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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第28話「おとり」

 星歴893年5月5日、一行は灼熱の砂漠ニージンヨーをカゲキ共和国へ向かう道中に砂嵐と遭遇。廃墟を見付け、過ぎ去るまで待っていると孤児の少年タケルと出逢う。

 話によると、シャバタウンの西、ヒノデ山にあるアスナロ孤児院からグングニル盗賊団によって連れ去られたのらしい。友達が殺されるも隙を見て逃走。

 これを訊いたカーサスはいてもたってもいられず彼を助けることに。そしてシャバ警察署の署長、キャプテン・バグとともに孤児院へ向かう。

 そこにはグングニルによる残虐極まりない光景が広がっていた。許されざる奴らの行為にカーサスは皆殺しを誓う……。


 シャバ警察署へ戻り、一室を貸してもらったヴィクトリアたち一行。そこで今後に関する話し合いをしているのだった。


「情報によると、敵のアジトはシャバタウンから東へ50キロほど行ったコカ渓谷辺りにあるとされるらしい」

「いかにもヤバそうな名前だな」


 地図を広げ、指差す場所は深い渓谷とアヘインという小川が流れるところだ。なんでもこの小川、下流ではここ数年赤い液体が流れるとともに数々の心霊現象が起こると言われている。


「死体を洗ったりしてるってことか?」

「調査隊を派遣したところ、戻っては来ないそうだ。だから情報は何もない」

「黒だな」


 アジトに間違いないと推察する。しかしこの中のどこに潜んでいるのか、仕掛けはあるのか、人質はどこかなど問題点は数多にある。


「突撃したりしたら人質が殺されるかも」

「慎重にだよ、カーサス」


 リンの言葉に頷く。しかしそわそわして落ち着かない。


「冷静沈着に、だよ」

「分かってるよ」


 分かっていない。そう思う3人。彼を差し置き話を進める。


「正確な居所も分からなければ人数も分からないとなると……」

「囮?」

「かなあ」


 乗り気ではない。しかし誰かが捕まり、囮となって中へ潜入すれば解決の糸口が掴まるかもしれない。


「傭兵に変装は?」

「いや、人数を調べられたり詰問された時にはっきり答えられなければ、その場で殺されてしまうかも」


 リンの意見は却下された。囮捜査が一番濃厚なようだ。


「んじゃ囮捜査で決定な。で、誰がやるんだ。そんな危険な役」


 カーサスが割り込んで来るなり候補者を募る。無論自分は嫌だった。


 万一殺されるようなことがあった場合、例え不死身でも痛いことは嫌なのである。


「誰が囮になるんだよ」

「ボクが……」

「あたしがなるよ」


 ヴィクトリアの声を掻き消すようにリンが声を上げる。嫌そうな表情だが、

「ヴィクトリアがやるくらいならあたしが行く。それにこん中で一番背が低いし、歳も若いし」

 彼女を護るためにも率先しての行動だった。


 とはいえ歳は見た目では皆17歳であり、背は皆より一番低い149センチだ。適任といえば適任なのかもしれない。


「リン……」

「大丈夫、だと思う。その代わりちゃんと掩護(えんご)してよ」


 無論だ。しかし彼女は意思が強くしっかりしている。戦闘力もヴィクトリアに次いで高く、ひとりでも敵を負かせるに違いない。


 そう思うカーサスだが、

「掩護はしてやりたい。だが極力おおごとは避けたい」

 そう返すのはワトソンだ。


