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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第13話「過ち」

 冥界で働く少女マリーがある日、祖母のソマリーに頼み事を任される。近い内に大きな戦いが訪れるという。

 その頼みを仕事と両立して遂行するのだったのだが、訪れた邸宅に恐るべき魔物が潜んでいたのだった……。

「余を目覚めさせて頂き感謝するぞ小娘よ。腹が減った。喰わせろ、貴様を!」


 涎を垂らし彼女に飛び掛かる。咄嗟に負傷していた左手で庇うと噛み付かれた。


「くぅっ」


 動きが早く防御態勢が出来なかった。歯を食い縛ると左腕を上腕部から切断し距離を取る。


 左腕上腕部から赤黒い血が地面に滴る。


「はぁはぁ……マズイなぁ、死ぬかも」


 悪魔は彼女の左腕を骨も残さず食べると不満を漏らす。


「やはり生よりも焼いた方が美味である。燃えろ」


 口から炎を吐き出す。寸でのところで回避するが避けたその先に男がいた。抱き締めるように両腕を大きく広げて彼女を包む。


 だが横槍を受けて怯む。その隙にマリーは再び距離を取った。


「誰だ」

「それはこっちのセリフよ」

「なんて化け物だ。おっそろしい」


 別に動いていたテリトリー仲間のキャシーとユリウスだ。


「マリー、大丈夫!?」


 腕のない彼女を心配するキャシーにユリウスが怒りを露にする。


「女の子に手を出すなんてサイテーな男だな」

「余が男だといつから思っていた」

「な、なに……」


 ユリウスが怯んだ隙に彼は飛び掛かる。だがキャシーの槍が近付くよりも前に彼の心臓部に突き刺さる。


「やったか」

「いや、怨魂に届いていない」


 悪魔の怨魂は障壁によって護られ、刃先は届かず寧ろ欠けてしまっていた。


「余を誰だと思っているのだ。世界最強となる悪魔……あくま……名がない……」

「こいつ馬鹿なのか」

「ユリウス、ここは退きましょう」


 槍を引き抜きキャシーが言った。しかし男はそう好きにさせてはくれないようだ。


「逃がしてなんてくれないか。けど俺らに不可能はない!」


 キャシーは槍を投げる。男はほくそ笑み、

「余には効かぬ!」

 槍を炎で木っ端微塵に吹き飛ばした。その瞬間に弱々しくもマリーが転移魔法を唱え3人は立ち去った。


「ぬぅ……目眩ましのつもりだった、であるか。だが、キャシーにユリウスにマリー。名は覚えた。次は喰らってみせるぞ」



 悪魔との戦闘で左腕を失ったマリーは衰弱していた。魂燈が弱々しく灯る。


 ふたりは携帯糧食を分け与えて冥界へと戻った。治癒効果が期待出来る源泉掛け長しの温泉に丸一日浸かると彼女は失った左腕を取り戻し魂燈が輝く。


「ありがと。迷惑かけたね」

「全然よ。だけど……」

「あんなものを取り逃がしたんだ。冥界長がお怒りになるなぁ」


 その通りであった。既に耳に入っていたようで赴いた3人全員に叱責する。


「――マリーよ。貴様の落とし前、貴様が解決せよ。奴は悪魔ユリウスと名乗っているそうだ」

「ゆ、ユリウス!?」


 3人は驚いた。ユリウスが一番驚いている。


「なんでよりにもよって俺の名前なんだよ!」

「お前を食べたがってたからじゃないか」

「マリーが一番初めに……って女だからか?」

「静かにしろ。今は名前よりも今後の在り方だ。マリー、貴様が判断を誤るからだ。反省し任務に戻れ」



 彼らはテリトリーに戻り、そこでも怒られた。そして同僚からも陰口を言われて落ち込む中、何人かは味方に付いてくれた。


「あたしならマリーのようにひとりで解決してたわ」

「あまりフォローになってないけどありがと、カオル」

「俺もそうだぞ。まぁ俺なら一撃で」

「ブラッドリー、お前でも叶わない。テリトリー一のマリーが叶わないんじゃね」


 テリトリー一、その言葉は悪魔との戦いでもう過去の栄光だ。


「悩んでいても仕方がない。行動あるのみ。力を付けて倒すしかない!」


 それからというもの、悪魔ユリウスは力を付けるべく低級の死霊や魔物を食べ尽くす。アーク連邦のみならず世界各地へと渡り様々な魔物を取り込み知識や技能をも付けていった。


