第24話「裏切られた教団」
遂にヴィクトリアとワトソン、カーサスはクロガミの右腕、クロノスキーと対峙することとなった。しかし彼の計算された策略により教団本部とヴィクトリアは致命傷を負った。
彼女は自分が戦闘不能に陥る前、カーサスとワトソンのふたりに協力して最後の敵であるクロガミを撃退すること頼む。そして転移魔法で首都サウザンドへ彼らを送り込んだ。
今、ヴィクトリアは絶命しようとしていた。だがそんな中に彼女を救けようとする者がいたのだった……。
草木が囀ずり、遠くの風切り音、そして大きな爆発音で目を覚ますヴィクトリア。彼女は野砲隊による砲撃で吹き飛ばされ木の幹に激突した。
もうダメか、そう思っていた矢先にある声が聴こえた。聞き覚えのある声だ。
「ビャ……ビャクか」
目の前にいる銀色の毛に覆われた巨大な狼はこの山々を支配する靈獣だ。彼とは一寸した付き合いがある。
「派手にやったな」
「そ……ね」
言い返す余裕はない。既に体内の血液を3分の1以上も失っているのだ。意識は混沌とし考える力も僅かしかない。
「儂が来て良かったぞい」
「意外だった。でもあっちは……」
ホワイトやハーヴィたちのことを心配するあたり彼女は自らのことよりも仲間を思う気持ちが大きいと、彼は再度認識する。それを胸に、
「今から儂の力を全て注ぎ、お主を助ける」
命を顧みず全てはこの星の神と自然の摂理にと言わんばかりの気持ちを伝える。
「だ、ダメ。力を使ったら貴方は……」
「良いのだ。儂は最期にお主のために尽くしたいのだ」
彼の力の源である妖力とこの地に存在する自然の魔法力を使った時、彼女の傷が癒える反面、靈獣の能力は失われる。つまりビャクはこの世から完全に消え去ってしまうのだ。
「絶対にダメ。貴方はこの森に必要。これからのサザンクロスに……ゲホッ」
吐血だ。無理もない。腹部は抉られ息をするのも痛みを堪えなければならないのだから。
「ヴィクトリア殿、お主が奴を止めるのです。奴を止められるのは貴女だけなんですよ」
その時だ、大きく地面が振動し始めた。それだけではない。鳥や虫が一斉に木々から飛び出した。
さらに何やら聞き慣れぬ鈍い音までもが混ざっている。
「っ……ここは死火山。だが天然のガスの下には山脈一帯のマグマ溜まりが存在する」
「つまり……空となった爆発の影響でマグマが一気に地上を求めて」
噴出する。即ち噴火だ。
教団本部のあった山の頂上は巨大な黒煙に包まれ、さらに凄まじい轟音と共に火砕流が地上へ落下する。
さらにクロス山脈全体で同様の現象が起きていた。元々ここは火山帯だったらしく地下深くに眠っていたマグマがクロノスキーによって天然ガスを爆発させたの影響で噴火に繋がったのだ。
最早地上と上空は地獄絵図だった。クロス山脈の対面の山々にいたエドウィンの部隊は危機に晒されている。
「大将、逃げましょう」
「んなことは分かってる」
「全軍、装備を放棄しても構わん。直ちに退避せよ!」
しかし噴石が飛散し中には巨大なものまでもが襲い掛かり付近の弾薬箱に引火する。至るところで爆発が起こり阿鼻叫喚だ。
「クソ、クロガミの奴……こんなんになるなんて言ってなかったぞ」
ここで奴の思惑に気付き後悔するエドウィン。
「奴め、俺を口封じする気か……。野郎、ぶっ殺してや――」
彼の言葉はここで終わった。巨大な噴石が彼と部下を巻き込み、さらに弾薬が吹き飛んだからである。
「大将ーっ!」
「エドウィン大将がやられた」
絶望する砲兵は死を覚悟し、また神に祈るのだった。
野砲部隊が壊滅的な被害を受ける一方、爆撃隊も同様な損害を被っていた。司令であったオットーは噴火の際に、いち早く散開命令を出していたが間に合わず結果的に自身と多数の機体を失った。
