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The ARK  作者: にゃらふぃ
第3章 可憐の英雄
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第3話「奈落の底(ラーックナーコソーノ)」

 西暦789年10月11日12時13分14秒15、ヴィクトリアとカーサス、ワトソンはギャランド独立共和国を出発し一路、アルビオニヒス皇国へと向か道中、巨大な翼龍“クロウドラゴン”が現れた。

 ドラゴンは首都を目指していたが、彼らは阻止すべく追いかける。首都へと続く坂道を越えるとそこには首都を目前にして翼を持った人々がドラゴンを囲み対峙していた。

 奴を撃破するために結成された討伐隊だ。しかし彼らはまだ前衛隊で主力本隊が到着するまでの間、引き付けることだった。

 そこにヴィクトリアら一行が合流、手助けをし、彼女が考案した方法で討伐することに。それは実に簡単な発想だが、実行するまで極めて無ずかしことだ。

 それはドラゴンに縄を括り付け末端の岩をラーックナーコソーノへ落とし、その反動で奴をも退治しようとするものだ。だが実行直前、指揮官であるバジルが奴の牙によって翼を食い千切られ、さらには岩へ叩き付けられた。

 果たしてバジルと3人の運命はいかに……。

「隊長!」

「バジル!」

「バジルさん!?」


 突然の悲劇に皆は(わなな)く。だがその状況下でも彼を見殺しにしなければならない。それほど重要な局面を迎えていた。


「隊長を!」


 助けにいこうとする男たちを抑えドラゴンの討伐を優先させるが彼らからは暴言が飛び出す。


「あんたからにしちゃ赤の他人でどうでも良いかもしれないが、俺たちにとっちゃ欠けがえのない英雄なんだ」

「そうだ、そうだ」

「関係のない女は引っ込んでろ!」


 そうこうしている内にも敵は今にも縄を噛み千切ろうと暴れまわる。


「隊長殿!」


 ひとり、またひとりと男たちは彼の傍に駆け寄って行く。残るは5、6人だ。しかし彼らは助けに向かった男共とは違い感情を抑えてヴィクトリアの思いに応えていた。


「僕らは貴方に従います」

「ご指示を」


 ありがたいことだが非常に心許なかった。これだけの数なら……と、


「気持ちは嬉しい。でもこの戦力下だと逆に厳しい。だから貴方たちはバジルさんを守って」


 彼らは落胆した。少しでも彼女の役に立とうとしたからだ。しかし(かえ)って逆の態度に彼らは去る。


「ごめんね。今は貴方たちを守るほどの余裕がないから」


 バジルの元へ向かう男たちに小さく声を掛けた。


 彼らを見届け視線を奴に向ける。丁度縄を噛み千切ったところだ。


「振り出しに戻ったか」


 神風を収めると身構えた。奴の視線が彼女に向いたのだ。


 大きく翼を羽ばたかすクロウドラゴンは雄叫びを上げると真っ直ぐ彼女に向かって喰らい付く。間合いに入った彼女は奴の牙を交わして懐に飛び込む。


『ベヌトォーノ』


 腹部がぴかりと光り小さな爆発音がする。奴は思い切り腹を殴られた錯覚に陥り狼狽える。


「食らえ!」