「敵の数も詳細もまだ分からない。それに恐らく膨大な人質を隠しているに違いない」


 人質の子供らを救うには派手な戦闘を避けなければならない。彼らの安全が確保できるまではおおごとになるのを避ける必要があった。


「んじゃどーすんだよ」

「だから、リンには気付かないように演技をしてもらって僕たちは子供らの安全確保に務めるんだ」

「こいつが殺されるようなことがあったらどうすんだよ」

「その時は黙って……」

「見過ごすって言うのかよ!」


 ヴィクトリア同様に彼らは不死身だ。だからといって死にたくはない。死んで良いことなんて無いのだ。


「最悪の想定も必要だ。僕だってリンに死なれたくない。だけど、この件の敵はガチでヤバイんだ」

「良いよ、それで。あたしが殺されても子供たちが救えるのなら、痛くても我慢するよ」


 覚悟を決めた言葉にワトソンは謝る。しかしカーサスは素直に賛同できない。


「カーサス、リンがこう言ってるんだから」

「ヴィクトリアは良いのかよ。リンが殺されても」

「その前にどっちも助けるさ」


 その言葉に信用性は皆無だった。今回の作戦は今までで一番の難易度だ。


 子供たちを全員助け出すにはそれ相応の代価が必要になるということなのだ。


「現地に着いたら、こうだ――」


 リンを中へ潜入させ、3人は周囲を探索。リンからの連絡はヴィクトリアの式神を通して行う。都度報告を受け、各々の任務を遂行する。


「あくまでも戦闘は最終手段。但し安全が確保できればドンパチができる」

「主目標は子供たち、ガッパイ、シャストビッチ、そしてドクター・ワトキンスだ」

「死ぬなよ、リン」

「がんばる」



 日付を跨いだ5月6日、一行はシャバタウンより東50キロ離れたコカ渓谷の入口付近へとやってきた。


 月と星、灰色の巻層雲の下、砂漠の気温は10度にまで冷え込んでいた。


 周囲は大きな石がゴロゴロと転がっている他、川のせせらぎが心地よいほどに聴こえていた。渓谷には緑もあり、草木が繁っているほどだ。


 薄暗いその中で一行は渓谷の奥へと歩みを進める。


「暗いな」

「いや待て、明かりが」


 渓谷の入口から数百メートルばかり歩いた地点に安心するかのような明かりが灯っていた。


「ちょっと待ってて」


 斥候をすべくヴィクトリアが向かう。音を立てず慎重に。


 途中、複数の音が鳴る仕掛けに遭遇したがそれらを解除しつつ前進。明かりの灯る場所へ辿り着くと屈強な男ふたりがライフル銃を持って立っていた。


「似つかわしくない鉄扉……」


 その先の侵入は困難だと判断し一度皆の元へ帰る。


「どうだった」

「いや、鉄扉があって中は分からない。歩哨がふたりだけ立ってたよ」


 そして幾つかのトラップがあったことからグングニルのアジトに間違いないようだ。


「空からアジトを見てみよう」

「大丈夫か?」


 カーサスとワトソンは岩影に隠れ、ヴィクトリアとリンは純白な翼と尾を広げ大空へ羽ばたいて行く。


「便利だよね」

「ふん、高いとこはおっかねーって」


 カーサス、実は高所恐怖症なのである。飛行機や高層ビルなど生身が隔離されている状態であれば大丈夫とのこと。しかし一瞬足りとも身体が空へ飛び出せばわんわん泣き喚くこと必至だろう。


 一方のふたりは上空を飛行し確認する。夜目が利いてきたのか、月光のせいか大分慣れてきた。


「あそこに降りてみましょ」


 頂上へゆっくりと降りるリン。風が吹いていて寒く感じた。


「はい遠眼鏡(とおめがね)


