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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第24話「出逢いと別れと出発(たびだ)ちと」

 星歴805年13月8日24時03分、リン・アサカゼは処刑されるがヴィクトリアとマリーによって生きていた。

 リンは計画されていた亡命を拒否。姉カレンとバートラムの復讐を望み皇居へ向かう。そしてバートラムと姉のカレンを殺害した。

 皇居から脱出しようとするも悪魔ユリウスの決闘が待ち受けていた。ヴィクトリアはマリーとカーサス、ワトソンとの協力で悪魔を討伐目指す。

 だが苦戦を強いられ窮地に追い詰められるも、マリーの呼び掛けにより死神三人衆の椿、螢、山茶花、そして彼女の友人のキャシーとユリウス、ヴィクトリアの友人サンが助けに駆け付けた。

 皆の力を合わせ、悪魔ユリウスは死んだ。怨燈を手にしたマリーは仲間と喜ぶもそこへカレンとバートラムの殺害が気付かれる。

 衛兵の攻撃に再び窮地に立たされるも冥界鉄道院の今田靖がC-63型蒸気機関車3号機、通称“クロミさん”と共に現れた。

 そして脱出に成功。一同は次の停車駅まで暫しの休息を取るのだった……。


 マリーとワトソンの話を遠くから眺める少女、リンは死神たちの元へ向かう。


「椿さん、訊きたいことがあるんですけど」


 談笑していた椿は山茶花との会話をやめて振り向く。


「どうしたのリンちゃん」

「妹は……どうなりましたか?」


 その問いに優しく答える。


「ツバキちゃんなら大丈夫よ。今頃閻魔様の判決を受けているところだと思うから」


 閻魔様、生者にとっては何故だか恐ろしく感じてしまう。


「天国でしょうか、それとも地獄……」

「どっちもあり得るわね」

「地獄でもあの子なら平気でしょ」


 螢が会話に入る。その言葉を聞いて食いかかる。


「どこが平気なの! あたしじゃなくてあの子が地獄なんて、相応しくない。殺されて……地獄に行くなんて」

「まぁ落ち着きなよ」


 ユリウスが宥める。螢の言い方も適切でないとキャシーは注意した。


「落ち着いてなんかいられない……。ツバキが地獄に行くのなんて見ていられない!」


 すると彼女の両肩に手を置いて優しく口を開くサン。


「貴方は妹さんのこと、信じてあげられないのですか? 妹さんは貴方を信じていた筈です」

「っ……!」


 その通りかもしれない。信じることを忘れてしまっていた。


「ツバキさんはきっと大丈夫です。そう信じましょう」

「ごめんなさい椿さんとサンさん、皆さん」


 取り乱したことに反省し謝る。気にもしていない彼女たちは寧ろリンの心配をした。


「もし地獄行きが決まったらショックを受けるかも」

「運命は変えられない」

「リンが心配」


 椿、螢、山茶花の会話にキャシーが割り込んだ。


「実はさっき今田さんにどうなったか聞いてくれってお願いしたんだ」

「じゃあもう一度催促してみよう。悪くてもはっきり言ってくれるようにお願いしよう」


 キャシーの提案で彼女と椿、そしてリンが車掌へ向かう。


 6輌目から1輌目の緩急車まではそう遠い道のりではない。ドアを開けては閉めての繰り返しで誰もいない客車を通り過ぎる。


 漸く2輌目までやってきた。次の車輌が緩急車の筈だ。


 ドアにも“乗務員室・郵便車”と書かれている。取っ手を右に倒してドアを引く。


 狭い通路が続き右側には厠と書かれたドアが、左側には乗務員室と書かれたドアがありノックする。


「はい」


 声がして数秒後に今田がドアを開く。口をモゴモゴしていた。


 室内を覗くと鍋から湯気が立ち上る。食事中だったようだ。


 貴重な食事の時間を邪魔してしまったことに詫びをいれ本題に入る。


 訊くと既に問い合わせた後で今は返信待ちだった。悪い返事でも彼はリンに伝える義務があると感じていたそうだ。


「分かりましたら車輌の方まで伺います」


 しかし直ぐにでも聞きたくて彼女は残った。ツバキとキャシーは車両に戻る。


 最初リンは椅子に座りじっとしていたが段々(まぶた)下へ落ちていく。仕舞いには完全に目を瞑っていたが直ぐに目を開いて頬を強く叩いた。


「長い夜だった筈です。少し休んではどうでしょう」


 彼の言葉に首を横に振る。連絡があるまで起きているつもりらしい。


 しかし結局壁に寄り掛かり眠ってしまう。


