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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第14話「ふたりのつばき」

 冥界で働く少女マリーがある日、祖母のソマリーに頼み事を任される。近い内に大きな戦いが訪れるという。

 その頼みを仕事と両立して遂行するのだったのだが、訪れた邸宅に恐るべき魔物が潜み重傷を負い仲間に助けられその場から逃げてしまう。

 悪魔はユリウスと名乗り各地で力と知識を付け、その足取りすら不明だった。

 そしてある日、アルビオニヒス皇国の天皇ツルを殺害するよう配下に命じ、彼は再び姿を眩ませた。それを付けていた死神ブラッドリーは敢えなく喰らわれてしまうのだった……。

 ツルの死去から3ヶ月。ブラッドリーが悪魔ユリウスの養分となったことを知ったマリーは報告してきた山茶花に詰問する。


「なんでそうなった。なんで知った。どーなってんだ!」


 社長室にいた彼女は外に漏れる声量で喚く。外にいた人たちは驚いたことだろう。


 椿が制止させ、ユリウスとキャシーが腕を組んで山茶花の次の言葉を待つ。カオルはその場で泣き崩れている。

 社長でありマリーの祖母であるソマリーは椅子に深く座って目を瞑っている。課長であり母のマリリンはじっとしていた。


「情報元は明かせない。それが交換条件だから」


 螢が口を挟む。だが納得の行かない彼女は椿の腕を振り払って山茶花の両肩を強く掴んだ。


「っ……」

「やめなさい!」


 マリリンの言葉に耳を貸さず洗いざらい吐くように強制するが螢が腹に一撃食らわせる。そしてよろけた彼女の首元に大鎌の刃を当てる。


「あたしの仲間に手出しするなら味方でも容赦はしない。あなたとは所詮冥界長の命令で仕方なく付き合ってあげてるだけの関係。これ以上傷付けるならお前を無間地獄に送ってや――」

「はい、そこまで」


 山茶花が微笑んで鎌を取り上げる。天井近くまで上げるもので螢は手を伸ばして返すように懇願する。


「私は大丈夫だから山茶花は大人しくしててね」

「でもこいつは危ない。平気で暴力を振るう。後先考えない」


 確かにその通りだった。山茶花の気持ちも考えずに痛い思いをさせてしまった彼女にマリーは深く反省と謝罪の言葉を送るが螢は信用しなかった。険悪なムードの中で山茶花はため息を付くともうひとつ情報を教えてくれた。


「アークファミリア様から教えてもらいました。これ以上は言えませんけど、とにかくブラッドリーさんのことは残念に思います。彼の無念を晴らすためにも私たちはテリトリーと冥界職員との垣根を越えて共に悪魔退治をしなければならないと思いまふっ!」


 最後の最後で噛んだ。それが険悪なムードから一変場が綻んだ気がした。しかし螢の機嫌は直っていないようだった。


「今後の在り方ね。椿さんたちは悪魔の周辺の調査を。マリーたちは下界で仕事をしながら悪魔の被害者に聞き取りの調査に当たって」


 マリリンの指示に死神三人衆は頷いて早速行動に移る。その際螢がマリーの耳元で囁いた。


「今度あたしの仲間に手出ししたらてめえの家族を皆殺しにする。覚えとけ」


 恐ろしい言葉に身震いする。口調も劇的に変わり悪魔のようだ。まさかとは思ったが、それはないことにした。多分。


「さて、あなたたちも気を付けなさい。明日は我が身って言うでしょ」


 マリリンが注意する傍ら慰めるキャシーが優しくカオルを立ち上がらせる。彼女たちにはしなければならないことが山積みである。


「ていうか、あいつらただ報告に来ただけかよ。もっとすんごい報告かと思ったのに」


 ユリウスの態度にソマリーが反応する。


「あなたたちのせい……とまではいかなけれど、手伝って貰っているのだからその言葉は感心しないわ」

「ごめんなさい、お婆様」


 マリーが代わりに謝る。本を正せば彼女の過ちだ。キャシーやユリウス、カオルや喰われてしまったブラッドリー、そして死神三人衆の椿、螢、山茶花は手伝って貰っている。だからこそ自分が人一倍努力しなければと、そう感じているのだ。


