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The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
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第15話「旧友」

 星歴466年1月、寒空の下にアークファミリアのヴィクトリアとその下僕カーサスがいた。

 ふたりは長い間、ずうっと旅を続けているが今日、冬山を越えて目前に現れた国、サザンクロス共和国へ到着する。

 新たな出会いと冒険がふたりを待っているのだった……。

 サザンクロス共和国、そこはまだまだ発展途上の国だ。

 星歴460年に1000にも及ぶ集落を併合して誕生した国だ。そして首都はその併合した集落の数、1000を取って“サウザンド”と名付けられた。

 サザンクロスの歴史は浅いが1000にも及ぶ集落が如何にして併合したか。語りたいものだが長くなるために割愛させていただこう。


 誕生当初、初代の首相はクロ・ノガミという人間の黒人だった。彼はサウザンドの併合にも尽力していたことで知られている。

 凡そ5割を占める人間の白人と3割弱を占める人間の黒人は長らく対立していた。しかし彼は互いの長所を認め合い交渉を続け、漸く併合という形で実を結ぶ。

 だがこれで終わることはなかった。

 彼が行った政治はあろうことか黒人主体で行われたのだ。さらに白人を目の敵にし迫害した。

 今まで尽力していたことは全て国を作るために行動していたのだ。

 また彼の政治は宗教的なものが多く見られ、僅か2年で内閣不信任案が可決され辞任することとなる。

 それらを弾圧すべく直衛の黒人部隊が妨害するものの瞬く間に鎮圧され、ノガミは国会から追い出される。そしてその夜に首を吊って死亡した。


 若い国に少なからず見られる歴史だが、今この国は新たな一歩を踏み出そうとしている。

 それは第2代の首相が4年の任期を間もなく満了し、第3代の首相を候補する選挙活動が行われているのだ。

 投票期日は2月14日で同日に開票、翌日の15日から第3代の首相が政治を行う。

 尚、第2代の首相、リーは2月1日を以て任期を満了し、政界から退任することを表明している。

 既に4つ政党からひとりずつと無所属の4人から候補者が挙がっている。

 現在の有力な候補は白人保守党のゲイである。


 そんな選挙色に染まる街に到着したヴィクトリアとカーサスは到着早々に絡まれる。

「白人保守党のゲイに清き一票を!」

 有権者ではないことを伝え、さっさとその場から離れるとまた別の人に絡まれる。

「白人保守党はダメよ。みんな仲良く出来る協和党のホモホに清き一票を!」

「黒人党に清きいっぴょ……」

「黒人は帰れ帰れ!」

 辺りが修羅場と化す前にふたりは路地に逃げ込みことなきを得る。しかしそこには飢えで物乞いをする黒人の子供がたくさんいた。

 寒さで震えている者、絶命している者、死体を貪る者も見掛けられる。

「カーサス、行くよ」

 その場を後にするとカーサスが立ち止まる。懐に手を入れて何かを探している。

「これのこと?」

 彼女の手には小さな袋が握られていた。

「俺の金!」

 ヴィクトリアは変な気を起こす前に彼の内ポケットから取り上げていたのである。

 返すように言うが首を横に振りこう告げる。

「あの子たちを救いたいのなら無視すること。キミの身勝手な優しさがあの子らを傷付けるだけ」

「……っ」

 悔しいのか彼は表情を濁らせる。暫く沈黙していたが頷いて彼女は財布を返す。

「寒いから暖かいスープでも飲みに行こう」

「うん……」

 彼女の言われるがままに後を着いていく。


 ぼとなくしてある店の前に辿り着いた。高級レストランと書かれている。

「アラ……ザンス。アラザンスか」

 サウザンドはやや読みにくいが基本的にアーク語と同じ様に解釈できる。

「高いな」

 店頭にメニューが書かれているボードには安くても50アークドル、日本円にして5500円の値が付けられている。

「当店自慢のミネストローネだって」

「100アークドルはぼったくりじゃないのかぁ?」

 しかし寒い上に空腹も感じていたため、この店で食事を取ることにした。

 店内はスーツ姿の所謂(いわゆる)官僚や富豪らが食事している。冒険者のふたりはまるでライオンの群れにシマウマがいるような場違いさが生じていた。


「会員証のご提示とご予約者のお名前を」

「してないや」

 どうやら会員制且つ予約制らしい。だが会員になることで今日のところは席を取れるそうだ。

「1年のご契約ですと5000アークドルになります」

「高っ!?」

 思わず叫び声を上げるとカーサスは皆からの注目の的にされる。その傍らで溜め息を吐く彼女は10年分で2名契約を告げる。

「じゅ、10年でありますか!?」

 今度は受付担当者が声を上げると謝罪した。

「10年でありますと……4万5000アークドル、お二人様で9万アークドルになります」

「それで構わないよ」

 彼女はカーサスの内ポケットから財布を取り出すと迷うことなく渡した。

「それ、俺の!」

「多分足りると思います」

 中には金貨が50枚入っていた。1枚辺り現在2000アークドルの価値がある。

 即ち10万アークドルの価値になる。つまりお釣りが貰えるのだ。

「ご入会頂き、誠に有難う御座います。当店では10年契約の皆様にはこちらのゴールドカードをお渡ししております」

 氏名と拇印を押して発行されたこのカードを持っていると優先的に予約が取れ、全料理の10パーセントが割引かれ、月に一度開かれるゴールド会員のみの無料食事会に招待されるというものだった。

