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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第25話「灼熱の孤独」

 星歴805年13月16日、この日、アルビオニヒス皇国元天皇のリン・アサカゼがアークファミリア10番目、風を司る神“ヴィクトリア”の下僕となった。

 彼女が仲間になり、約88年が経った星歴893年。一行は各地を転々と巡り今、ニージンヨー砂漠を西へ横断していた。

 次の目的地は砂漠の中の小国、カゲキ共和国だ……。


 星歴893年5月5日朝の14時を過ぎた頃。見渡す限り砂の世界が広がる。


 ここはニージンヨー砂漠。東西に数百キロと延びる死の砂漠地帯。


 気温は52度。ただ立っているだけで汗が滝のように流れ意識を失ってしまいそうだ。


 そんな世界を4人の人影が横断している。


「暑い……暑い……」


 酷暑に耐え兼ねてひたすら同じ言葉を口にする青年がいる。バーン・カーサス、17歳だ。


 白いYシャツは既に汗でびっしょり濡れている。額は洗顔したかのように汗だくで茶色の髪もぐっしょり濡れている。


「暑い!!!」


 遂に、というより勝手にひとりで怒り狂って叫ぶが聞いてくれる人は近くにいない。


 それもそのはず、彼は他の3人よりも数百メートル後方を歩いているのだ。


「なんか聞こえたよ」

「なんて言った?」

「さぁ」


 その内のひとり、背の高い黒人の青年が大声で叫ぶ。


「なんだって!!!」


 帰ってくる言葉はやはり聞き取りづらい。少し待ってあげることを提案する彼は、僅かながらも医療に知識を持つハンマー・ワトソン。


 身長は180センチと一行で一番高い。黒髪のパンチパーマに碧眼で物腰の低い優しい青年だ。


「そうね、少し待ってあげましょ」


 腕組みをし溜め息を吐く赤髪の少女。空のように透き通った瞳でカーサスを遠くから見つめる。


 ワトソンとは正反対の背丈。身長149センチ、小柄な体格だが誰よりも活発で元気な少女、リン・アサカゼ。


 翼と尾を持つアルビオンという有翼人種族の生まれだ。


 そして彼女の隣で同じくカーサスを眺める青年がいる。


 中性的な顔立ちでワインレッド色をしたポニーテールを風に靡かせ、左目は蒼色に対して右目を黒の眼帯で覆っている。身長はワトソンとリンの中間くらいだ。


 カーサスが169センチあり、この青年は1センチ高い170センチだ。


 青年の名は、ヴィクトリア・ギャラクシー。この物語の主人公だ。性別は女性である。リンが仲間になるまでは唯一の女性であった。


 彼女はアークファミリアというこの星と宇宙を創造した10番目の神なのである。


 それを証明するためアークファミリアひとりひとりに必ず誕生月の紋章が刻まれている。ヴィクトリアには右目に刻まれているため眼帯で覆う必要がある。問題になっては迷惑だからだ。


 また固有の魔法陣を持ち、これらが神を証明する。誰も真似が出来ないようにこの世界を創造した際に生み出したのだという。


 彼女にはウィンディという聖霊と契約しており風を操ることが出来る。


 もしも彼女がいなくなればこの世界から風、そのものが消滅してしまう。この世界の神とはそういうもので、それぞれの神がひとつ何かしらを司っている。


 とはいえ、アークファミリアは不死身で不老不死。そして人間と同様に脳や心臓があり、血液が身体中を巡っている。粉々になっても復活は可能だが、神剣という神がひとりひとり持つ不死身と不老不死を殺せる剣がなければの話だ。


 さて、彼らの自己紹介はこのくらいにしておいて、何故一行が旅をしている理由について説明しておこう。


 アークファミリアはこの星を創造した時にゲスチオンヌという管理者を創ろうとした。そしてセルビアという男を誕生させたが、あろうことか神を倒し自らが神を名乗ろうとした。


