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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第27話「アスナロの惨劇」

 星歴893年5月5日、一行は灼熱の砂漠ニージンヨーをカゲキ共和国へ向かう道中に砂嵐と遭遇。廃墟を見付け、過ぎ去るまで待っていると孤児の少年タケルと出逢う。

 話によると、シャバタウンの西、ヒノデ山にあるアスナロ孤児院から盗賊団によって連れ去られたのらしい。友達が殺されたりして隙を見て逃げ出し、今に至る。

 親身になって訊くカーサスに助けを求めるタケルはに一行は願いを叶えるべく、一路アスナロ孤児院へ向かう。

 だが、シャバタウンへ到着したものの紆余曲折ありキャプテン・バグが署長を務める警察署へと連れてこられるのだった……。


「俺がシャバタウン警察署の署長、ボブ・アルペン・ゴングだ。皆からはキャプテン・バグって呼ばれているぜ」


 身長2メートル35センチでモヒカン刈りが一番に目立つ大男。今にもはち切れんばかりの制服の下には男であれば誰もが羨む筋肉モリモリマッチョマンの姿が隠されているのであろう。

 そして丸い黒眼鏡を掛けた警察官らしからぬ姿をしている彼こそ、件の捜査を指揮している。


「アーク連邦正規陸軍大佐殿と言うことでありましたな」

「ええそうです」

「なんの話だ?」


 カーサスはヴィクトリアの付いた嘘を知らなかった。彼のみならずワトソンもリンも同様だ。


 彼は事情が読めず訊ねようと近付くが眼にも止まらぬ素早い裏拳により打ちのめされた。


 間近で見ていたふたりは咄嗟に付いた嘘でその場を丸く納めたことを理解した。尚、カーサスは話が終えるまで気絶していたことは言うまでもない。


 話の途中であったが、ヴィクトリアはもう一度本人に対して捜査の参加協力を要請する。


「捜査協力は大いに助かる。最早我々だけでは手に終えんところだ」


 カゲキ共和国国防軍にも先程応援を要請したという。事態は深刻で、既に合計6件もの襲撃や強盗、殺人が発生している。


「国は非常事態宣言を各地域に勧告するそうでな、住民や観光客は外出禁止の措置を取るらしい」


 各地域の警察官が周囲を厳重に警戒、国防軍の到着を待つという。


「我々は敵のアジトを掴んだ」

「キャプテン……」


 口を挟むデッカー。この情報は外部に漏洩してはならない代物だ。安易に教えるということは例え署長の権限であっても許されない。


「彼らは正義と名高いアーク連邦正規軍の者たちだ。我々とは比較にもならんだろう。それに――」

「それに?」

「この者たちは幾度となく死線を越えた匂いがする」


 だがそのような理由だけで機密を漏洩するなど言語道断だ。彼はそう進言したがこの世で道理の通らないものはたくさんあるのだとねじ曲げられたのだった。


「それにだな、この者たちは先程から協力してくれる人間だ。機密とて共有しなければ解決できよう事件も解決せん」


 頭を抱えるデッカーに周囲の警官は同情している。脳が筋肉で出来ている謂わば脳筋式解決法なのだろう。


「ウハッウハッウハー。そゆことなんでえぇ……名前はなんだっけか?」

「ヴィクトリアです」

「いやラストネームだ」

「ヴィクトリアで結構です」

「しかし……」


 彼女やワトソンらも名前で呼ばれる方が良いと言ってそう決まる。


「それではヴィクトリアくん、改めて宜しくな」


 お互い握手を交わし、いざアスナロ孤児院へと向かう。



 アスナロ孤児院へはこの移動式指揮車で小一時間は掛かる。その間にデッカーがタケルには聞かせられない話を始める。


「アスナロは……もう何もない――」


 孤児院を襲撃した盗賊団は臓器売買で幾つかの国々から討伐手配されているグングニルと呼ばれる組織だ。


 彼らは皆傭兵か医学を学んだ人間で構成されている。


 団長のステン・ガッパイは元カゲキ共和国国防陸軍の鬼軍曹とも呼ばれた人物で危険な任務から残虐な任務まで遂行した男だ。


 当時、彼の戦果は素晴らしく軍全体の士気を鼓舞するものであったが、今や汚点として払拭したいものであった。それ故、今回捜査本部を置いていたシャバタウン警察署の要請で軍が介入する切っ掛けとなったのだ。


