第13話「新魔法省長官、ハーヴィー」
星歴427年4月28日午前15時、コールスマンウィンドウに久々の平穏が訪れた。
魔法省長官、ベネディクトの企みはヴィクトリアたちによって阻止された。
市民たちはマジックマテリアルとデモスムント、それから連邦正規軍に賞賛の言葉を贈る一方で魔法省には抗議と糾弾の声が殺到した。そして残された幹部たちにより、新魔法省は解省されるのであった……。
終戦から凡そ1時間が経った中央広場では退避していたノーモルダスキーニの旗艦、カエルム・フォーチュナーが接舷している。負傷者の救出とヴィクトリアたちの治療に当たるためだ。
彼女たちは特別治療室で処置されることとなり、その間、マジックマテリアルの全権限はハーヴィーに託された。
彼は動ける同志を集め被災者の救助を行う一方、情報の収集を行った。これは混乱の最中、間違った情報が流されないか確認するためである。
彼らが忙しく動いている中、さらに多忙を極める事態が起こる。それは星帝の登場だった。
前述しているが、星帝とは特別な行事意外に顔を出すことは殆どない。しかし事が事だけに国民と全世界に事態を発表しなければならなかった。
さらに重大な話を星帝自ら、ある人物にしようとしていた。ハーヴィーだ。
「ぼ、僕にお話が!?」
心臓が急速に高鳴り始める。体全体が脈打っているかのように錯覚した。
「星帝はあなた方の行いに深く感謝しておられます。是非、会っては頂けませんか?」
「僕でよろしければ……」
早まる鼓動を抑えつつ星帝の待つカエルム・フォーチュナーの特別室に向かう。そこはノーモルダスキーニの自室でもある艦長室だ。
彼はノックを2度行うと室内から入るよう言われ、静かにドアを開けて入室する。
「君がハーヴィーくんだね」
目の前には好青年が笑顔で立っていた。ブロンドの髪に碧色の右目、特徴的だったのは左目に覆う眼帯の存在だ。まるでヴィクトリアのようにも思えた。
「良かった……」
内心、まだ星帝は到着していないのだろうと思っていた。彼は執事のような存在だと思っていたが、それは間違いであると気付かされる。
「私はサンダー・フォン・ライト。4年前から星帝を務めています」
握手を求められるも気付かず、開いた口が塞がらなかった。硬直して挙動が可笑しくなる。
「あ、あな、あなたが、星帝さまでいらっしゃました……か!?」
「驚くことはないでしょう」
しかし驚きを隠せないでいた。自分と大差ない青年だったからだ。
「失礼ですが、おいくつなのでしょうか」
「いくつに見えます?」
ハーヴィーは自分と同い年、つまり24歳ではないかと答えた。だが、惜しいと言われてしまう。
「23歳ですよ」
ハーヴィーとは1個違いだった。4年前から星帝職を務めているとなると19歳には政治の世界にいるということになる。
「お、お若い……ですね」
「ふふふ。見た目はね」
その言葉に引っ掛かった。するとドアを開く音が鳴り、振り向いてみるとアリスが立っていた。
「もう歩き回って大丈夫なのですか!?」
「はい、休んでいるわけにもいきません」
彼女はそのまま彼の横を通り過ぎると星帝の前で立ち止まる。神にとって星帝の存在は一般人のようなものなのだろうかと錯覚する。彼にとっては目前に立っているだけで眩暈が起こりそうだというのに彼女の行動は度肝を抜かれそうだった。
「折角来ているのなら、お姉さまたちにも会っていかれたらどうですか」
「ふぁ!?」
すっとんきょうな声を出してしまうハーヴィー。星帝とアリスの繋がりとは如何に思っていると、
「彼女たちなら大丈夫でしょう。優秀な妹たちだから」
星帝の言葉に一瞬頭の回転が追い付かなかった。妹、つまりヴィクトリアとキャルロットが妹ということは、
「星帝……もしかして、アークファミリアなのですか!?」
信じられないような解釈で恐る恐る訊ねてみた。通常ならば有り得ない、しかし彼がアークファミリアだとすれば全ての説明が出来る。