 車内は寒気がするほど気温が低く風邪を引いては困ると思ったのか毛布を掛けてあげる。


「お疲れさま、良い夢を」


 すやすや眠る彼女に一声掛けて彼は食事に戻った。



『ジリリリリ……』


 ベルの鳴る音が遠くで聴こえる。眠りついていた少女がゆっくり瞼を開く。


『ジリリリリン!』


 電話機だろうか。室内に響き渡るよう聴こえる。


 今田がいない。どこかへ言ってしまったようだ。


 彼女は電話機を探して立ち上がる。辺りを見回し机上にあるのを発見。


「もしもしどちら様でしょうか?」


 受話器を手に取り相手に訊ねる。


「コンさん?」


 “コンさん”とは今田のことだろうか。しかし彼は今はいない。


「おりませんが……」

「その声は機関士のキモツキさんですかい」

「えっ、いやあたしは――」


 違いますとはっきり言ってしまえば良かったのだが相手の押しに負けてそのまま伝言を受ける。


「コンさんに伝言を頼んます。ツバキ・アサカゼさんの判決は天国行きに決まったそうですわ。ほなお願いします」


 電話が終わると彼女は茫然と立ち尽くす。地獄ではない。ツバキは天国に旅立ったのだ。


「いやったー!」


 少女リンは高らかに両手を挙げて万歳する。そしてそのまま誰かの声が聴こえる。


「リンさん、起きて下さい。到着まであと5分ですよ」


 目を開けて飛び込んで来たのは今田の顔だ。彼は心配そうに見ていた。


「やっと起きましたか。さぁ車両にお戻り下さい」

「あれ? 電話は?」

「残念ですが、連絡はありません。ですが何か分かりましたら死神の者がお伝えに上がります」


 言われるがままに乗務員室から退去させられる。そして帰途で色々考える。


 今までのは夢……だったのだろうか。妙に現実的な夢だった。


「でも今田さんはここにいなかったし、電話に出たのはあたしだし……」


 4号車のドアを開けると大きな人影見え、

「あっ、すみません」

 一歩下がって道を譲る。


 だがあることを思い出した。この列車に乗っているのはリンたちだけで他の乗客はいないことを。


「っ!!!」


 見上げると頭がふたつに分離した人間の塊が通路を塞いでいた。


 ふたつの頭は次第にバートラムとカレンの姿に変えていく。さらに塊の中心部に悪魔ユリウスの顔が浮かび上がる。


「憎い。貴様が憎い!!!」


 無数の手が彼女を包み込むよう襲い掛かる。尻餅を付いて身動きの取れない彼女。


「誰か助けてッ!!!」


 声が出ずに心の中で叫ぶ。もう駄目だと思った瞬間だ。


 塊が呻き声を上げる。恐る恐る見上げるとヴィクトリアが神剣スコーピオを手にし彼女の前に立っていた。


「ヴィクトリア……」

「もう大丈夫だよ」


 弱々しく呻く塊はやがて床へ崩れ落ちると浄化されてゆく。神剣の前では悪霊も形無しなのだろうか。


「も、申し訳ありません!」


 慌てて今田がやってきた。ふたりに出逢うと何度も謝罪する。


「間もなく駅に到着するので結界を解いたらこの有り様で」


 どうやらリンへ復讐しようと悪霊となり追い掛けてきたらしい。だがヴィクトリアの力によりまたしても救われたリンなのであった。


「――それからリンさん。あなたの妹さんは天国へ召されたそうです。お電話受けたそうですね」


 夢ではなかったようだ。つまりリンは安心して眠りについてしまったようだ。


「確認が遅れてしまい申し訳ありません」

「今田さん、ありがとうございました」


 少女は深々と腰を折り出来る限りのお礼を言う。そして彼女らは車両へ戻った。


 既に皆、降りる支度や見送る準備をしている。ふたりが帰ってきたことによりお別れのムードが立ち込める。


「リンちゃん、ツバキちゃんがどこへ行こうとも元気にね!」


 椿は知らない。ツバキが天国へ旅立ったことを。


「実は――」


 汽車が大きく左に傾く。本線から支線へ入ったのだ。


 腕木式信号機を通過しプラットフォームへ滑るように入る。徐々に速度が落ち、完全に停止するまであと少し。


「間もなくメープルです。お降りしか出来ません。どなた様もお忘れなき様ご注意ください。メープル、メープルです」


 今田の言葉が言い終わると同時に列車は停止する。


 ヴィクトリアがドアを開けて先に降りる。続いてリンにカーサス、ワトソンだ。


 発車ベルが鳴り響く。停車時間はそれほどにない。


「お別れね」


 椿の言葉に涙腺が崩壊するリン。短かったがお世話になった方々に感謝した。