「指揮官機が墜落しました」
「アサギ中尉……」
オットー大佐を失い途方に暮れる僚機のひとつにアサギ機がいた。だが元々反発意識のあった彼は開き直り、
「これで我々は自由に作戦を遂行出来る」
と搭乗員を鼓舞させる。彼の性格を知る部下は喜び次なる指令を待った。
「中尉、これからどうするんです」
爆撃手のカテコライズ上等兵が訊ねる。返ってきた言葉は良く聞くものだった。
「全員で帰投する」
だがそれは俗に言うフラグというものだ。直後に噴石が右エンジンを直撃し、また胴体にも無数の穴を開けたのだった。
機体は急降下を始める。
「くそっ」
「誰か、誰でも良い……」
「神様、助けて」
祈られても致命傷を負ったアークファミリアのヴィクトリアは手も足もでない状況だ。
野砲隊の場所よりも危険な位置にあった彼女らは噴石や火山灰など飛散で決断を迫られていた。
「ヴィクトリア殿、考えはもう決まっておられるよのう」
「でも……貴方が、消えてしまう」
「大丈夫、儂は消えぬ。最初からやり直すだけだ」
溶岩流も見える中で彼女は遂に決断する。
「力を下さい。皆を護るために」
「英断だ。あとは頼むぞ」
ビャクは目を閉じる。そして体毛から白い妖気を放ちヴィクトリアの身体を覆う。彼の最期だ。
みるみる内に傷が再生していく。血液も彼のものが体内へと循環し、心臓が力強く脈打ち始める。その心拍数は1分間に85回だ。
「ビャク、ありがとう」
「クゥン?」
そこに今までの彼の姿はない。人語を理解し話す、銀毛に覆われし巨体な狼。今や白色に覆われた小さな狼の子がこちらを窺っていた。
「今度はボクが貴方を助ける番だ」
彼女は呟き狼の子を自分の服、それも胸元に仕舞い込む。深呼吸をして噴火元を見上げる。
すると突然噴煙を切り裂き巨大な飛行機が彼女目掛けて迫ってきた。アサギ機の爆撃機だ。
機体は急降下をしつつ彼女の目前まで近づいたときだった。機首がふわりと浮き上がりヴィクトリアを巻き込んでの墜落は免れたのだが、彼女はそれが故意だと気付く。
墜落寸前の僅か数秒前に彼女とアサギの目が一瞬だけ合ったのである。そして彼はぶつかるまいと操縦桿を引いて難を逃れたのだ。
「あの人、ボクにぶつからないよう……」
彼女の背中から純白の翼と尾が羽毛を舞い上げながら広がる。それから勢い良く地面を蹴ると大空を飛び始めた。
「いた」
今にも墜落しそうな爆撃機が黒煙を吹いてよたよたと飛行している。操縦士の腕が良いのか失速には至っていない。
彼女はコックピットへ近付き様子を伺う。必死に操縦する機長と副操縦士、機体の状態などをサポートする機関士の姿が見られた。
「あの鳥……いや人間か!?」
いち早く存在に気が付いたのはカテコライズ上等兵だ。彼は機長に伝えると僅かの間だけ振り向いた。操縦を怠るといつ墜落しても可笑しくはないからだ。
その僅かの時間の間で双方はコンタクトを取った。それは、
「無事か」
というハンドサインと、
「無理だ」
という首を横に振るサインの小さな会話だ。ヴィクトリアは機体に近付き損害箇所を見て回る。
彼女があちらこちらへ移動する度に小さな気流が生じ機体が揺れ、不安定になるも機長の腕前は並々ならぬものだった。そして彼女は機体の修復と強化を施すと軽快に飛び始めた。
「大丈夫?」
「なんとかな」
その会話にカテコライズが無線機を見せる。そして彼女は機体後部のドアへ近付くと青年から無線機を貰い受けた。その際に彼は感謝を述べさらに、
「天使と握手が出来て光栄です」
と顔を赤くしながらも会話する。ヴィクトリアも勇敢に任務を遂行しようと努力する彼らに称賛の言葉を送った。
ふたりは再び離れる。そして無線のスイッチを入れ周波数を合わせる。
