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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第22話「悪魔ユリウス」

 星歴805年13月8日24時03分、リン・アサカゼは処刑されたがヴィクトリアとマリーによって生きていた。

 リンは計画されていた亡命を拒否。姉カレンとバートラムの復讐を望み皇居へ向かう。そしてバートラムと姉のカレンを殺害した。

 復讐を果たした彼女は亡命すべく旅立つだったのだが悪魔ユリウスとの戦いは終わっていなかった……。

 悪魔ユリウスは無間地獄へ繋がる入り口を作り出し、今まさにカーサスを吸い込もうとしていた。


「吸い込まれるー。誰か助けろ!」

「ちっ。命令口調は気に入らないケド」


 地面へ突き刺した大鎌から手を離す。風に乗りカーサスのところまで急接近。


 右腕を伸ばして彼の手を掴むと今度は左手で何かを握る。急停止すると鎌がやや斜めに傾いた。


「むっ?」


 ユリウスが目を凝らすと鎌の柄に細いワイヤが結ばれていた。その先は左腕の袖を通り胸の内ポケットまで続いており、長さは約100メートルまでにもなる。


「早くしろー」

「うるさい。お前が重くて手繰れないんだ」


 大鎌まで行くにも一苦労。しかし近衛兵らが一斉に飛び掛かってきた。身投げにも良いところだ。


「あーもう、邪魔!」


 殺してしまおうかと思ったが目的は悪魔ユリウスの討伐。無駄な殺生は避けたい。


「どけこの」


 カーサスの銃捌きにより彼らは被弾。大鎌を通り越して無間地獄へ吸い込まれてしまった。


「なりふり構ってられっか」


 その通りだ。無間地獄に吸い込まれれば二度と元の形で現世に戻っては来られない。


「あと少し……」


 もう一歩の所で彼女の胸を何かが貫いた。肋骨を突き破り、どす黒い塊が血を地面に滴らせる。マリーの心臓だ。


「貴……様っ!!!」


 悪魔ユリウスが右腕を使いマリーを貫いたのだ。そして心臓を握り潰すと腕を引き抜いた。


「大丈夫か!」


 いつの間にか無間地獄へ吹き込む風が無くなっており、カーサスは難なく大鎌の手前で踞る彼女へ駆け寄ることが出来た。


 地面には血溜まりが広がっていく。カーサスは彼女を庇いユリウスに銃口を向け狙いを定める。


「ふふふ。人間よ、貴様が私に勝てるとでも思うのか」


 引き金を引く。6発装填された弾丸は彼の体に5つの穴を開ける。1発は外して近衛兵の脚に命中した。


 ところが彼に命中し、穴さえも開いてみせた穴が塞がっていく。あろうくとか口から弾丸を吐き出した。


「愚かな人間よ。貴様は死ぬ運命なのだ」


 素早くカーサスの頭に手のひらを起くと鷲掴みにして強く握る。だがどうしたことだろうか、力が弱まると同時に腕が地面へ落下する。


 見上げるカーサス。ユリウスの腕が斬られ、鮮血が迸る。顔面に血が吹き掛かった。


(きった)ね!」


 袖で血を拭うと目の前に刃先が見え驚いた。それはヴィクトリアの神風だと分かる。


「お前が助けてくれたのか!」

「大丈夫?」

「なんとかな。でもこいつが……心臓を握り潰されて」

「心臓を!?」


 心配して様子を窺う。しかしよそ見をしてはいられない。


「私の腕を斬るとは中々対した奴だ」


 落ちた腕を持ち上げて切り口に宛行(あてが)う。すると小さな白煙が上がり地面へ落ちることなく腕が繋がる。