「旅のご無事を祈ります」

 サンと今田が口を揃えて言う。


「さよなら」

「ばいばい」


 螢と山茶花。そしてマリーが小さく手を振る。


「色々さんきゅ!」

「またどこかで」


 キャシーとユリウスが感謝と別れを伝える。


 前方の信号機が赤から青へ切り替わる。汽車は汽笛を鳴らし動輪が動き出す。

「さよーならー」


 皆が手を降り見送る。ヴィクトリアとリンもそれに答え、見えなくなるまで手を降り続けた。


「行ったな」

「そうだね」


 完全に最後尾の客車が見えなくなる。黒煙がうっすら漂うだけだった。


 一同は改札口より出るとヴィクトリアの案内で駅から離れる。そして出口と思しき光が見える。


 眩い光で目を覆いながら抜けると人々が談笑する声が聴こえる。それだけではなく機械や馬の蹄の音が耳に入った。


 気が付くと大きな通りのすぐ脇にある細い路地に皆はいた。後ろを振り返ると行き止まりだ。



「あり?」

「冥界へは決まった時間にしか行けない。行き方を知っていても力のある者、死んだ者しか行けないんだ」


 ヴィクトリアの解説に頷いたワトソン。カーサスは分かったのか分かっていないのか取り敢えず、なるほどという言葉を返すだけだった。


 彼らのいる場所はメープル自由国の首都シロップは、人々が行き交う交易の街“カエデ市場(いちば)”だ。数多の商人が集う市場なのだ。


「一応ここでアリスがリンの身分証を発行してくれる手筈なんだけど」

「アリス?」


 リンの呟きにカーサスが説明する。


 アリスとはヴィクトリアの妹で、アークファミリア12番目、水を司る神である。因みにその彼女とヴィクトリアとの間に11番目、電気を司る神でもあるキャルロットがいるのだが今日は不在らしい。


 この3人は大の仲良しで買い物や食事を良くするという。因みにキャルロットはカーサスが嫌いで彼も彼女が大嫌いなのだ。


「そのアリスさんがあたしのために身分証を?」

「うん。これから生きていくのに身分が無いと困るでしょ。元アルビオニヒス皇国天皇リン・アサカゼとして生きてたらいつまた同じ目に遭うか」


 その通りだ。もうリン・アサカゼとして生きてはいけない。名前は残してもアサカゼとは名乗れない。


 永久に。


「みんながあたしのことを忘れても歴史が忘れさせてくれない」

「そうだね。でも安心して、身分証を渡したら君が自立出来るまでボクたちが面倒を見るよ」


 その言葉にカーサスの機嫌が悪くなる。彼女とは相性が悪い。幾度となく喧嘩をしたからだ。


「俺たちがオモリかよ」

「止しなよ。というより君も人のこと言えないだろう」

「んだとごらぁ!」


 険悪になるふたり。いつものことのように聞き流すヴィクトリアはリンに確認を取る。


「それでいいかな?」


 彼女はまたも助けられてしまう。助けられることが嫌なわけではない。けれど何かしてあげたい。


 少女は大きく息を吸う。喧嘩するふたりもそれを見て注目する。


「あたしを仲間にして! 下僕にして! 一緒に旅がしたい。あなたと一緒に生きたい!!!」


 カーサスが笑う。ワトソンも笑った。


「そっか。じゃあ行こう!」


 ヴィクトリアは手を差し伸べる。リンが握ると手を繋いで市場へと皆で駆けて行く。


 ヴィクトリア・ギャラクシー、バーン・カーサス、ハンマー・ワトソン、そして新たに仲間となったリン・アサカゼ。これから一体どんな旅が待ち受けるのだろうか……。

 ここまでお読みいただき誠に誠に、それはもう誠にありがとうございます!!!


 “可憐の英雄”の前半部分とこれから先、物語の主軸となる4人が漸く集まりました!


 第3章第1話の投稿から約3年半。ブランクの多い本章でありましたが本当にここまで読んでいただき、というよりもこんな作品に付き合っていただき感謝感激です。


 これから4人の旅が始まります。長い旅です。


 笑い有り、心フェチ有り、グロ有り、シリアス有り。またその間にたくさんの出来事や出逢いがあります。


 拙い作品ではありますがこれからも迷惑を掛けてしまうと思いますが何卒宜しくお願い申し上げます!


 それでは、新たなる出発(たびだ)ちをお楽しみあれ!!!


 追伸ではりますが、諸事情により次回更新は5月17日とさせていただきます。何卒ご了承くださいませ。

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