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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第15話「カレンの反乱」

 星歴805年13月5日、アルビオニヒス皇国の町シルコとダールクニヒス帝国の町カーボに架かる橋ルーナの国境監視所で事件は起こる。

 視察団として天皇リン・アサカゼの姉カレンが赴くとそれを見越したかの如くダールクニヒス側より銃撃され姉は負傷、互いに交戦状態となり最終的に彼女は捕虜となってしまった。

 敵将軍のミハイル・フォン・ウジクーツク伯爵中将は彼女を道具として交渉を始めるのだった……。


「ごめんなさい、リン。殺されると思って……その、……あなたが攻撃を指示したと言ってしまったの」


 スピーカーから流されるその言葉に耳を疑った。近衛兵団長のケルンは敵の策略だと言い切り、この声はカレンではないとも切り出す。


「確かに声だけだと。でも……これを国民が聴いたら大変なことに」

「もう遅いわ」


 リンの言う通りだった。国内の放送局の電波がジャックされ、国中に今の言葉が流されたのだった。


「今すぐに切るんだ」

「聴いたかな、リン天皇陛下。これを国際司法裁判に持ち込んでも良いだよ」


 せせら笑うウジクーツク伯爵中将にリンは為す術もない。だが今できることは、カレンを助け出し真実を聞くことだ。


 ケルンがシルコの奪還部隊とカレンの救出部隊の編成を指示。しかしリンは行動は慎重にすべきだと指示を待たせる。


「リン様、事が遅れるとツバキ様のようになってしまいます。直ちに兵を動かすべきです」

「ダメ。今動けば彼らの思う壷。もう少し様子を」

「その通りです。ケルン団長、今は辛抱の時です」


 ルナもリンの想いに賛同する。だがケルンは、

「どうなっても知りませんぞ。私は進言致しました」

 そう吐き捨てその場を去る。


 だが時間の猶予はない。国民に真偽不明の声明が流れている以上、それを正しく伝えなければならない。


 カレンさえ助け出せば真偽がはっきりとする。だが救出部隊を出せばダールクニヒスに攻撃の意思があると思われてしまう。


 そもそもシルコの国境監視所が本当に攻撃をしたのか疑問だ。これについてはルナも同意件であった。


「如何なさいますか」

「難しい問題ね。お母様ならどうしたのだろうか……」


 つい弱音を吐いてしまった。ルナが心配そうに見つめるとリンは気が付いていつもの元気な彼女のように振る舞う。


 ふたりが打開策を話していると事態は急変する。


 カレンの救出部隊が動き、シルコへ進軍。さらに敵の増援を絶つべくルーナ橋を爆破した。


「何をやっているの!」

 ルナは報告してきたケルンに怒りを露にするも彼は言った。


「だから申したではないか。貴女方が思っている以上に我々近衛兵たちはカレン様を直属の上司なのです。その上司が囚われの身になっていたらどうなるか」

「貴方がいるでしょう。貴方が!」


 事は深刻だ。ダールクニヒスには当然見過ごすはずもなく宣戦布告を視野に入れ軍隊を国境付近に集める。


「貴方は解任です!」

「待ってルナ。それを決めるのはあたしよ」


 深呼吸をする間、ふたりは彼女を見つめている。これから恐らく決断されるのだろうと思ったからだ。


「ルナ、もしも私に何かあったら代理を頼むわね。貴女を正式に代理と認めます」


 天皇の一声があればひとりだけ代理と定めることが出来る。但し証人がひとり必要である。


「ケルン団長、私が共にカレンお姉様の元へ参ります。だからルナの天皇代理の証人になっていただけますよね」


 彼は一考したのちに頷いて証人となることを誓う。それからリンは純白の翼と尾をふたりの前で披露する。それに合わせてケルン団長も翼と尾を広げた。


「それではルナ、後は任せました」

「必ず帰ってきてくださいね」



 ダールクニヒスとの国境の町シルコ。既に奪還部隊が町を確保し、リンとケルンらが着く頃には収束しつつあった。


「状況は?」

「はい団長、間もなく全国の部隊との展開が可能です」