 その目論みは失敗したわけだが、彼についていった民族がのちに堕落民族としてアークファミリアの敵となる。


 その敵をこの世から掃討するためにヴィクトリアは旅をしている。そしてカーサス、ワトソン、リンを仲間に従えて今まで旅を続けてきたのだ。


 ヴィクトリアの下僕となったこの3人はアークファミリアと同じく不死身の不老不死となった。主であるヴィクトリアと同じ年齢、つまり17歳となり、この世を生きる。


 歳は取らないが不摂生な生活などをすれば病気や怪我をすることもある。死ねば治るというものでもなく完全に治療しなくてはならない。


 その点に関しては、ワトソンが一行の医療アドバイザーとして大いに役立っている。


 また容姿も17歳に固定される。例え片足や肩目を失って契約しても健常な17歳として生きられる。


 かつてリンが処刑される際に燃やされた純白で美しい翼も今は元通りとなっている。


 翼繋がりでいえば、ヴィクトリアも白い翼と尾を持つアークファミリア唯一の存在である。


 では話しを元に戻すとしよう。


 今、彼らは次の目的地であるカゲキ共和国へ向かっている。そこにはゲスチオンヌと堕落民族を葬り去る目的もあるが、ヴィクトリア自身この星を創造したひとりとしてどう繁栄しているのか、この目で確かめたいのだという。


