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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第29話「生地獄」

 星歴893年5月5日、一行は灼熱の砂漠ニージンヨーをカゲキ共和国へ向かう道中に孤児の少年タケルと出逢う。

 話によると、グングニル盗賊団によって連れ去られるも隙を見て逃走したという。

 これを訊いたカーサスはいてもたってもいられず彼を助けることに。そしてシャバ警察署の署長、キャプテン・バグの協力の元、グングニルのアジトのある渓谷へやってきた。

 ところがヴィクトリアとリンの偵察中、カーサスとワトソンが捕らわれてしまう。

 残されたふたりは、風の聖霊ウィンディの特殊な力によりアジト内部の情報を得て、作戦行動に移行する。

 リンは式紙のミニヴィクトリアを貰い、彼女はアジトの最奥にあるとされる武器庫を破壊すべく向かうのだった……。


※今作ではグロテスクな表現やアダルトな表現が御座います。ご高覧になる際はご注意ください。


 ミニヴィクトリアの案内で潜入するリンは最初の障害に遭う。


 地下へと通ずるであろう入口の前に3人の男が談笑していたのだ。入口はここにしかないようで遠回りは出来ない。


「私が気を引きます。その隙に」


 ホタルのように体を光らせるとひらひら男たちの方へ飛ぶ。


「なんだこりゃ」

「目障りだ」

「待て、この」


 追い掛ける男たち。その隙に入口へ駆け込む。


「撒いてきました」


 早々に合流し足早に突き進む。内部は思ったほどに明るかった。


 それもそのはず、数十メートル置きにガス燈が引かれていた。長らく住処として使われていることが窺える。


 アップダウンがあり迷路のような構造だったがミニヴィクトリアの巧みな誘導により敵に見付かることなく武器庫の前までやって来た。


「何か術式は施されてる?」

「いえ全く。ただ、頑丈な鍵で締められてます」


 如何にも厳重に管理されている雰囲気を醸し出す倉庫の前で会話していると物音が聴こえる。


 何者かが近付いている音にも聴こえ、隠れられそうなところを探す。だが見付からない。


「しょうがない」


 両手を小さい起伏のある胸に当てると呪文を心の中で唱える。体が真っ白に包まれるとみるみる内に小さくなっていく。


「スゴいですね!」


 ミニヴィクトリアも驚くほどの小さな白い鳥に変化した。


 彼女が好んで読んでいた書物“夫を簡単に騙せちゃう肉体変化術式本”で覚えた呪文のひとつだった。この他にも無機質の物にも変化出来るらしいが、小鳥の姿が偉く気に入っていたのだった。