「聞こえるかエンジェル・ワン」
「え、エンジェル・ワン?」
「そうだ。君は俺たちのエンジェルだ」
恥ずかしい気持ちになりつつ双方は現況と情報を交換し合う。
「つまり、君はホワイト首相直属の突入部隊で仲間と共に教団内部で戦い、クロノスキーがこの惨事の元凶というわけか」
「奴め……」
副操縦士のオエア准尉が呟いているのを聞き、とにかく急いで首都へ向かおうと伝える。
「俺たちもかい?」
「爆弾は残ってるんだよね?」
「あぁ」
彼女は青年と話している間に中の様子を伺った際に500キログラムの爆弾が縣架されていることに気付いていた。それから爆撃の腕に自信はあるのかを訊ねる。
「あります!!!」
威勢良く声を上げるのは青年カテコライズだ。彼は爆撃手だ。爆撃の全ては彼の腕に懸かっている。
「こいつに任せておけば万事解決だ」
アサギのお墨付きだ。オエアも同様の意見だった。
「分かりました。カテコライズさん、お願いしますね。それでは今から説明します」
内容は首都を襲撃している敵部隊へのピンポイント爆撃だ。それも誤差1メートル未満とチャンスは一度だけを要求。
「やってやります!!!」
意気込むところをアサギは補足した。
「こいつの腕は確かだが、全目標を叩けないのだろう」
「えぇ、恐らく爆弾が足りないでしょう。なので重要エリアのみの爆撃を行います」
しかしアサギはそれを拒否した。ここにて反抗するのかと思いきや、風切り音が右や左から聴こえてくる。
「聞いたか野郎共。各自、エンジェル・ワンの指示に従い爆撃任務を遂行せよ!」
雲間から現れたのはアサギ隊傘下の爆撃機、述べ8機だ。無線は既に彼らへと伝えられており、任務内容と目的も把握済みである。
「オットー大佐にゃ悪いが空軍の真の力を見せるときだ」
アサギの列機、フランが意気込んでいる。他の僚機もそうだった。
彼女が先導し雲間を飛行するがその内の数機がエンジントラブルを訴え、その都度修復を施すも噴煙から離れるとそれも減っていった。
首都まであと数十キロといったところでアサギは彼女だけに聴こえるようあることを訊ねる。
「君は一体何者なんだい」
「えっ、さっき突入部隊一員って言いましたよね?」
「それは嘘だろう。君のように頭の切れる奴を突入部隊だけに留めておくほど上層部は有能ではない」
「それは問題発言じゃない?」
「君は軍人じゃない。だろ?」
推察通りだ。しかし彼女は自分の正体を明かすことはなかった。
「女の子の秘密を聞きすぎてはダメですよ」
彼女は少し恥ずかしかった。女として振る舞うことは久しぶりだったからだ。
もしカーサスがいれば笑い者にされていただろう。そう思いながら彼との会話を打ち切り無線機を別のチャンネルに切り替えた。
「もしもし、聞こえますか。どうぞ」
「何者だ。なぜこのコードを知っている」
通信先はホワイト邸の作戦司令本部だ。身分を明かし、ホワイト首相に繋ぐよう頼む。しかしコードを奪われていたり、脅されている場合があるため代わることはできないと言われ、
「早くしないと手遅れになる。ホワイトにヴィクトリアから通信があるとさっさと言え!」
激昂しつつ頼むと通信手は無線を切ってしまった。やってしまったかと思っていると折り返し通信が繋がる。
「本当にヴィクトリアさんですか?」
「ホワイトさん、大丈夫ですか?」
漸く本人が登場し、また無事だと分かり安堵する。
「良かった。こっちの状況を簡単に説明します」
彼女はクロガミノ教団幹部、アクダイラとクロノスキー殺害を伝えた。そしてクロガミがいなかったことを説明すると彼が補足する。
「奴は多くの信者を味方に付け、私の邸宅に侵攻しつつある。今、陸軍少将が対応に当たっているが……いつまで持つか」