 内ポケットに携帯していた短剣を手に取り気合いを入れて振り(かざ)し奴の皮膚を切り裂いた。


 ドラゴンは痛みでじたばたと暴れるも怒りの方が勝り彼女を捕まえるため躍起になっていた。しかしそうは行かぬ状況で遂にヴィクトリアが勝負に出た。


「縄を生成して、奴に引っ掛ける!」


 低空を飛行している間に蔓から縄を生成していった。長めに作っておき、簡単に千切れないようするためだ。


「でやぁ!」


 風に縄を任せて再びドラゴンの身体に巻き付ける。しかし完全に巻き付く前に一手を彼女に浴びせた。


「ぐっ!?」


 不意討ちだ。巨大な奴の尻尾がヴィクトリアの背中を直撃する。


「息が……」


 強打された彼女は数秒の間、呼吸困難に陥る。さらに縄が巻かれた状態であったにも拘わらず、奴は彼女目掛けて突進し頭突きを繰り出した。


 頑丈な皮膚に覆われたクロウドラゴンの頭突きは彼女に致命傷を負わせていた。幾つかの内臓が破裂し、内出血を引き起こしていた。


「くっ……」


 出血によりダメージを負っていない肺や心臓に圧がかかる。また呼吸困難にも陥っていたため命に係わる重傷だ。


「こんなところでやられるわけには……」


 短剣を抜き自らの腹部に刃を突き立てた。そして腹部を引き裂く。鮮血が迸り激しい痛みが彼女を襲う。


「でも……少し楽になった」


 満身創痍の身体で彼女はクロウドラゴンを睨み付けた。奴は感じたことのない恐怖に戦いた。


「堪忍しろ」


 ヴィクトリアは縄の先端に幾つもの岩を結びつけるとラーックナーコソーノへ叩き落とした。


 最初の内は足掻くように必死に翼を羽ばたかせては崖から這い出そうとしていたがヴィクトリアの追撃に奴の羽根は引きちぎれ揚力を失ってまっ逆さまに奈落の底へ落ちていった。この世のものとは思えない断末魔を上げ……。



 アルビオニヒス皇国の主力本隊が到着した頃、平原で横たわる死傷者の数々を目の当たりにした指揮官のソイは絶句する。


「生き残りはこれだけか……」


 だが肝心のクロウドラゴンの姿が見当たらない。一体どこへ。


「奴を探し出せ」

「その前に救助です」


 緑十字の印が描かれた腕章を身に付けた男たちがソイの傍らを飛び出す。


 地上に降り立つと負傷者を保護し、死亡者には専用の布で頭部を覆う。


「早く……行ってくだ……」


 咳き込み、今にも意識を失いそうな男が衛生兵の腕を掴んで何かを求めている。


「早く……クロウドラゴンは、ラー……ナーソーノニー」


 意識を失う男。しかし駆け付けたソイが最後まで聞き、奴がラーックナーコソーノにいることを知る。


「衛生兵は負傷者を手当てし、第2部隊はその援護。後は私に着いてこい!」


 翼を広げ大空に突進。そして進路を北のラーックナーコソーノへ、部隊を引き連れて猛進する。


「高空を飛びましても奴の姿は発見できません。“気”すら感じませんよ」


 彼らの頭上より高く飛行していた偵察部隊長ジャリングからの報告だ。


 もしや去ってしまったのでは、そう脳裏に過るソイ。もしもそうだとすれば、国民や陛下に何と申し上げれば良いのだろうか、また皆に顔向け出来ない、そんなことばかりを考えていた。


