第11話「約束」
星歴796年2月3日、シーナ、ポリカフポフ、マーベラス、リー、そしてアサカゼの五つの家系からひとりがアルビオニヒス皇国の天皇になる選挙が行われた。しかしダールクニヒス帝国との国交が悪化し、外交を得意とするアサカゼ家のツルが天皇となるよう政府が取り繕う。
四大家は彼女が次期天皇となることを知っているが国民は何も知らない。
そんな最中、ダールクニヒス帝国が暗殺部隊を投入。指揮を務めるエルンストは帝国の皇帝ハールンの弟だ。
彼はスパイからの情報により天皇選挙が不正に仕組まれたものであると知る。
彼らは暗殺を保留にしつつツルの長女、歌恋を人質にした。
今、彼らの外交が始まるのだった……。
カレンが母親のツルを罵り、走り去った先には暗殺者たちの中でも人を殺すには何の躊躇いもない人物、ビリー・ボビー。狙撃が得意であるが接近戦もお手の物だ。
「カレンを離しなさい! 私が次期天皇のツル・アサカゼよ」
「ツル様!」
護衛の侍女らの制止を振り切り彼女は先頭に立ち人質交換を求める。
「おぉ、お前さんが天皇ちゃんか」
「知ってたぜ」
侍女らの背後に忍び寄る暗殺者、サルデス・ソルデス。身長160センチ、体重150キログラムという巨漢ながらも忍び足で敵を圧殺する力を持つ。
脂がぎたぎたで体臭が酷く不愉快という矛盾が生じるがその臭いの元を発見した時には対象者の命は無いものだろう。
「流石の傭兵も俺たちの前では手も足もでないのな」
脂滴るサルデスにカーサスが反応する。
「そうだな。汚物には触りたくないし近付きたくもないからな」
「おい……」
余計なことを口にして彼の腹にサルデス脂ぎたぎたパンチがお見舞いしたことは言うまでもない。
「けはっ……悪臭がすげぇぜ。お前、死人か?」
今度は頭部を両手で掴み圧を掛ける。このままではスクランブルエッグになってしまう。
「ぐうぉぉぉわ……」
痛みで呻き声を出す。目の前で殺されそうになる人を見てカレンは喚く。
「あっ、空に!」
気の抜けた声でヴィクトリアは空を指差す。見えるのは夜空と煌めく無数の星々だけだ。
敵味方全員がその指差す方向を見ている時だ。ヴィクトリアが敵の懐に入り込み腹部を殴り5メートルほど吹き飛ばす。風属性の魔法を使った合わせ技だ。
その間に侍女らが命に代えてもという信念で敵に突撃。カレンを救出して直ぐ様ツルの元へ向かう。
「好機到来!」
一瞬の隙を突き、緩くなったサルデスの両手から頭を抜くカーサスが次に取った行動はベルトの内側に隠していたナイフを手に取る。
そのまま刃先を彼の顎に一直線……とは行かず、白羽取りの状態で防がれた。
「甘いな。俺様はこんなもんじゃやられねぇぜ!」
ぽきりとナイフを真っ二つに折るとカーサスを震え上がらせ、突進する。巨大な体躯が壁のように迫ってくる。
「圧死なんてあっしは勘弁だぞ」
悠長に駄洒落を口にし敵味方を呆れさせる。その上敵だけでなく、味方からの聞くに堪えない罵声に涙目のカーサス。
「そこまで言わなくったって……」
「おめえ、駄洒落のセンスねぇな」
サルデスに言われ頭に来た彼はご自慢の拳銃を手に発砲。だが、肉をだるるんと波打つ様に弾ませ華麗に避ける。
「クソ、動けるデブめ」
「なんとでも言え!」
おまけに悪臭漂う発汗に鼻がもげてしまいそうだ。
「加勢いるか?」
隣で戦うワトソンはどことなく余裕綽々だ。彼ら三人に対しても余裕を見せる敵もなかなかの腕だ。
「いたぞ!」
「ヴィクトリアを捕まえ……奴らの仲間だ! 捕らえろ!」
タイラら近衛兵の到着だ。彼らは敵すらもヴィクトリアの仲間だと勘違いしている。
「うぉぉぉ!」
「ちょちょ、待って」
「なんだ貴様ら!」
三つ巴の戦いに紛れひとりの人影がツルに近付いた。ウヌフィノンノヒスのエーデルだ。
「やめなさい」
「静かに」
背後から首を腕で軽く絞め大声を出さぬよう忠告する。あまりにも静かな行動で三つ巴戦に注視する侍女らとヴィクトリアは気付いていない。
