表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
46/101

第19話「憎悪」

 星歴473年6月30日、ヴィクトリアとカーサスはサザンクロス共和国の首都サウザンドに到達する。そしてホワイトとリリーに再会して詳しい話を聞いている最中、再び事件は起こる。

 ワトソン率いるクロガミノ教団が銀行を襲撃したのだ。その銀行は影で黒人に対して異常なまでの金利で苦しませていたのだという。

 話の途中でふたりは現地に赴くと、確かに彼はいた。身なりや体格は変わっていた。しかし瞳は昔のままだ。

 彼もまたこちらに気付いたかのように思えた。だが直ぐ様警察隊との交戦に入り接触は出来なかった。

 ひとつわかったことがある。彼はワトソンだ。

 彼を救うべく、またクロガミノ教団を壊滅させるべくふたりは前へと進むのであった……。

 6月も終わり、7月に入ったサウザンドは相変わらず治安が悪く、外出禁止令が敷かれていた。解除されるには程遠く、飲食店や風俗店などは打撃を受けている。

 ヴィクトリアとカーサスが昔、旧知の中だったミレイ・コロッセウスの子孫、リリーは33歳となり、今はアラザンスという会員制の高級レストランで店長代理を任されている。外出禁止令が敷かれる前の彼女はラジオ番組や雑誌の取材で引っ張りだこだったが今は違う。


「客足がめっきり減って売上も落ちてる。何とかしないとなぁ」

 クロガミノ教団の影響で取材どころか客が全く来ない有様であった。さらに以前襲撃されたこともあって、対象となっているかもしれないという根拠の無い噂も広がり評判は落ちてしまっている。


 昼時にヴィクトリアとカーサスのふたりは、アラザンスに立ち寄り食事を取りながら今後について話し合っていた。

「ボクたちが教団を早く潰さないと、リリーたちにも影響が出ちゃう」

「でもアジトを見付けないと話にならんぞ」

 そこにリリーが料理を持って現れた。最近近くの森で採れた高級食材、マジカルマッシュルームを使ったキノコッティというスパゲティに似た料理だ。


「魔力や精力が増進する料理だ。まだ開発中だけど試食してみてよ」

「戴くよ」

 ピリッとした辛さが特徴的で後味に甘いまろやかさが出ていた。まるで口の中で爆発しているような感じだ。

「これ魔力が無い奴が食べるとどうなるんだ」

「さぁ」


 彼女曰く、マジカルマッシュルームの調理法は今回が初めてで実験も兼ねてふたりに食べさせたのだそうだ。

「これで何かあったらタダじゃおかねぇからな」

「でも美味しいよ」

 ヴィクトリアは全て平らげるとお礼を言う。

「提供するならもう少し勉強してからの方が良いかもね」

 リリーはそう言って厨房へと戻っていく。


「ったく、危ない奴だぜ」

「ボクたちのことを考えやってるんだと思うよ」

 本当にその通りなら良いが彼女のことだからただの実験台にしか考えていないのだとも思うカーサスであった。

「んで、どうすんだよ」

「そうだねぇ……」

 考えは幾つかあった。

 団員をひとり誘拐し吐かせる。またはホワイトを囮にして炙り出す。若しくはヴィクトリアの神の力を使ってなんとかするということだ。


「一番最後は全く期待しないでほしいな」

「てか、神様なんだからこの星の隅から隅まで分かるんじゃないのか?」

「それが分かったら苦労はしないよ」

 苦笑いを浮かべる。神は万能ではない。ただヴィクトリアは何かを隠しているようにも思えた。それが何か、誰にも分からない。


 腕を組んで悩み更ける彼女にあることを思い出して訊ねる。

「そいやお前さ、風の波動か何かを使って場所を特定出来るんじゃなかったっけ」

「あれか。うん、出来るよ」

「だったらやれよ!」

 方法があることに苛立つ彼を見て突然現れたウィンディーが補足した。


「残念ですが、先程から私が試させてもらっていますが発見出来ません」

「そ、そうなのか。ごめん」

 声を荒げてしまったことに謝罪すると自らも何か方法がないか考える。しかしやはり思い付くのはホワイトを囮にすることぐらいだ。

 正攻法としてはこれが一番だ。彼は不死身だ。死んでも生き返る。しかし不死者が国の頂点にいることは出来ない。従って彼は位を譲らなくてはならないのだ。


「カーサス、ちょっと留守にするよ」

「どこに行くんだ?」

「野暮用」

 彼も着いて行きたかったがリリーを護る使命を託し、彼女はひとりで出掛けてしまった。

 店には彼とリリー、アラザンスの従業員、そして5人の客が残っている。もしも狙うのならば客の少ないこの時間だろう。しかしこの店を襲う要因が全く無いため、カーサスは気楽にしていた。