「何もない、というのは?」

「奴らは残虐非道でな。建物は破壊、または焼き払われ屋内にゃ惨殺された人々が横たわっておった」


 さぞ凄惨な現場であったことが窺える。さらに抵抗、若しくは逃走を図った子供や青年には漏れ無く斬首されていたそうだ。


「酷いことしやがる」

「気分が悪くなるわね」


 正に現場は地獄絵図であったろう。だがしかし、捕らえられた子供たちの方が恐らく、いや確実に地獄の光景を目の当たりにしているとだろう。


「奴らはそうまでして臓器売買を?」

「臓器、取り分け子供のモノは高値で売れるという」

「それは医学から?」


 医学を多少なりとも学んでいるワトソンが訊ねる。彼が産まれた時代から医学は大分進歩しており、臓器移植の確立が先進国に於いて普及しつつある世の中だ。


「それもあるが、一部愛好家がいることも事実」

「女児の性器を高値で買う客もいるのです」


 デッカーが補足して気分を悪くする一同。たがこれも事実なのだ。


「残虐非道な罪を犯す、それがグングニル強盗団の手口なんです」

(むご)すぎる」


 一同は言葉を失う。そこまでして金を得たいのか。そこまでする必要性があるのか。なぜ彼らをそこまで駆り立てるのか、彼らは悩んだ。


「団長のステン・ガッバイは英雄と呼ばれる一方で極悪非道の任務を遂行していた。そこで人格が変わってしまったのかもしれんな」

「それかある任務で彼に吹き込んだ奴がいるのかも」

「一応情報では腹心の仲間がひとりいるとのこと」


 資料を見せるデッカー。一同はそれに釘付けだ。


 仲間とはガッバイの士官学校時代のオカ・シャストビッチという。彼はエリート街道を掴み、前線よりも後方で指揮を執り大尉まで上り詰める。


 しかしある任務でガッバイの指揮を執ると、指揮権を彼に移譲。任務は成功に終わるもガッバイとシャストビッチは依願退職。


 そして現在に至るという。この任務で何かを変えたのは間違いないようだ。


「とはいえ、これを知っても奴らの素性が少し知るだけで何の解決の糸口にもならん」

「そうなんです。我々は彼らの逮捕を目的としておりますが、軍主導の捜査となれば……」


 言わずもがな、強盗団諸共あの世へ葬るだろう。一切の真実は闇に葬られ、軍の描いたストーリーだけが世に永遠と語り継がれる。


「そうなっては第2、第3のガッバイが現れるに決まっとるわい。何としても逮捕せねばなるまいて」


 その通りだ。真実を知ることは最も大切だ。それが悪いものだとしても知らないよりかは良いだろう。


 だが最終的に彼らは死ぬ。二度とこの世で生き長らえることは無いだろう。永遠に。


「奴を再び世に放しては駄目だ。次の事件が起こる前に奴らをぶっ殺してやる」


 怒りに満ちたカーサスがいつにも増してやる気を見せている。そんな炎付きのエフェクトでオーラを放つ。


「彼らは非常に残虐です。我々との戦闘の最中で、もしかすると殺しちゃうかもしれませんが……」

「ならん。生け捕りだ。ガッバイと腹心のシャストビッチ」

「それからこいつもお願いします」


 あるファイルを見せられた。そこには、ドクター・ジョン・ワトキンスの文字が。


 ドクター・ジョン・ワトキンス。グングニル強盗団一(いち)の神の手を持つ摘出者。


 彼はあらゆる人体の内臓や血管を生きたまま摘出することが出来る。難しい内臓の摘出には彼が出る一幕もある。


 ワトキンスは元々カゲキ国営病院の院長だったが数々の奇怪により解任。その後は消息不明だった。


「奇怪って?」

「手術中に患者の体を使って実験をしたり、ひとりでこっそりオペをしたりしたそうだ」

「最悪患者を死なせることもあってな、その都度人類にとって名誉ある死だとかなんとか言っとったらしい」


 彼もまた奇人変人のようだ。そんなグングニル強盗団という集まりがひとつの思想と相まって猟奇的な集合体になってしまったのだろう。


