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The ARK  作者: にゃらふぃ
第2章 囚われの英雄
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第12話「共闘」

 新魔法省の長官、ジョー・ベネディクトはアークファミリアであり不老不死のヴィクトリアの血を欲し、それを手に入れた。そして彼は不死身の身体を得る。

 ビル100階にも相当するゴーレムを作り出し、今彼はファーディナントとともにヴィクトリアたちを脅かす存在となっているのだった。

()け」

 ベネディクトの合図とともに石人形は右腕を地上にいたカーサスたちへ翳す。そして腕の一部が分離すると高速で飛んできた。

『防御魔法、発動』

 スピリットアローとベスラが地面から何層にも及ぶ巨大な壁を形成させる。腕の一部は防壁に命中すると速度を落としやがて停止した。

「また来るぞ!」

 左腕を翳して再び攻撃を行う。再度防壁を生成させるものの威力が落ち切らずあわや命中するところだった。あと数メートル避けるのが遅ければふたりは潰れていた。

「また来た!」

 しかし魔法を展開させる時間が無い。死を覚悟する彼らだったが寸でのところでヴィクトリアが方向を変えて大事にはいたらなかった。しかしながら公衆トイレが破壊されてしまい、催してしまった場合はどうすることも出来ない。

「助かった……」

 彼女は防壁の上に立つと奴らを睨む。構わず攻撃を続ける石人形だったがどういうわけか全く見当違いなところに腕を飛ばしていた。

「風だ……、ヴィクトリア殿は属性魔法で攻撃を逸らしているんだ」

「助かる」

 ただ神以外の戦力は十分に足りているとは思えなかった。攻撃が通らない。即ち無力に等しいのだ。

「どうやって倒すんだよ……」

 小さくカーサスが呟いた。皆も同意見だ。さらにヴィクトリアでさえも不十分だと感じている。

「お姉さま、私に魔力を!」

 上空から彼女の横に降り立つキャルロットが言った。

「私の魔法でゴーレムを破壊し、アリスがコアを叩きます」

 それには力が必要だった。彼女以外、つまりハーヴィーたちの魔力を必要としていたのだ。

「分かった。ボクが集めるから詠唱しておいて」

 彼女は皆に事情を話すため防壁から地面へと降りる。その間にも石人形からの攻撃は続くがアリスによって守られている。


「――ということなんだ」

「つまり、魔力をヴィクトリアさんに提供すれば良いんですね」

 彼女は頷いた。そして皆は両手を翳し意識を集中するため大きな深呼吸をする。

『魔力提供、発動』

 彼の掛け声とともに皆の身体は白い光に包まれると両手から白銀の光線がヴィクトリアの身体へと流れていく。その光は人によって大きく異なっていた。

 中でもスピリットアローの光線は輝いており、これは魔力が如何に大きいかを窺える。

自我奥義(じがおくぎ)神雷(しんらい)の舞、発動!』

 キャルロットは両手を天に向ける。すかさずヴィクトリアは彼女に向かって溜め込んでいた魔力を解き放つ。

「ぐっ……」

 閃光に包まれるキャルロット。そして次の瞬間、天空から凄まじい轟音とともに金色に輝いた雷が石人形の頭部に命中するや木っ端微塵に爆砕する。