「せめて奴の首……いや、尻尾でも爪でも良い。何かを持って帰らなければ」


 そしてある人のことが頭に浮かぶ。


「バジル……兄さん」


 ソイは彼の弟だった。


 先の惨状を目の当たりにしたのだ。兄ももしかすれば無事では済んでいないかもしれない。ただ生きていては欲しい。そう願っていると、


「あそこの岩肌に密集している塊があります!」


 少し先を飛ぶ隊員が指を差して叫ぶ。滞空し、視線を向けるとソイの目の色が変わる。


「兄さん!?」


 遠くからでもわかった。横たわる人物が兄であると。


「サウセー将軍!」


 彼の元に駆け付けようとするソイに隊員らが動揺する。急ぎ後を追いかけ彼らも事を知る。


「ソイさん!」


 飛んでやってきた彼に対してダルクが声を掛けた。シュナイターもその場にあり、本隊が到着したことをバジルのそばにいた青年に伝える。


「き、貴様……何者だ」


 兄の手当てをしている人物には翼やこの国の服装を来ていない、つまりは部外者だ。


「俺はカーサスだ」


 無論説明するまでもない。彼は応急処理を続ける。


「こいつは何者なんだ」

「カーサスさんは旅人です。彼の他にもワトソンさんとヴィクトリアさんがいらっしゃいます」


 その残りのふたりはどこにいるか訊ねるとワトソンは負傷者の手当てを、ヴィクトリアはどこにいってしまったか分からないことが分かった。


「本当はこんな奴を手当てするよりヴィクトリアを探しに行きたいんだ」


 ぶつぶつ文句を垂れ流すカーサスにソイは反論したかったが手を休めることなく彼の手当てを続けていたため、何も言わなかった。


 カーサスは心の中でヴィクトリアの無事を祈る。


 暫くして手当てを終えるとバジルは目を覚ました。ソイがいることに気が付くと主力本隊が到着したことを悟る。


 しかしヴィクトリアの姿が見えないことを訊ねるとカーサスが立ち上がり、


「あんたのせいであいつを探す時間が少なくなった」


 トゲのある言い方で医療品を鞄に仕舞い込む。ソイが苛立ちを見せる。


「すまなかった……」

「謝って済む問題じゃない。万が一にもこれでヴィクトリアが死んだら、あんたら責任がとれんのか? あぁ!」


 声を荒らげる彼にソイが思わず声を上げようとしたときだ。


「そんな興奮するなよ」


 声のした方を振り向くと額から血を流し、ボロボロになったヴィクトリアの姿があった。


「ヴィクトリア!!!」


 慌てて駆け寄ると彼女はカーサスの腕の中に倒れる。その際、純白な翼と尾は粒子となって消えてしまった。


「しっかりしろ!」

「しっかりしてるよ。ちょっと疲れただけ」

「血がこんなに……」


 衣服や腕、爪などに血痕が付着している。特に胸から腹にかけては真っ赤に染まっていた。


「やられたんじゃ」


 彼は腹部に手を当てる。しかし触った感じでは何も無い。彼女が言うには、既に治癒を済ませたとのこと。


「でもよ、頭にはまだ血が」

「疲れて魔力が低下しただけだよ」

「頭の方が大事なんじゃねぇか?」


 頭より腹部と胸部の傷が致命傷だったらしく最優先で治したようだ。額の傷は切り傷で内部には然程影響が無いと言うが、周囲からは痛々しく見えることからカーサスの応急処置を受ける。


「やられちまったって心配したぜ」

「1、2回は死んだかもね」


 笑みを溢す彼女だが、無論笑い声ではない。しかしこうして生きて戻ってきてくれたことでカーサスは一安心する。


「キミ……あ、いや貴方がドラゴンを?」

「えぇとこちらの方は?」


 カーサスも訊きたかった。この偉そうに振る舞う男のことを。


「私はソイ・サウセー。アルビオニヒス皇国軍大佐だ」

「そして俺の弟だわい」


 バジルがガハハと笑う。似ていない兄弟だ。そう思うカーサス。


「あ、そうだ」


 ヴィクトリアが思い出したように腰に手を当てる。だが何度も手を回していると顔色が悪くなっていく。


「あ、あれ……。腰巾着が無い」

「なんか入ってたのか?」

「ドラゴンの牙が入ってたんだけど」


 しかし何も無い。落としてしまったのだろうか。ただただ落胆する彼女にバジルが声を掛けた。


「嬢ちゃんのその思いだけでええ。俺たちの為に旅人が必死になって戦った。それだけで十二分だわい」

「そうですね」


 ソイも賛成する。特にヴィクトリアを見てそう感じた。


「でも本当に倒したのか、この目で見たいものです」


 それはバジルも同じだ。証拠もないのに討伐したと報告しては軍の威信が問われ責任問題に発展する場合がある。


「じゃあ待ってて下さい」


 よたよた立ち上がるヴィクトリアにカーサスが拒む。


「今行ったら死ぬかもしれんぞ」

「ちょっと底まで行ってくるだけだよ」

「それが危険が危ないんだって」

「意味被ってるよ」


 とにかく危険だと知ってほしく彼は必死に止めたが無駄だった。そこに治療から帰ってきたワトソンも合流しヴィクトリアはある提案を打ち出す。


「じゃあこうしよう。付き添いでふたりも来ること」

「なんの話です?」


 ワトソンは理解できていない。だがカーサスはその条件ならば良しと考えて賛成する。


「んじゃソイさん、行ってきます」


 大きく広げられた翼が突然目前に現れる。そして彼女はふたりを鷲掴み、羽ばたき地から離れる。


「うわわ」


 カーサスは久々に生身で空を飛ぶ。さらに急に吐き気を催す。


 彼は飛行機など密閉されている物体であれば問題ないが、剥き出しの飛行機やパラシュートなどは苦手だった。高所恐怖症なのだ。


「ラーックナーコソーノへ入るよ」


 真っ暗な底へダイブする3人。ワトソンは興味津々だったがカーサスは失神寸前だ。


「ど、どどど……どこまで落ちるんだぁ!?」

「ちょっと(ソコ)まで」


 駄洒落を言っている場合ではないようだが言い出しっぺの彼は既に昇天してしまった。


「底に着いたら起こしてあげましょう」

「そうだね。……あーあ、いつになったらカーサスの高所恐怖症は治るんだか」

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