「分かりました。先程、空軍と合流しあと数分後、敵に対して爆撃を行おうと思っています」
爆撃に際し、目標地点の捕捉と住民の避難誘導並びに護衛を頼んだ。それから教団本部が壊滅したことを知らせると大いに喜ぶ。
「ただ、ひとつ問題があってクロス山脈が噴火しました」
既に情報は掴んでいるだろうと捉えていたが思い違いだった。ホワイトは噴火のことを一切知らなかった。しかも彼だけではない。作戦司令本部全体でも把握していなかったのだ。
「知らないんですか」
「噴火、しているのですか?」
「ボクたちは今首都から西のえー、25キロ地点を飛んでいます。その方角に何か見えますか?」
ホワイトは自分の眼で確かめるべく窓から西の方角を眺める。山々の少し手前まで青く澄み渡った空が続き、雨雲か何やら黒い雲が見えるだけだった。既に首都へ辿り着いているとされる火山灰を含んだ噴煙の確認は今のところない。
「それよりヴィクトリアさん、ウィンディさんとはお会いできましたか?」
「えっ、こっちに来てるのかい?」
「はい、クロガミがこちらで確認したため彼にあなた方を探させるべく行ってもらいました」
それが確かなら彼女は既に合流している筈だった。していないということは、
「まさか……隠蔽魔法を」
彼女は昔を思い出す。それはハーヴィーと出会い共に魔法省長官だったベネディクトを倒すべく戦ったあの時のことを。
星の中心部であり総てを統括する庁舎、星廳には視界魔法が掛けられており四六時中外部にいる人間には見ることができない。視界魔法は別名、隠蔽魔法とも言われ高等技術及び協力な魔法力が必要とされる。
「クロガミはそれほど協力な奴なのか……」
彼女は焦りを見せた。もしも奴が自ら考えているよりも強敵な存在だとすればカーサスやワトソンでは歯が立たない。さらに早く隠蔽魔法を解かなければ二次、三次被害が増えてしまう。
すると後続の爆撃機が異常に接近する物体を捕捉したと連絡がアサギ機に入る。それをヴィクトリアにも伝えた。
「こんなときになんだ……」
後ろを振り向くと確かに何かが近付いている。眼を凝らして良く見てみるとそれは、
「ウィンディ!?」
「主様!」
漸く合流の出来た瞬間だった。ふたりとの会話はホワイトにも届く。
「良かった。無事に会えたか」
「主様、クロガミが……」
彼の口元に指を当て既に知っているということと、現況について話した。
「そうですか。やはり……」
「やはり? 何かあったの?」
というのも、彼が上空を漂っている何か聞き覚えのない音と共に突然現れた飛行機に驚き近付いたのが理由だ。音に注目した彼女は考えた。そしてある推測を立てる。
「もしかしたら隠蔽魔法が解けた音かも」
「だとすると、魔法は地上に?」
魔法は個体に掛ける方法が一般的だ。その個体が何かの弾みで個体ではなくなった時、魔法は無効となる。
「木にでも掛かっているのか」
「でも木に掛かっていればそう簡単に解かれませんよ……」
「溶岩流だ」
その通りだった。急いで調べてくるように頼む。
「推測が正しければマグマが既にこちらへ向かっている」
早急に対応しなければ首都が危険だ。そしてサウザンドの境界線までやって来ると厚い黒い雲が漂っていた。
「いけない、全機迂回して飛んで」
「了解っ!」
爆撃機隊は二方向に別れて黒い雲の外側を飛行する。ヴィクトリアは右側へ別れたアサギ機に付いていった。
「火山灰を含んだ噴煙だ」
そうこうしているとウィンディが戻ってきた。彼は彼女の推測通りだったことを伝えた。
彼が音を聞いた地点の地上では火の粉が木々に燃え広がり、隠蔽魔法が無効化されていた。さらに噴火の勢いは各火山帯にも広がっていたのだ。
「もしかしたら、もう手遅れかもしれないね」