「アリス!」

「はい!」

 吹き飛んだ石人形の中に碧く光る玉のようなものが他の岩石とともに崩落しているのが見えた。これが石人形のコアである。

『自我奥義、雨雨降降(あめあめふれふれ)、発動!』

 上空でくの字に身体を曲げながら唱えると雲ひとつ無い晴天にもかかわらず雨が降ってきた。しかも次第に激しさを増していく。

「晴れているのに凄い雨だ」

 乾いた地面に雨粒が落ち、墜落し燃え盛っていた飛行船や建物の火は鎮火する。

 石人形のコアは雨に降られヒビが入ると粉々に割れて散っていく。上空から雨とともに降り注ぐ岩石は新魔法省を中心に被害をもたらした。


「やったぞ!」

「やった……」

 だが予想外の事態に陥ってしまっていた。

 ハーヴィーたちは魔力を殆ど使い切っていたのだ。唯一スピリットアローとノーモルダスキーニのふたりだけが僅かながらも魔力を残している状況である。

「すみません、これでは奴を足止めできません」

 しかし彼女は優しく休んでいるよう皆に気を遣う。十分過ぎるほど役に立ってくれたからだ。

 お陰で石人形を破壊でき、少なくとも民家に大打撃を与えることはない。はずである。


「ふっふっふっ」

 崩壊寸前の新魔法省から笑い声が聞こえる。奴だ。ベネディクトだ。

「流石は神。だが、私は永久に不滅だ!」

 大声で叫ぶと新魔法省の建物が跡形もなく吹き飛んだ。そして何やら暗黒の生気に奴が包まれながら現れる。

「なんだあれは……」

 その姿は魔族にも見える。

 ベスラは言葉を失った。奴は魔族の中でも高位にあたるトイフェル族という。

「わたしらトライマノイドよりも遥かに高い、雲の上の存在だ」

「何故今まで気付かなかったんだ」

 それには理由があった。トイフェル族は人間に近い魔族だという。無論、人間ではない。

「奴に勝てるわけが無かったんだ」

「逆を言えば、ここまで持ち堪えたことが奇跡に等しいかも」

 皆は口々に言い合っているとヴィクトリアが鼓舞する。

「ここまで来れたのは、みんなの力と絆があったからこそ。絶対に倒せるよ!」

 だが状況は芳しくない。ここに来てキャルロットが脇腹を抱えて謝る。

「力、使い過ぎちゃった」

 防壁の上でよろけるとそのまま滑落してしまう。幸いにもヴィクトリアが地面へ衝突する前にキャッチをして怪我はなかったが意識を失っていた。

「これで封印魔法が使えなくなったか……」

 予想だにしない事態に彼女は息を吐く。すると突然、心臓が一度大きく拍出した。何かを感じたのだ。

「こ……この気配……」

 覚えがある。忘れられない憎悪に満ちた生気を感じる。


「神ともあろう者が、最弱魔族1匹に対しててこずっているとは……憐れだな」

 ヴィクトリアたちの背後から現れる青年にカーサスとノーモルダスキーニが震えた声を上げる。

「お前……シルヴィア!?」

 腰には神をも殺すことの出来る神剣、ジェノサイドが朝日によって光り輝いている。

 彼はふたりの前を通り過ぎるとあまりの気迫と殺気によって茫然と立ち尽くすハーヴィーたちの前で止まる。キャルロットをそっと地面へ下ろしたヴィクトリアは彼らの前に立ちはだかった。

