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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第20話「覚悟」

 星歴805年13月8日24時03分、リン・アサカゼは処刑された。

 だが、彼女は生きていた。リンの妹ツバキが死してなおも救いたいと願い、同名の死神椿に頼みヴィクトリアとマリーによって救われた。

 リンはヴィクトリアによって亡命させられることに拒否反応を示す。そして彼女の姉カレンとバートラムへの復讐を決意。

 さらにリンの情報で探していた悪魔ユリウスがカレンの護衛に付いていることを知り、マリーは討伐を決める。

 リンは復讐に、ヴィクトリアとマリーは悪魔退治に。果たして成功するのだろうか……。

 星歴805年13月15日44時過ぎ、東門がヴィクトリア一行によって爆破され衛兵が集結する頃、リンは皇居への侵入に成功。彼女は今、小柄な身と俊足を生かして内部へ侵入。カレンとバートラムを始末に向かう。



「外が騒がしいな」

「何かしらね」


 バートラムとカレンが庭園を臨める縁側で話していると衛兵が室内に入るよう促す。賊の侵入だと伝えられており、カレンはリンを処刑したことによりリン派の残党が押し掛けたのだと考えた。


 またバートラムは詳細を隊長に確認し情報を得た結果、彼女の護衛役として傍にいた悪魔ユリウスを差し向ける。


「何故彼を?」

「賊の中には大きな鎌を持つ奴がいるそうだ。前に奴が鎌を持った死神らに襲われたことを聞いたことがあってな……」


 つまりその手の専門は彼に相応しいと判断。悪魔ユリウスに事態の収集を任せたのだ。


「それに我々の護衛にはまだ奴がいる」

「エーデルさんね。彼も良い男よね」

「おいおい、二股掛けるなよな」

「あら嫉妬?」


 ふたりはそんな会話をしつつ屋内へと消えていった。


 エーデル、かつてツルの選挙当日に皇居へ侵入し妨害工作を図ったバートラムの前皇帝ハールンを主君にしていた忠実なるしもべ。今はバートラムを主君に持ち、右腕として政治から護衛までを受け持つ敏腕なしもべ。