ご明察。彼女がその言葉を言い放った直後、稲妻の走ったような音が聴こえると同時に地上の山が大噴火を起こした。
「なんてこった!」
漂っていた黒い雲が火砕流と共に押し出され首都上空へ広がる。
黒い海の中を爆撃隊とヴィクトリアが進むのだった。
○
その頃、サウザンドでは多くの人たちが轟音と流れ出る噴煙を目の当たりにした。カーサスとワトソンも例外ではない。
ふたりは信者との戦闘中に於いてそれを目撃、絶望を感じていた。首都サウザンドは闇に包まれていくのだった。
「クロガミの奴は何を考えてンだ?」
「分からない。分からないけど、とにかく奴を押さえないと」
火山灰がはらはらと散り行く中、再び各地で戦闘行為が始まる。彼らの地域も同様にだ。
「クロガミ様のためにー」
手榴弾を抱え捨て身の攻撃を繰り返す者。
「クロガミ様、お待ち下さい」
腕や脚を欠損しても特攻を繰り返す者。
ワトソンは耐えられなかった。同じ黒人が死んでいる状況下で眼を背けたくなる。
「けど、ヴィクトリアさんのために」
彼も誰かのために戦う。それは洗脳か、いや違う。思う願いだ。
ワトソンは泣きながら引き金を引く。それを間近で見ていたカーサスはなにも言えなかった。
戦闘は終盤に差し掛かる。サザンクロス陸軍の潤沢な装備、指揮能力により教団の信者らは制圧されていった。
「ホワイト邸まであとどれくらい?」
ワトソンが訊く。辺りを見回すと多くの信者の時代が転がっていた。
「分からん」
すると銃口を向けられる視線を感じたカーサスが彼を引っ張って物陰に隠れた。
「どうしたの?」
「殺気を感じた……」
しかし隠れただけではダメだった。催涙弾を投げ込まれてしまう。
「急いでここから……」
もう手遅れだ。ガスマスクを付けた兵士がふたりを取り押さえる。
「くそー、どきやがれー」
抵抗しても無駄だった。強靭な肉体の前で彼らは押さえ付けられているのだ。
霧が晴れるとカーサスは驚いた。ふたりを捕まえた犯人はサザンクロス陸軍だったのだ。
自分たちは味方だと弁明するが聞き入れて貰えなかった。寧ろワトソンが手配中のポスターにまだ名前が入っていたために、
「教団幹部を捕らえたぞい!」
「やったでげすな!」
部隊は大盛り上がりだ。こんなことをしている場合ではない。
すると、激しい地響きと轟音が再び襲う。首都の西側一帯の火山が一斉に噴火を始めたのだ。凄まじい量の火砕流と溶岩流が斜面を駆け降り、町へ津波の如く押し寄せる。
「早く手錠を外してくれ!」
「俺たちはクロガミを止めないといけないんだー!」
その刹那、ふたりの手錠がバラバラに飛び散った。そして純白の羽毛が舞う中に彼女の姿があった。
「ヴィクトリア!」
「何者だ!」
兵士は一斉に銃を構えたが無線機から流れるホワイトの声で攻撃を取り止める。
「翼の生えた天使は味方だ。彼女とともにクロガミを倒せ。繰り返す――」
ふたりからも天使に見えたが直ぐに間違いを正す。彼女は天使ではなく女神なのだと。
「良かった、無事だったんだ」
「心配したぜ、このぉ」
「おちゃらけは後で。今はクロガミを倒し、溶岩を何とかしないと」
そこでヴィクトリアの作戦はこうだ。
ホワイト邸を攻撃するクロガミ率いる戦力を殲滅するべく、爆撃機による精密爆撃と地上軍の攻撃で一気に制圧するものだ。地上の指揮はワトソンが適任だと彼女は進言する。
「無理ですよ……」
「お前ならやれる」
いつの間にかカーサスが味方に付いてくれた。陸軍の兵士も彼には恨み辛みがあったものの、指揮能力としては遜色ないと知っていたためにお願いする。
「ワトソン、自信を持って。これから先、ボクたちと一緒に旅をするならね」
「わ、分かりました!」
最後の作戦が開始された。
一斉に地上や上空が慌ただしく動き始めた。