「この人たちを殺すならボクを倒してからだ」

 表情を一変させた彼女はいつでも神風を抜けるように手を添える。

「ふっ……」

 彼は冷たい表情を見せながら笑みを浮かべる。不気味な光景に誰もがベネディクトの存在を忘れてしまうほどだ。しかしアリスの一声で思い出す。

「お姉さまが危ない!」

 奴は地面に横たわるキャルロットに向け闇の魔術、シャドウアロウという攻撃を行った。食らってしまえば闇の世界へ引きずり込まれてしまう。

「くっ……」

 今ここを離れてしまえば関係の無いハーヴィーたちが殺されてしまうかもしれない。かといってキャルロットを見捨てるわけにも行かなかった。

 アリスは上空にいて駆け付けようにも間に合わない。カーサスは何を考えているのか分からないため使い物にならない。

「……っ」

 どちらを取るか。彼女は僅かな時間の中で苦悩する。

「情けない」

 彼女の前に立っていたシルヴィアが神剣に忽然と姿を消す。気が付くと神剣に手を掛けてキャルロットの方へと急接近していた。

「危ない!」

 このままでは大事な妹が彼の手によって殺されてしまう。そう思った彼女は自然に彼らの前から遠ざかると自身に移動魔法を掛けて俊敏性を上げる。

「させるものかっ!」

 神風を片手に彼の注意を逸らしつつ、もう片方の手で杖を持ちベネディクトかの攻撃を防いだ。この一連の行動にハーヴィーたちは称賛していた。


「やれば出来るじゃないか」

「っ?」

 シルヴィアの言葉を理解できなかった彼女はキャルロットを抱えたまま交戦しようとする。アリスも到着すると杖を構える。

 彼の眼は冷たくふたりを見下している。そんな時だ。

「貴方がシルヴィア殿ですか。堕落民族の長ですね」

 ベネディクトが近付き挨拶をしてきた。奴は彼を恐れることもなければ敵視しているわけでもないようだ。


「シルヴィア殿、今やそこの3人のアークファミリアを倒す絶好の機会でありますぞ」

「くっ……」

 ヴィクトリアが奴を睨む。この状況下で彼が敵に加勢すれば圧倒的な不利になること間違いなしだ。

「私は神という肩書きに興味はない。不老不死となった今、唯一の望みはこの血を分けてくれたヴィクトリアの殺害だけだ」

 指を差して言い切った。彼女は拳を握り締め己の無力さに怒りをぶつける。

「さぁ、シルヴィア殿。共に闘おうではないか……」

 大きく両手を上げると同時に奴の左腕が中空を舞う。そして鮮血がスプリンクラーのように飛沫する。

「うがぁぁぁ……な、なぜだぁッ!?」

 奴の腕を斬り落としたのはシルヴィアだ。手には神剣が握られている。

「な、なぜ私を……。利害は一致している筈だ……」

「確かに。私はヴィクトリアを殺したい。だがお前みたいな下等な種族に指図される覚えはない」

「か、下等な……?」

 左腕を押さえながら奴は後退りをするとファーディナントが剣を構えて立ちはだかる。その間にベネディクトは再生を行った。


「ヴィクトリア、私はお前を殺す。だがそれは私自身の考えで殺すのだ。こいつの考えではない」

 キャルロットをアリスに預けると彼女は皆に下がっているよう伝える。そして彼の隣に立つと神風を構えた。

「ボクだってそれを返してもらわないと。キミを殺せないからね」

 一触即発の状態だが、今は違う意味のようだ。ふたりは互いに顔を合わせると小さく頷き奴の元へと走りだす。

 途中ファーディナントが阻止を狙い防御魔法を発動させたが難なく突破。次に幾つかのトラップを発動させるもこれを掻い潜ったふたりは彼に捕縛魔法を同時発動し拘束した。

「分かっていたさ」

 事前に掛けられると予測していたために解除魔法を仕込んでいた。ところが遠くからそれを解除する魔法が飛んでくる。スピリットアローの一打だ。

 思いがけない攻撃に彼は身動きも取れずヴィクトリアに両足を、シルヴィアに首を撥ねられて絶命する。


「やったぞ!」

「あとは奴だけだ!」

 歓喜の声を上げるハーヴィーたちに魔の手が差し伸びる。奴のシャドウカタパルタによる攻撃だ。

 シャドウアロウと同じく、闇の世界へ引きずり込む無数の闇矢(やみや)が上空から降ってくる。当たれば一溜まりもない。

「うっ……」

 キャルロットが目を覚ます。空から降り注ぐ闇矢に彼女は聖霊を呼ぶ。

「サンダー、光を」

「お任せ下さい、ご主人様」

 執事服を着た長身の青年は彼女の聖霊、(サンダー)である。外見年齢は25歳と差は10歳も離れている。

「電気よ集まれ。我を発光せよ!」

 みるみる内に彼の体が光を放ち始める。朝日とは違った眩しさで闇矢は蒸発して消えていく。

「闇の魔術は光属性に弱い。僕の(いなづま)は光にもかえられるのです」

 サンダーは絶命すると元の身体に戻っていく。長時間の発光は出来ないらしい。

「流石は自慢の妹だ」

 ヴィクトリアがほっと胸を撫で下ろす。シルヴィアは惜しいとでも思っているのだろうか彼女は様子を窺っていた。

