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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第19話「復讐」

 星歴805年13月8日24時03分、リン・アサカゼは処刑された。

 だが、彼女は生きていた。リンの妹ツバキが死してなおも救いたいと願い、同名の死神椿に頼みヴィクトリアとマリーによって救われた。

 ふたりは再会を喜ぶもツバキは悪霊と化す前に冥府へ旅立たなければならない。妹との別れで再びひとりとなった彼女は、ヴィクトリアの亡命という言葉に復讐を返す。

 リンの人生や如何に……。


 リンはヴィクトリアがアークファミリア10番目、風を司る神だと知り驚愕した。納得は行かなかったが神であるスコーピオの紋章が右目に、神にしかない魔法陣を描かれて信じる他無かった。


 だがやはり亡命ではなく復讐という選択肢は変わらず、ヴィクトリアの想いも届かない。彼女は復讐に生きる道を選択した。


「後悔は無いの?」

「カレンとバートラムを野放しする方がよっぽど後悔する」


 マリーとヴィクトリアが話し合う。断固として意見をねじ曲げないリンに対してふたりの心は折れる。


 だが復讐に加担するわけではない。リンはカレンとバートラムを、ヴィクトリアとマリーは悪魔ユリウスを殺害するということで決まる。


「ボクたちは一切、キミの行動に手出しはしない。ここから抜け出した後、キミはひとりで行くことになるけど」

「そんなの百も承知よ。あなたたちが手助けしなくても、自力でここから這い上がって復讐してやる」


 彼女は今、復讐心に燃えている。何を言っても止めようとしても無駄なようだ。


「でもキミはまだ休んだ方が良い。(やっこ)さんは逃げも隠れもしないだろうから、3日。3日は休みなさい」


 マリーも賛成のようだ。リン自身も体力が万全ではないことから今行ってしまえば返り討ちに遭うと考え休養を取ることを決めたのだった。



 3日という期間は早いもので気が付けばもう既に経っていた。その間、ヴィクトリアはリンへ治癒魔法を掛けて傷を癒し、彼女に至っても作戦を練りに練って万全の状態を作る。


「一応大事を取って出発は明日にしよう」

「ここから出るまでは私らに従う約束よね」

「……わかりました」


 リンは不服だったみたいだが逆らうことはしなかった。


「あっ、でももう携帯糧食が無いや」

「私ら死神は冥界の食べ物を食わなきゃならないからまだ十分あるけど食う?」


 そう言ってふたりにレイスペクター社の大人気シリーズのチョコレイトチューイングガムを渡した。フレーバーは無間地獄風味だ。


「なんというか」

「ふ、不思議な味……」

「無間地獄みたい味でしょ」


 ふたりは首を捻る。マリーは他にも血の池地獄風味や断首108回風味、針千本風味など良く分からない商品を勧める。


 無論断るふたりだが空腹は不思議と満たされた。だが水もた貯水分が無くなり、これまたマリーが持ち込んだ三途の川から採水したという飲み水をくれた。


 六文泉(ろくもんせん)ドリンコから販売される“逝ってらっ水”と呼ばれるものだが、無味無臭で軟水だった。ヴィクトリアは硬水を嗜好するためにあまり好きではないようだ。