「馬鹿者、そちらではない」


 兵士は冷や汗を流し直ぐにも訂正、

「か、カレン様の救出部隊を編成した、ただいま調整に入っております」

 たどたどしく報告した。無論リンは気には止めたもの皇族の前だろうと思い流してしまう。それが重大な過ちと気付くのは直ぐに分かった。


「遅かったじゃないか、ケルン将軍」

「ウジクーツク殿、ご無沙汰しております」

「へっ!?」


 彼らは顔馴染みか。状況が全く掴めない。リンは半ばパニックになる。


「リン様、申し訳ありませんが貴方には捕虜となっていただきます」


 手を上げると兵士らが彼女に縄を掛ける。所持していた伝来の剣や拳銃を没収しウジクーツクの前に差し出した。


「こんな小娘が我々の脅威となっていたわけか」

「ただの人形ですよ。指示するだけで有能なのは我々なのですから」


 ケルンは敵国と通じていたのか。はたまた買収されたか、脅されているのか、わからない。何もわからなかった。


「ケルン団長、貴方は国を部下を、友までも裏切るのですか」

「何を仰っていますか。全て裏切ってはおりません。アルビオニヒスは今日(こんにち)よりダールクニヒスの衛星国となるのですから」


 衛星国とは一体。話が全く見えない。どういうことなのか説明を求める。


「今から説明致します。リン様、貴方はダールクニヒスに宣戦を布告するのです」

「どう言う事由で!」

「カレン様を救うためです」


 するとウジクーツクが彼女の眼前に縛られたカレンを連れてきた。ところどころ服が敗れ、擦り傷や(あざ)が出来ている。出血もしておりなんとも痛々しい姿だ。


「お姉様!」

「リン、助けて。こいつら私を殺そうと」


 兵士のひとりが殴りかかる。こいつら呼ばわりしたことが気に食わなかったようだ。


「やめて! お姉様に乱暴は!!!」


 にやり。ウジクーツクが笑みを浮かべる。腰を下ろしリンと対話する。


「さぁこいつを助けてほしくば、ここに開戦の宣言をするんだ」

「そ、そんなこと……出来るわけ無いでしょう」


 鋭くそして美しく磨かれたナイフを彼は腰から取り出すとカレンの頭を鷲掴み引き寄せる。頬に刃先を当てて再度勧告する。


「やめて……私は出来ないのよ」


 悲痛な叫びに同情する人はここに誰もいない。かつて仲間だったケルン団長や近衛兵らは今や裏切者だ。そんな彼らはリンの宣言に注目している。


「リン、助けて……。いや、やめて」


 刃先が頬から顎に向かって数センチ駆け下る。美麗な肌に一筋の切り傷が生じ赤く毒々しい色の血が頬を伝う。


「痛い、痛いよぉ!!!」


 泣き叫びリンに強く助けを請う。しかし彼女は応えない。


「だって開戦を宣言したら国が……国民が……」

「今度は腕に刺すか。いや腹か、心臓か」

「腹と心臓はまずいです。死んだら交渉の余地がない」


 ケルンが留める。だが何れは殺してしまうのだろうとカレンは恐怖に(おのの)く。涙と声が枯れるまで彼女はリンに自分を助けるようにお願いした。


「いっそのこと殺して、他の皇族や君の大事な人、ルナだったか。そいつも()ってしまっても良いんだぞ」


 顔を青ざめるリン。人質は他にもたくさんいるのだ。しかし開戦を宣言し、その先はどうなる。先ほどの会話で衛星国となると言っていた。


 だがもし国が滅ぼされダールクニヒスが新たに台頭すれば民はどうなる。リンたち皇族もどうなってしまうのか。それらを考えるだけで恐怖と絶望しか生まれない。


「リン様、お覚悟を」

「もう使い道が無いから殺してしまうか」


 ナイフをカレンの心臓目掛けて刃先を向ける。そのまま突き刺せば彼女は数分もしない内に死んでしまう。


「いや、やめて。リン、見捨てないで。私を、見捨てないで。例え宣戦布告しても私たちが諦めなければまだまだ道はあると思う!」

「うるさいアマだな、ぶっ殺しちまえ!」

「やっちまえ!」


 外野の言葉が揃い始める。ウジクーツクは大きくナイフを引くと今にも突き刺す勢いだ。


「わ、分かりました。宣言します。だからもうお姉様を助けて!」