「さぁ、行くぞ。と言っても私に付いてこれるかな?」

 彼の物言いにカチンと来た。

「ナメないでよ」

 彼に遅れを取らせるものかと気合いを入れる。その瞬間、既に彼は奴の間合いに入っていた。

「行かせるか!」

 後を追い、自らも奴に接近していく。

「シルヴィア殿、貴様は誇りが無いのか」

「何の埃だ。そんなに汚れているか?」

「くぅっ……」

 彼の剣捌きは鮮やかなもので奴の避けたところへ必ず一打は食らわせるようになっていた。

「ふぐっ……」

 右腕を叩き斬られ、ヴィクトリアの一撃が腹部に命中する間に腕が再生される。しかし今度は右腕を斬られ、彼女の一撃は両足を吹き飛ばす。

「いい加減に止めを刺すなら刺せよ」

 遊んでいるかのように振る舞い続ける彼に怒った。しかし(とぼ)ける彼に苛立ちを覚える。


「いや、お前がトドメを刺してくれると思ってな」

 神剣をちらつかせ笑みを浮かべた。彼女はさらに苛立ち、

「だったら返せ。ジェノサイドを」

 取り返そうと彼に近付いた時だ。奴の通常攻撃を右肩に食らって神経を断裂してしまう。

「くっ……」

 手の握力が効かず神風を地面に落とす。左手で拾い上げようと屈んだ瞬間だ。

 今度はシルヴィアの一撃が自らの胸に食らう。

「カハッ……」

 剣で心臓を刺され拍出する度に夥しい血液が吹き出した。

「貴様……」

「邪魔だ。そこで見ていろ」

 良く見ると彼が手に持っていたのは神剣でなく短剣だった。つまり彼女は神剣で刺されたわけではない。しかしながら流石の彼女も循環器を損傷されてしまえばまともに動けるはずもなかった。


「くっそ……」

 あっという間に地面は血の水溜まりができ、ヴィクトリアの心臓は弱まっていく。彼女が死ぬ前にアリスは駆け寄ると治癒魔法を掛けてくれた。

「あり…が、とう」

 心拍数は13回、危うく命を落とす寸前で生き長らえることが出来た。

 彼女の服は既に全身が真っ赤に染まり、髪の毛も血がこびり付いていた。

「キャルロット……は?」

「ノーモルダスキーニさんに預けました。だいぶ弱っていますが大丈夫です」

 心配して駆け付けてくれた彼女の頭をヴィクトリアは優しく撫でると大粒の涙を流す。

「シルヴィアさんに殺されたかと……思いましたよ」

「ボクも一瞬、そう思ったよ。でも、意外と頼りがいがある奴かも」

 ふたりが細々と会話をしている間にどうやら決着が付いたようだ。


 断末魔が一帯に聞こえると皆は一斉にシルヴィアとベネディクトを凝視する。奴は神剣で両手足を切断され、身動きが取れなくなったところで心臓を突き刺され、そして首を跳ねられ絶命した。

 神を殺害するときも同じ方法で行う。因みに両手足の切断はしなくても良い。

 先ず心臓を刺し、機能を停止させてから最後に首を撥ねる。この手順を神剣、ジェノサイドで行えば神は死ぬのだ。


 シルヴィアは神剣を持ったまま横になるヴィクトリアと介抱するアリスへ近付いた。

「さ、させません……お姉さまを殺させはしません!」

 彼女は振り向いて姉の前に立ちはだかると両手を広げて庇う。

 彼はアリスの心臓目がけて剣を刺す。ヴィクトリアは目を見開き、

「やめろぉぉぉっ!」

 叫び声を上げた。しかしどうしたことだろう。彼女は血飛沫が出ることもなければ次の一手が来ることもなかった。

 それもそのはず、アリスの胸の数センチ手前で剣先が止まっていたからだ。彼女は殺されるかと思い、心臓が早鐘のように鼓動して僅かながら胸を上下させていた。

「それだけの元気があればまた()れるだろう」

 彼はそう呟き剣を納める。そしてその場から去ろうとする。

「ありがとう……ございました」

 声を震わせながらアリスは精一杯の気持ちを声に出して叫んだ。すると彼は今までとは違う温かみのある表情を見せると、

「次は容赦しない」

 何故なのだろうか、ちっとも怖くはない言い方だった。彼は遠ざかり、やがて消えていってしまう。


 緊張の糸が解れたのか、アリスはその場にすとんと崩れると胸に手を当てる。今になって恐怖が襲ってきたのだ。

 今までで感じたことの無いくらいの脈拍と震えで怯えていた。しかしヴィクトリアがゆっくりと近付き彼女を抱擁する。

「ありがとう。あなたのおかげでボクは助かった」

「お姉さま……」

 抱き締め返され彼女は少し恥ずかしかった。他人からハグをされるのは苦手だからである。

 ふたりが抱き合っているとハーヴィーたちがやってきた。彼らは喜び合っている。

「勝ったんだな」

「最終的には勝ったと言えるな」

 皆が歓喜しているとヴィクトリアが首を横に振る。アリスもノーモルダスキーニに支えてもらうキャルロットも彼女と同意見だ。

「魔力の封印を解かないと」

「そうか、ここら一帯だけか」

 その通りである。新魔法省周辺の範囲内だけ魔力の封印を解いているが、世界規模では未だに封印されているからだ。これを解除しないことには、マジックマテリアルの勝利は来ない。