 夕刻になってもヴィクトリアは帰って来ず、とうとう外出禁止令が敷かれる午後12時になってしまった。この星の1日は48時間あり、外出禁止令は36時から翌12時、つまり午後12時から翌午前12時までの24時間となっているのだ。

 カーサスはアラザンスの2階にある部屋の窓から街の様子を窺っている。静まり返っており、まるでゴーストタウンのようにも思えた。

「おいおい、どうしちまったんだよ」

 心配になる彼はドアノブに手を掛けるも思い止まる。彼女なら心配ない、そう心の中で言い聞かせるのだった。


 午後24時、つまり日付が変わった7月2日、それは突然起こった。

 爆発するような音とともに、

「きゃあぁぁぁっ!」

 1階で料理の研究をしていたとされるリリーの悲鳴が聞こえる。急いでカーサスは下へと降りていくと厨房に彼女の姿は無く、フロアに出ると窓際の一部が破壊されているのが見つかった。


「畜生……」

 後悔した。アラザンスが狙いではなくリリーが狙いだと知ったからだ。

「待ってろよ。直ぐに見付けてやるからな!」

 彼はホワイトに連絡するとともに駆け付けた警察隊の総指揮を執って彼女の捜索を始める。



「離しなさいよ!」

 両腕と両足を捕縛され、長身の男に抱えられていたリリーは大声で叫ぶ。しかし応答はない。

「アタシなんか捕まえてナニしようっての!」

 すると男は振り向き、月光で見えるその表情は鼻腔を大きく開き満面の笑みを浮かべては鼻息を荒らす変態と化していた。


「くっ、あんたたちなんてけちょんけちょんに出来る奴らがいるんだからね!」

 突然足先を止め、先頭を走っていた頭まですっぽりローブを被っていた男が近付いてきた。

「それは誰のことだい?」

「だ、誰って……」

 彼女はたじろいだ。今までの威勢は吹き飛んでしまった。

 この男、何か危険な匂いがしたのだ。


「言え、リリー・コロッセウス」

「なっ!?」

 なぜ自分の本名を知っているのか驚いた。世間では苗字をリントンと名乗っている。本名を知る人間など限られている。

「まさか……」

 彼女はそれが誰かを知っている。昔、育てた少年に。

「あなた……ハンマー・ワトソン?」


 ローブを脱ぎ捨てるとそこには年相応のワトソンがいた。少年時代の面影が残っている。彼女にとって、何も変わっていない。

「ワトソ……ンぐぅ!?」

 彼はリリーの腹部に強烈な一撃を食らわせると彼女は俯き地べたに倒れこむ。両手を腹に押さえ唸り声を上げて彼を見つめた。


「さぁ、言え。誰が我々をギッタギタのバッコバコにすると」

「い……言うものか!」

「このアマ!」

 今度は一蹴りを食らわし腰に装備していたダガーナイフを抜くと刄をちらつかせる。言わねば刺し殺すと脅しを掛けた。しかし彼女は睨み付けるだけだった。


「ふっ。昔と変わらない男勝りで気の強い女だ」

 ナイフを彼女の胸元に添えると勢い良く振り上げた。ビリッと服が裂け、豊満な乳房が一度揺れ動く。

「へ、変態!」

「この国に来ているのは分かっている」

「何のことかしらね」


 彼は話を進める。クロガミノ教団は白人を殺害し、最終的にはホワイトから首相の座を奪い取り、昔の栄光を取り戻すことだという。しかし、その前にしなければならないことがある。