「――とは言うものの、御命頂戴します」
短剣を取り出すと彼女の胸元に突き立てゆっくり心臓目掛けて突き刺す。剣先が衣服に刺さる寸でのところで突然、ふたりは真横に吹き飛ばされた。短剣は床を滑り乱戦の中に飛び込み何処かへ消えてしまう。
「くっ……」
「ツル様は死なせません」
「コトネさん」
彼女はアサカゼ家専属の侍女、コトネ・カツラギ(葛城琴音)。五大家には必ず専属の侍女がいる。無論それ以外の侍女もいるが今、三つ巴戦に夢中だ。
「ヴィクトリア様、此方です!」
挙手にて敵の位置を知らせる。気付いた彼女はツルの元へ向かいエーデルと対峙する。
「貴様が救世主か」
「通りすがりの旅人さ」
「今回は失敗のようだ。しかしいつか彼女の命、頂戴するぞ」
彼は仲間であろう敵を置いて消え去った。ヴィクトリアは小さく、
「あの雑魚より格上の相手だったな……」
そう呟きツルは静かに頷いた。しかしこれで終わった訳ではない。雑魚の片付けが残っている。
「ちょちょいのちょいで片付けるから」
彼女は詠唱を始めると電光石火の如く彼らの腹に一撃を食らわせる。さらに足払いをするとすかさずカーサスとワトソンがのし掛かったり銃を頭に突き付け降伏を促す。
その状態からタイラら近衛隊がヴィクトリアたちも含め取り囲もうとした時、ツルが彼らに敵を直ちに捕縛するよう命じた。無論その中にヴィクトリアとカーサス、ワトソンは含まれていない。
「くそぅ」
「エーデルはどこへ……」
「エルンスト様もバートラム様もおらんぞ……」
ビリー・ボビー、サルデス・ソルデス、カイ・ワーレの3人は天皇家暗殺未遂の罪で拘束された。
主犯のエルンスト・ホルニッセと息子バートラム・、ダールクニヒス皇帝ハーデス・ホルニッセの僕エーデルは逃げ仰せる。
3人の罪人は裁判に掛けられることなく死刑が宣告される。天皇家に仇為す者、それを一切許さず。
彼らは奈落の底へと通ずるとされるラーックナーコソーノから叩き落とされる刑となった。身体中を頑丈な縄で縛られ、翼を羽ばたかせられないようにして落とされる。
普通の人間の様に何も出来ず、祈ることよりも暗闇の世界でいつ地面へ衝突して死ぬ恐怖の方が先に来る。そんな最期を遂げるアルビオニヒスの死刑は国家の創建からある由緒正しき刑罰なのだ。
しかし、彼らを移送中に何者かにより襲撃され3人は脱走してしまう。その後も情報がなく結局、操作は打ちきりで後味の悪いものとなってしまった。
国民には違法行為の事実を発表するも国家指導者はツルであったため再選挙にはならず、新たな天皇陛下となったのだった。
○
ツルが天皇となり早一月、アルビオニヒスはダールクニヒスと国交を回復させた上に不可侵条約を締結させる中、ヴィクトリアらは旅発つことを決意。リンは猛反発する最中ツルが優しく話す。
「いつまでも頼っていてはダメ。ひとりで歩まなきゃ。でも、もしも立ち止まることがあったら……その時は助けてほしいかな」
彼女の言葉にヴィクトリアは快く応える。
「もちろんだとも。リンもお母さんの言うことを聞いて護れる立場や支える立場になるようにね」
リンは涙を堪えて何か言いたげだ。優しく撫でるヴィクトリアの横ではカーサスが笑っている。
「リンには無理だろうな、天皇には。ガサツだし、よく人をぶつし」
「むぅ」
今にも飛び掛かりそうな彼女に彼は冷や汗を出す傍らワトソンは、
「――でもカーサスより聞き分けは良くて礼儀正しく、何より自分勝手じゃないと思うよ」
やや貶している部分があるような気がした。しかしリンは未だ黙ってヴィクトリアの方を見ている。
「リン……」
「嘘つき……」
「えっ?」
「一緒に、いつまでも一緒にいてくれるって行ったじゃん」
前に約束した、
「私が旅立つ時までいてくれる……そう行ったじゃん。ヴィクトリアの大嘘つき!」