 ヴィクトリアから渡された単眼鏡(たんがんきょう)を覗くリン。魔法で昼のような明るさに見える。


「すごいね、これ」

「良く見えるでしょ」


 人の動きまでしっかりと確認できた。数人の男を確認するも肝心の人質の姿はない。


「やっぱりどこかに纏めてるか」

「多分、この渓谷の中だね」


 リンは指を差す。その先には渓谷の中に通ずる穴があった。


「この渓谷、要塞のようになってる」

「この渓谷全体が要塞か」


 巨大要塞である。確かに指差す先々には穴と見せ掛けてか、鉄格子が嵌めてあったり大砲の砲身のようなものが見える。


「せめて要塞内部まで透視出来れば」


 神にすがる(すが)るも断られてしまう。


「代わりにこれなら出来るよ」


 そう言うとウィンディを呼び出した。彼はヴィクトリアと契約している風の聖霊だ。彼がいなければ、この世に風そのものが無くなる。


「任せたよ」

「了解です、(あるじ)様」


 彼の能力は風を感じることが出来る。例え惑星の反対側だとしても風が通る場所は全て感じ取ることができる。


 風を通じて要塞内部の地図を作ろうとした時だ。地上で乾いた銃声が渓谷内に轟いた。


「なに?」

「カーサスたちか!?」


 急いでその場を離れ、最初の地点へ急ぐ。がしかし、そこには男たちに囲まれた状態で両手を頭の後ろにして(ひざまず)くふたりの姿があった。


「なんてこったい」

「どうするの、ヴィクトリア」


 上空から目の当たりにするふたり。助け出したいが、下手に刺激をしてしまえば人質に危害を加えられる可能性がある。


「最悪、死んでも生き返る。この場は……」

「あっ、見て!」


 悲痛な決断をしようとした時、リンが声をあげる。男らはふたりを連行していったのだ。


「なんでだろ」

「もしかしたら若く見えたからかも」

「実年齢は数百歳よね」

「じゃあボクはとてもオバサンってことだね」


 そうは言っていない。だけれども、確かにその通りでもある。


 冗談を言っている場合ではない。ふたりが渓谷内部へ連れていかれてしまった。


「計画がご破算じゃん」

「ウィンディ、どう?」

「まだ掛かります」


 仕方なく様子を見ることにした。それしか方法がない。


 しかし、待っている間にも人質の子供たちは臓器を売られるために解剖されているかもしれない。さらにふたりの身にも危険が迫る。


 万一不死者だと気付かれてしまえば無限に内臓を抜き取られるかもしれない。若しくは見世物に。または射撃の練習や鬱憤ばらしのサンドバッグ。


 どんな結果になろうとも彼らの苦痛は計り知れないだろう。もう生きることが辛くなるかもしれない。


 ウィンディが内部の把握に努めている間にふたりは周囲を散策した。ただ待っているだけでは我慢できないからであった。



 時刻は7時を過ぎた頃、日の出まで凡そ3時間といったところか。ウィンディの一声でふたりは集まった。


「出来た?」

「はい、大まかではありますが。何分、術式が組み込まれて立ち入れない空間がありました」


 それは最奥へと続く空間だ。近くに幹部の部屋があることから、ボスのガッバイがいる部屋と仮定する。


「こいつを先にぶち殺したいわね」

「人質優先だよ」

「分かってるわ」


 人質の子供たちは幾つかのブロックに収容されていることが判明した。さらに年齢と男女に応じて収容されており、その数は18にも及ぶ。


 それらのブロックは全て地下部分に占められていた。しかしそのさらに地下には臓器保存の地下室や武器庫があるらしい。


「最下層に天然の冷蔵庫があるみたい」

「砂漠でも地下層は冷えるものね」


 ある程度確認をし終えるとふたりは早速行動に移る。


 先ずは両者、人質の部屋を外部から干渉できなくさせるために結界を作る。そして次に敵戦力を間引く。出来ることならば、同等の戦力にしたいと思っているが高望みは禁物だ。


「じゃあ、何かあったら式紙に」

「分かった。気を付けて」

「そっちもね」


 リンの元にヴィクトリアの式紙が送られる。それは直ぐにデフォルメされた2等身のミニヴィクトリアへと変化した。


「どうも、初めまして。ミニヴィクトリアと申します」

「かわいい……」


 本物以上にかわいく見え、ついつい抱き締めてしまう。本物のヴィクトリアは苦笑を浮かべ、

「じゃあボクは行くよ」

 そう言ってこの場を去る。


 リンも行動に移った。


 手始めに最下層の武器庫にサボタージュを行う。それにより奴らの強みを断つ。


「うまく行ければ良いけど」

「ナビゲートは私に任せてください」


 ミニヴィクトリアが案内役を買って出る。彼女はそれに従い、敵のアジトへ潜入するのだった。

 誠に申し訳ありません。タイトルが前話と同じになっておりました。修正いたしましたので、よろしくお願い申し上げます。

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