「私は……そう、僕はアークファミリア8番目のウェーンライトさ」
ハーヴィーは気がおかしくなりそうだった。これまでに3人もの神と対面し、4人目の神を目撃したからだ。彼の運は使い果たしてしまったと言えようか。
「驚いたかい?」
「それは……もう」
驚愕の真実とは裏腹に不思議と親近感が湧いてしまった。三人衆たちと長く居過ぎてしまったためだろうか。
「さて、自己紹介が終わったところで本題に移ろう」
「待って下さいお兄さま」
アリスが止めに入る。彼にはどうしても妹たちと会って話をしてほしいのだ。
「悪いが今は出来ないんだよ」
「何故なのですか!」
膨れっ面の表情を見せる彼女の頭に手を置くと、
「僕は君たちに何もしてやれなかった。会わす顔が無いんだ。だから今はまだ会えない」
優しく撫でてあげる。アリスは俯き、
「それでも会ってほしかったです」
と言い残して部屋を後にする。ハーヴィーも何かを言いたげそうだったが止めることにした。家族間の問題に赤の他人である自分が踏み入れるべきではないと思ったからだ。
「見苦しいところを見せてしまい、すまなかったね」
「いえ……。でも、神様にもこういう人間的な場面があるんですね」
つい失言してしまったと撤回する。しかし彼は頷いた。
「そうだね。神も人間的……じゃなくて神も人間も皆平等ってことかもしれない」
それは神の存在を否定しているのではないかと思った。
「僕たちは神と名乗っているけど、実際は宇宙や星を創って生命を増やしているだけ。どれを神とするかは人間が考えることかもしれない」
彼の言葉は奥が深かった。それ故に理解し難い部分も見受けられる。
次々に話が脱線していることを一度謝ると軌道を戻し、ハーヴィーを呼んだ理由を明かす。
「今回の騒動で新魔法省とベネディクトは魔法界における汚名を世界中へ晒してしまった上に、信用や信頼までを失った」
最早、魔法省の機能は完全に失いつつあるわけだ。
「今の彼らに回復する力など全く残ってはいない」
「その通りですね。真面目に働いていた魔法省職員や衛兵隊の皆さんに申し訳ないですよ」
その言葉にウェーンライトは頷く。彼も同意見なのだ。
しかし、ひとつだけ方法があるという。それは何なのか、ハーヴィーは耳を傾ける。
「マジックマテリアルの存在だ」
「僕たちの、ですか!?」
彼は再び頷いた。彼の考えでは民衆を味方に付けたマジックマテリアルがこの一件の回復に適任だと思ったのだ。
「た、確かに僕たちは魔法省、というよりもベネディクトを倒しました。しかし、実際は政府に楯突いた犯罪者です」
「どうかな。僕の一声があれば、君たちは英雄だ。ヒーローだぞ」
それは職権乱用でないかと肝を冷やす。しかし彼は本気でやりかねない。
「それに聞いた話じゃ、君は長官になりたいのではないかね?」
それは、失ったウズベやカザフの願いでもある。だがここに来て、彼は迷っていた。
自分が長官になって皆を纏められるのだろうか、皆が平和に魔法を使っていけるのだろうかと。
「現職員からは批判が殺到するかもしれない。だが、今後の魔法界と世界平和のためにも、是非とも君とマジックマテリアルにやってもらいたいんだ」
星帝ウェーンライトの頼みに彼は答えを出した。それは、新魔法省長官の誕生を意味する。
星帝による会見と長官の正式な任命式は午後3時に行うことを決めた。今から凡そ12時間後だ。
それまでに彼はマジックマテリアルの皆を説得しなければならない。
彼らの幹部は各役職に配属させるためだ。無論辞退する人もいるだろう。
ハーヴィーの仕事は、たった今始まったばかりなのだ。
ところ変わり、特別治療室ではカーサスが病床で眠るヴィクトリアの看病に当たっていた。隣にはキャルロットが食事をしている。
「あんたも昼ご飯くらい食べたらどうなの」
「今はこいつの面倒がしたいんだ」
「食べられる時に食べないといざって時、動けなくなるわよ」