 片翼人種(ウヌフィノンノヒス)という翼が片方にしかない人種であり、彼の場合は右側にのみ翼を有する。尾はなく、仕舞うことは出来ない。


 彼はリンの障害となるのか、果たして……。



 一方で驚くほどに静かな廊下や部屋にリンは緊張が走る。突然鉢合わせにならないか、既に侵入が知られており機会を窺っているのではないか。


 そんなことを頭の中で巡らせつつ一歩、また一歩とカレンとバートラムがいるであろう私室へと歩む。


 私室は玉座の間に程近いものの付近には近衛兵団長の執務室もあることから慎重にせねばならない。


 ふたつ角を曲がればそこに部屋はある。駆け込んで素早く始末したいところだが慌てず進む。


「っ!?」


 背後に気配を感じた。瞬時に振り向くが人影はおらず気のせいだと先へ進む。


「心臓がバクバクしてる……落ち着け。まだまだこれからよ」


 小柄な身体の中では一生懸命全身に血液を送る心臓が早鐘の如く鼓動している。そして彼女はひとつ目の角を曲がる。人はいない。


 静かだった。表では依然衛兵の声が聞こえる。


 敵は外だけにいると思い込み、内部は安全なのだろうと勘違いしているのだろう。


「あと少し……」


 ふたつ目の角を曲がりカレンの私室の前へと辿り着いた。何事もなく到達し安堵する。


 襖に手を掛け引こうとした瞬間だ。横から突然腕を掴まれ心臓が止まる思いをした。


「っ!!!」


 腕を掴んだのはヴィクトリアだった。リンの心臓は先ほどよりもさらにバクバクと小動物の如く拍動している。一分間で156回ほどだろうか。


「なんでここに!?」

「静かに。最後に訊きたいことがあったからね」

「何を?」


 少し間を置いてヴィクトリアは真剣な眼差しを彼女に向ける。


「バートラムのみならず、本当に君の肉親でもあるカレンを殺してしまうのかい?」

「何度も言わせないで。あたしには復讐という(みち)しか無いの」

「良いの?」

「これも運命(さだめ)なの」


 掴んでいた手を離しヴィクトリアは頷いた。


「それが君の選んだ迪ならば、もう止めはしない」


 その瞬間、リンは勢い良く襖を引く。右から左へ開けると目前に銀色をした何かが飛び込んできた。


 咄嗟に背を低くし、それを交わす。頭上を細長い物体が通過する。


「薙刀!?」


 振り向くと目の前には見知らぬ男が立っている。漆黒の燕尾服に身を纏う男が薙刀を構え直す。


「避けられるとは思っておりました。リン様」

「何故あたしの名前を……」

「失礼、わたくしはバートラム様にお仕えするエーデルと申します」

「貴様がエーデルか」


 ふたりの会話を割くようにヴィクトリアが現れる。既に彼女の手には杖が用意されていた。


「あなたは……ツル様の選挙当日に護衛なさっていたヴィクトリアと名乗る山賊でしたね」

「山賊じゃないよ」

「では?」

「そんなことどーでも良い! なんであんたはお母様のことまで!」


 すると彼の周囲から人影が現れる。リンには見覚えのある人物らだ。


「俺はビリー・ボビー」

「俺はカイ・ワーレー」

「俺様は……」


 油ぎった異臭を漂わせる男が名乗る前にリンは答えた。


「サルデス・ソルデス! くっさい男!」

「なんだと、貴様ッ!!!」

「良かったな、覚えてもらってて」


 仲間とヴィクトリアからそんな言葉を貰うが嬉しくもなんともない。


「お前は知らねぇかも知れねぇが、俺らがツルもツバキも始末したんだぜ!」

「正確にはユリウス様の助けがあったから、ですよ」

「そうかもしれねぇが始末したことは確かだ。お前ももう一度殺してやるから覚悟しろ」


 サルデスの宣言に仲間たちが歓声を上げる。早速ビリーが自慢のライフルを手に取り引き金を引く。


「お前らとは一度戦った身だ。負けるわけないだろ」

 銃口の先を見てどこへ弾が飛んでくるかを読む。華麗に避けるヴィクトリアにカイが助太刀する。


「ヒャハ、これならどーだ!」


 やや大きめ、一升瓶ほどの手榴弾を投げる。小さな爆発と同時に無数のスパイクが辺りに飛び散った。ひとつひとつの大きさは10センチメートル程度だ。



「危ない!」


 自らは魔法障壁で攻撃を防いだもののリンを庇って左肩への命中を許してしまう。


「ヒャハ、針地獄の刑だ!」


 ケースに入った数十個の手榴弾を投げ付ける。敵は一斉に散らばった。


「なんのこれしき!」


 今度は手榴弾を魔法障壁で包み込む。中で炸裂して内部はスパイクで埋め尽くされていた。


「返して上げるよ」


 杖を翳して呪文を唱える。


返礼(リコンペンサ)!』


 障壁が消失、無数のスパイクが群れを成して敵へ襲い掛かる。だがエーデルの無力化呪文により、スパイクは床へと落下し突き刺さる。


「中々やりますねぇ」

「お互い様ですよ」


 周囲から見れば戦闘を楽しんでいるようにも見てとれたがヴィクトリアはそうでない。早く突破したかった。


「仕方ない。本気を出しましょう」