「神を殺すこと。つまり、ヴィクトリアを殺さなければならない」

 彼女を知る数少ない人物は、リリーだ。それで彼女を誘拐して情報を聞きだそうとしていた。だがそれは失敗に近付きつつある。


「最後に問う。ヴィクトリアの居場所はどこだ!」

「居場所も何も、あいつは死んだんだ。お前らが殺しただろ」

 彼女は数年前のあの演説会で死んだことになっている。しかし彼は信じなかった。今でも生きていると知っていたからだ。

「奴は生きている。この国に来ている。居場所はどこなんだ!」


 力が入り、彼は自分を抑止することが出来ず気が付いたときにはリリーの脇腹にナイフを突き刺し、そのまま振り上げていた。彼女の返り血を浴びたワトソンは部隊を連れ去っていく。

「くっ……ここで死ぬの……か」

 鮮血が心臓の鼓動に合わせて体外に流出する。次第に身体が震え始めた上、寒気がする。死に近付いていたのだ。


「リリー!」

 誰かの声が聞こえた。それが幻聴かは分からない。だがそれは幻聴でないことが直ぐに分かった。

「ヴィ……ク……トリア」

 昼間に野暮用といってアラザンスをあとにした彼女が戻ってきたのだ。さらに背後には大きな獣がいた。

「はぁ……はぁ……」

 見覚えのある獣。それは森に住む靈獸のビャクだった。


「久しぶり……だ」

「話はあと!」

 ヴィクトリアはビャクの背中に彼女を乗せると自身も跨った。一刻も早く安全な場所で治療するべく、彼女たちはホワイトの邸宅へ向かう。

 一見して安全ではないように見えるかもしれないが固まっていた方が両者を守りやすく、また警備や建造物の構造などが把握出来ている点に他より勝れていることから選ばれたのだ。


 邸宅についた彼女たちは直ちにビャクの妖力(ようりょく)を魔力に変換しつつ、それを利用してヴィクトリアが治癒魔法で治療にあたった。

「しっかりしてよ!」

 だが魔法で傷口をふさぐことは出来ても血液を補充したり、細菌を消滅させることは出来ない。やはり医者が必要だ。不老不死で尚且つ神の彼女には関係のないことだが、人間のリリーにとっては必要不可欠なのである。


 ホワイトが要請した国際病院が派遣されてきた医療チームがやっとこせ到着するなり、ヴィクトリアとの共同作業が始まる。その最中で彼女は最後に救急車から出て来た女性に驚いた。また相手も驚いている。

「ヴィクトリアさん?」

「もしかしてキク?」


 キクとは、第1章の23話に初登場したサキ・ベルメースの子孫であり、前編の魔法省事件に関わったトメ・ベルメースの妹である。実に46年振りだ。現在は59歳で2人の娘を持つ母である。

 その娘たちは今、リリーの治療に当たっている。名前は長女のラン、今年で32歳になる。次女のサヱは24歳だ。ふたりとも母の背に憧れ、尊敬して医者になったという。


「あの子たちなら必ず、あなたのお友達を治すことが出来るでしょう」

「お願いします」

 その言葉は正しかった。ランは現代医学、サヱは現代魔法医学の最先端技術で二人三脚の治療を行い、リリーの峠は越えて回復に向かっていた。しかしそれでも全治半年という重傷だ。幸い、傷は完全に治すことが出来るようだ。


 ところでなぜ、ロドリゲス貿易自由国もといロドリゲス自由国の港町ニューアーカンソーで大病院を構えるベルメース家がこの国へ来ているのかというと、近々サウザンド国際病院で世界医学大会と呼ばれる集会が行われるらしく、そこに参加するため訪れたのだという。


「ボクも手伝う」

 彼女も参加し、4人でリリーの治療に当たる。出血がひどく、危うく多量死するところだったが何とか輸血が間に合った。

 これにはヴィクトリアも安堵しカーサスのことなどすっかり忘れてしまっていた。彼に気付くのは数時間後のことだ。


 ホワイトが警察隊に連絡を入れ、カーサスを寄越すよう伝えたことでやっとこせ彼女たちと合流することが出来た。それと同時にリリーの負傷に憤り、室内の屑籠に当たり散らす。