 そうして数年間、悪魔ユリウスは闇の世界で表舞台に出る準備をしているのだった。手下を作り、組織を軍団をも作り人間の世界へと入り込む。


 マリーらは情報が全く掴めず手詰まりだった。その間でも通常の仕事と頼まれ事をこなす。


「体、壊すぞ」

「何が?」


 テリトリーの食堂でひとりご飯を食べていたマリーにユリウスが食事を持ってやってきた。


「隣良いか?」

「ご自由に」

「よっこらせ」


 おじん臭いセリフを吐いて席に着く。食事はD定食のエスカルゴフライだ。


「で、何?」

「だからよ、悪魔探しに通常任務、頼まれ事だろ。命がいくつあっても……」

「気にしないで。私の仕事だから」


 気に掛けてくれているというのにそんなことを言われると益々気になる。


「少しは休暇を取れよ。少しくらいなら冥界長も許してくれるだろ」

「じゃあ代わりにあんたが取りな。私の分までゆっくり休みな」


 休暇申請書を彼のトレイに叩きつける。するとあろうことか皿がひっくり返りエスカルゴのフライがユリウスの顔面に直撃した他皿を割ってしまう。


「じゃあねん」


 手をヒラヒラ振って逃げるようにマリーは食堂を後にした。


 自室へ戻る途中でぶつぶつ文句を言っている。


「休暇なんて取ってる暇、ないっつうの。ユリウスはなんで危機感を持たないのよ。私が……わたしが」


 あの時の事を思い出すと対応を誤らなければと後悔の念が拭いきれない。あれからというもの悪魔を産み出した死神マリーとしてレッテルを貼られた。


 しかしその殆どはマリーがテリトリーで一、二を争う実力者だった頃、実力がまだ下層にいた低級の死神たちが罵るだけに過ぎなかった。マリーは気にしていない素振りを見せていても、彼女の友達からすれば耐え難い苦痛だ。


「はぁ、今日も成果はなし……か」


 自室に入ろうとした時だ。彼女に話し掛ける少女三人組が現れた。


「あんたたちは?」

「冥界府から来た椿(つばき)よ」

「同じく(ほたる)です」

山茶花(さざんか)


 死神識別番号“A-11921333”の椿。椿色の髪は短くポニーテールに。顔は幼く身長も152センチあたりか。人間的に見ると大体15歳くらいの女の子。胸は平ら。


 そして“A-19391945”の螢はジト目におかっぱ頭。幼く見える姿に座敷童子(ざしきわらし)のようだ。胸は平ら。


 最後に“C-33333333”の山茶花。白髪のショートヘアーでおっとりとした性格。胸はこの中で一番大きいがやはり平らに近い丘。


 3人合わせて死神三人衆と冥界府では呼ばれているそうだ。


 ともかくマリーは自室に3人を招いた。しかしながら狭い。4帖しかないから致し方ない。


「で、その死神三人衆が私に何か用?」

「単刀直入に言います。行き詰まりですね」

「そうなんですよね?」


 椿と螢が詰め寄る。山茶花はただただ見詰める。


「あー、これはアレか。冥界府から来たってことは冥界長からの言伝てを言いに来たんだな。まだ倒せないのか、このグズって」


 そんなことだろうと確信して頷くと彼女たちに言ってやる。


「そうだとも。何一つ進展がない。冥界長にそう伝えるがいい。私は何もできないグズなんだからってな」

「そこまでは冥界長も言ってないよー」


 山茶花が補足する。彼女は勘違いをしているのではないかと思い、説明した。


 冥界長は行き詰まった彼女たちを見兼ね、死神三人衆を送り手伝うように指示したという。自分で解決しろと言った手前、冥界長自らは手助けし難く思ったのか彼女らにあとを委ねたようだ。