「でもどうやって封印を解くんだ?」

「任せておいて」

 魔力を殆ど使い切った彼女たちはどのようにして封印を解くのか不思議になった。

「アリス、キャルロット」

 彼女の呼び声にふたりは頷くとある場所へと向かう。


「ここって……星廳だよな」

「跡形も無くなっていますがね」

 皆が向かった先は崩壊し、土台だけが残された星廳の跡地だった。3人は互いに手を繋ぎ合うと、

『スコーピオー、サジタリウス、キャプリコーナス』

 声を合わせて詠唱する。暫らく何も起こらなかったが奇妙な音が土台の下から聞こえてきた。

「な、なんだ?」

「おい、あれを見てみろ」

 土台の中央部が正方形に切り抜かれると地下へ続く階段が現れた。生暖かい風が皆を誘う。

「この中はごく限られた方でしか入ることは出来ません」

「一体これはどこに通じるんだ?」

「星廟です」

 アリスが答えた。

 星廟とは別名、アーク神殿のことでありヴィクトリアを始めとするアークファミリアのいた世界の入り口に当たる。本殿は別の場所にあるが星廟からでも行くことは可能である。

「星廟……昔、教科書で習ったことがある」

 スピリットアローが子供の頃のことを思い出す。

 彼や全世界の人々の3分の2はアークファミリアを信仰している。学校や家庭などの教育の場で教わることは当然であろう。


「私は聞いたことが無いな」

「俺もだ」

 ここで言う限られた者とは信仰心があり、尚且つアークファミリアによって選ばれた者のことである。

「ハーヴィーさんとスピリットアローさんだけが入れます」

 ベスラやデモスムントの部隊長らは入ることを禁じられた。カーサスも入れないと思っていたがヴィクトリアの下僕である以上、付き添わなければならない。ノーモルダスキーニも同じだが外で残ることにした。

 彼には選択権が与えられている。何故ならば3人の神の直接的な下僕または従族関係ではないからだ。

「では皆さん、行きましょう」

 アリスが先頭に立って階段を下り始める。次にヴィクトリア、カーサス、ハーヴィー、スピリットアロー、そしてキャルロットの順だ。


 彼女たちが中へ入っていくと入口は閉まり、真っ暗な世界が生まれる。明かりは一切無く、感覚だけで下りているといった感じだ。

「おい、ヴィクトリア。何とかしろ」

「ボクに掴まって歩いていれば大丈夫だよ」

 彼女が振り向き様に話し掛けると彼らは驚いた。彼女の瞳が暗やみの中で光っているのだ。無論アリスやキャルロットと同じだった。

「この空間はアークファミリアの聖域。ボクたちは暗闇の中で生まれた」

「お互いを知るには目を見て知る」

「だから目だけは分かるようになったのよ」

 3人の解説は奥が深過ぎて理解しがたかった。尚カーサスは右から左の聞き流しをしていたのだった。

「でもよ、真っ暗な世界なんてよ、不安でいっぱいじゃねぇのか?」

 彼がそう訊ねた瞬間に目を覆いたくなるほどの光が広がった。出口だ。

「ビッグバンみたいでしょ」

「宇宙の始まり?」

 スピリットアローとハーヴィーが呟いた。まるで宇宙の誕生を体験しているかのように思えたのだ。

「ここが星廟か」

「ヴィクトリア殿、ここで何をするんです?」

 彼女たちは彼らをある場所に案内する。そこは中心部に12本の丸い石柱が円を描くように建てられている大部屋だ。

 天井は遥かに高く中心部には碧色の水が張っており透き通っている。カーサスがその中心部へ向かって歩いていくと慌ててアリスが呼び戻したが間に合わなかった。

 彼は水へ足を踏み入れた瞬間、吸い込まれるように水中へ呑まれる。そして藻掻いて必死に地面を掴む。

「浅いかと思ったら深かった……」

 呆れたキャルロットに助けてもらい水浸しの服を絞ろうとしたが不思議なことに濡れてはいなかった。

「あれ?」

「この水は命水と言って、惑星の源となる大切な液体なんです」

 惑星アークの中心部にはこの命水が圧縮された核となって存在している。そしてこれは同時に惑星のエネルギーとなっているのだ。もし仮に失ってしまうようなことがあれば、それ即ち惑星の崩壊に繋がる。