 声を荒らげ息を切らしながら眼光をウジクーツクに向けた。覚悟の表情に彼とケルンらは笑う。



 シルコ側の国境監視所の食堂に特設された会見場へリンは連れていかれた。監視所からダールクニヒス側を見渡せる通路があったがルーナ橋は落とされていなかった。


「やられた。まんまとあたしは騙されてしまったわけね」


 会見場に着くや彼女を大きな白の仕切り板の前に立たされる。そして幾つもの有線マイクが置かれた台を小銃を持ったダールクニヒス兵が並べる。


 準備が整う頃にはカレンも連れてこられてはリンの見える位置に手足を縛られナイフを突き付けられ脅されていた。


「さぁて、間もなくショーの時間だ。貴様の一声でふたつの国が滅茶苦茶になる様を良く覚えておくが良い」

「くっ!」


 睨み付けるもカレンの首筋にナイフを当てられ直ぐに諦める。せせら笑うウジクーツク。


「時間です」


 星歴805年13月5日36時30分、ダールクニヒス帝国国営放送局とアルビオニヒス皇国皇室放送局より全国に向けてリンの声がラジオより流された。


「わたくし、アルビオニヒス皇国天皇、リン・アサカゼはダールクニヒス帝国への……せ、宣戦を……」


 声が震える。これ以上は言いたくない。だがカレンに目を向けるとダールクニヒス兵が彼女の喉元にナイフを今にも切り付けそうだ。


「せ、宣戦を布告致します。交戦事由は、ダールクニヒス帝国がカレン・アサカゼ元帥を捕らえたことによるもの。カレン・アサカゼを救出し、ふたつの国を統一すること。これが我がアルビオニヒス皇国の課せられた使命なのです。皇軍兵の皆さん、直ちにダールクニヒスを討ち滅ぼしなさい」


 最後まで言い切った。直後にこの上ない絶望感と吐き気に教われた。自らが宣言した言葉に彼女は戦く。


「良くやった。これで我々は自由のためにアルビオニヒスを潰せる」


 視線をカレンに向けるウジクーツク。察した兵はナイフを何の躊躇いもなく彼女の胸に突き刺し、引き抜いた。


「えっ……」


 カレンの胸は瞬く間に真っ赤に染まる。床は血だまりが作られる。


「お姉様!!!」


 リンが駆け寄る。カレンは掠れた声で何度も謝った。


「ごめんなさいね。私を許して……ほんと……に」

「許す、許しますから、お姉様。死なないで、私を置いて行かないで!」


 周囲に助けを求める。この身を賭けても誰も救うことはしなかった。ただただ冷たい視線を浴びせるだけだった。


「お願いよ……助けてよ」

「リ……ン」

「お姉様!」

「また……ね」


 その後、ふたりは引き離され軍医による死亡が申告され彼女は正式に死んだ。リンは放心状態に陥りいとも容易く捕縛され国境監視所内の独房に監禁された。


 ウジクーツクとケルンが今後について話している。これからふたつの国はひとつになるべく準備を整えなくてはならない。


「プランをBに移行」

「諒解しました」


 ウジクーツクの命令でケルンはアルビオニヒス軍にダールクニヒス帝国への攻撃を指示。これも彼の策略だ。


「反戦派の部隊と衝突している部隊があります」


 アルビオニヒス国内では突然の戦争状態に混乱し反戦派、即ち両国との友好を目的とした一派が皇国軍と衝突。激しい乱戦状態になっているようだ。


 混乱は皇居でも同じだ。リンの不祥事の対応に追われる一方で天皇代理を務めるルナがどうにかして停戦させようと他の皇族と話している時だった。


 中庭に何かが落ちる音が聴こえた。初めは爆弾か何かだと近衛兵が駆け付けたが陸軍中将のバックレーがルナたちに衝撃の報告をする。


「カレン様です。急ぎ来てください」


 中庭にいたのは傷付いたカレンだ。さきほど死んだ筈のカレンがいた。


 だがウジクーツクに処されたことを知る人はここにおらず、寧ろ捕虜となっていたため無事に逃げられたのだと安心する者もいた。


「リンを止めなきゃ……」

 本年はこの投稿で最後となります。来年もまたよろしくお願い申し上げます。

 皆様、コロナ禍ではありますが体調などに気を付け、良い年をお迎えくださいませ。

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