「冥界長……」

「あの方は別にあなたを悪くは言ってないわ。ただあなたは他人から見ると孤高の存在。だからひとりで迷わないで誰かに相談も必要。そう言ってたわ」


 椿の冥界長からの言葉に勘違いをしていたことを恥じ、マリーは久々に頭を下げて協力をお願いする。


「でも……」

 螢が口を開く。


「私はあなたをテリトリー一とは思わない。私と戦って――」


 大きな鎌を取り出すと天井に突き刺さる。狭い部屋では当たり前である。


 螢は咳払いをしてから鎌を亜空間に仕舞い込むと、

「一応あなたをテリトリー一と認めておきます」

 埃がはらはらと舞い落ちる。椿は頭に被った埃を振り払い、山茶花は笑みを浮かべている。


「弁償はしてよね」

 至極当然のことだ。マリーは思った。


「三馬鹿トリオ……」



 星歴799年2月3日。ダールクニヒス帝国のハールン・ホルニッセ皇帝とアルビオニヒス皇国のツル・アサカゼは周辺諸国との首脳会議出席のため、セントラルライン帝国へ向かっていた。


 会議が始まる1時間前にそれは起こった。ツルが狙撃されたのだ。


 狙撃した犯人は逮捕された。しかしあろうことか強制送還されるのみで処罰は一切無かった。


 ツルは致命傷を負い、二日後に死亡した。彼女の魂はブラッドリーが冥界まで連れてくる予定となっていた。ところが彼は行方不明となりツルの魂もどこかへ行ってしまう。


 事情を知る由もリンやマリーらはこの先起こる事件に衝撃と絶望を味わうのだった。



 ツルが狙撃された直後、死神ブラッドリーは既に彼女の近くにいた。だが彼は見てしまった。狙撃犯に指示を出す悪魔ユリウスを。


 気付かれずに尾行すると悪魔はある人間の傍にいた。ダールクニヒス帝国皇帝、ハールン・ホルニッセだ。


 悪魔はハールンと共謀しアルビオニヒスを我が物にしようと企んでいたのだ。この機会を逃さずにブラッドリーは情報を冥界へ知らせようとその場から離れる直後にハールンの臣下、エーデルに見付かる。


 そしてそのまま悪魔ユリウスに取り込まれてしまった。それ故に情報は闇に葬られてしまったのだった。


 ブラッドリーが取り込まれ魂の道案内が出来ず行き場を失ったツルはある場所へ向かう。それは泣き疲れ、眠りに付くリンの元だ。


 彼女は優しく声を掛けると飛び起きるリン。嬉々として抱き付くがすり抜けてしまう。夢だと思ったリンは覚めないでと願った。


「私はもう戻れない。けれど、あなたが皆を未来に導くのです。リン、あなたが」


 何故自分なのか、何故姉のカレンではないのか訊く彼女に対してツルは話す。


「あなたは皆を導く強い意志と優しい心を持っています。私の自慢の娘です。ごめんなさい、あとは任せます。今まで私を支えてくれてありがとう。さようなら」


 身体が薄くなるとそのまま何もなかったかの如く消えていなくなる。その瞬間にリンは布団から飛び起きた。


「ゆ、夢……っ」

 何故だろうか。夢であったはずなのに、そこに母親がいてその温もりがあるかのよう。


「お母様、私、出来るところまで頑張ります!」


 それからというもの、アルビオニヒスではツルの国葬が執り行われた。それと同時に新天皇を決める選挙が行われるのだが、アサカゼ家以外の天皇四大家がそれを辞退する。


 さらに異例中の異例としてツルの残りの任期を彼女の後継人が受け継ぐ形となった。そして全会一致でリンが選ばれた。


 これは生前四大家のみならず女官らにも言っていたようだ。カレンは不服だったようだがリンは自分が選ばれたことは運命と感じて、母親の言葉を忘れずに一歩前へ歩き出すのだった。


 だが、これは大いなる災厄の序章に過ぎない。これからアルビオニヒスは暗雲立ち込める未来へと突き進むのだった……。

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