「アサギ機以下4機の爆撃機はホワイト邸の上空500メートルから五角形の陣を描いて爆撃せよ」
ヴィクトリアが上空で指揮を執る。アサギ機と4機の爆撃機が編隊から離脱し、散開後に各方面からホワイト邸へ向かう。
「フラン機以下3機は待機願います」
「了解!」
爆撃機が移動する下ではホワイト邸を囲むようにワトソンが指揮を執る。
攻撃される側のホワイト邸外縁にいたクロガミはただならぬ気配を感じ、全員に突撃命令を掛ける。
「奴らが突っ込んで行きやがる!」
偵察兵からの報告にヴィクトリアは舌打ちをしてアサギらに爆撃を早めさせる。それと同時に彼女も攻撃へと加わる。
杖を取り出して敷地内へ侵入する信者を次々に吹き飛ばしていく。しかしそれでも全てをカバーすることは難しくひとり、またひとりと侵入を許してしまう。
「中なら任せて頂戴」
その声はアリスだ。侵入口から水が噴水のように噴出し信者が外へと押し出される。
「アサギ機、投下する」
「マツェイ機、投弾」
「ルミナート機、投弾します」
「ヨン機、投下」
「ポポプート機、投弾完了!」
ホワイト邸の外縁にいた信者たちが次々に引きちぎれて吹っ飛んで行く。地上は地獄のような光景と化し、敵の戦力は5分の1以下まで減少した。
「着剣ッ!」
カーサスの号令に地上部隊が小銃の先に剣を付ける。そしてワトソンが下令する。
「今だ、突撃ィ!」
大軍が一斉に突撃を仕掛ける。信者は為す術もなくやられて死ぬか、取り押さえられた。だがその中にクロガミの姿はない。
「諸君、ここだよ!」
全員が声の聞こえる方角を向く。そこには銃を突きつけられ、人質に取られているホワイトがいた。
「なぜだ」
「どっから侵入した」
眼を凝らし良く見てみるとクロガミの服装はサザンクロス陸軍の衛兵のモノだった。成り済まし行為で彼を人質に取ったのだ。
「君はなぜこんなことを……」
「それは先代のノガミ首相の栄光を取り戻すため……」
それが彼ら、クロガミノ教団の目標だ。しかし奴は違った。
「と言うのは建前だ。俺は……」
誰もが驚いた。そこにいたのは黒人のクロガミではなく白人のクロガミだったのだ。
「ク……ロガミ様ぁ!?」
「どうして……」
「うわぁぁぁ……」
信じていた信者たちが目の前の出来事に信じられず暴れだす。暴動へ発展する前にアリスが信者だけを魔法で眠らせた。
「クロガミさん、あなたは何故に黒人という仮面を被り白人を殺したのですか」
「お嬢ちゃんには分からないと思うが、俺は白人が嫌いだ。奴らは自分たちが上に立つ者としか考えていない。階級社会ではいつも白人が上だ」
「あなたも白人ですよね」
「俺は黒人の血が4分の1入ってるクォーターだ。だから奴らは俺を、俺の家系を……」
「私怨で白人を殺したのか」
衝撃的事実に誰もが憤りを覚える。黒人がしていたことは白人、つまり大多数の人々が同胞によって殺されていたのだ。そして黒人を憎み、侮蔑の対称としてみていたことに後悔を感じていた。
「俺に残ったモノ……ホワイトを殺すことだ!」
彼の頭に銃を突きつけた直後、
「待て!」
上空からヴィクトリアが降り立った。奴は彼女を睨む。信者の大半を彼女が奪ったのだからだ。
「お前も殺したい。だが神であるお前は死なない。だろ?」
周囲は動揺し始める。彼女がアークファミリアだて知らなかったからだ。この様子は爆撃機隊にも無線で聞こえていた。
カテゴライズやオエアは驚いていたがアサギは違った。神という意外な展開だったが、ただ者ではないと感じていたのだ。
「そうだ。ボクは神だ。因みにそこの少女も神で妹だよ」
「以後、お見知りおきを」
アリスは会釈をする。ふたりのアークファミリアに挟まれたクロガミは最早勝ち目はない。奴はホワイトが不死者とは知らないからだ。