「こうして壁にへばりつく」


 見付からないよう隅っこで隠れる。暫くすると男ふたりが武器庫の鍵を確認する。


「異状はないな」

「次行くか」


 中を確認することなく、またふたりに気が付くことなく去っていく。


 彼らが見えなくなるところまで行くと彼女は行動に移る。


 元の姿に戻り、頑丈な鍵をいともたやすく魔法で開く。便利なものだ。


 中へ入るとあちらこちらに小銃やナイフ、爆発物が置いてあった。


「うーん、どうしよっか」

「でしたら……」


 ミニヴィクトリアの思い付きでこれらを転移魔法で別の場所へ、そして武器を全てモデルガンへ変えることにした。


「これで良しっと」

「次は人質の子供たちを」


 ふたりは何事も無かったかのように部屋を後にする。勿論鍵を掛けた上で。それから人質となった子供たちが収容されているはずの部屋へ向かった。



 その頃、ヴィクトリアは単身で人質部屋へ向かっていた。道中、見張りの男たちが幾人もいたがウィンディの力を借りてやり過ごした。


 その力は風に擬態すること。ヴィクトリアは風に姿を変え、あたかもそこに流れ込むただの風に成り済まし通り過ぎるのだ。


 ならば風で目的の場所まで移動すれば良いという考えもあると思うが、人の形でしか分からない気もあるからだ。


「やっとついた」


 ひとつ目の部屋。中に人の気配がある。扉には鉄格子が嵌められた小窓が付いていた。


 そこから覗いて中を確かめた。薄暗い中には子供たちが身を寄せあって震えたり、泣いていたり、(うずくま)っていたりしていた。


 初めに何かしらの術式が施されていないか調べ上げ、それから取り掛かることにした。


 ここでも式紙を使用する。内部の人質とコンタクトを取る目的の他、万一彼らの身が危険に晒されても護れるようにするためだ。


 特にこれと言って術式が施されていなかったため、ミニヴィクトリア2号を扉の下の隙間から入れる。そして扉と部屋を包むように結界を張る。


「これで良し」


 護法結界という術式で、専用の魔法陣の中心部に使用者の名前を刻むことで対象を守るというもの。同じ魔法陣を複数個描くことにより名前を刻んだ使用者の魔力が消費される仕組み。