 こちらも不思議と喉の渇きが潤った。

 しかしながらヴィクトリアはまだしも、リンのような人間が冥界の食べ物を飲食しても大丈夫なのだろうか。その疑問をマリーへぶつける。


「大丈夫だよ。きっと多分、恐らくかも」


 そうして彼女たちは鋭気を養い翌朝が来るのを待った。



 星歴805年13月12日12時00分。リンは初めて、休養を取っていた部屋から出ると外へ向かう。


「ひゃっこいっ」


 初めてラーックナーコソーノの底を自分の足で歩いた時だ。外は生憎の冷たい雨だった。


 今年のアルビオニヒスは例年よりも寒く摂氏10度だ。13月12日の今日は最低気温が7度とこの冬一番の冷え込みだ。


 因みにラーックナーコソーノの底では摂氏1度と非常に冷たく凍えるような寒さである。


 ヴィクトリアは暖かい厚手のローブを彼女にあげた。頭まですっぽり覆った彼女をまさか死んだ筈のリン・アサカゼ元天皇陛下とは思わないだろう。


「さて登る地点まで移動しよう」

「ここからじゃ駄目なの?」

 掘っ立て小屋の真後ろに聳え立つ絶壁を指差す。


「ここは処刑地点から近いから、もう少し離れたところにあるんだよ」

「ふーん」

「そこでかれこれ3日も待ってくれてるふたりがいるから、ちゃんとお礼を言ってね」


 彼女らは移動を始め、凡そ30分歩いた地点にやって来た。幸い死霊や悪霊などは襲ってこなかった。


「あれは……」


 ヴィクトリアと同じくらいの身長に茶髪の短髪で白人の男性が拳銃を構えていた。近付く彼女たちに気付き銃を下ろすとリンを見て一言。


「まだまだガキだな」


 この一言に彼女は憤慨する。その束の間、丸眼鏡を掛けた太めの黒人青年が暴言を吐いた男の頭を叩く。


「ってーなワトソン、なにすんだお」

「カーサス、君の方がバカなんだからあまり他人を貶す言い方はやめなされ」


 この感じ、どこか懐かしい会話だとリンは思った。かつて、そう遠いような昔にも笑いながら母親と囲まれながら送ったあの日々。


「久し振り、リン。さぁ行こうか」

「ハンマー・ワトソン、それにバーン・カーサス……でしたよね」

「へー、覚えてるんだ」


 忘れる筈もない。いつかもう一度逢いたいと思っていた面々なのだから。


「ありがと……」


 恥ずかしながらお礼を呟く彼女にワトソンは頭を撫でる。


「僕たちがいればこんな崖、ちょちょいのちょいさ」

「おうよ。俺たちがいれば何でも出来るぞ!」

「煩い。さっさと登れ、ゴミカス」


 マリーの心無い暴言に激怒するカーサスを脇目にヴィクトリアとワトソンがリンに寄る。


「バカは放っておいて行こっか」

「ヴィクトリア……」

 何か訊きたそうにしている。


「どうしたの?」

「ワトソンもカーサスもあの時から変わっていないけど……」

「そりゃ、ヴィクトリアの下僕だからさ」


 下僕、それは主人であるアークファミリアの(しもべ)として永久に従う存在のこと。年齢と容姿は主人と同じで、ヴィクトリアは17歳で固定されているため彼らふたりは年を取らず風貌もそのままなのだ。