「それでは此方に」

 2階席の最高級席に案内させられた。座席の料金は会費で賄われる。シルバー会員以下は座席料も取られるということだ。


「お決まりになりましたらお申し付け下さい」

 お辞儀をすると受付担当者は去っていく。

 彼女はメニューを開くとカーサスがそれを阻害する。メニューの上から顔を出して、

「俺の金をこんなモンに使いやがって」

 文句を言っていると論破されてしまう。

「キミが持っているとあの子たちに使ってしまうからね。それならボクらに使った方がずっと有意義だよ」

「悪魔、鬼、クズ、人でなし、シスコンめ……ぐがっ!」

 テーブルの下から彼の弁慶の泣き所に蹴りを咬ませる。大声で叫びながら皆の冷たい目線を浴びて漸く静かになった。

「あんな端した金で一体何人の子が救えるんだ。例え多くても全員は救えない。やるだけ無駄とは言わないが無謀だよ。ボクこれね」

 ミネストローネが付いたサウザンド・アラザンスコース、300アークドル。

 ぶつくさ文句を垂れ流すカーサスも彼女と同じ料理を選ぶ。合計で550アークドルだ。10アークはサービス料として取られている。


 暫く待っていると小皿に色とりどりのサラダが乗っかった料理が運ばれてきた。

「冬野菜のサーベッジとヤツレダイコン、ニンサンのサラダです」

 ウェイターの話しによるとサーベッジはサザンクロス北西で取れる丸い形をしたキャベツの仲間でシャリシャリとした食感が楽しめるそうだ。

 ヤツレダイコンは見た目こそお世辞にも良いとは言えないが、野菜全体の味を引き締める役割を持つ。

 橙色をしたニンサンは甘味があり、どこか懐かしい匂いを楽しめるものとなっている。

「それにしても少ないな」

「前菜だからね」

 フォークを差して味わいながら戴く彼女と小皿を持ち上げかっこむカーサス。

「足りねぇぞ、次っ!」

 急いで持ってこさせるが暫し時間を要した。その(かん)、10分。

「遅い!」

 イライラしつつウェイターが運んできた料理を見るなり奪い取って食べようとする。

「これは?」

 ヴィクトリアが気にせず解説を求める。

「こ、此方はガリア高地のミネラルを豊富に含んだワインテッレ産のトマトをじっくり煮込ませて作った当店料理長の直伝、ミネストローネです」

 そして各国から秘伝のスパイスを集め研究を重ね出来上がった味わいを楽しむように説明された。そう言ってる間にカーサスは半分ほど飲み込んでいる。

 音を立てずにスプーンで掬うヴィクトリア。口元へ持ってくる間にオニオンの香ばしい薫りがする。

「良い匂い」

「玉ねぎの匂いだな、ごきゅごきゅっ」