 それから数十分ののち、車は静かに停止する。アイドリングをしたままドアが開く。


「キャプテン、到着しました」


 ひとりの警官が告げると皆は降車した。


 周囲は街灯がなく暗かった。目前には荒廃した孤児院らしき建造物があった。らしきというのは、既にその面影が無かったことを意味する。


「うっ、この臭い」

「色んなものが燃えた臭いだね」


 まだ外周にも関わらず臭いが周囲に漂っていた。入口から中へ足を踏み入れると更に悪臭が皆々の鼻を(つんざ)くようだった。


「気持ち悪い……」

「異様な空間ね」


 ランタンと懐中電灯の明かりだけが便りだった。既に調査は終えていたのか、非常線のみが張られているだけだ。


「うぐっ」


 懐中電灯が照らされた先に真っ黒な遺体が横たわっていた。彼はこの孤児院の院長、ハンソン・ベガ。


「あっちは妻のジェシカ・ベガだ」


 明かりの末端には真っ二つになる黒焦げの遺体。腕は真上を向いて、(あたか)も藻掻いているようだ。


「夫の方は即死だったが妻は相当苦しんだようだな。焼き討ちされた時にも意識があったと推定される」

「妻は夫が殺され、女は奴隷か姓奴隷に利用すべく連行しようとしたが抵抗、若しくは逃走を図って殺されたと推察される」


 切り口は鋭利な鉈、または斧のようなものだという。兎も角一刀両断出来る何かだということは確かだ。


「こっちはもっと酷いぞ」

「覚悟がある者だけ、見るんだな」


 ふたりに諭され一方は広い場所へとやって来た。そこには少なくとも15は確認できる遺体が散乱していた。


「孤児院の子どもたちと働いていた人たちだな」

「職員は身元証明書との照会でなんとか分かるが、我が国では孤児に対する扱いが無くてな。皆名無しで身元は分からん」


 職員は全部で3体。残りの12体全ては孤児となる計算だ。しかし厨房では判別不能の遺体があり、数は未知数である。


 周囲を見て回る一行。遺体ひとつひとつに手を合わせるリン。ワトソンはデッカーから遺体の検分書を借りて実際に見て確認している。


 カーサスはヴィクトリアと共にあちらこちらを監察。その際に彼はあることを頼む。


「あいつを呼んでもらえないか」


 あいつとは。聞き返す彼女にマリーを呼ぶように頼んだ。


「珍しいね。でもダメ。彼女も忙しいだろうし」

「良いじゃねぇか。呼べよ」


 感情的になる彼を落ち着かせる。


 マリーを呼ぶことで死者の魂を弔うことができる他、対話が可能になる。そうすれば苦しいかもしれないが、当時の状況や強盗団の詳細がさらに知ることが出来るかもしれない。


 しかしヴィクトリアは首を横に振って応じることは無かった。


「お前、なんでだよ!」


 首元を掴んで争う。周りが一斉にこちらを見る。光を照らして来たのでヴィクトリアが誤魔化した。


「躓きそうでカーサスが助けてくれたんだ」

「気を付けろ、あちこち脆くなってるぞ」

「了解です」


 なんとか誤魔化せたようだ。首元から手を払わせ彼女は諭す。


「もうここには魂が無いんだ。既に回収されたか、悪霊に取り込まれたか。何れにしろ、ここはただの遺体がある空間なんだ」

「なんで分かる」

「ボクだって一応、冥界を創った神のひとりだよ」

「そう……だったな」


 取り乱して悪かったと謝る。そして1体の遺体の前で屈む。


「俺たちが何としても奴らに復讐してやる。だから安心しろよな」

「カーサス」

「なんだよ」

「それ、豚だよ」


 家畜かペットとして飼われていたであろう動物も丸焦げになっていた。彼はそれらに対しても厚い感情があるのだった?


「も、もちろん知ってたさ。豚ちゃん可哀想だなって」

「さてと、一度戻ろう。状況を整理して奴らを叩く」

「お、おう!」


 一行はアスナロ孤児院を離れ、シャバ警察署へと戻る。

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