第26話「キャプテン・バグ」
星歴893年5月5日、一行は灼熱の砂漠ニージンヨーをカゲキ共和国へ向かって歩いていた。目的地のシャバタウンへ到着前に砂嵐と遭遇するも廃墟を発見。
これに魔法障壁を展開して過ぎ去るまで留まっていると孤児の少年、タケルに出逢う。
彼はシャバタウンの西、ヒノデ山にあるアスナロ孤児院という施設から賊に連れられ脱走してここへ来たのだという。
友達の孤児らはひどい目に遭わされたり殺されたりもした。その影響で塞ぎこんでしまったが一行の温かい心に気持ち和らげ助けを求める。
斯くして、一行は目的地をアスナロ孤児院に、そして賊の討伐と孤児の救出を目標にするのだった……。
星歴893年5月5日は夜の39時。カゲキ共和国のシャバタウンに一行と少年タケルは到着した。
シャバタウンは首都ボードウから東北東56キロに位置する砂漠地帯の玄関口だ。
主要産業物は石油だが、埋蔵量は少なくあまり量が採油出来ない。
また農産物は特になく、カゲキ共和国全体でもそれほど自給率は高くない。それ故、サティ協商国からの輸入に頼っている。
街に入ると賑やかな声が聞こえる。久々に大勢の人の声が聞ける。
「よう、兄ちゃんっく!」
顔が真っ赤なオヤジがカーサスに声を掛ける。無論彼の親戚や知り合いでもない。
「どっこから来たんだっく!」
吐息は酒の臭いが強くたまったものではない。
「あぁ、疲れがどっと来たよ」
「右に同じ」
ワトソンも同意する。到着早々変なオヤジに絡まれ気分は最悪だ。
「アンちゃん、ワリィね!」
連れの人なのか分からないが酔っ払いのオヤジの襟を掴む。
「ゴンベエさんよ、呑みすぎだで」
「ギンゾー、あと7升はイケるって!」
どうやら酔っ払いオヤジの名前はゴンベエで連れはギンゾーというようだ。一行はその場を足早に去ろうとしたがゴンベエは彼らを制止させる。
「でー、兄ちゃんたちはどっがら来たんでっく!」
仕方なくサティ協商国から砂漠地帯を横断してやって来たことを話すとギンゾーも驚く。
ふたりが騒いでしまい何人かの人が集まる。
「アンちゃん、こんな砂漠さ横断して良くまぁ生きてたなぁ!」
「おらおめぇたちに感動してるっくはー、うめえ!」
カーサスは疲れと怒りに気がどうにかなりそうだった。しかしリンが、
「おじ様、あたしら疲れて早くホテルで休みたいのさ。だからどいてくれませんこと?」
穏やかな口調で彼らに告げると頭を下げて道を開けてくれた。
「こういう人たちにイライラしててもしょうがないよ」
だが、ゴンベエが彼女の胸に両手を当てる。柔らかい感触を感じた彼だがため息を漏らす。
「なんでい、ちっちゃなおっぱいじゃねぇか。ギンゾー、ミルクを買ってやれ!」
その言葉の後には彼女のグーパンチが炸裂する。ゴンベエは吹っ飛び店先の荷車に積まれていた樽に直撃。
樽に亀裂が入り中から赤い液体が流れ出る。周囲はどよめくがゴンベエはその液体を舐めて気分が高揚していた。
「ワイン、ワインだ!」
しかし荷車の持ち主は怒り心頭だ。ゴンベエの胸ぐらを掴み殴り掛かろうとする。
間にギンゾーが入り事の顛末を説明。持ち主はリンに詰め寄る。
「弁償だ!」
「べ、弁償……」
到着早々に変なオヤジに絡まれ、今度は一行が騒ぎの元に。
「リン、イライラしてもしょうがないんじゃなかったのかよ!」
「うっさい」
財布を取り出して金を確認するが持ち主は金よりもワインの弁償を要求。無論そんなことは出来ないため、警察を呼ばれてしまう。
暫くすると砂漠塗装のハーフトラックからふたり連れの警察官が不機嫌そうにやって来た。
「何事なんだ。こちとら忙しいんだ」
通報した荷車の持ち主が挙手をして説明。リンにも事情を聴取され、起きたことを詳しく話す。