 何度も拳を握ったり開いたりして感覚を確かめている。問題無い様子だ。


「流石は悪魔ね」

「私も流石だと思うわ」


 皆が声の方を向く。そこには立ち上がるマリーの姿が。


「お前……平気なのか」


 胸には拳大の穴が開いている。血は止まり痛がる様子は無い。


「私は死神よ。死んでいるから問題は無いわ。心臓が無くなっちゃっただけ」

「なんて奴だ……」


 大鎌を構え臨戦態勢に移る。カーサスとワトソンも自慢の武器を手に意気込みを入れる。


「ふはは、良いぞ良いぞ。久々に骨のある奴と戦える」


 彼の狙いは人間、ではなくマリーだった。死神と言えど同じ魔物の類いだ。取り込めば多少なりとも力になる。


 人間は最後に残しておく主義らしい。理由はか弱い存在で簡単に捻り潰せるそうだ。さらに非常食として取って置きたいという。


「死神よ、貴様の魂燈は頂だ」

「させっかよ……」


 だが高速で動く奴の拳を避けられず腹に打撃が命中。10メートル先の石垣まで吹っ飛んだ。


「心臓を失ったお前に力なぞ無いわ」

「そうなのか!?」


 カーサスが彼女を見る。瓦礫と化した石垣から這い上がるマリー。右手を腹に当てて苦しそうにしている。


「痛みは無かったんじゃ」


 ワトソンが呟いた。確かにその通りの筈だが状況が変わった様子。


「本当は痛いんでしょ」

「っ……」


 図星か、ヴィクトリアの問いに反論できず。マリーは彼女の言葉に従う他無かった。


「君はワトソンに手当てして貰って。ボクが代わりに戦う」


 ふたりの護衛にカーサスが加わる。衛兵らを近付けんとする行動を取る。


「人間は最後に召し上がろうと思っていたが。良いでしょう。貴女を先にいただきます」

「ナメてかかるなよ。ボクの大事な下僕に手を出したこと、無間地獄で懺悔しろ」


 珍しく憤怒する彼女を見てカーサスは驚いた上、自分らを気遣う心に感動していた。一転してワトソンは手を出したという言葉に疑問を感じる。


「僕たちは手を出されていない……負傷しているのは、マリーさん……」


 彼女の胸元に目をやる。穴は塞がり始め彼女の体内では蠢く何かがある。


「なっ……君は」

「そうよ……。私は死神だけど、ヴィクトリア……いいえ、ネクロス様と契約した下僕」

「いつの間に……」


 蠢くもの。それはマリーの心臓だ。再生され身体中に血液を送っている。死神としては有り得ないことだが、彼女は生きているのだ。


「この体、死神として機能してる。だから心臓が無くても動けた。けれど……」


 苦しむ様子にワトソンは頭を優しく撫でる。


「痛みはある。そうだね?」

「久々の命の鼓動。人間だった頃を思い出す。そして辛く苦しい痛み。これが生きてるってことなんだね」

「痛みを良く堪えたな。手当てしよう。僕はこう見えても医者だ。免許はまだ無いけどね」


 生きた人間とほぼ同じ構造の彼女の体を治療する。マリーもまた大人しく手当てを受けている。心なしか心臓が早く動いているよう見てとれるが穴は完全に塞がってしまう。


「ありがと」


 照れ臭そうにお礼を言うとにっこり笑い返され、

「君はいつものように人間を見下している時の方が元気があって良いな」

 驚きの発言に思わずマゾヒズム的な体質があるのか問われる。


 彼自身は特にそういったことに性質も興味も無いことを告げる。しかしいつも元気な女の子がある時突然に気弱になるとどうしても周囲の調子が悪くなる。そんなことを言いたかったのであった。