そのことで実は怒っていたようである。嘘つきだと言い放つと彼女は人混みをかき分けどこかへ行ってしまった。
責任を感じたヴィクトリアはツルに謝り後を追い掛ける。だがいつの間にか見失ってしまった。暫く歩いているとカレンが険しい表情で彼女を見付けては近付いていく。
「あなた、リンの気持ちを踏みにじるの?」
「えっ……」
「リンはね、あなたのおかげで前に進めたのよ。あなたの約束で」
確かにその通りかもしれない。でも、
「話はリンとしたい」
彼女はわかってもらいたく直接話がしたいと告げる。
「先ず私と話し合いよ」
「悪いけど、ボクはリンと話がしたいんだ」
自分より小さな少女を押し退けて先へ進む。するとカレンはヴィクトリアの腕を掴み、背負い投げの体勢に入る。一瞬の出来事だったがまるで詠んでいたかの如く、彼女は阻止した。
「アルビオニヒス式近衛防御術だね」
「詠まれていたなんて」
カレンは肩を落として落ち込んでいる。
「ボクは先を急ぐから」
「リンは自分の部屋よ」
「ありがとう」
ヴィクトリアは彼女の待つ部屋へ向かう。
○
「リン、入るよ」
一声、申し訳なさそうに掛け襖を開ける。室内には誰もいないように見える。
目前の机の下か右側の箪笥の中、はたまた左側の押入れの中に隠れているのだろうか。彼女は部屋に足を踏み入れた直後、背後に気配を感じ振り向き様に側転。その際に短剣を取り出した。
人影は黒い柄のような物体を翳し近付いていた。短剣で物体をはね除けると人影が飛び込んできた。捨て身の頭突きだ。
「ふぐ!」
ヴィクトリアの腹にクリーンヒット。腹を押さえてよろけるとその人影が誰なのか分かった。
「リ、リン……」
「私の痛み、思い知ったか! まだまだこれだけじゃないよ!」
次に繰り出したのは、ハリセンだ。これで思い切り彼女の頭を叩くのだろうか。
「うぐぅ、やーらーれたー。好きにして良いよ」
「むっ」
わざとらしくやられたフリをしたためか余計に腹を立てたようで再び頭突きを食らわせる。しかし抱き合う形で阻止された。
「リン、約束を破る形になってしまってごめん……」
「っ……信じてたのに」
「でもまた来るから。きっと来るよ」
「ずっとじゃなきゃ、いや」
「リン、ボクが帰ってくるまでツル……お母さんを護るんだ。そして勉強をしてお母さんみたいな人になるんだよ」
彼女には是非とも天皇となり皆を導いて欲しかった。リンならば出来ると信じている。
「でも私は、やっぱりまだいてほしい」
「わがまま言わない!」
背後から突然上がる声にふたりは驚いた。カレンが立っていたのだ。盗み聞きをしていたのだろうか。
「リン、あなたは前に進まなければならない。アルビオニヒスの将来を担う天皇家一族のひとりなんだから。私だってそう。だから頑張りましょ」
姉の励まし、ヴィクトリアの後押しでリンは前に一歩前進する。
3人はツルたちのいる場所へ戻る。話し合いは終わった。ヴィクトリアらは旅立ち、リンはツルを支えるべく勉強や鍛練の日々を送る。
リンは毎日ヴィクトリアのことを思い、いつかまた逢える日を楽しみに待っている。
○
「なぁヴィクトリア」
ラーックナーコソーノに掛かる橋上でカーサスが訊ねる。
「なんだい?」
「また、アルビオニヒスに来るのか?」
「さぁね」
カーサスとワトソンは顔を見合せ歩いてきた道を振り返る。
ヴィクトリアはもう戻らないのか。リンやツルとは二度と逢うつもりはないのか。彼女に掛けた、あの言葉は嘘だったのか。
それは神のみぞ知ることだろう。
皆様お久しぶりです。遂に1話だけ書き上げましたので投稿いたしました。前回の投稿から約半年......。光陰矢の如しとはこういうことを言うのですね。
現段階では趣味と妄想に耽っております故、次の投稿もいつになるかわかりません。申し訳ありませんが、お待ちいただけるようお願い申し上げます。
最近の悩み、歯痛。