 彼女は口の中へ入れ味を楽しんだ。しかし次の瞬間に涙を零してしまった。


 ウェイターは動揺しカーサスも何が起こったのか取り乱していた。

「大丈夫。なんだか、懐かしい味で……。すみませんが料理長をお呼び頂けませんか?」

「畏まりました」

 お辞儀をして厨房へ向かう。

 カーサスは泣いた理由を聞いている。

「分からない? もう一度味わって飲んでみて」

「お、おう」

 しかし彼の舌は違いをも判断できない。と思いきや顔を曇らせ一言呟いた。

「かなり昔に飲んだことがあるような……」

「ガリア高地のミネラル、ワインテッレのトマト、そしてミネストローネ」

「ミレイ……ミレイ・コロッセウスが作ってくれたミネストローネの味だ!」

 彼女は頷いた。ということは少なくとも彼女の子孫が代々受け継いできたこととなる。料理長の直伝だということも頷ける。

「あぁ、あいつの味だ。思い出したぞ。懐かしいなぁ」

 ごきゅごきゅと飲み干してしまったところに料理長がやってきた。童顔でまだ若い女性だ。

「アラザンスの料理長、リリー・リントンだ」

「このミネストローネ、味わい深く大変美味しかったです」

「ありがとうこざいます。それでは」

 無愛想にお礼を言い立ち去ろうとすると彼女はひとつ質問をしたいと願い出る。

「なんでしょうか」

「単刀直入に言います。このミネストローネはミレイ・コロッセウス……」

 彼女が質問をしている最中に1階の店内入口に近い女性客が悲鳴を上げた。そして次に自動小銃が5、6発ほど店中に轟くと5人組の頭に覆面を付けた男たちが入口に立っていた。


 1階のウェイターが急いで厨房に向かおうとしたが銃撃されて倒れこむ。

「今日は10年契約した客がいるそうだな。そいつらの金を含んだ有り金全部寄越せ」

 ふたりの男が片っ端から1階の客らの金品を根こそぎ剥いでいく。

「敵は5人……いや、もしかしたら外にまだいるかも。ボクが注意を引き付けるからカーサスは危ないようなら狙撃して」

「ラジャ」

 1階の剥ぎ取りが終わると男ふたりが階段を昇り2階へとやってきた。

「行くよ」

 彼女は帯刀していた神風を手に取った瞬間、ウェイターが羽交い締めをしてきた。

「何を!?」

「貴様ッ!」

 男がピストルで彼女を狙うもののカーサスがそれを阻止する。

 彼の銃撃で男のひとりは拳銃を吹き飛ばされた痛みで階段を転げ落ちる。

 一連の対応に1階の客の生命(せいめい)が危ぶまれると感じたヴィクトリアはウェイターのみぞおちに打撃を与えると一瞬隙が生まれる。それを有効活用して振り向き様に彼の股間へ一撃を食らわせる。そして1階へと飛び降りた。