「くっ、だがこいつを殺せばこの国は終わる」
「どうかな?」
ホワイトが振り向いた。そして遂に自らの正体を明かしてしまう。
「お前も……神の仲間だと……だが、しかし!」
拳銃を発砲するも弾はホワイトの腹部を霞める。常人ではない動きに奴は笑う。
「お前らも俺と同じだな。良いようにコマを使って遊ぶ、悪魔め」
その瞬間、銃声とともに奴は倒れ込んでいた。射撃したのはワトソンだ。
「ヴィクトリアさんたちは悪魔なんかじゃない。僕たちを救ってくれた、大恩人だ」
クロガミはその言葉を聞いて死んでいったかは定かでない。周囲にいた兵士や邸宅にいた将校たちはヴィクトリアやホワイトの正体に動揺を隠せないでいる。
「結局、私たちも彼らの掌で踊らされていたのだろうか」
「我々はオモチャに過ぎない。そういうことなのか……」
カーサスが言い返そうと前に出る。だがホワイトはそれを拒んだ。
「諸君。こうなってしまってはただの言い訳にしか聞こえないが、私は遊びで政治をしていたわけではない。皆のことを思って……」
「彼は間違ったことをしていません」
ヴィクトリアが大声で叫んだ。アリスも声をあげる。
「ホワイトさんは、本当に皆様のためを思ってこの国を良くしようと努力しているのです。私たちからすれば、人間であるあなたたちの方が自分勝手でいい加減な気がします」
「彼はあなたたちとは違う人間ですが、心は和平を望む救世主なのです」
そこにワトソンやカーサスが張り裂けんばかりの声で彼を支持した。邸宅にいたキクやラン、サヱたちも声をあげる。
「私は彼を信じます」
邸宅の奥からハーヴィーとロッドが現れる。突然の魔法省長官の登場で会場は混乱する。
「そんなことよりも、溶岩を何とかしましょう」
ロッドの数少ない発言により現状へと引き戻される皆は取り合えずこの件は保留した。
「カーサス、ワトソン」
ヴィクトリアはふたりを呼ぶとホワイトの警護に付かせた。無論、最前線で戦うことを強く願い出たが混乱に乗じてホワイトらを暗殺する奴らが出てくるかもしれない。そう思ったからだ。
「それに、自然を止められるのはその自然を創った神たちしかいないからね」
翼を羽ばたかせると勢い良く天空へと飛び立った。
「それではお二方、あとはお願いしますね」
「アリス、ヴィクトリアを頼む」
「分かっています」
彼女も飛び立つとふたりはホワイトを司令室へ連れていく。その途中、キクが倒れているクロガミを看ていた。
「そいつはもう……」
「何があろうと、私たちは医者です。助けます」
敵であろうと味方であろうと治療をする姿勢に感服しつつ中へと入っていく。
○
フラン機とホフマン機、カーデック機、チョウ機と並走するヴィクトリアは各機に最後の司令を与える。
「さぁ、いよいよ正念場だぞ。フラン隊、指示した目標に爆撃して」
「アイマム」
溶岩流の行く手を先回りし建物が密集しているエリアを爆撃するよう指示。これにより建物をわざと倒壊させて、溶岩の流れを止めようとするのだ。
「投下!」
目標へピンポイントに爆撃して行き見事建物が崩れバリケードのように築き上がる。溶岩は流れを止め、行く手を阻まれてその場に留まった。
「アリス、行くよ!」
「はい、お姉さま!」
ふたりのアークファミリアは奥義を放つ。ヴィクトリアは風を起こし、アリスは水を生み出し、溶岩へと注ぐ。
ジューシーは音を立てて蒸気が間欠泉のように上空へと広がる。地上でも噴火が起きているかのようにも見てとれる。作戦は成功だ。
溶岩を食い止める、そしてヴィクトリアの最後の力で火山灰を吹き飛ばした。行き先は、クロガミノ教団本部だ。
全ての作戦が終了し、各地に教団が陥落しクロガミも死亡したことを伝えるとクーデターは終息に向かう。長く短い戦いは終わったのだ。