 カゲキ共和国はサティ協商国から独立した小国だ。サティ協商国とは、このニージンヨー砂漠で繋がっている。だからと言って横断する人は皆無である。


 通常カゲキ共和国にあるケシカケタウンという場所から川を使って、サティ協商国のミカルタウンまで船で横断するのが主流である。


 しかしながら運賃が高いことと、川幅が狭く1日1往復しか出来ないことが挙げられ死の砂漠地帯を横断する人も少なくないという。


 参考までに比較すると、サティ協商国のニテイタウンからカゲキ共和国のシャバタウンまでは船で向かうとすると1人分の大人料金として980ADS(アークドル)が掛かる。


 この時代のコーヒー一杯が1ADS、シャワーとトイレ付きでシングルベッドタイプの宿泊料金が約250ADS。これらから考えると高価な交通手段と言えよう。


 だが死ぬよりかはマシ。そう考える者が多く、それ故に需要が高いのだ。


 では何故一行は船ではなく砂漠を選んだのか。確かに不死身であるが苦痛は続く。その理由はカーサスにあった。


 暫く彼が3人のところまで待つ。そして息を切らして肩で呼吸する彼を見てワトソンが言った。


「――だから船で行けば良かったのに」

「それだけは嫌だ。金が掛かる。金が惜しい」


 カーサスは金にうるさくがめつい。昔はそうでもなかったが、最近では過敏になっている。


「じゃあ文句言わずに歩こうよ」

「わーってるよ、リン。良いよなお前は。チビだから俺らより太陽に近くなくて少しだけ暑くなくて」


 あまりの暑さで頭が可笑しくなったのか。意味のわからないことを言って彼女にぶん殴られている。


 その間にワトソンとヴィクトリアが地図を確認している。地図上ではあと17キロほど西へ歩けばシャバタウンだ。


「まだそんなに……」

「急ごう。野宿はもう嫌だろ」


 何回か野宿をしたが昼間の気温と夜間とでは天と地の差があった。一番酷いときは昼間で58度、夜間で氷点下25度という世界なのだ。


「17キロならあとすぐだよ」

「それ30キロくらいでも言ってたじゃん」


 うだうだ言っている体力があるならば先へ急ごうとリンは忠告する。暫く休んでから一行は先へ進む。


 だがあと10キロを切る辺りで砂嵐と遭遇する。間近に迫る中で彼らは荒れ果てた廃墟を発見。


 その廃墟へ入るとリンが四隅に魔法障壁を発動する術式を仕込む。廃墟自体がシェルター代わりとなったのだ。


「これで暫くは過ごせるかな」


 初めて遭遇した砂嵐。あっという間に周囲が真っ暗に包まれる。


「外にいたらヤバかったな」

「そうだね。身体がボロボロになるところだ」


 そうしているとカーサスが身震いして用足しを求める。仕方ないので彼らから見えない奥の方ですることに。


「ったく、カーサスはマイペースというか自分勝手というか」

「その点ならボクも負けないかもよ?」

「ヴィクトリアは協調性があるじゃない」


 3人で談笑していると奥の方からカーサスの悲鳴が聴こえた。慌てて彼らが向かうと腰を抜かしたカーサスと彼の前に踞る10歳くらいで白人の少年の姿があった。


「人間?」

「実体はあるよ」


 つまり彼は幽霊ではなく生きている人間の、それも少年に驚き腰を抜かしたこととなる。それが臆病者であるかは分からないが、彼ら以外にもこの廃墟にいたことは驚きだ。


「やぁ、僕はワトソン。ハンマー・ワトソンだ。君の名前は?」


 しかし返答がない。踞って震えている様子。


 何かがおかしい。そう感じたリンは持っていた水や食糧を分け与える。


 気温も砂嵐の影響で落ち込み、先程まで52度だったのが14度まで下がっていた。肌寒く感じるため、ヴィクトリアが来ていたコートを脱いで渡す。


「ボクはヴィクトリア。何があったのかな。話してごらん」


 優しく訊ねる。少年は静かに口を開いた。


「みんな、連れていかれた。みんな、死ぬ。アプリコット、死んだ」


 連れていかれ、死ぬ。アプリコットという人か何かの生き物が死んだ。全てのワードを繋ぎ、カーサスが出した推測は、

「戦争か! そうなんだろ?」

 ありがちな答えだったがそうではないようだ。


 落ち着かせながらキーワードを拾っていく。ある程度は拾えた。


 少年の名前は、タケル。カゲキ共和国シャバタウンの西、ヒノデ山のアスナロという孤児院に住んでいたという。


 1週間ほど前に賊が孤児院を襲い、タケルと孤児全員を連れてニージンヨー砂漠を横断。隙を見て脱出しようとするも友達のアプリコットが殺される。だがタケルは辛うじて逃げ出せたというのだ。


 孤児、その言葉を聞いたカーサスが怒りを露にする。彼は昔、孤児だったからだ。


「タケル、落ち込んでちゃ解決しねぇ。俺たちに任せろ。お前の友達と敵討ちをしっかりと取ってやるからよ!」


 今まで文句ばかりうだうだ言っていた男がまるでヒーローかの如くやる気で満ち溢れている。


「安請け合いなんかして大丈夫?」

「船賃より高く付くと思うんだけど」


 ヴィクトリアとリンの言葉に彼はひとつひとつ答える。


「なせばなる! そして船で言ったらタケルを救えなかっただろ! 俺は今、モーレツに燃え(たぎ)っているんだよ」


 彼はタケルに安心するよう伝える。少年もまた小さく頷くとカーサスに寄り掛かる。


「良し良し、もう大丈夫だからな。ゆっくり休むんだ」


 その後、ぐっすり眠る少年を抱えて廃墟内の広間に移る。そこで昼食と今後について話し合う。


「問題は賊が何者かを知ることだな」


 腕組みをしてカーサスは考える。だがそのためには先ず、カゲキ共和国に入り、シャバタウンの西にあるというアスナロ孤児院を訪れなければならないとリンは考えた。ワトソンも少なからず考えていたようだ。


 目標はアスナロ孤児院。先ずはそこで情報収集しこれからを決める。少年をこのままにして置くのも悪い。


 孤児院か別の施設に預けるのが先決だろうともヴィクトリアが補足し、初動行為が決まった。


 砂嵐が収まりつつあった。時刻は34時、夕暮れが迫る時間帯だ。


 急ぎ足で向かって行けば4時間ほどでシャバタウンに辿り着けるだろう。しかし危険は冒したくない。


 砂嵐が完全に止む前や夜間の移動は少年にとって危険が伴う。ここは慎重に行動することを珍しくカーサスが口にする。珍しく。


「子ども想いだな」

「カーサスは子どもが好きだからね」

「あたしは嫌われてたけど」


 他人を馬鹿にするような子どもは嫌いだが、無邪気で子どもらしさのある子は好きなようだ。特に孤児だと極端に、それも何不自由なく暮らす子どもよりも可愛がる。


「昔……考えてた夢がある。孤児をこの世から無くすことなんだ。俺は今でも実現出来るんだって信じてる」


 立派な決意だ。しかしその前に、ひとりの孤児を救わなければならない。タケルを元の生活に戻さなければなるまい。

 昨日更新予定でしたが投稿をすっかり忘れてしまいました。誠に申し訳ありません!次回は5月31日(月)の午前7時を予定しております。

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