 つまりリンが魔法陣を描いても刻む名前がヴィクトリアならば魔力を失うのは彼女である。因みに使用者は陣を制限できる。


 ここでは事前に内部の空間を知っているため、その個数分でしか対応しない。魔法力のあるヴィクトリアが成せる術なのである。


 そして次々にふたりは魔法陣を描いていく。


 内部ではミニヴィクトリアが人質に説明をして万一の対策を立てている。


 だが順調に進んでいたかに思えたが実は違っていた。リンの背後に黒い影が迫る。


「うぐっ!?」

「リン様!」


 ミニヴィクトリアが反応する。その刹那、式紙はバラバラにされ地面へと舞い落ちる。


「来て貰おうお嬢ちゃん」


 体格の良い男は腕に力を込めると彼女の腹部に渾身の一撃を喰らわせる。吐瀉物を散らせ息を絶え絶えにするリン。


 眼の焦点が合わず瞬きを繰り返しやっとの思いで男の顔を見るも、意識が薄れ気絶する。彼女を担ぎ、男は薄気味悪い表情を浮かべその場から去った。


 地面にはバラバラに刻まれたミニヴィクトリアの式紙。しかし欠片と欠片がみるみる内に繋ぎ合わさり、一枚の式紙と元通りになる。


「気配を感じなかった。あの男、一体……」


 先程の失態を本体に伝え後を追い掛けた。



「リンが拐われた!?」

「申し訳ありません。私ですら気配を感じ取れませんでした」


 ミニヴィクトリアからの報告を受けたヴィクトリア。式紙にはそのまま追跡を命じ、自信は残る3箇所の監禁部屋を探す。


「ウィンディ、最悪君が人質を助けてくれ」

「はい。ですが、敵は多勢に無勢。どうなさるおつもりで」

「ボクは神だよ。神にも怒りってものがあることを教えてやるのさ」


 大事な仲間のリンでさえも人質に取られ、悪魔顔負けの憎悪に満ちた表情と冷酷極まる微笑にウィンディは(おのの)く。


「誰か来る……」


 前方より足音と会話が聴こえる。やり過ごしたかったが考えが変わった。


 懐から短剣を抜くと駆け足で近付く。正面に男がふたり。


 声を上げられては困るために喉を引き裂く。勢い余って頭を胴体から引き離さぬよう注意した。


 理由は広範囲に血を飛沫させないことと“ゴミ”を増やさないようにするためだ。


 血は地面に染み込むが赤く痕が残る。呪文で土に還るようにし、遺体は地中深くに転移させた。完全犯罪も良いところだ。


「なんなら敵全員を地面にやっちゃいます?」


 ウィンディの恐ろしい一言に、

「魔力が勿体ないし、怨みが晴らせないから却下」

 とあくまでも復讐を前提に行っていることが窺える。


「殺して良いのは殺されても良いと覚悟を決めた人だけだ、って誰かが言ってた気がする」


 昔どこかで聞いたような言葉を語る。


「だからもし、リンに何かあれば皆殺しも辞さないよ」


 いつになく冷酷な態度にウィンディは震えた。


「さぁ行こう。先に人質をなんとかしなきゃ」



 明るく照らされた室内に四肢を縛り付けられた少女。腹部に打撃を浮けて気絶したリンだ。


「上物だぜ」

「あぁ別嬪だぁ」


 少女は目を覚まし照らされた室内を見回す。男ふたりがこちらを見ている。


「眼は500、歯は30。んー乳房は1万くらいか」

「いや2万は行くぜ」


 何の話をしているのか分からないでいた。しかしふたりの男の背後からメスを持つ男が現れるなり現実を知る。


「あたし、解剖されるの!?」


 猿轡(さるぐつわ)をされモゴモゴしている様子に男が優しく話し掛けた。


「直ぐにあの世へいけますぞよ、お嬢さん」


 言葉にならない言葉を話すが猿轡のせいで彼に伝わらない。


「ワトキンスさん、早くやっちまいしょーぜ」

「嬢ちゃんの眼と歯なら直ぐに買い手が付きます。心臓や肺などの臓器は買い手が付くまで生かしておこうぜ」


 信じられない言葉にリンは藻掻く。身体をばたつかせて拘束を解こうとしたが無駄に終わる。


「悪いが嬢ちゃん、新鮮さを保つために麻酔はやらねぇんだ」

「そうじゃよ。だからのぅお嬢さん、痛いの我慢するんじゃぞ」


 男はリンの口から猿轡を外すとペンチを用いて彼女の歯を根こそぎ取り除く。


 余りの痛さに悲鳴を上げる。しかし噴き出す血が喉に溜まり呼吸を阻害する。


「おい、お前たち」


 直ぐに吸引して事なきを得るが全ての歯を抜かれた少女に更なる悲劇が待つ。


 男は目玉をくりぬき、ふたりの男は爪を剥ぎ取り髪を刈る。これらは高く売り捌くことが出来るのだ。


 言葉に出来ない痛みを耐えたリンは血の涙を流し訴える。


「お前たち、後悔するぞ。直ぐにお前らを殺してやるからな!」


 だが睡眠薬を打たれたリン。残りの臓器摘出は買い手が見付かるまでは延命されるようだ。


 それまでは生かされる。だが激しい痛みと死へと(いざな)う恐怖を味わうことになる。


「あの女なら健康そうだから胃とか腎臓とか高く売れそうだな」

「心臓も膣も高値で売れるぜ」


 高らかに笑い大金が手に入ることを喜んだ。そして彼女を監獄に入れる。


 痛みに苦しみ藻掻くリン。例え不死身でも死にたくはない。


 何度も経験したからといって慣れるものではない。


 さらに今回は目玉を()り貫かれ、爪や歯、髪までもを失い、次の摘出まで生かされている。


「うぅ……あがが」


 だが彼女の身に起こる災難はまだ序章に過ぎなかった。


 時間の経過とともに、リンは気絶し魘されながらも治癒が始まっていた。そしてワトキンスが解剖のために彼女と対面した時に驚いた。


「こりゃったまげた。不死身のお嬢さんとはな」


 嬉々とする彼に助手の男たちは妄想が膨らむ。


「不死身……ってことは高く売れる膣や心臓が取り放題!」

「50回くらいヤってからでも永遠に処女か!?」

「うぉーっ、金のなる木だぁっはっはー」


 狂ってる。


 涙が頬を伝い再び地獄のような時間が訪れることに絶望した。いっそのこと心臓を抉り取って殺してから他の臓器を摘出して欲しいとさえ思った。


「おいお前、ガッバイさんを呼んでこい」

「へいへい」


 ワトキンスの命令でボスのステン・ガッバイが初めて姿を現した。


 冷酷無比、無差別に殺しをするその大男にリンは身震いし畏怖する。


 彼に耳打ちするワトキンス。状況を説明しているようだ。


「なるほどな。こいつを先に捕まえた男どもと一緒にぶちこんでおけ。それから正午に宴をやる」


 その場にいた部下たちが大歓声を上げる。ワトキンスは久々の宴にご満悦だ。


 部下はリンを無理矢理連れ出すと先に捕まっていた男たちの監獄へ放り投げた。


「ヒャハ、楽しみだぜ」

「俺、このアマの脳ミソ喰ってみてぇ」

「俺ゃ心臓だ。脈打つ心臓に喰らいつきてぇ」


 鍵を締めて大盛り上がりで立ち去った。


 残されたリンに声を掛ける男はワトソンだった。


「大丈夫か」

「すっげぇぞ、血が」


 服が真っ赤に染まっていたリンにカーサスは驚きを隠せない。


「大丈夫じゃないよ。正午になったらあたしたち、生きたまま喰われちゃうんだから」

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