「原因は呑んだくれのオヤジだな。ゴンベエとか言うお前が金払え」
階級が高そうな警察官が指示するも、やはりここでも持ち主は金よりワインを弁償することを要求する。
「んなもん不可能だろうが。あんた頭おかしいんじゃねぇか? 金払って穏便に解決しろ。こちとらお前らに構ってる時間は無いんだよ!」
早口で捲し立てる姿に持ち主はさらに憤怒。しかしピストルを手に取り、
「公然暴言罪で貴様を裁判抜きの死刑にするぞ、ゴラァ!」
安全装置を解除し銃口を向ける。流石に死にたくはなかったのか手を上げて降参。
渋々罰金で解決しようとするが、肝心のゴンベエは金が無いと言って支払えないという。そこで今度は持ち主とゴンベエ、その間に入ったギンゾーで言い争いが起こる。
「なんかカゲキな国だな」
「そうだね」
カーサスとヴィクトリアが彼を見て思った。頷くリンとワトソン。
階級の高そうな警察官は去ろうとしたがもうひとりのひょろひょろしたもやしのような警察官がタケルを凝視していた。
「ベイ巡査、行くぞ。我々には仕事が山ほどある」
「待って下さい、デッカー警部」
もやしのような警察官はベイという。もうひとりの警察官は階級が高そうに見え、実際高かった警部のデッカーに耳元で囁く。
「少年、君はアスナロ孤児院のタケルくんかな?」
少年は首を縦に振る。その瞬間、デッカーの目の色が変わった。
「貴様ら4人を拘束する。罪状は誘拐ならびに殺人だ」
もやし巡査が飛び掛かるがリンの華麗な制裁で袋叩きに遭う。
デッカーが公務執行妨害を付け加えると拳銃を向け大人しくさせようとする。しかしヴィクトリアの風魔法により拳銃が吹き飛ばされる。
「この人たち味方。助けてくれる。復讐してくれる!」
間に入り口を開く少年にもやし巡査が騙されてはいけないと説得するが一蹴されお互い冷静に話し合うことに。
事情を知りデッカーは謝罪した。もやし巡査も頭を下げる。
「申し訳ない。我々はその、盗賊団にてんてこ舞いでな」
「早く捜査に戻りたかったのですよ」
その気持ちは解る。だが事実をねじ曲げて突然逮捕とは道理が通らない。誤認逮捕と冤罪が無くならない理由だ。
しかしながら彼らの気持ちもわかる一行。盗賊団の犯罪は度が過ぎていたのだ。
一応は一行もタケルを通じての関係者だ。捜査の邪魔にならないように手助けすると伝えるが断られてしまった。
当然だろう。旅行者にそこまでしてもらうわけにも行かず、況してや警察と国のメンツにも関わる。
「どうしてもダメなのですか?」
「残念ながらこの捜査は我々警察の威信を掛けたものでして……」
何度も頼んでみるが無駄だった。一行は、例え断られてもこの一件に関わろうとしていたが目の前に持っているであろう情報を見す見す失うわけには行かない。
事は急を要する。時間が経過すればするほど、孤児たちの命に関わる。
「実はデッカー警部……」
ヴィクトリアが彼の耳元で囁く。
「我々はアーク連邦正規陸軍所属の軍人なんですよ」
「アーク連邦軍の?」
「えぇ。ボクはこれでも部隊長で階級は大佐。あっちの馬鹿そうだけども頼もしいのが少尉――」
馬鹿そうとはカーサスのことである。因みにワトソンは中尉、リンは大尉と説明した。
「いやしかし、カゲキ共和国はアーク連邦に与するアーク連合には入っておりませんし」
「そうなんですけどね、ボクたちは軍人で戦闘にも長けていて、何よりあなた方の駒として動いてもそちらにリスクは少ないと思いますよ」
巧みに出任せを捲し立てる彼女にデッカーは静かに聞いては頷いている。
旨そうな話だが責任問題がどうのこうのと呟いている。そこでヴィクトリアが突く。