 この命水の管理はアリスが行っている。ヘルヴェチカ皇国やワインテッレで採れる水は、この命水のエネルギーを豊富に含み作られているのだ。


「あなた方はここで見ていて下さい」

「今から封印を解きます」

「良いわね、大人しくしていなさい。特にカーサス!」

 キャルロットの厳しい言葉に頷くが内心は、

「ちびで婆さんのくせに態度はデカくてうるせぇな」

 などと愚痴を言っていた。確かにその通りだが、言い過ぎだよカーサスくん。


 彼女たちは命水に近付く。不思議なことに水面の上を歩きだす光景に彼らは驚いた。

 3人はそれぞれの石柱の近くへ行くと柱に手を当てて何かを呟いていた。そして石柱の前に出ると柱が光り始める。

「さぁ、始めよう」

 ヴィクトリアの言葉にキャルロットとアリスは両手を使い自身の名前を言ってから詠唱を始めた。

『惑星アークを司る統べての神よ。我らに力を貸し給え――』

 彼らには何と言っているのか分からなかった。彼女たちは今、古代アーク語を使って会話している。

 暫らく詠唱を続けていると1本の石柱が光り始める。それは次第に1本また1本と、まるで何かに答えるかのごとく光っていた。

「ありがとう、みんな」

 今の言葉は聞き取れた。誰かに感謝しているようだ。

「あとは……アーク兄さまだけ」

 ヴィクトリアが呟く。キャルロットが胸に両手を交差させる。

『宇宙、創造の神アークよ。今こそ貴殿の力で封印を解け』

 そして最後の1本が光ったとき、

神流奥義(しんりゅうおくぎ)無限魔力(インフィニット・ポテーレ・マジコ)

 キャルロットが呪文を唱える。続いてアリスも唱えた。

『魔力解放、魔法天空陣、展開!』

 彼女たちがいる池からまばゆい光の柱が目にも止まらぬ速さで天井を目指して伸びていく。天井を突き抜けると地上の丁度星廳の土台の中央部から光が大空に向かって伸びていった。

「始まったか」

 ノーモルダスキーニが呟いた。

 光は上空数百キロほどに到達すると、まるで生き物のような動きで大空を舞い始める。

 地上に残されたベスラたちは口々に何が起きているのか彼を問い詰める。

「この星を魔法陣で覆い隠すのさ」

「なんだって!?」


 この様子はコールスマンウィンドウを離脱したカエルム・フォーチュナーからも目撃された。甲板にはタケルとオースチンが負傷者の手当てをしている。彼らは無事に救出され、怪我を負いながらも出来る限りのことをしていた。

「一体、何が起きるんだ」

「わからへんけど、これ以上わるぅならんと思うで」

 包帯を巻き終えると次の患者の元へ行く。それを見てオースチンも手伝う。


 星廟に戻り、最後の仕上げとしてヴィクトリアが大声で唱えた。

『解除魔法、発動!』

 光は黄金に輝くと惑星全体を包み込むように巨大な魔法陣が浮かび上がる。夜の地域では昼間のような明るさに、曇天や暴風雨の地域では光の影響で雲ひとつない異常な気象となった。

「おぉ、神よ……」

「神のお怒りだ!」

「もうダメだーっ!」

 世界各地で様々な会話がなされる中で凡そ1分ほど続いたその光景は一瞬にして幕を閉じる。天空の魔法陣は消え、天候も元に戻り、夜間部は夜の静けさを取り戻した。

 あまりの眩しさに目を覆っていたカーサスたちはゆっくりと瞼を上げると彼女たちが笑顔で迎えていた。

「終わった……のか?」

「うん。これでみんなはいつも……通……り」

 魂が抜けたようにヴィクトリアが地面に倒れる。キャルロットも同じだ。アリスは無事だがひどい汗を流している。

「申し訳ありませんがあなた方のお力を貸して下さい」

「そのためか……」

「はい」

「どこまでだい?」

 その答えにアリスは人差し指を上に向ける。

「地上までです」

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