○
後日、ホワイトは多大なる被害を防げなかったことを理由に首相を辞任した。建前はそれで十分だった。しかし彼は不老不死だったという噂が後を絶えず、数百年は森の中で過ごすことを決めたという。
それから力を失ったビャクの世話をヴィクトリアがお願いする。
キク、ラン、サヱは国へ帰り医療技術を磨いているのだという。今回の戦いでは最前線の医療の現場で戦ったことを表彰され、連日記者団にしつこくつきまとわされているらしい。
ハーヴィーはロッドと共にサザンクロスの復興を協力する。しかしその中途でハーヴィーの命は潰える。彼の遺言は、またどこかで逢おうというものだった。
リリーはアラザンスの本店で店長を務め、日々尽力しているという。サウザンドで一番早く開店したレストランでこちらは連日多くの客で賑わっているのだそうだ。
ヴィクトリアの頼みでホワイトが彼女たちを守っているためか、時折顔を見せに来ているようだ。その度に、あの時の戦いは凄かったという感想を貰うらしい。
クロガミは、残念ながら公式発表で死亡とされていたが実はキクに保護されて今は彼女の病院で牧師として働いているらしい。彼の素性を知っている人からは危険だと言われ続けているが、なんとかなっているという。
何かあれば、アリスが動くらしい。彼女はこれまたヴィクトリアの頼みで生涯、彼女たちの家系を見守ることにしたのだ。
はてさて、当のヴィクトリアとカーサス、ワトソンはというと。今彼らはサウザンドから少し離れた山にいた。壮絶な戦いから早10日が経過している。
「今日でこのサザンクロスともお別れだね」
「色々あった……」
「そうだな」
この地をあとにすればもう後戻りはできない。しかしワトソンにもう迷いはない。
「これから、よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
「まっ、結果よければそれで良し。裏切るんじゃねぇぞ」
「裏切りませんよ!」
ふたりのおふざけは終わらない。ヴィクトリアの永い旅と一緒に。
3人のいる山道からその景色を見られる木々の頂点にひとりの男が笑みを浮かべていた。
「仲間がひとり増えたか。楽しみがいがあるな」
それはヴィクトリアと敵対するナチョス側のシルヴィアだった。彼は今後、どう料理するか決めあぐねているのだった……。
皆様、ここまでご閲覧頂き、誠にありがとうございます。
第2章はお楽しみ頂けましたか? えっ、良くわからない?
はい、私も書いていて凄く分かりませんでした。とにかく第2章を年内中に終わらせたかったので(おいこら)。
という冗談はさておき、本当はもっと短編を入れておきたかったのですが、魔法省編と新たな出逢い編で大きくページを使ってしまいました。ので! 今後短編を書いていけたら良いなとも思っておりますので、よろしくお願いします!
次章の構想は前半部分が終わり、今書いているところです。箇条書きを。
投稿はいつになるか分かりません。それから、私事で申し訳ありませんが、当方の作業環境が変わり1話辺りの字数が減ります。
ですが話数を多くして対応する予定ですのでよろしくお願いします!
本当は1年で1章を書き上げたかったのですが、もしかしたら2年で1章、はたまた10年で1章になるかもしれません! 多分(おいこら、待て)。
でもでも、死ぬまでこのシリーズは続けていきたいと思っていますので、どうか冷たく永い目で見てやってください。
最後となり、繰り返しになりますが、この度は第2章、または第1章をご閲覧頂きありがとうございました。これからも、よろしくお願い申し上げます。
それでは、またお逢いしましょう。