ジャムをふんだんに塗りたくったトーストを頬張っているとアリスが落ち込んだ様子で病室に入ってきた。あまりにも沈んでいるためカーサスが心配して近寄る。
「何かあったのか?」
「お兄さまが……ウェーンライトお兄さまがお姉さまたちに会ってくれないのです」
彼にはそのウェーンライトが誰であるか分からなかったのだがキャルロットが驚く表情を見せる。彼がいることを知らなかったからである。
「今いるの? この船に?」
頷くアリスの傍らでカーサスは誰なのかを訊ねる。簡単に説明すると逆に此方から会いに行けば良いのではないかと提案する。
「やめといた方が良いとボクは思う」
この言葉に一同が振り向いた。ヴィクトリアが答えたからだ。
「お前、起きていたのか」
「お姉さま、大丈夫なの?」
彼女は頷いて体を起こす。少々疲れているためか顔色が良くない。
「ウェーンライトはみんなに会わせる顔が無いんだと思う」
アリスは彼が言っていたことと同じであると告げる。やはり、という顔を見せるヴィクトリアは笑みを浮かべる。
「会いたきゃ、いつでも会いに行けるよ。ボクはまだあいつとは会いたくないけどね」
カーサスは驚いた。彼に対して名前で呼び、毛嫌いしているようにも見えたからだ。
こっそりとアリスに事情を訊いてみたところ、彼女とウェーンライトは昔から喧嘩ばかりしているらしいが相性は良く、仲が良い時などもあるそうだ。ライバル関係みたいなものだろうか。
「そいつの性格はどんな感じなんだ?」
「ヴィクトリアお姉さまみたいにマイペースだけど猪突猛進のとけろがあって、周りを巻き込む癖があります」
つまり彼女と大差が無いわけだろうか。
「なるほどな」
「何がなるほどなの?」
ヴィクトリアが入ってきた。突然のことで驚くが平常心を装う。
「アリスに何を聞いていたの?」
「今晩の献立だよ。なっ!」
話を合わせるように目配せをする。彼女は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「晩飯は何なの?」
「えーと……何だったっけかなぁ」
アリスにアイコンタクトを送る。代わりに説明してほしいのだ。
「えと、ポマトシチューが良いかなって話してまして……」
ポマトとは、全世界の高山に見られる植物の実だ。ミネラルとビタミンを多く含み、果物のような甘さを兼揃えた野菜である。因みに427年4月現在で100グラムあたり2.99アークドルで取引なされている。
尚、このアーク連邦での通貨はアークドル。相場は日本円にした場合、100円と考えて良い。
話は戻り、今晩の夕食がポマトシチューという話に彼女は意見を唱える。シチューよりカレーライスが良いらしい。
「怪我人の癖して辛れぇモン食うのかよ」
「馬鹿はほっときなさいよ」
キャルロットが苛立った様子で呟いた。余程寒い駄洒落だったようだ。
しかし、これで話の内容を有耶無耶にすることが出来た。アリスに小さくお礼を言うと彼は背伸びをして立ち去ろうとする。
「看病は良いの?」
「目を覚ましたし、元気そうだからな。ちっと休んでくらぁ」
序でに何かほしいものは無いかと皆に訊ねる。キャルロットはお菓子とジュース、アリスは紅茶を所望し、ヴィクトリアは何もいらないことを告げる。
「そうか……、じゃあ行って来る」
彼が部屋を出るとキャルロットが空になった食器を退かして彼女の方を向く。
「お姉さま」
真剣な表情だ。何か聞きたい様子でもある。
「シルヴィアの狙いは何だったんでしょう」
彼はアークファミリアを手に掛けることはなく、結局ベネディクトを倒してから立ち去ってしまった。
皆憔悴しきっており、今こそ狙い目だったはずなのに、なぜ見逃したのか分からなかった。
「それは、彼にもプライドがあったってことかもね」
「あんな奴にプライドなんかあるもんか。今度会ったらぶっ殺してやるわ」
女の子に似合わない言葉を並べていきり立つ。