「とにかく、ひとりでは戦わない。見付けたら逃げるか仲間を募る。マリー、あなたはひとりで頑張っちゃうタイプだから必ず誰かを頼りなさい」


 耳にタコが出来るほど聞かされた言葉だ。誰かに頼る。今まであまりやったことがない。だがあの戦闘で思い知った。


「分かってるわよ。あの時、ユリウスとキャシーがいなかったら、私はここにいない。もうあんなヘマはしない。だから私についてきなさいね!」



 星歴804年のとある日、死神三人衆のひとりである椿がラーックナーコソーノの底である少女を見付けた。


 彼女は成仏出来る状態ではなく未練が残っていた。直ぐにでも冥界に連れていかなければ悪霊となってしまう。


「お姉さまに伝えたい。助けたい」

「と言われてもね。あなたは死んじゃったのよ。これ……」


 ふたりの立っている横でぐちゃぐちゃになっていたヒトであったような死体。紛れもない少女のものだ。


「私のことなど構わないのです。地獄に行けと言われれば行きます。……でもお姉さまを助けたい」

「あなた、名前は?」

「ツバキです。ツバキ・アサカゼ」


 運命かな。少女は椿と同じ名前だった。そしてアサカゼという姓に聞き覚えがある。


「ツル・アサカゼのご息女さま?」

「はい。そして元天皇陛下であるリンの妹です」


 椿はツバキを助けることにした。話を訊くと驚くべき真実が明らかとなる。


 それから月日が流れた星歴805年13月5日、アルビオニヒス皇国とダールクニヒス帝国の国境付近。


 ここはラーックナーコソーノを境にしてふたつの国が睨み合っている。そしてアルビオニヒス側国境の町、シルコとダールクニヒス側国境の町、カーボに架かる橋“ルーノ”で事件が起こった。


