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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第21話「和解」

 星歴805年13月8日24時03分、リン・アサカゼは処刑されたがヴィクトリアとマリーによって生きていた。

 リンは計画されていた亡命を拒否。あろうことか姉カレンとバートラムの復讐を望む。

 ヴィクトリアは反対するも自らが決めた迪として譲らず単身で皇居へ向かう。だがヴィクトリアとマリーの陽動により難なく侵入に成功。

 途中かつて一戦交えし敵を相手にするもヴィクトリアの力で粉砕。

 今リンは、バートラムと姉カレンの前に立つのだった……。

 星歴805年13月15日46時8分過ぎ。リンはふたりに話を持ち掛けた。


「話をするって何を……」


「ひとつはダールクニヒス帝国の撤退よ。アルビオニヒスをひとつの国として認め、ダールクニヒスは平和協定締結を――」


 話の最中であったがバートラムは甲高く笑い声を上げる。


「貴様、何を言っているのだ。貴様はもう天皇でもアルビオニヒス国民でもない、ただの人の形をした薄汚い害虫なんだよ」


 視線をカレンに。意図を読んだ彼女はそっと刀を抜く。


 話を続けるバートラム。話で夢中にさせてカレンが隙を突くつもりだったが阻まれてしまった。


「くっ……」

「甘いよ。お二方」


 暗闇からヴィクトリアが現れるとふたりの顔は青ざめる。あの時の青年がリンの後ろ楯となっていたからだ。


「リン、このふたりは……」

「分かってます。反省なんて(はな)っから期待してません」

「ぐぅむ……」


 ふたりはリンの方を向いて土下座をすると深々と頭を床に当てる。


「申し訳ない。君の言う通りにしよう。だから命だけは取らないでくれ」

「そうよ、私たちが悪かったわ。何もかもを。許して、リン」


 虫の良い話だ。都合が悪くなれば頭を下げて謝る。反省も謝罪も心が籠っていないふたりだったがリンは腰を下ろし、

「本当に心を入れ換えるの?」

 優しく声を掛ける。涙を流して謝罪していたバートラムは頷いた。


「リン……」


 本当に許してしまうのか。それとも何か裏があるのか。ヴィクトリアは何も言わず彼女の言動を待った。


「心を入れ換えるのなら、全てのことを許してあげる」


 その言葉に食い付いたカレンとバートラム。彼女を女神様の如く崇め(おだ)てる。


「流石はリン元天皇陛下様であります。私ども、本日より国民のためにですね身を粉にして働きたく存じますですでしてね」


 最早意味のわからない言葉を並べるバートラム。ヴィクトリアは呆れている。カレンも同じように醜い謝罪と言葉を並べる。


「うん、分かった。あなた方を許します」

「ホントか!」

「流石は私の自慢の妹!」


 ふたりは歓声をあげる。リンはバートラムとカレンを立ち上がらせる。そして腕を広げて抱き締めた。


「リン、本当に良いのかい?」


 ヴィクトリアの問いに答える少女。


「あなたも復讐は反対だったじゃない。それにいつまでも憎しみを抱えていては、争いは止まない。ならば私がここで耐えれば、って思ってね」


 バートラムは感動して拍手を送る。カレンも涙を見せた。


「私、あなたに酷いことをしたのに。許してくれるなんて、思いもよらなかったわ」

「うん。だから死んで」


 リンが可憐刀を鞘から抜くとバートラムの腹部に突き刺した。


「なっはぁ!?」

「あなたっ!!!」


 刺した刀を引き抜き、一振りして血を払う。床には彼の付着した血液が飛散する。


 一方のバートラムは腹部より出血が止まらない。必死に手を当てて止血を試みるが叶わない。


「なぜ……だっ」

「そうよ。許してくれたんじゃ……」

「誰が!?」


 冷たく恐ろしげな視線をふたりに送るリン。