彼女はシルヴィアと共闘しているときに、その殆どを気絶で過ごして姉を援護どころか危険に晒してしまったことを深く後悔していた。情けない自分に怒りをぶつけている。
「あたしは何もできなかった。お姉さまにもあいつにも」
「私も力になれなかったです……」
アリスがふたりに駆け寄る。胸に手を当て俯いていた。
「みんな、やるだけのことはやったから良いんじゃない。私だって何も出来なかったもの」
ヴィクトリアが優しく声を掛けると痛みを無理して両手を広げ、ふたりを抱き寄せる。
「お姉さま……」
ふたりもまた抱き締めると痛かったのか彼女の体がピクッと痙攣した。
「痛いけど嬉しいから。こうして会えて、また話せて、生きているのだから」
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星歴427年4月28日午後3時、星廳跡地に特設された式場では多くの人だかりが出来ていた。
辺り一帯は依然として連邦正規軍による救出作業が行われている。
場内は世界各国から訪れたラジオ放送局や地元の新聞記者でごった返していた。
会場では騒めく人々を静粛させる男によって漸く静けさを取り戻す。僅かに復旧作業中の音があちらこちらから聞こえるが騒めく人々に比べれば何の問題もない。
そして、別の男が場内中央に設けられた壇上へと上がって行く。次官のボウエルスキーだ。
彼は壇上にある机の上のはみ出るように置かれたマイクのひとつを突く。音が入っているかを確認していたのだ。
「どうやら入っているようだな」
彼は確認を終えると咳払いをして内ポケットから文書を取り出した。
「えー、これから緊急記者会見を執り行います」
記者らは質問がしたくてたまらない様子だが、質疑応答はおあずけとなる。
「先ず、星廳広報部長からお詫びとお知らせを話して頂きます」
場所を入れ替わり部長が壇上に上る。一礼をすると記者らは耳を傾け、放送局員はマイクの電源を入れる。
「この度、新魔法省の組織的陰謀により全世界の治安を脅かしてしまったことを我々星廳が代わりまして、お詫び申し上げます」
深々と頭を下げるやいなや、記者らは一斉にカメラのシャッターを切る。フラッシュが花火のように光り輝く。
「えー、首謀者は新魔法省長官のジョー・ベネディクトでありまして、私利私欲のために全世界の人々から魔力を封印する魔法を掛け、そして世界を我がモノにしようと企んでいたということであります」
この発言に記者らがマシンガンのごとく詰問する。
「魔力消失は防ぐことが出来なかったのですか?」
「実は星廳も魔法省の企みに加担していたのではないのか?」
「納税した金は戻ってくるのか?」
などといった質問が飛び交った。中でも石人形やベネディクトの不死身の件も挙げられていた。
無論一つ一つに答える時間も無いため、部長は静粛にするよう唱える。だが記者団はまるで駄々を捏ねる子供のようにマシンガントークで質問を続けていた。
「あの石人形は星廰の秘密兵器なんでしょう」
「この世に不死身は実在するんでしょうか」
「おい、答えやがれ! 無能廰!」
終には暴言を吐露する人々も出た他、暴れ回る人物らが衛兵に取り押さえられる場面も見られた。
会場が戦場の前線にあるかのごとく、一時は騒然となったものの、ある青年が壇上に上がったことで落ち着きを取り戻していった。そして記者らは口々に呟く。
「あの若い男は何者だ」
「星廰にあんな奴いたか?」
「多分新米が収拾を着かせるために幹部らが上がらせたんだろ」
だがハーヴィーは知っていた。彼が誰であるかということを。
壇上に上がった青年は咳払いをして挨拶をする。
「全世界の皆さん、こんにちは。サンダー・フォン・ライトと申します。星帝をしております」
突然の発言に記者団はカメラのシャッターを一斉に切り始める。凄まじい音が会場内に鳴り響くとともに再び騒めき出した。多くの人が初めて謁見する星帝の姿だからだ。