 アルビオニヒスの国境監視所で今日も平和な監視が続いている。兵士が小銃を壁に立て掛けトランプで遊んでいた。階級の高い軍曹殿も交えてだ。


「一抜けだ」

「またかよ。これで300の損だ」

「やめとけよ。掘られちまう」


 中には真面目に双眼鏡を携え監視する兵もいたが遊戯で遊ぶ彼らに笑われていた。正直者ほど馬鹿を見るということなのだろうか。


「軍曹殿、今日は視察団が来るって聞きましたけど」

「来たときにしっかり監視すれば良いの……おっ、ちょっと待った!!!」

「待ったは無しですぜ、上官殿」


 聞く耳持たず。彼らはすっかりトランプに明け暮れていた。溜め息を吐いてひとり監視を続けていると、

「今日も平和そうだな」

 女声が聴こえ、振り向くとあろうことかカレン・アサカゼがいた。彼女はリン天皇の再選挙当選後に軍の最高責任者に任命された。


「カレン元帥殿!」

「元帥殿!?」

「まじかよ……」


 視察団の指揮を執っていたのはカレンだったのだ。小銃の位置や遊戯、服装などを順に確認すると深呼吸をして、

「貴様ら、仕事と遊び、どっちをしているんだ!」

 至極当然のことで彼らは叱責される。さらに責任者を出すよう軍曹に命じ、監視所の最高責任者のアラン・ジルク少佐がやって来た。


「貴様は監視活動をなんだと思っているのだ。彼しか真面目に監視をしていないではないか。弛んでいるぞ貴様ら!」


 真面目くんから双眼鏡を借りると国境沿いを見回し、

「こうやってただひたすら監視をしていれば良いんだ。休憩時間も与えているはずだ。なぜ出来な……」

 彼女の言葉が消え失せたと同時に身体が反る。そのまま後ろへ倒れると肩から血を流していた。


 彼女の後方の壁には弾痕が残されていた。真面目くんが大急ぎで止血する。


「撃たれた!?」

「銃声は!」

「どこから……」

「まさか……」


 国境の向こうはダールクニヒス帝国のカーボ国境監視所。つまりダールクニヒス帝国軍による狙撃だということが推察される。


「あいつら!」

「許せねぇ!」


 立て掛けてあった小銃に弾丸を装填。狙いは小さくも建物に当たれば良く、軍曹も加わり攻撃を開始した。


「攻撃は……ダメよ」


 掠れた声でカレンは制止するも既に手遅れだ。ダールクニヒス側も応戦を開始。


 互いの町では住民に避難勧告がなされ視察団の兵士らが誘導を手助けした。カレンは負傷したため後送されたがダールクニヒス帝国軍は侵攻を開始。


 直ぐに橋とシルコ国境監視所は陥落し町全体が占領されようとしていた。


 カレンがなんとか阻止しようと自ら兵士を相手に覚悟を決めて挑もうとしたが相手の将軍が捕虜を捕まえて交渉を持ち掛けてきた。


「私はダールクニヒス帝国軍中将、ミハイル・フォン・ウジクーツクだ。伯爵でもある」


 身長は190センチの長身でスキンヘッドにモノクルを掛けた初老の男性だ。深緑の軍服に漆黒の翼と尾は威圧的にも見える。胸には幾つもの勲章が輝いている。


「君たちを完全に包囲した。抵抗すれば皆殺しになるだろう。カレン・アサカゼ元帥殿、ここは我々と取引をしないだろうか?」



 アルビオニヒスの首都シラカンバにある皇居ではリンが日々多忙を窮めていた。終わりのない仕事に毎日追われ疲れが見えている。

「ルナ、明日の日程を教えて頂戴」

「はい、明日は――」


 銀髪のショートヘアーに顔立ちは幼く紅白色の巫女姿のルナ・アサナギはリンの侍女でツルが死去してからずうっと身の回りの世話をしてきた。唯一リンが信用、信頼している女性だ。


 このときリンが17歳に対して彼女は23歳。年齢的には大人であるが背丈は変わらず幼く見えることから皇室ファンの間では姉妹と噂されている。しかしながらリンはショートヘアーであるものの赤髪だ。顔立ちも異なる。


 アサナギ家は元来、アサカゼ家に仕える一族だ。ツルの侍女ユキコは彼女の死後、職を離れてルナや他の侍女らの指導に当たっている。


 ルナは幼い頃からリンと親しい関係を持っていた。ツルが天皇となるとともに彼女は勉学のためリンの元から離れていたが先の不幸によりリンを支えることを決意したのだ。


「――になります」

「アーク連邦の大統領との会食はあたしたちにとって大きな歩み寄りになるわね」

「リン様、“あたし”ではなく、私ですよ」

「良いの良いの。貴女とふたりきりの時だけだから」

 屈託ない笑顔で答えられルナの頬が赤くなる。だが和やかな雰囲気も息を切らして入ってきた近衛兵の団長ケルンによって阻まれる。


「何事なの?」


 笑みは消え毅然とした態度に切り替わる。ケルンは事情を手短に、そして命令を待つ。


「カレンお姉さまが捕虜に……。それよりもダールクニヒスと戦闘を!?」

「何かの間違いでは。ダールクニヒスとは不可侵協定を結んでいるはずです」

「ですが実際にあちらの将軍であるウジクーツク伯爵中将が先に攻撃を仕掛けられたと言っておりますが」


 事実にしろそうでないにしろ、現場に行かなければ分からない状況だ。しかしケルンは猛反対。


「なりません。カレン様のみならず貴女様まで捕まってしまいます」


 だが状況は芳しくない。リンはとにかく現地の残存する味方兵士に応戦並びに反撃の中止と武装解除を下令。相手の出方を待つ。


 直ぐにも相手方が動く。賠償請求と領土権の請求だ。さらに関税の全撤廃と謝罪要求もだ。


「なりません。此方に非があるかどうか、公平に第三者を交えて話し合うべきです」


 だが相手方はカレンを人質として、且つ他国に非がアルビオニヒスにあるという真偽不明の声明を出す。これによりアーク連邦の大統領はアルビオニヒスとの会食を中止した。


「くぅ……なんてことなの。こんな大事なときに」


 ルナが拳を握り締めて悔やむ。リンも同感だ。一刻も早く解決しなければ彼女たちに未来はない。


「カレン様より通信が!」

 ダールクニヒス軍の通信回線から彼女の声が聴こえる。本人かどうか今は後回しだった。


「ごめんなさい、リン。殺されると思って……その、……あなたが攻撃を指示したと言ってしまったの」

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