「畜生、あいつら……今度会ったらぶっ殺してやる」

「その前にワトソンを捕まえないと」

 ふたりは知らない。彼がリリーに危害を加えたことを。


 さらに数時間が経ち、昏睡状態にあったリリーが目を覚ました。ふたりは胸を撫で下ろし、話せる範囲で当時の状況を訊ねる。

「ワトソンがあんたを探してた」

「ボクを?」

「神だから、殺さないといけないとかで」

 これに対し彼女は黙り込む。自分のせいでリリーを巻き込んでしまったことに後悔の念が滲み出る。


「あたしが絶対に口を割らないと思って、あいつ……刺したんだ。あたしを……あれは、人殺しに慣れた目付きだったよ」

 彼女は料理人だ。付き合いで屠殺場の職人と交友がある。彼らは動物を屠殺することに躊躇いはない。彼らの目付きもワトソンの目付きも同じだったのだ。


「救い出すのは無理そうだな」

 カーサスが諦めかけたその時だ、ヴィクトリアが唸った。彼女は諦めてなどいない。

「元はといえばボクたちが彼を護ってやれなかったんだ。彼にはカタギになって人生を楽しんでほしい」

「そりゃ無理だぜ。奴は殺し過ぎだ」

 彼の意見も正しい。だが償いをさせることも含め、ヴィクトリアは彼を救い出すことを決意する。そしてクロガミノ教団を壊滅させることも目標と定める。


「私も軍隊や警察隊を総動員して協力するぞ」

「ホワイトさん、ありがとう。でもボクは一度死んでる身。それに奴らはボク自身が狙いだから一緒にいると危ないよ」

 しかし心配は無用と言わんばかりにカーサスが自信気に自己主張をする。彼は立派に彼女の盾として奉公させて頂くと意気込んでいた。


「こんな奴だけど頼りになるから」

「こんな奴……だと? おまいう!」

 キクが“おまいう”という意味について訊ねる。これは東の国にある言葉で、“お前が言うな”という意味だという。

「どこで覚えたの?」

「ピーターに教わった」

 Vサインを送り彼は笑う。


「けほっ……」

 長話しのせいかリリーが咳き込みだし、キクの判断により休ませることとなった。以後、キクとラン、サヱが付きっきりで看病し、ホワイトとそのSPや軍隊、警察が護衛する。

 その傍ら、ヴィクトリアとカーサスが教団のアジトを探しだして急襲する。そしてワトソンを救出し、サザンクロス軍による攻撃で教団を壊滅させる算段だ。


 世間一般でワトソンの扱いは極悪非道の犯罪者だ。軍隊内でも一級の犯罪人として認知され、戦闘となれば射殺も止むを得ない。事前に救出すれば、後々書類上では戦闘中の射殺ということが成立される。

 つまり、軍が出動する前にワトソンを救けださねばならないのだ。事情を知らない官僚や現場指揮官は手柄のために我先と行動し、最悪圧力を掛けてふたりが行動する前に下令する場合もある。そうならないためにも迅速な行動が必要なのだ。


「ところで、お前は何してたんだよ」

「ビャクのとこに行ってたんよ」

 庭で大人しく座り込んで待っている彼の姿があった。周りの警備兵は食べられてしまうのではないかと怯えてしまっている。

「こいつって前にワトソンを探してる最中にリリーと出会った靈獸?」

「そ。前に話したボクらの強い味方。そして今、彼の仲間が教団のアジトを探してもらってるとこ」


 彼女はビャクに救援を要請しに行っていたのだ。彼もまた、久々の再会に喜んでいたという。

 また、彼はヴィクトリアがサウザンドを離れたあとも陰ながらリリーたちを護っていた。しかし今回、アジトの捜索に仲間を総動員してしまい、護衛が疎かになった。その隙を突かれたことに後悔と憤りを感じ、必ずや成果を出すと誓ったそうだ。


「しかし、敵はリリーが死んだと思っているはずだ。例えそうでなくとも、アラザンスには当分帰ることが出来なくなる」

「そうだな。ここでホワイト共々、護る他ないな」

 今後の彼女について話し合っているとビャクが間に入ってきた。

「我輩はどうする。周りは民家が広がっている。夜にしか動けぬぞ」


 ホワイトの邸宅は森に近いが周囲には住宅や集合住宅、学校が広がっていた。もしも戦闘となれば人的被害は避けられないだろう。 さらにビャクなどの靈獸や魔物が棲み憑いていると知られれば、ホワイトの支持率が下降すること間違いない。だが彼らに他へ移る手立ては無かった。