「誰が許してくれたって? あたしが?」


 突然笑いだして切っ先をカレンに向ける。彼女はたじろいでしまう。


「許すって言ったのは、嘘。許すわけない」

「嘘つき!!!」

「嘘つきはお前だ!」


 しんと静まり返る。小さくバートラムが唸り声を上げている以外、声や音は聴こえない。


「お前は嘘つきの塊だ。お母様やツバキ、あたしにどれだけの嘘を付いてきたと思っているの! 民にも嘘で誤魔化して、お姉様は生きてちゃいけない」

「やめて。殺さないで。お願いよ!」


 必死に懇願する。涙を流しながら必死に訴える。


「楽に殺してあげる。あなたの罪はあたしが受ける。お姉様をこの手で殺し、血塗られた体で一生を生きる」

「嫌だ。死にたくない。やめてぇーーーッ!!! ぎぃやはッ」


 カレンの首に向かって可憐刀を左から右へ一振り。だが勢いが足りなかったのか首の中心で止まる。


「リン……リ……ン、痛い痛いよぅ」


 骨に刃が引っ掛かり止まってしまったのだ。しかも食い込んでおり中々引き抜けない。


 大量の血を吹き出し藻掻き苦しむ彼女はリンの顔を見つめ何度も言葉を繰り返す。痛い、と。


 リンもカレンを見つめていた。瞬きすらせずに。


「ヒュー……ヒュー」


 掠れた声が聴こえると暫くして彼女は絶命した。可憐刀に力を入れて引き抜くと頭部に残っていたであろう血が刀を伝い滴り落ちる。


 力が抜けたのか刀が床に落ちる。そして振り向き、

「ありがとう。復讐に付き合ってくれて」


 深くお礼を言う。彼女がそれで満足したのなら、ヴィクトリアは付き合った甲斐がある。


「行こう。見付かると厄介だ」


 頷くリンとヴィクトリアはその場を離れようとしたときだ。人影が現れる。


 神風を構えて攻撃体制に入るも直ぐに刀を納めた。正体に気付くリンは招かれざる自分にどうしたら良いか分からない。


「リン様……」

「ルナ……」


 彼女はずうっとリンを追い掛けていたのだ。一度リンが何かの気配を感じた時からずうっと。


 顔向けの出来ていないリンにルナは歩み始める。ヴィクトリアはふたりの様子を見ていた。


「リン様、私は信じていました。貴女が悪人ではないことに」

「ルナ……。でもあたしは殺したのよ。バートラムだけでなくカレンお姉様を」

「はい。正しい判断ではないかもしれません。けれど……」


 彼女はリンの手を握る。血で染まる手を握ってきた。初めは振り払うが強引に来た。


「私も同じ立場だったならきっとやってました。苦しかったでしょう。辛かったでしょう」


 カレンやリン以上に涙を流され困惑する彼女。しかしふたりにした行為は大衆的に見ても肯定的出来るものではない。それは天皇であった彼女が一番知っている。


 憎しみでした愚行に同情は買えるだろう。だが国民全てが賞賛を送ったり、理解をしてくれる人間ではない。


 アルビオニヒスは民主制のある国家だ。ダールクニヒスとは違う独裁制のない国だ。その国の代表となる人物が身内と今や保護される立場の国の王を手に掛けるなど言語道断であろう。


「あたしは大罪人。自分の理屈と独断でふたりを殺した。復讐よ。でもあなたなら本当に公平な裁判をした筈……」


 だが首を横に振る。大衆がどう見ても細かいところまでは分からない。とはいえ自ら鉄槌を下すことは愚かな行為とも話す。


「でも、ひとりの人間としてなら当たり前の行動だと私は……思います。私は一度だけ貴女様を信じられませんでした。でも今は、信じられます」


 リンにとって感謝してもしきれない言葉だった。お互いに抱き締めるふたり。この時間が長く続いて欲しく思うもそうは行かなかった。


「ルナ、あたしを捕まえなさい」

「っ!?」


 ヴィクトリアすら驚いた。もし公平な裁判が開かれようと同情を誘おうとしても彼女した行為は認められるべきものではない。もし肯定すれば人を簡単に殺めることが許されてしまう。


