱で気弱な17歳の女の子だった。
「泣いてるぜ」
「舐めまわしてー!」
暫くするとカーサスは呻き声を唸り体は痙攣していた。その横ではワトソンの足をノコギリで解体している。
「右脚一丁!」
高らかに上げると群がる男たち。朝飯の時間だ。
「狂ってる……キチガイよ」
カニバリズム。彼らは人間の血肉を喰らう盗賊団でもあったのだ。
「大腸、小腸、脾臓……」
瀕死のカーサスからは内臓を抜き取っていく。さらに、調子に乗ったひとりの大男がナイフを用いて彼の首を切り裂いていく。
切れ味が悪いのか中々裂けず、何度もピストンしている。骨は自慢の腕力でへし折り、皮一枚のところで思い切り引っ張り上げる。
「野郎の首、討ち取ったり」
「んなもんいらねーから、脳ミソ取っちまえよ」
男の脳でも高値で売れるらしい。その前に眼や歯、耳などを摘出していった。
「ヴィクトリア……」
心の中で叫ぶリン。本当は大声で叫びたかったが、まだ仲間がいること知られたくはなかった。
「さて、そろそろメインディッシュを」
「こんな女は久しぶり」
「絶品やろな」
するとガッバイが男どもを制止する。ドクターワトキンスの方を向いて確認を取る。
「本当に不死身なんだろうな?」
「女はそうですよ。男は確証出来ませんか」
「そうだな。女が不死身なら、こいつらも同類かと思ったが、思い過ごしのようだったな」
そうして彼は、徐ろに下半身を露出するとリンの衣服を引き剥がす。
「ひょー、カシラ!」
「大胆でい!」
「犯っちまえー」
男の漢は太く逞しく天に向かって伸び上がっている。彼女は首を何度も横に振って体を揺らす。
「イヤよ……あたしの初めてを、こんな奴に!」
「さて、殺す前にたっぷり可愛がってやるからな」
「イヤァァァー」
耳を劈く悲鳴が渓谷内に谺する。
しかし動揺すらしない盗賊団。寧ろ歓声が大きくなる。
「終わった……あたしの人生。さようなら」
別れを告げる。大体そういう時に主人公はやってくるもの。
その通りだと思う。タイミング的にはバッチリだ。しかし、仲間はいない。
必要がない。仲間は直ぐ、目の前にいる。
「誰だおめぇ」
解剖台の前、つまりはガッバイの背後にどこからともなく現れた青年に振り向き様に吐く。
「ヴィクトリアだよ。ヴィクトリア・ギャラクシー。一応、『神』をやってるよ」
珍しく自らの身分を明かす。このような時は基本的に憤怒していると思って相違ない。
さらに普段、神を表す刻印が入った右目を黒色の眼帯で覆っていたが今は外していた。右目の刻印は脈打つようにして光輝いていた。
「アークファミリア?」
ガッバイが聞き返す。その瞬間に周囲からは大爆笑が起こる。
「自分を神様なんて思ってる奴がいるなんて」
「お笑いだ」
「新手の新興宗教か何かかよ」
「こんな神なんかじゃ、程度が知れるわ」
口々に言いたいことを言い合う姿にリンの表情は引き攣る。ヴィクトリアが今までに見たこともない表情を見せているからだ。
それは冷酷か冷徹か、怒りを通り越して無の感情か。とにかく、何が起こってもおかしくは無い状態だ。
「んで、その神様が何のようですかい」
対話を始めるガッバイ。応じるか不明の彼女。溜め息を吐いて口を開く。
「最期のチャンスです。今すぐそこの人質とこの渓谷内に捕まってる子供たちを解放なさい」
話をしている最中に腹心のシャストビッチが背後へ回り込む。話が終わると目にも止まらぬ速さで彼女の背中の中心部に剣を突き立てる。
そのまま胸を貫くと刃先にはヴィクトリアの心臓が脈打っていた。
「へぇ、神にも心臓とやらはあるんかい」
呟くガッバイ。心臓からは鮮血が迸り、彼女が立つ地面には血の池が溜まっていた。
「ヴィクトリア……」
「おっと嬢ちゃん、動くなや」
首にナイフを当てるワトキンス。少し強めに当てたせいか首筋に血が滴る。
「旨そうな血だ」
片手で血を拭うとそのまま口へ持っていく。舌で指を舐め回しご満悦。
「やはり若い女の血は旨いぜ」
「ひぃぇっ」
恐れ戦く少女。涙を浮かべてヴィクトリアを見る。
もうお仕舞いか。彼女もやられ、リンもやられ。為す術無しか。
「いつから、神が心臓を抜き取られたら死ぬって思った?」
胸の中心から貫かれた剣を引っ張り出した。その際に自らの心臓を引き千切る。
「ヴィクトリア!?」
これでもかという程に、真っ赤な血が飛び散る。流石の盗賊団も騒然としていた。
「こいつめ、清々しい顔をしやがって」
剣を抜き終えると刃先の心臓を手に取る。そのまま風穴が開いた胸に自分の心臓を入れる。
閃光に包まれると傷口は塞がり、辺りには赤い血の池だけが残されていた。
「さて、交渉する余地もないみたいだから主要人物以外は死んでもらうよ」
両手を真上に翳す。風が吹き、上空には魔法陣が現れた。
その模様は青年の眼に刻まれる紋章と同じだ。そして陣は地上にも広がった。
「耐えられるかな」
薄気味悪い表情を浮かべると上げていた両手を地面まで一瞬で下げる。上空に描かれた魔法陣が下がり、地面に描かれた陣に重なる。
その瞬間に多くの盗賊団が意識を奪われたのか気絶し、地面へ転げ落ちた。
しかしそれは全てではなくガッバイやシャストビッチ、ワトキンスと数多の男ども意識を保っていた。
「貴様、何をした」
「気絶……いや、間違えて死んでもらったよ」
意味が分からない。しかし間髪入れずにリンが声を震わせ呟いた。
「禁忌魔法、呪殺魔法……」
「正解!」
初めて少女の方を振り向いて答える。
禁忌魔法とは魔法省が定めた禁止された魔法のことだ。使用者は厳罰に処されるが、一般的には死刑である。
その中でも呪殺魔法は極めて重罪に値する呪文だ。ダイレクトに死を与え、対象者を必ずしに至らせる。
複雑で難解な術式だが、彼女は無詠唱でやってのける。その実力は神に等しい。いや、神だからこそであろう。
「ば、化け物め……」
次回の更新は、8月2日月曜日の午前7時を予定しております。よろしくお願いいたします。