「最悪、ビャクには住民の方々を救って貰うしかない」


 だが彼は難色を示す。本人は無問題であるものの部下の野犬らに問題がある。自衛のために住民が彼らに刄を向けてしまう恐れがあるからだ。

「でもボクは君たちにいてほしい。ボクたちだけじゃ守り切れない」

「分かっておる。我輩はお主の味方だ。しかし、我が部下たちにも家族がおる。無理強いは出来ぬと知ってほしい」

「分かってるよ」



 サウザンドから西に広がる山間部、クロス山脈にある廃れた鉱山にクロガミノ教団の本部がある。山脈は7千メートル級が連なり、教団の本部は7776メートルのイーゼル山中腹の5555メートルにあった。

 昔、金が採れ周辺には多くの鉱山と集落があったが、今はその面影などはなく迷路のように掘られた坑道だけが佇んでいる。

 教団はその坑内にあり、労働者が休養や食事をした部屋がそのまま団員の寝床となっていた。


 ここでおさらいとして紹介しよう。クロガミノ教団は生まれることとなった要因とは、サザンクロス共和国の初代首相、クロ・ノガミの存在である。

 彼は長きに渡ってサザンクロスを国家として立国すべく尽力した人間の黒人だ。1000にものぼる集落を巧みな手腕によって併合させ立国した。

 彼の輝かしい功績は歴史に刻まれるかに思えた。だが彼は長い間、白人と戦い分かち合ったというのに、あろうことか黒人主体の政策を取り、黒人以外の人種や種族を迫害する。


 彼の行動に議会はもちろん、国民も黙っていられぬ状況となり内閣不信任案が成立し彼は首相を退かざるをえなかった。そこで誕生したのが、彼を崇拝する信者が集まったクロガミノ教団だ。

 彼らは不信任案を即時撤回を求めるための運動やテロまでを起こしたが判定を覆すことは出来なかった。さらにノガミは首相の辞任当日の夜に首を吊って死んでしまう。

 彼の死に報いるため、その日からクロガミノ教団は白人を殺害するようになったのだ。


 今、信者は国中に広がり各地には支部が存在する。全部で6つの支部があり、本部からの命令で動くことになっている。

 一般に公開されている情報として次の通りがある。


 教団の構成は、本部団長であるクロガミという事実上教団の最高位が取り仕切り、次点に各支部の総指揮を務めるアクダイラ、本部の指揮を務めるクロノスキー、そして本部の現場指揮を務めるワトソンが重要人物としている。


 犠牲が伴った潜入調査の報告として入団は、各支部の入団審査員を通して認めてもらう必要がある。この審査員は会社で例えるならば部長クラスの権限があり、また戦闘訓練を積んでおり魔法部隊と太刀打ち出来る腕前を持っているとのこと。

 この審査員らは各支部に5名在籍し、何らかのアプローチで指定された場所に赴き入団の契約するというもの。この時点で既に教団の監視下にあり、多くの調査員が命を落としたと言われる。

 彼らは例え黒人であっても、裏切り者には死という罰を与えることが刻まれているようだ。


 教団の戦力は未知数である。多くの信者は戦闘訓練を積み、戦闘下に於いて戦果を挙げることが出来るといわれている。


 以上が現在分かっている教団の実態だ。彼らは死をも畏れない精神を持ってノガミを崇拝し、命を捧げる。一刻も早く彼らを救い出さなければならないのだ。


 そうした中で、イーゼルにある教団本部ではある重要な会議が開かれていた。その中にワトソンの姿もある。

 彼らはリリーの殺害作戦の次段としてヴィクトリアの殺害計画を話し合っていた。無論神は殺すことが出来ないと知る由もない。だが、彼女が何らかの方法で動くことが出来なければホワイトやサザンクロス全体の生命(せいめい)に関わる。