「リン、例え君が捕まったとしてももうボクらは助けられないよ」

「はい。あたしは自分の意思で行くから」


 分かっているようだ。しかしルナはどう思っているのか。彼女の言葉をふたりは静かに待った。


「私は……いいえ、リン様。あなたは生き続けなければなりません」


 犯罪者を野放しにする方を選んだ。それは彼女としての考えだった。


 今彼女はひとりの人間として話している。侍女でも民でもない。彼女自身で。


「生き続けることが貴女への罪。それを背負って生きて下さい。血塗られた手や体が浄化されるまで生きるのです」


 それが正しい判断とは言えないかもしれない。だけれどもリンは従った。ルナとの永遠の別れになろうとも。


「早く行ってください。悪魔も倒してアルビオニヒスが出てください」

「ルナ、今までありがとう。元気でね。貴女のこと、一っ生……忘れないから!!!」


 最後の方では涙ぐみ声が掠れた様子だ。ヴィクトリアは会釈すると先陣を切る。続いて両手いっぱいに手を振り立ち去るリンを満面の笑みで見送る少女ルナ。


「お元気で。いつまでも末長く。そして御幸せに。何事にも縛られず、何事にも囚われずに、生きて下さい。私とカレン様、ツバキ様、ツル様はいつまでも貴女を見守っています」



 地下室から脱出したリン。大粒の涙を流して声を上げるのを我慢していた。


「リン」


 ヴィクトリアが立ち止まり振り向く。そして強く抱き締めた。


「我慢しなくても良いよ」


 その言葉に甘えたのか彼女の胸の中で大声で泣き叫ぶ。幸い周囲には聞こえていない。


「君は生きるんだ。悪魔はボクとマリーで倒す。君は隠れているんだ」


 暫くしてリンは落ち着きを取り戻しつつあった。


「大丈夫かい?」

「は、はい……」


 彼女は胸の中で優しく鼓動するヴィクトリアの心臓を聴いて落ち着きを取り戻した。


「本当に神様、なの?」

「信じられない?」

「……神様もどきどきしているんだね」

「人間は神の移し。能力こそボクたちとは比べ物にならないけどカレンもバートラムもルナも、そして君もボクたちアークファミリアの子どもなんだよ」


 だから同じように心臓があり頭で考え、喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだりできるのだ。


「でもボクたちアークファミリアとその従属……まぁカーサスとワトソンのことだけど、神の血を分け与えた人は不老で不死身な体になる。そして永久的に神のしもべ、下僕として生きるんだ」


 リンはそんな人生でも良いかなと考えてしまった。救われた命を彼女に捧げる。そんな人生でも。


「でも君は……リンはボクたちに縛られないで生きてほしいな。それもツルが望んでいたと思うから」

「お母様……」


 その時だ。皇居全体が激しく揺れた。


「何、今の!」

「ユリウスの仕業かもしれない」


 ヴィクトリアは彼女を見る。リンは頷き、ふたりは悪魔ユリウスのいる庭へ駆けていく。



 庭では多数の近衛兵が団円を作り、その中心ではマリーとカーサス、ワトソンが悪魔ユリウスの前に苦しんでいた。


「貴様……」

「ふふっ、人間はともかくとして死神も対したことはないな」


 彼は頭上に手をやると円形の黒ずんだ深い闇のような渦巻きを出した。


「これは無間地獄に続く入り口。君たちは今からここへ入り、現世とさよならするのだ」

「私の術を」

「君が教えてくれたんだ。技術を盗むのが私の主義でもある」


 無間地獄へ続く入り口が突然振動を始める。不思議に思った皆にユリウスは不適な笑みを浮かべる。


「さぁ、お別れだ」


 入り口を胸の前へ持ってくると風邪が吹き込む。その穴に向かって吸い込まれていく。


「何かに捕まれ!」

「どこにだよ!」


 マリーは鎌を地面に突き刺す。ワトソンは園庭に突き出た岩に掴まり、カーサスは掴まるものがなく次第に穴へ近付いていく。


「マジヤバイ、勘弁しろよくそったれ!」

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