「もしポカやって責任を取ることになればカゲキ共和国側にアーク連邦軍が強引に捜査を指揮してきたなどと出任せを言ってしまえば良いさ」
悪だ。彼女は完全に悪者だ。何故なら、その言葉自体、意味を成さない。一行はアーク連邦軍とはなんら関係もなにも無いからだ。
「しかし……」
「そいつらを掴まえたくは無いのかい? ボクたちなら例え火の中、水の中だって永遠と追い詰めぶっころ……捕まえてやるけれど?」
絶対に何か物騒な言葉が聞こえたが無視するデッカー。
彼は腕を組んで暫し考える。もやし巡査はただただ待つだけだ。
「一応本部に訊いてみる。だが結果に期待しないでくれ」
待つこと10分。ハーフトラックで本部と通信していたデッカーが帰ってきた。その間もゴンベエらの言い争いは続いていた。
「それで警部、どうだったんです」
もやし巡査の問いに彼は溜め息を吐く。それから話し始める。
「キャプテン・バグ曰く、捜査に参加させよとのことだ」
アスナロ孤児院の他、またしても孤児院が襲撃され捜査本部は猫の手も借りたいそうだ。現在、本部では外部の人間に協力要請を前向きに検討している。
とはいえ国内に限る、である。しかしながら、ヴィクトリアらは一応アーク連邦正規軍ということで話を通っていたため協力な助っ人だとキャプテン・バグという人物は考えていた。
このキャプテン・バグ、本名は“ボブ・アルペン・ゴング”と言ってシャバタウンの警察署長である。姓名の頭文字を取り、バグ。そして元軍人であったことから、キャプテン・バグと呼ばれているそうだ。
モヒカン刈りで身長は2メートル35センチあり、筋肉モリモリマッチョマンで丸い黒眼鏡を掛けた警察官らしからぬ姿をしているそうな。
「キャプテン・バグって誰だよ」
いち早くカーサスが疑問を投げ掛ける。もやし巡査の説明に誰もが仰天する。
「そいつは本当に警察署長で良いのかよ……」
「バカにするでない。キャプテンは君なんかぎっちょんぎっちょんにしちまうぞ」
デッカーの言葉にもやしは頷く。
何はともあれ、捜査に参加させてもらうことになりお礼をする。そうして一行はアスナロ孤児院へタケルを送り届けたいと申し上げるが断られる。
「その前にタケル君は署の方で精密検査だ。君たちはキャプテンがお呼びだ」
「着いてきて下さい」
もやしの後についていくとハーフトラックの荷台に乗せられる。デッカーが運転席に座り、もやしが助手席に座ろうとすると止められる。
「ベイ巡査、悪いが君はあのバカ共の後始末を頼む」
酔っ払い一味のゴンベエらとワイン商人のことである。
「一応応援は呼んだ。じゃあな」
彼を置いてトラックは出発する。暫く走ると同型のハーフトラックとすれ違う。デッカーは手を上げ挨拶する。応援の警察官らのようだ。
車に揺られること30分、漸く着いた先が盗賊団の捜査を管轄するシャバタウン警察署だ。
「さぁ着いたぞ。タケル君とはここでお別れになる」
荷台の扉を開け一行にそう言った。
署には少年を保護するための警察官が3人いた。一行はタケルに別れを告げる。
「必ず戻ってきてね」
その言葉にカーサスが返した。
「もちろんだ。みんなを連れて帰ってくるぜ」
少年タケルと分かれ、一行はデッカーに連れられ署長室、ではなく別のトラックへ乗せられる。
「今度は頑強そうなトラックだ」
「我が署唯一の高機動指揮車だ。乗りたまえ」
車内は精密機械があちらこちらに、そしてその中心に彼はいた。
飄々とした外見に声を掛けにくくデッカーが発するまでただただ見ているだけだった。
「こちらが捜査協力をするアーク連邦正規軍の方々です」
「おう、待ってたぜ。俺はボブ・アルペン・ゴング、キャプテン・バグって呼ばれてる。宜しくな」
署長とは思えない話し言葉に一同は親しみを感じた。