「あのバカは……」


 “あのバカ”とは、カーサスのことだろうか。


「――信じられないけど、ネクロスとワトソンさん。あなたなら信じられるかな」


 状況が読めない。突如女の子らしい仕草……とはいえ元々女の子なのだが。しかしながらワトソンをさん付けで話す姿に精神までおかしくなってしまったのか。


「しっかりしろ、弱気になるんじゃない!」

「へっ?」


 勘違いしているワトソン。同時に話が通じていないことに気付かないマリー。


 そうこうしている内にヴィクトリアと悪魔ユリウスとの戦いは苛烈する。ヴィクトリアが押されているようにも見られるが彼女はほくそ笑んだ。


「次の一手で貴様は終わる」


 そう断言する悪魔ユリウスに彼女は断りを入れる。


「残念だけど終わるのはあなたの方だよ」


 彼の周囲に突然黒い渦巻きのような空間が4つ生まれる。その中から縄のような物体が現れると彼の両腕と両足を縛った。身動きが取れない彼は唸る。


「何をした……」

「ボクは何もしてないよ」


 各々の渦巻きからひとりずつ現れる人物に睨み付ける悪魔。彼らを目の当たりするマリーは安堵の表情を見せる。


「間に合ったのね」


 現れたのは死神三人衆の椿と螢と山茶花、そして左官のサンだった。サンについては久し振りのヴィクトリアに手を降って嬉しがる。


「さぁ、覚悟するんだね」

「これ如きで私を滅せるとでも?」

「手の内は他にもあるんだよ」


 するとヴィクトリアの両脇から再び渦巻きが出現すると素早い動きで何かが飛び出した。


 そのまま目前の悪魔目掛けて両側を通過。その刹那、絶叫する悪魔。


 四肢が無惨にも切断され鮮血が迸る。達磨のように姿が変わった彼は地面へ叩き付けられる。


「やったぜ!」

「ヴィクトリアさん、今ですよ!」


 彼に一撃を喰らわせたふたりの人物、それはユリウスとキャシーだった。


「俺の名前を奪うからだ! さっさとしにやがれ!」


 すると悪魔の身体全体が憎悪のオーラに包まれていく。そして達磨状態の身体が宙に浮き上がる。


「ほざけ死神。私は悪魔ユリウス。冥界をも支配する悪魔になるのだ」


 近衛兵や皇居周辺に住む国民の憎しみの念を集める。それを力として体内に取り込んでいく。


「手足が!」


 再生されつつある。このままでは元の完全体に戻ってしまう。


「満足に動けないこの時を待っていたのさ」


 ヴィクトリアは神風を鞘に納め胸に手を置く。何か呪文を唱えているようだ。


「何をする気だ、ヴィクトリアの奴」


 周囲の動きを警戒しつつカーサスは彼女を気にする。彼だけではない、ワトソンやマリーらも固唾を呑んで見守る。


「何をしても、私は死なんぞ!」


 もう間もなく完全に修復してしまう。その時も近い。


「いいや、死にますよ」


 ヴィクトリアが笑った。胸に当てた手が光り輝きを増す。


神流奥義(しんりゅうおくぎ)、出でよ、神剣スコーピオ!!!』


 手を握りゆっくりと胸からまるで何かを引き抜く様子だ。半分ほど抜いてカーサスは気付く。


「あれは剣か?」


 胸から剣が現れているのだ。彼女の体の中はどうなっているのか。彼は首を傾げるばかり。


「神剣スコーピオだと?」


 聞いたこともない剣に悪魔も首を傾げているがもう再生を終えようとしている。


 神剣を取り出したヴィクトリアは一振り、二振りして切っ先を彼の胸元に向けた。息を深く吸い、吐くと眼を見開き脚に力を入れる。


 秒速数メートルの俊足で彼の胸元に飛び込んだ。既に再生仕切った悪魔は獲物自らが飛び込んでくると補食すべく術を唱える。


「ヴィクトリア!」

「ネクロスさん!」


 彼女は悪魔ユリウスの胸に飛び込み心臓を貫いた。背中から切っ先が飛び出し出血する彼は断末魔を上げる。


「ぐうぉーーーっ!!!」


 耳に手を当て唸るカーサスら。その声は超音波みたく周囲にいた人間の耳を(つんざ)かんとする。


「――貴様、その剣は……」


 弱々しく何をしたのか訊ねる。彼女は問いに答えてあげた。


「神剣スコーピオ、神剣ジェノサイドと同様に不死身だろうと不老不死だろうとあらゆる生命体を殺すことのできる剣。アークファミリア専用の武器だよ」


 力を入れ引き抜く。死神と違って生きているせいか貫いた心臓から激しく血を吐いている。


「言い残すことは?」

「くそったれめ」


 悪魔ユリウスは膝を折り前屈みになると跪いた。こうべを垂れる瞬間に剣で首を一振り。


 リンの時とは違い綺麗に斬首すると頭は地面に落ち首元から大量の血飛沫が噴水の如く吹き出した。帰り血を浴びたヴィクトリアは不適な笑みを浮かべ近衛兵らを恐怖に陥れる。


「さぁ、マリー」

「分かったわ」


 ワトソンの手を借りて立ち上がり地面に転がった悪魔の遺体に彼女は術を掛ける。


「眠りなさい。そして懺悔なさい」


 青々とした炎が悪魔ユリウスを包む。そして骨すら残さずに灰となる。


 腕を伸ばし、灰の中からどす黒く輝く悪魔ユリウスの怨燈を掴んだのだった。

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