「かかってこいや」

 カーサスは挑発しもうひとりの男はたじろぐ。

「食い物の恨みは恐ろしいぞ!」

 急所を外すように男の肩を狙い階段から転落する。すかさず入口の男たちに銃口を向ける。

 ヴィクトリアは杖を取り出すとテーブルに並べられたナイフやフォークに浮遊魔法を掛ける。そして男たちの衣服を貫かせ壁へ突き刺した。

 身動き出来ない男たちは罵声を飛ばし、怒りが込み上げていた。その内のひとりが隠しベルトに仕込んでいた銃で彼女を撃つ。

「大丈夫か!?」

「なん……とかね」

 危うく撃ち殺されるところだった。

 カーサスは銃撃した男に制裁を加えた後、全員をパンツ一丁にすると天井に縛り上げた。

「間もなく警官隊が到着します」

 銃撃されたウェイターが息を途切れ途切れに伝えてきた。彼はカーサスに応急処置を施してもらう。


 やがて警官隊が到着し、警部が事情聴取をすべくふたりを呼んだ。

「つまり、君たちが犯人をけちょんけちょんにしたということか」

 これに天晴れな気持ちを示す彼は表彰状を贈りたいと申し出るが断った。それよりも代わりにタダで料理を食べさせてほしいと願い出る。

「花より団子、良いでしょう。主人、構わないか?」

「えぇ、そりゃ店を救ってくれた恩人に恩返しするのは当然ですから」

 アラザンスの主人は料理長のリリーに振る舞うことを伝えた。

 漸く食事の続きが出来ると思いカーサスは喜んでいると突然ヴィクトリアを呼び止める男が現れた。

「ヴィクトリアさん、ですよね?」

 その男は白人の中年男性でライオンのタテガミのような髪型をしていた。髪の色は黒で瞳の色は青だった。

「ホワイトさん?」

「ヴィクトリアさん、こんなところで会えるとは長生きするもんだ」


 警部を差し置いて席に移動した3人は料理が到着するまでの間ホワイトという男と積もりに積もった話を楽しむことにした。

「で、こいつは誰なんだ」

 カーサスが馴々しい男に不満げだ。彼は咳払いをして謝罪する。

「ワシはブラック・ホワイト。アークファミリアの従家のひとりだよ」

「アークファミリアの従家ぇ!?」

 従家とはアークファミリアに仕える謂わば執事や家政婦のような存在だ。彼はその中でも特にヴィクトリアの兄アークたちとの関わりがある。

「んでよ、なんでこんなとこにいンだよ」

「実は……」

 重苦しい空気になりふたりは息を飲む。

「実は?」

 まさか本家で何か重要な事態が起きてしまったのではないだろうか。ヴィクトリアの心臓が高鳴る。

「――実は……、このサザンクロス共和国の首相に立候補しようと思ってやってきたんだ」

 盛大にずっこけるふたりはよろよろと席に座る。だがヴィクトリアは胸を撫で下ろしていた。


 彼はアークから従家の仕事を休むように言われて外の世界へやってきたのだ。それが約40年前で、サザンクロスに定住したのは10年前らしい。

 そこで彼は首相という職に興味を持ち、立候補を決意し現在活動中とのこと。

「ホワイトさんが首相ね。良いんじゃないかな」

「そう言って頂けると有難いです」

 カーサスは幾つか疑問を覚える。

 第一に戸籍はどうなっているのか。第二に首相となるべき知識はあるのか。第三にアークファミリアの従家ということは不老不死、問題はないのか、という点だ。

「ホワイトさんは知識も豊富で覚えたものは絶対に忘れない記憶力を持っているんだ。それに戸籍とか偽造すれは良いしね」

 色々ブラックなことを言っている気がしたカーサスくんであった。

「でも仮に当選して、10年20年政治やって姿形が変わらなかったら不自然じゃないのか?」

「はっはっはっ。ワシは8年までしかやらないつもりだよ。そして100年200年経ったらまた立候補するさ」

「不老不死万歳だな」

 カーサスが水を口にしているとヴィクトリアが左肩を気にしていた。不思議に思った彼が訊ねると焦ったようになんでもないと答える。

「ちょっと見せてみろ」

「だ、大丈夫だって」

 すると彼女の左腕に血が滴っていた。辿っていくとやはり左肩だ。先ほどの銃撃で命中した模様だ。

「なんで言わなかった」

「お腹空いたから」

 これに対しふたりは捧腹(ほうふく)する。

「ただお腹が空いたからだけじゃないよ。……ミネストローネも聞きたかったからね」

「ミネストローネ?」

 ホワイトは理由を訊ねる。彼女の代わりにカーサスが治療をしながら説明した。


「――なるほどな。貴女も人間味が溢れてきましたな」