さらに彼はとんでもない発言をした。
「先の戦いによってベネディクトは不死身だということが分かりました。しかしご安心下さい。我らの敬う神々、アークファミリアが葬って下さいました」
どういうつもりだと、幹部の人々も動揺を隠せないでいた。それは会場内にいる記者団らも同じことだ。
突然の言葉に信じらずにいる者が多数存在する中でひとりの少女が大きな声で手を挙げた。彼は彼女を指名する。
「証明できるものは有りますか?」
率直な質問に周りも便乗する。
確かに証明さえ出来れば皆は信じるだろう。しかし、アークファミリアは神話だと信じる者が多い昨今。この質問は愚問に過ぎない。
「それでは今から雨と風、そして雷を呼び起こして貰いましょう」
彼は壇上で奇人のような舞を披露すると突然に風雨と雷が会場を襲った。
「お次は晴れ晴れとした天気を!」
まるで宴会芸のように次々と繰り出される謎の現象に狂った人々を歓喜して神を崇め始める。洗脳とは恐ろしいものだ。
納得の行かない少女と大多数の記者らは話の途中で去ろうとする星帝に向かって抗議をしていた。するとウェーンライトは去り際に一言を添える。
「これから新魔法省の長官が壇上に上がりますので拍手をお願いします」
彼はそう言い残すとハーヴィーにバトンタッチをした。ふたりは何かを話して頷き合うと別れる。
壇上へ上がると会場が一気にブーイングの嵐となる。
理由は簡単だ。今までの魔法省にいた人間だと誤解されているからだ。
「こんにちは皆さん。新魔法省の新しい長官となりました、ショーン・マイティ・ハーヴィーです」
場内は激しいブーイングと者の投げ込みが相次ぎ、魔法省の衛兵らが魔法障壁を展開して防護する措置が取られた。その中でも懸命に彼は話を進めていく。
「実は私、元は魔法省の人間ではありません」
この言葉から少数だったが耳を傾け聞き始める。
「私はマジックマテリアルのリーダーです」
一枚、また一枚とシャッター音が場内に響き渡ると厚い掌返しが彼を待っていた。会場は歓喜の渦に包まれていたのだ。
「救世主マジックマテリアルのリーダー、ハーヴィー氏。新魔法省長官に任命」
口々に記者らが呼称すると記事にしようと話の続きをせがむ。
「私はアークファミリアのひとり、スコーピオのヴィクトリアさんと共に不死身の悪魔、ベネディクトを討伐しました。敵は強かった。多くの味方が犠牲になりました」
彼は淡々と先の出来事を皆へ簡潔に説明していく。
「私の友人も殺されました。しかし残された戦友と戦い、彼女たちアークファミリアの協力により我々は勝利することができました」
星帝の言ったことは本当だったのかと思い始める人々も増える中、やはり未だ信じられずに首を傾げる人もいた。
「信じて頂ける方、まだ納得出来ない方、いらっしゃると思います。しかし私は魔法省長官として皆様にお約束致します」
会場内の関心が一斉に彼へと集中する。
「全世界の皆様が分け隔てなく魔法をお使いになれますよう、魔法省認定の学校の設立と新制度『魔法等級制度』を導入致します」
記者団らの関心はベネディクトやアークファミリアから魔法学校や新制度へ集中する。マスコミは新しいものがお好きなようだ。彼らは売れるものしか取材しない身勝手な連中とも言えようか。
ハーヴィーは新制度の方を説明し始めた。
「現在、魔法等級制度の内容をアークファミリアと魔法省職員の間で決めております」
主な内容としては次の通りに決まる予定であった。
魔法を各等級に分配し、学級編成や就職へのプラスとした目的に利用する他、自身のスキルアップに用いるために制定するというものらしい。
但し、“魔法使い”という称号が与えられる等級はSSS、SS、S、Aから始まりFで終わるまでの間だけである。G以降のSを除いたUまでの等級は“魔法習得者”、つまり魔法使いになる一歩手前の見習いということだ。