「まだ本気を出していなかったのですか」


 杖を内ポケットへ仕舞う。右目を覆う黒色の眼帯を取ると閉じていた目蓋をゆっくり開く。


 左目の蒼色の瞳と違い、右目は橙色をしているオッドアイだった。さらにアークファミリア10番目を表すスコーピオの紋章が刻まれ輝いている。


「貴様、それは……」

「神話だと思ってた? 残念、アークファミリアは実在するんだ、よっ!」


 掛け声と共に懐に手を入れカイの元へ突入する。間合いに入ると彼の喉仏に切り込みを入れた。


「ひょーっ!」


 血飛沫が周囲に飛び散る。彼はそのまま後ろへ倒れ、痙攣しながら絶命する。


 ヴィクトリアの手には神風(かみかぜ)と呼ばれる刀があった。刃先を下へ向けるとカイの血が滴り落ちる。小さな水溜まりが出来ていた。


「一瞬で……」

「次はお前だよ!」


 刀をビリーの左大腿部に斬りつける。そしてそのまま斜めに掬い上げた。


 刃が身体から離れると、これまた(おびただ)しい血が吹き出した。さらに腹部からはらわたが外部へ飛び出す。


「俺のはらわたが! うぎゃあ」


 彼女の背中を見つめるリンは驚愕していた。だが我に返り、床に刺さっていたスパイクを魔法で持ち上げる。そして茫然としていたサルデスの身体目掛けて突き飛ばす。


「はぅわっ……」


 唾を飛ばして悶絶する。突き刺さった場所は左の下腹部だ。脂肪が厚く致命傷には至らなかったが患部を押さえてその場で踞っている。


「これであとひとり!」


 最後のエーデルに攻撃しようと振り向くも彼はおらず耳元で声が聞こえる。


「どうでしょうか」


 すぐとなりには彼が満面の笑みを浮かべて立っていた。ヴィクトリアはというと無惨にもバラバラになっていた。


「こう見えて私、強いんですよ」


 リンは立ち竦み、思わず涙を流した。最早これまでかと思い死ぬ覚悟を決める。


 元より決意はしていた。しかしそれはカレンを刺し違えてのことだ。目標を達成せずに死ぬことは悔しかった。


「やっぱり人生はうまくいかないもの……ね」


 目を閉じて死を受け入れる。どこからでも掛かってこい。そう思っていた矢先に呻き声が聞こえた。


 目蓋を開くとエーデルが藻掻き苦しんでいる。彼の背後ではヴィクトリアが杖を握り呪文を唱えていた。


「バラバラにされた筈じゃ……」

「ボクは不老で不死身。簡単には死なないよ」


 ふたりは驚愕する。彼はもう一度バラバラにするため粉砕させる魔法を唱えた。


「遅い!」


 短剣を懐から取り出して彼の喉仏に突き刺した。


「うごがげ……」


 白目を向いて後ろに倒れ絶命した。呆気ない最後にリンは信じられなかったがヴィクトリアは、

「こんなことをしている場合じゃないね。さぁ、早く」

 彼女の目標を達成させるべく背中を押した。ふたりはカレンの元へと向かう。



 暖かく暖房の効いたフローリング張りの室内にカレンとバートラムのふたりはいた。賊の侵入や戦時下に於いて、敵の攻撃から身を守るためのシェルターとして皇居の地下にある。


 ふたりはユリウスとエーデルが侵入者を殲滅してくれるだろうと期待しつつ将来のための営みを始めようとしていた。


「準備は整った」

「もう邪魔はないわね。私たちの子どもが、未来永劫この国を繁栄させるために」

「イこう」


 ふかふかのベッドに身を置いたふたりは裸の身体を寄せ合い体勢に入る。だが人の気配を感じ、バートラムが行為をやめた。


「エーデルかしら?」

「全く、ノックくらいしたらどうなんだ」


 裸体を晒しつつ近くの木製の椅子に掛けていたローブを着て気配の方へ近付く。


「エーデル、お前か。侵入者ふぁあっ!?」


 すっとんきょうな声を出し両手を高らかに上げて後退りする彼を見て、流石のカレンも相手が別人だと悟る。素早く羽織りを着て椅子の隣にあったテーブルの上に置いてある刀を取る。


 元近衛兵の団長だった彼女は団長時代に造らせた刀、可憐刀(かれんがたな)を携えバートラムに近寄る。


 近くに来て初めてバートラムが間抜けな声を出した理由が分かった。それと同時に声が震える。


「あなた、まさか生きていたとはね……リン」


 彼女は魔法で浮かせたスパイクをバートラムの喉元に突き立てていた。今すぐにでも喉に風穴を開けようと思えば出来る。


「お久しぶりです。お姉様、私は帰って参りました」

「お前……いや、ははっ。あなたは死刑になって一度死んだ身。だからもう死ぬことは、死刑にならない。だからまた私とやり直しましょ」


 焦りが見える。だが可憐刀は頑なに離さない。


「聞く耳は持たない」

「姉妹じゃない。彼とは別れるわ。だから……」

「本当に?」

「本当よ!!!」


 リンは杖を下げる。スパイクは呪文の効力を失い床へ落ちる。そして彼女は言った。


「じゃあ何か話しましょうか」

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