「そうだね。まぁ彼の影響でもあるかな」

「へへーん」

 意味もなく威張る彼は肩をはだけたところ幹部にタオルを巻く。

「勝手に再生すンだろ」

「そうだよ」

「なら出血しないように巻くだけで良いな」

 応急処置を施し終わると手を洗いに行くためふたりはトイレへ向かう。その間にウェイターが料理を持ってきた。

「ふぅぃー」

 用も足したカーサスが戻ってくると並べられた料理に目を輝かせた。

 通常は前菜、スープ、魚料理、肉料理といった順番で流れていくのだが、ホワイトの機転によりコース内の料理を全て出して貰っていた。

「やっとまともな食事に有り付けるぜ!」

「普段君たちは何を食べているんだい」

「最近はソウデ草とかラビット肉とかだったぜ」

 ボイルされたぷりぷりの海老を頬張る。

 コース内の料理は一人前だったがお詫びもあり、10人前で並んでいた。

「あっ、もう食べてる」

 戻ってきたヴィクトリアは遅れを取り返さんとする。一方でホワイトは上品に一人前のコースを頂いていた。

「やっぱりミレイの作ったミネストローネに似てる。少しアレンジが加えられているけれど味は変わってない」

 再びウェイターに無理を言って料理長のリリーを連れてくるよう申し願う。


「お連れいたしました」

「これ、めっちゃウマいぜ!」

 手と口元と頬を汚しながらカーサスが叫ぶ。

 リリーは溜め息を吐き怒るのかと思いきや、

「この度は、当店を守って頂きまして誠に有難う御座います」

 深々と頭を下げお礼をふたりに告げる。先程とは打って変わっての豹変ぶりにふたりは顔を合わす。

「アタシの料理で宜しければ、沢山食べていって下さい」

「もちろんだせ!!!」

 勢い良くがっつく彼を脇に置いてヴィクトリアは聞きたかった質問をぶつける。

「さっき言えなかったことを訊ねます」

「はい?」

「このミネストローネ……、ミレイ・コロッセウスのものですよね」

 彼女の表情が一変する。ひどく驚いているようだ。

「な、何故……何故、それを?」

「ちょっと訳がありまして」

「あなた、ルシアンの使いね。アタシはどこにも行かない。……ここが故郷なの」

 声を荒げて取り乱しているため皆は宥める。しかし手を振り払い臨戦の態勢を取る。

「お、落ち着いて」

「それでアタシを誘惑する気ね。そうは行かないわ」

「何やっとんじゃい!」

 ウェイターが読んだのか店の奥から主人が包丁を片手に持って現れた。


 仲介に入り、事情を聞いた彼は少し待つようにヴィクトリアらへ伝える。そして客に閉店することを促し店内には彼女たちだけが残った。

「さぁ、言いたいことがあるならオレたちだけでやろうじゃないか」

「望むところよ。こいつらはね、アタシを連れに来たのよ」

「何の話だよ!」

 蟹を頬張りながらカーサスは間に入る。

 主人は本当かどうかをヴィクトリアに訊く。しかし身に覚えがないということと単なる勘違いだと主張する。だが彼女の勢いは増すばかりだ。

「ミレイ・コロッセウスを知っているなんてルシアンの手先に間違いないわ」

「分かりました。本当のことを話しますので彼女だけとお話させて下さい」

 主人はウェイターや受付担当者、厨房の料理人らと警部や警官隊を追い出した。


「これで良いだろ」

 主人は腕を組みリリーの後ろで椅子に座る。

「あの、主人も……」

「オレはここにいる。リリーに手出ししたそんときゃ、ぶっ殺してやるからな」

「分かりました」

 護衛役というわけだろう。主人の行動にホワイトは感銘を受ける。

「それでは話します」

 彼女は一度深呼吸をしてから語り始める。

「信じてもらえないでしょうけど、ボクとこのカーサスは不老不死なのです」

「えっ……」

 正に信じられないような表情を向けるふたり。

「そして、ミレイ・コロッセウスはボクたちの数少ない親友だった人なんだ」

「そ、そんな話……信じられる分けないわ」

 確かに信じられるはずもなかろう。それを証明する手立ては彼女の話を信じるしかないが事実なのだ。

「突然のことで申し訳ありません。でも、あなたの作ったミネストローネがミレイの作ってくれたものに似ていたものでつい訊いてしまいました」

 カーサスも頷く。懐かしい薫りと味に心が穏やかになる気がしたのだ。


「アタシは信じない……あんたたちが不老不死だってことも、ミレイ・コロッセウスの知り合いだってことも」

 するとヴィクトリアは剣を目の前に差し出した。

「これはミレイたちから貰った大切な剣、神風だ。この剣に命を賭けても良い」