また、U以降のVからYまでの等級を“魔法修得者”と定めるという。こちらは修了過程まであと僅か、つまり見習い魔法使いまであと少しの状態である。
そしてY以降の等級のZは“不適合魔法使い”とされる。こちらは完全に魔法が使えない人を差すため大半の人々はY以上が与えられるとされる。
これらを含めた新制度に疑問がある中、最も多く寄せられた疑問は、
「どうやって受けるんだ」
「金は?」
「等級毎に試験があるのか?」
やはり試験の有無や金銭的なものだった。
これに対してハーヴィーは次のように述べる。
「等級毎に試験はありますが、無料でお受けできます。試験の開催は国立魔法学校で行います。若しくは参加者が多い場合は魔法省の職員を派遣して開催することも今後考えています」
思い切った行動にこれならば社会の関心が高まりそうだと皆口々に言い合っていた。
「無論、魔法学校のない学校でも魔法科を設立し、学級編成を行っていくとともに就職活動でも有利に立てるよう科学省と共同して行きたいと思います」
科学省までも味方に付けようとしていることに驚かされる。
「彼は本気かもしれない」
「今まで魔法は単なる人を脅す道具に過ぎなかった」
「でも世の為、人の為、自分の将来の為にもなるんだ」
記者団らの多くが大歓声で迎える。未だ受け入れられないものもいたが、それでも9割の人々がハーヴィーと新魔法省の名を連呼する。
「ありがとう。本当にありがとう。我々は精一杯の努力をし、皆様の期待に答えられるよう尽力いたします。どうかよろしくお願いします!」
この時が一番の盛り上がりを見せた。メモ用紙を細かく切り刻み、それを紙吹雪に見立てたものが中空を舞う。
星帝が再び壇上に上がるとシャッター音が三度音を立てる。
「私は彼らの努力を見守るとともに、これからも人々の前に現れることを宣言いたします」
拍手喝采が沸き起こる。会場は祝賀ムードになっていたがハーヴィーは静粛にするよう皆をまとめる。
「皆さん、お静かに。我々がひとつに団結したところで散っていった戦士たちに哀悼の意を込めて黙祷をしたいと思います」
「黙祷!」
ウェーンライトの声で皆は黙祷を捧げる。中には写真撮影をする人々もいたが怒りはしなかった。彼らも仕事でやっているのだ。黙祷などする理由が無いのだ。
3分ほど黙祷が捧げられるとハーヴィーは感謝して壇上を去る。星帝も去り、緊急記者会見が終わったことを告げられ、各社は一斉に記事に起こそうと社へ戻る人々でごった返していた。
やるべきことはやった、そう心に言い聞かすハーヴィーはウェーンライトと共にヴィクトリアたちの病室を訪れる。
「ヴィクトリアさん、ご無事で」
「聞いたよ。ハーヴィーさん、ボクの手柄じゃなくて君たちマジックマテリアルの物じゃないか」
しかし首を横に振ると、
「あなた方いなければ我々は魔力を失っていた。ヴィクトリアさん、キャルロットさん、アリスさん、本当にありがとう」
彼女たちは顔を赤くして照れ隠しに一言物申す。
「あ、あたしもこれから僅かだけどあなたに協力したげるから」
「私もです」
ふたりの協力に再び感謝する彼は思い立った様子で脇に挟んでいた書類をヴィクトリアに渡す。
「ノーモルダスキーニさんからあなたにと」
「戦死者リストね。さっき頼んだの」
目を通しておきたかったのか彼女はひとりひとりの名前を小さく読み上げる。
「ニュルベルク・テデスコ、ノート・イエスト、バリー・アンデルセン……」
分かりやすいよう苗字から先に書かれていた。
「ビリー・ジョン、ベルメース・トメ……っ!?」
トメの名を読み上げたと同時に凍り付いた。
「ベルメース? トメ・ベルメース!?」
彼女の心臓が突然唸る。
「ハーヴィーさん、トメさんの出身地は?」
「そこに書いてないですか?」
「あぁ本当だ」
彼女の出身地はロドリゲス自由国となっていた。
「そんな、まさか……」
ヴィクトリアは落胆したのだった。