 さらに、アークファミリアは不滅だ。不死身の不老不死であり、下僕もほぼ似た効果を持つ。つまり10年前に逢ったあの時から何一つ変わることは無いというのだ。


「下僕って、もっと奴隷みたいな扱いかと思ったけど案外自由にさせてるんだね」

「ヴィクトリアは対等に扱ってくれるんだ。だから僕は付いていく。どこまでもね」

「はいはい、お世辞は良いから行くよ」


 3人は予め描いてあった転送用の魔法陣によりその場を去る。マリーとカーサスは言い合いになっていたが彼らが去るところを目撃すると彼は慌てて魔法陣のところまで駆けた。


「お先ー」

 マリーは死神の特性である浮遊効果を利用して浮上した。置いてけぼりとなるカーサス。


「助けてくれやーっ!」

 その後、ヴィクトリアが地上へリンとワトソンを送り届け、もう一度底へ戻りカーサスを拾う。そしてふたりともに地上へ向かった。


 地上へ到達するとリンは皆にお辞儀をする。ここからはひとりで皇居まで向かうのだ。


「てことは亡命は?」

「しないんだってカーサス。だからボクたちはここまで」

「なんだよ。だったらこんなトコ、さっさと出発して豪華なホテルでバイキングを楽しみたかったぜ」


 文句たらたらの彼の横でワトソンがヴィクトリアに耳打ちする。


「本当に助けないんですか?」

「うん。それが彼女と交わした契約だから」

「契約?」


 リンが振り向き皇居へと歩み始める。それを皆はただただ見るだけしか出来なかった。


「契約とは?」

「ひとつは彼女をラーックナーコソーノから脱出させること。ふたつは皇居にいるであろう悪魔を退治すること」

「悪魔退治ってなんだお。こちとら聞いてないぞ!」


 ヴィクトリアは説明した。リンが亡命を断り復讐に生きること。そして彼女の姉が悪魔と関わり、その悪魔はマリーが追っていることを。


「つまり、あいつはひとりでカレンとバートラムを殺しに行ったってことかいな」

「それはあまりにも無謀すぎるのでは?」

「それでもやるんだって聞かないから」


 だがワトソンは再度訊ねる。


「本当に助けないんです? 彼女はあの人の……」


 人差し指を彼の口元にそっと置く。彼女は口を開き、

「彼女が望んでしたこと。ボクたちがどうこう出来る問題じゃない」

 リンの気持ちを汲むように言った。しかし話しには続きがあった。


「――でも、彼女がお願いしなくてもボクたちはしなければならないことがある。だから……」


 ワトソンは頷いた。カーサスは不満げだ。早くホテルに帰ってバイキングを楽しみたいのだ。


「じゃあマリー、行こうか」

「わかったわ、ネクロス」



 リンはキセルや人目の付かない裏路地を使い、やっとの思いで潜入できた。急ぎ足で向かってもラーックナーコソーノから皇居のある首都シラカンバまでは3日も掛かった。


 道中は人々の目を盗み水や食料を食べて過ごしていた。これが最近まで天皇陛下として国を納めていた少女の末路であろうか。


 現在時刻は13月15日の27時過ぎだ。白昼堂々と侵入は不可能だと感じたのか、彼女は近くの路地で夜を待った。


 今までは歩いて移動していたため直ぐに逃れることができた。しかし留まって過ごすのは睡眠以外無く、また人目の付かない草むらなどで眠っていたため留まって隠れるのは落ち着かなかった。


 万一発見されれば警戒され、最悪捕まってしまえば今度こそ死ぬことになるだろう。その場で殺されることもあり得る。


「早く夜になってよ……」


 時間は決まった速度で流れていく。時を進めたり遡ることは出来ない。


 誰か人の気配を感じる度に心臓が早鐘を打つ。これでは寿命が縮んでしまう。


 だが彼女にそんなものはお構い無しだ。心臓が早く打ち続けようが寿命が縮もうがカレンとバートラムの復讐さえ果たせば、それで満足なのだった。


 夜の帳が降り初め、西の空が夕闇に染まる頃、リンは裏路地から離れる。


 衛兵に気付かれないよう何度も侵入経路を下見する。失敗は許されない。


 侵入が一番難しい。発見されると守りを固められて成す術がない。増援も増え、ますます復讐が難しくなる。初めが肝心なのだ。


 中へ入ってしまえばなんてことはない。元々は生家であるからして迷うことなくカレンのいるであろう私室へ行けるからだ。


「タイミングが肝心ね……」


 すると遠くの方から爆発音が轟いた。音がした方向を見る。


「あっちは東門……何かあったのかな」


 衛兵が慌ただしく騒ぎ始め、ひとりだけを守衛に残し後は全員現場へ急行していった。今が絶好の機会だ。


「覚悟を決めろ、朝風凛!」


 彼女は大きく深呼吸をすると頬を両手ではたく。そして守衛から死角となる塀に勢いを付けてよじ登る。

 皇居内の衛兵のほとんどが東門へ出払っているため安全に侵入出来た。草むらや木々に隠れ状況を知ろうと耳を澄ませる。


「敵襲あり。数は確認されただけで4人」

「ひとりは大きな鎌を持ってるぞ。気を付けろ」


 勘づいたリンは感謝した。ヴィクトリア一行が陽動作戦に出たようだ。


 尤もあちらにも目標がある。悪魔ユリウスだ。しかしながらリンひとりでは侵入が難しかった。ありがたいことだ。


「待ってなさい、カレン!!!」

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