 そう言って彼女は剣を抜くと自らの胸に突き刺した。

 鮮血が背中と胸から迸り、その場に倒れ込むヴィクトリア。リリーは口を塞いで震えた。主人は顔を青ざめている。

 カーサスが抱き寄せると息を吹き返して自ら剣を引き抜いた。既に傷口は塞がっておりそのまま納剣する。

「どう? 少なくとも不死身だってことだけ信じてくれた?」

 彼女は無言で頷いた。暫く震えていたが次第に落ち着き、静かに口を開く。

「アタシの本名はリリー・コロッセウス」

 この言葉にヴィクトリアは微笑んだ。

「――コロッセウス家で宮廷料理長をやってた。でも、王位継承とかで嫌になって抜け出した。ルシアンはアタシの政略結婚の相手なんだ」

「そうだったのか」

「今でもアイツはアタシを探してるはず。あそこには戻りたくねぇ。絶対に」

「ボクたちは全く関係ないから安心して」

 彼女は目を閉じて暫く沈黙する。そしてヴィクトリアにこう言った。

「関係ない筈がない。あんたとアタシは時を越えた親友だろ」

 ふたりは互いに握手すると笑い合う。そしてカーサスとも握手を交わした。


「おばあ様が良く読み聞かせてくれていた。コロッセウス家を救った神のことを。名前はヴィクトリア・ギャラクシーって言ってたけど貴女だったのね」

 彼女の家にはヴィクトリアやカーサス、アークファミリアのことを含めたミレイの残した日記や伝記が保存されていたのだ。代々受け継がれて今に至る。

「こうして出会えたことは奇跡に近いわ。ミレイも喜んでいるでしょうね」

 ヴィクトリアは頷いた。きっとどこかで見ているかもしれない。そう思ったのだ。

「さて、良い話を迎えた訳だから宴会の支度をしよう」

 主人が思い切った提案をする。それに皆は賛同するとリリーは自慢の宮廷料理を振る舞った。

 ヴィクトリアも手伝い、カーサスは満足に食す。

「特別サービスだ。222年モノのワインも開けちゃうぞ」

 一杯7000アークドルもする244年前の高級ワインを開けた。因みに星歴222年は丁度、カーサスがトレジャーハンターを目指そうと躍起になっていた頃の年だ。

「ジュリエッテ、懐かしいな」

「そうだね。遠くまで来たよ」

 昔の思い出に耽りながらワインを嗜んだ。

 酒も入り、耐性の弱いカーサスは怒ったり泣いたりして最終的にはパンツ一丁になって眠ってしまった。


「全く……」

 ヴィクトリアが呆れているとホワイトが寄ってくると何やら言いたいことがあるようだ。

「なんでしょうか」

「実はお願いがあるんだ」

「お願い……ですか」

 彼は頷いて話を進める。

「さっき首相に立候補すると言ったじゃないですか。それで良ければ投票日まで護衛してくれないだろうか」

 もちろん報酬は払うと言ってお願いしてきた。特段断る理由もなく、また直ぐに発つわけでもなかったため快く承諾する。

「本当かい。ありがとう。すごく助かる」

 ぶんぶんと握手をすると手始めに報酬の話をする。

「じゃあ、ひとり当たり1日100ドルで」

「そんなに安くて良いのかい」

「お金は食べていくだけあれば足りますから。無ければ作るだけですし」

 神風を手に持ってにやける。賞金首やクエストをして手に入れるのだろう。

「それじゃ契約成立で」

 そしてもうひとつ決まったことがある。

 ホワイトはアラザンスを指定飲食店に決めたのだ。そして永久会員権を取得した。代わりに彼からは毎月4500アークドルを支払う。

 永久会員権の得点は予約なしでも座席を無制限に確保でき、全ての料理を3割引にし、提供される料理及び食材を指定できる権利を所有することだった。

 さらにヴィクトリアとカーサスも永久会員権を無償で手にする。これは会費を払わなくとも料理の代金さえ払えば良いという主人からの温かいプレゼントだった。

「ボクたちまで貰っちゃって本当に良いのでしょうか」

「リリーとの近付きの印とこれからもこいつと仲良くやってほしいというせめてもの願いだ」

「ありがとうございます」

 そして爆睡するカーサスを担いだヴィクトリアはホワイトと共に店を去り、新たな住居となる彼の邸宅へ向かう。

 これから選挙が行われる約40日間は彼と行動をともにし、命を懸けて護衛をするのだ。

 果たして彼は無事首相になれるのか。新たなる出会いはあるのか。

 ふたりの冒険はまだまだ続くのであった。

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