 それを見越してかは定かでないが、少なくとも彼らには味方ではないアークファミリアのひとり、ヴィクトリアを神殺しという大義名分で信者らに教えているのだろう。


 揺らぐ蝋燭が置かれた長方形の机の周りに幾人もの男たちが囲み、ひとりの男が口を開く。

「この作戦にはワトソン、お前がやれ」

 頷く彼は、表情も変えずに意気込みを表した。

「あなた方に救われる前、私は彼女に救われました。しかしそれは黒人にあるまじき教えでした。明日、私は必ず彼女を殺してみせます。例え、命が無くなろうとも」


 しかし、ある男がその言葉に疑問を持った。彼の右目には縦に大きく切り傷が入り、髷姿のまるで(さむらい)のような姿をしている。

「俺の手下の話によるとな……お前さん、あの小娘を仕留め損なったじゃないかぇ?」

 長身の刀をワトソンの喉元に向けるも彼は微動だにしない。それどころか刀を手で除けると、

「アクダイラさん、確かに私はリリーを仕留めそこないました。しかしあなたもホワイトを幾度と無く仕留め損なっていますよね」

 これに対し男は刀を納めて椅子に腰掛ける。


「悪かった。デカい態度を取り。どうやら俺はお前さんのことを妬んでいるようだ」

「無理もねぇよ。お前は一番暗殺したい奴を横取りされてんだ」

「そういうつもりは毛頭ありませんよ、クロノスキーさん」

 横から入った男は大柄で身長は2メートルを超え、体重は200キロはあるだろうと思われる大男だった。傍には金棒が立て掛けており如何にも鬼が持つような代物だ。


「結果として横取りしてしまっていますが、私は先人である皆様の盾として彼女に立ち向かいます。もしも私がやられても、皆様には苦難を強いらせません。必ずや致命傷を与えておきます」

 彼の言葉にアクダイラが涙を流している。

「泣かせるぜ」

 すると彼は脇差をくれてやった。ワトソンは畏れ多いと拒否するもクロノスキーの助言の元、受け取ることにする。


「ここぞと言うときに必ず助けになる。お前のその脇差は、アクダイラの魂が入っている。お前はひとりで戦っているんじゃないんだぞ」

「はい、クロノスキーさん!」

 彼らの対話に拍手を贈る男がいる。今の今まで無言で見届けていたが漸く口を開くその男は、教団の最高位に君臨するクロガミだ。


「諸君らの想いは我が教団に相応しいものだ。憎しみや悲しみ、屈辱を是非とも奴らに思い知らせるのだ」

「はい、クロガミさま。それでは行って参ります」

 ワトソンは立ち上がると一礼をして部屋を去っていった。彼の戦いはまもなく始まる。例え成功しなくとも、教団は前進する。


「作戦実行は7月7日の夜36時だ。私がヴィクトリアを()る。部隊は残りの敵を殲滅し、生存者は一人も残すな」

 茶色のローブに身を包んだ彼の後ろには赤色のローブを着た実行部隊たちが嘲笑して佇んでいる。そして彼らは金鉱から外へ出ると山を下り、サウザンドへと向かったのだった。


 この任務は神殺しという名目だけでなく、最終的な目標の前段作戦となっている。それは7月8日に行われるA10(エーテン)と呼ばれる首脳会議に参加する各国の代表を暗殺すべく、その護衛となる彼女の殲滅及び戦力の分散を目的とする。

 尚、A10に参加する国はアーク連邦、イーストライン共和国、ウエストライン共和国、サウスライン共和国、ノースライン共和国、セントラルライン帝国、ロドリゲス自由国、パノラマ共和国、トレド帝国、そしてサザンクロス共和国である。フリーケンス共和国やポラリス公国などの23ヶ国は不参加となっている。

 このA10の目的は世界情勢や経済、伝統、文化などを調和するために各国一丸となって議論する鼻のである。

 世界では、アーク連邦のような魔法と科学が共存共栄する国は非常に少なく、また科学側が劣っている場合が多い。その為、技術の提供や育成なども積極的に行っている。しかし各々の国では文化や考えの違いなどにより、受け入れがたいことは確かであるようだ。

 故に世界水準で見る限り、まだまだ遅れている。それを補うための話し合いが、ここサウザンドの国立魔法学校で行われるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